2018年7月8日に福島県の第10回甲状腺評価部会が開かれました。そこで、かねてから「県民健康調査検討委員会からもれている、小児甲状腺がんの患者がいるのではないか」とされていた問題について、2011年10月9日~2017年6月30日の期間、福島県立医大についてだけで、11名の小児甲状腺がんの患者がいることが発表されました。理由は、2年に1度の県民健康調査検討委員会の甲状腺検査から、「経過観察」になった子どもたちがその後、福島県立医大で小児甲状腺がんと診断され手術した方々が7名、県民健康調査検討委員会の甲状腺検査でB判定になってから、福島県立医大で小児甲状腺がんと診断され手術した方々が1名、県民健康調査検討委員会の甲状腺検査を受けずに福島県立医大を受診、小児甲状腺がんと診断され手術をされた方が3名いました。

 そして、初めて文章として、原発事故当時4歳、5歳の子どもが小児甲状腺がんにかかり、福島県立医大で手術を受けていたことが明らかになりました。福島県や政府はこれまで、「福島県の小児甲状腺がんは原発事故の放射線の影響とは考えにくい。それはチェルノブイリ原発事故の際の小児甲状腺がんは60%以上が原発事故当時0~6歳だったが、福島県では原発事故当時6歳未満の子どもが小児甲状腺がんにかかった例がないから。」と言ってきました。その論拠が崩れ去ったのです。

第10回甲状腺評価部会 資料3 甲状腺検査集計外症例の調査結果の速報 2018年7月8日

 この事実についてきちんと報道をしたのは、福島民友2018年7月8日付け2面の記事でした。

■甲状腺がん 集計漏れ11人 県の検査 事故当時4歳以下も

 福島民友 2018年7月8日付け2面

 東京電力福島第一原発事故後、県が県内全ての子ども約38万人を対象に実施している甲状腺検査で、集計外の甲状腺がん患者が11人いることが7日、関係者への取材で分かった。事故当時4歳以下も1人いた。

 福島市で8日開かれる県の「県民健康調査」検討委員会の部会で報告される。

 県の検査は2011(平成23)年度に開始、今年5月から4巡目が始まった。これまでがんと確定したのは162人、疑いは36人に上る。昨年3月、子どもの甲状腺がん患者を支援する民間非営利団体が集計漏れを指摘し、検査実施主体の福島医大が11年10月から昨年6月までに同大病院で手術を受けた患者を調べていた。

 関係者によると、集計されなかった11人の事故当時の年齢は4歳以下が1人、5~9歳が1人、10~14歳が4人、15~19歳が5人。事故との因果関係について、検討委員会の部会は「放射線の影響とは考えにくい」とする中間報告を15年に取りまとめた。この時、被ばくの影響を受けやすい事故当時5歳以下の子どもにがんが見つかっていないことを根拠の一つとしていた。

 県の検査は、超音波を用いた1次検査で甲状腺に一定のしこりなどが見つかった場合、血液や尿を詳細に調べる2次検査に移り、がんかどうか診断される。11人のうち7人は2次検査の後に経過観察となったが、その後経過がフォローされなかったため集計から漏れた。2次検査を受けなかった1人も集計から漏れた。残り3人は県の検査を受けずに福島医大を受診した。

 また、毎日新聞も、2018年7月10日朝刊29面の記事も原発事故当時4歳の子どもが小児甲状腺がんにかかっていたことを正しく報道しました。

■甲状腺がん 福島、11人新たに診断 県「子ども検査」集計外で

毎日新聞 2018年7月10日朝刊29面

 東京電力福島第一原発事故後、福島県が当時18歳以下の子どもを対象にした検査で、これまで甲状腺がんと診断された162人以外に11人が同県立医大病院で甲状腺がんと診断されていたことが8日、明らかとなった。事故後の県民健康調査の一環で実施された検査で経過観察になった後、がんが見つかったり検査を受けていなかったりしたため集計の対象外となっていた。

 昨年3月、甲状腺がん患者を支援する民間団体が「集計外の患者がいる」と指摘したのを受け、県立医大が昨年6月までの甲状腺がん患者について調べていた。

 県の検査は、超音波による1次検査で甲状腺に一定の大きさのしこりが見つかった場合、血液や細胞などを調べる2次検査でがんか診断する。2011年度に始まり、2巡目からは事故後1年間に生まれた子どもも加えた約38万人を対象とし、今年3月末までに162人のがんが確定し、36人に疑いがあることが確認された。

 集計外だった11人中7人は2次検査で経過観察となった後、がんが見つかった。1人は2次検査を受けず、3人は県の検査を受けていなかった。11人の事故当時の年齢は、4歳以下1人、5~9歳1人、10~14歳4人、15~19歳5人。

 因果関係について、県民健康調査の評価部会は1巡目の検査結果について「放射線の影響とは考えにくい」とする中間とりまとめを15年に発表。2巡目以降の解析方法は議論中だが、同大病院以外にも集計漏れの患者がいる可能性がある。評価部会長の鈴木元・国際医療福祉大クリニック院長は「できる限り把握するために(国や県が運用している)がん登録制度をどう組み合わせるか議論を続けたい」と話した。【尾崎修二、岸慶太】

 これに対して、犯罪的な記事を書いたのは朝日新聞の2018年7月9日夕刊2面です。朝日新聞は、かねてから「福島の小児甲状腺がんは原発事故の放射線の影響ではない」とする特集を組んできました。その論拠の一つが「福島県ではチェルノブイリ原発事故と違い、原発事故当時6歳未満の子どもが小児甲状腺がんにかかった例がないから。」でした。

資料 朝日新聞「放射線の影響 見極める」の犯罪 福島の小児甲状腺がん「地域差見られず」2016年3月9日18面

 上記の特集記事の中で朝日新聞は以下のように書いています。

(一部 抜粋)

甲状腺がん 地域差見られず 朝日新聞 2016年3月9日 18面

福島県、38万人を検査

 県の検討委員会は「現時点では被曝の影響は考えにくい」とする。チェルノブイリでは、本来、甲状腺がんはほとんどできないはずの5歳以下の乳幼児に多発した。一方、福島県ではこれまでにがんと診断された計116人(1巡目検査の100人と2巡目検査の16人)に事故当時5歳以下の乳幼児はいない。人数は年齢が上がるにつれ多くなる。一般的に甲状腺がんの発生率は年齢とともに増えるとされ、状況と合致する。

 その論拠が崩れたためでしょう。以下の朝日新聞の記事ではわざと原発事故当時4歳の子どもが小児甲状腺がんにかかっていた、という部分をカットした記事を書いています。文章も冗長で同じ内容が繰り返され、鈴木元氏のコメントも意味不明です。記者が原稿を書いた後に改ざんされたとも思えるものです。

■甲状腺がん検査 11人が集計漏れ 福島県 18歳以下対象

 朝日新聞 2018年7月9日 2面

 東京電力福島第一原発事故当時18歳以下だった約38万人を対象にした福島県の甲状腺検査をめぐり、検査でがんと把握されていないがん患者が少なくとも11人いることが、8日、福島市であった県の検討委員会の部会で報告された。

 県の検査を受託する福島県立医大によると、同大病院で2011年10月~17年6月に甲状腺がんの手術を受けた人を調べたところ、県の検査で「がんまたはがんの疑い」としては集計されていない人が11人いた。経過観察と判断された人が7人のほか、検査を受けていなかった人などもいた。

 県の甲状腺検査では11年10月~今年3月に162人ががんと診断されている。しかし、検査で経過観察と判断され、その後がんが判明した患者が集計から漏れているとの指摘が昨春、市民団体からあり、検討委が調べるとしていた。検討部会長の鈴木元・国際医療福祉大クリニック院長は「いろいろな方法で全数を把握していくのが重要だ」と話した。

 東京新聞、読売新聞は、この福島県民健康調査検討委員会の甲状腺検査から11人も集計から漏れていたことは記事にしませんでした。犯罪的なことに、2018年7月10日読売新聞は福島版の紙面で、11人の集計漏れに一切触れず、「甲状腺検査説明 改善へ 事前送付書類『わかりにくい』」という主要な論点を外した記事を掲載しています。福島民報も「11人の集計漏れ」という言葉すら使わず、「甲状腺がん 国データと突合せ 県民健康調査評価部会 全数把握へ尽力」という、検討委員会を持ち上げる記事に終始しています。

■甲状腺検査説明 改善へ 事前送付書類「わかりにくい」読売新聞 2018年7月10日13面 福島県版

■甲状腺がん 国データと突合せ 県民健康調査評価部会 全数把握へ尽力 福島民報 2018年7月10日2面

 

 こうして、福島の小児甲状腺がんの問題が全国の話題とはならず、福島県民だけが心配する状況が全国紙によって意図的計画的に作り出されています。この問題に関しては、朝日新聞、東京新聞、読売新聞を読んでいても何もわからない状況が生まれています。その中で、インターネット局のour planet tv(白石草さん)が福島県現地での甲状腺評価部会の議事の映像も含めて、丹念に報道しています。映像を見て読むなら、our planet tvが一番です。

集計漏れ11人〜福島県の甲状腺がん209人へ our planet tv 投稿日時: 月, 07/09/2018 – 10:00

甲状腺評価部会の議事の録画もあり

  福島県の小児甲状腺がんの患者はすでに200人を超えています。今回、公表されただけでも11人が、福島県の集計から漏れていました。さらに、2018年6月18日に開かれた第31回県民健康調査検討委員会では、福島県が実施する甲状腺検査サポート事業について報告されています。それによれば、甲状腺がんまたはがん疑いと診断された場合の治療費の自己負担分について、福島県が支払う支援事業で、2015年7月の制度開始から2017年度末までに、延べ313件、実人数233人に支援金を交付した、と報告がありました。つまり、福島県の小児甲状腺がんは198人+11人=209人どころか、少なくとも233人はいるということになります。さらに、この延べ313件、実人数233人から考えると最大313ー233=80件は再発・再手術があったのではないでしょうか。

 原発事故がもたらす、放射性物質由来の小児甲状腺がんは、決して、放置していても悪さをしないがんではなく、悪性で転移が早く、肺に転移した場合には死に至る場合があることは、ベラルーシの故ユーリ・デミチック博士が警告してきたことです。福島県や福島県立医大の山下俊一氏や鈴木眞一氏の招きで、故ユーリ・デミチック博士は何度も福島県を訪れ、そのような警告を含む講演をしてきました。残念ながら、福島県と福島県立医大はデミチック博士の言葉をないがしろにしています。

 福島県の3巡目の検査からは、「節目検査」の名のもとに、2年に1回の甲状腺検査を、20歳以降は5年に一度、20歳、25歳、30歳にするとしています。小児甲状腺がんの患者の「統計上の数」だけを少なく見せるためのトリックに過ぎません。それどころか、小児甲状腺がんは原発事故当時0~6歳の子どもの発症した(チェルノブイリ原発事故時)、ということだけが強調されたため、20歳以降の受診率ががくっと減っています。2巡目検査で12.5%、3巡目検査で15.9%。2017年からは20歳以上が、小児甲状腺がん発症がもっとも高くなるにもかかわらず。先行検査(2011、2012、2013年度)での小児甲状腺がんの発症の平均年齢は原発事故当時14.9歳です。今年は原発事故から7年目。原発事故当時15歳になった子どもたちは21歳になっています。今年2018年は、21歳の層がもっとも発症のリスクがあるのです。その層をあえて、検査対象から外す福島県。やることがあべこべです。

 少なくとも甲状腺検査は5年に1度ではなく、2年に1度も戻すべきです。また、20歳以上の検査を強化するべきです。2018年7月8日に行われた甲状腺評価部会では、こうした議論をした形跡がありません。まったく学者が揃って何をやっているのでしょうか。「福島の甲状腺がんは原発事故による放射線の影響ではない」という不毛な議論をやめて、目の前の子どもたちの現状に立ち向かうべきです。

 手遅れにならない前に。