皆さんのなさろうとしていることは大変大事なことで大賛成です。私は学者ではなく素人なので専門的なことは分かりませんが、放射能に関してはニュースなどを見ていても半世紀前のビキニ事件当時と少しも進歩していないことが分かります。ビキニ事件を隠して歴代の政治が教えてこなかったからだと思います。忘れられていたビキニ事件が福島原発事件で思い出されたかのように甦ってきて忙しい日々を送っています。私が講演に出掛けていくときに使っているメッセージの原稿を送りますのでよかったら使ってください。
二〇一一年八月二十九日
大石又七
みんなで真剣に考えましょう
ご存じない方も居られるかと思いますが、福島原発大事故は今から五七年前に起きたビキニ事件の原点にさかのぼって考えなければ正しい答えは出てこないと思っています。
誰がなぜ、この核兵器にも匹敵する危険な原発を、地震大国である日本に導入したか、私はビキニ被爆者としてビキニ事件を調べているうちにいろいろなことが分かってきました。
当時アメリカは占領した敗戦国の日本をどのようにして共産圏の侵攻を防ぎ強固な防波堤にしようとしていたか残されている資料から見えてきました。
先ず、世界各国大半が天皇の戦争責任を主張している中で、連合国軍最高司令官のマッカーサー元帥は天皇に戦争責任を負わせると日本国民は、ばらばらになってしまい砦としての役目を果たさなくなる。「天皇制と財閥を残し、温存させて日本をアジアの工場にする(家電や車を作らせアメリカに輸出させて引きつける)。そして多額の政治資金を提供し、反共産の保守大連合を実現させ、強力な親米政権を作り上げる、それをメディアが支える」。という政治・心理作戦を行なっていたというのです。
そして、そのあと原子力発電の素であるウランを提供し自由諸国の軍事ブロックを築こうとしてCIAの職員を日本に派遣し、読売という大きなメディアを目標に打診してきました。
これを知った読売新聞社主の正力松太郎氏は、日本中が核実験反対で燃え上っている矛先を変え、復興させるにはこれしかない、原子力の平和利用・平和利用といって自分の持つメディアをフルに利用し、原発導入の宣伝を大々的に行ないます。しかし、そのうらで彼が描いていたことは原子力発電や原子力船「むつ」を成功させた後に総理の座を得ようとしていたというのです。
政界でも中曽根康弘代議士が青年将校などと言われながら危険が伴う原発を調査もしないでアメリカの意向に沿って原発導入の先頭に立ち、ビキニ事件の三日後に二億三千五〇〇万円の原子力予算を国会で通過させます。彼の原発の中には核兵器がちらついていたのだと思います。
アメリカの思惑と、日本の思惑は違うところにありましたが導入という点では一致しました。
原発を日本に導入した経緯を知れば今起こっている大事故の責任、賠償の方向性も見えてくるはずです。
申し遅れましたが、私は元第五福竜丸というマグロを捕る漁船の乗組員で、アメリカが一九五四年三月一日に広島型原爆の約一〇〇〇倍という巨大な水爆実験をビキニ環礁で行ない、その爆発で起きた『死の灰』を大量にかぶり、そのときの灰を日本に持ち帰ったことから太平洋や大気圏が強力な放射能で汚染されていることが分かり大事件に発展していったのです。
このビキニ環礁は負の遺産としてこの度、世界遺産に登録されまた。
一九四六年から一九五八年にかけてアメリカ軍だけでも、このビキニとエニウエトク環礁を使って六七回の大気圏核実験を行ない、合わせて一〇〇メガトンの核爆発を繰り返しました。
水爆は巨大な爆発威力だけではありません。爆発と同時に二七種類もの恐ろしい放射能を撒き散らします。この一〇〇メガトンの爆発は、なんと広島型原爆を毎日一個ずつ一八年間落とし続けた量というから驚きです。それらの放射能は半減期が何十年、何百年というもので人間の骨の中に入り込み、染色体を傷つけながら体の内側から攻撃するという内部被爆を起こしていました。染色体を傷つければ死産や奇形児の原因を作りだし、子孫へと繋がっていきます。
これが放射能の恐ろしいところです。骨の中では造血細胞が白血球や赤血球、血小板などを作り出して人間は生きています。それらを時間をかけながら破壊し、がんなど作り出していました。白血病や骨肉種を起こすと恐れられたストロンチウム九〇(福島原発事故後からも見つかり始めました)、甲状腺がんを起こすヨウ素一三一、(マーシャル島民は五年から一〇年後にも甲状腺がんを発病して亡くなっています)遺伝子を狂わせるセシウム一三五、中には半減期(半分になるのに)が二万四〇〇〇年かかるというプルトニウム二三九も含まれています。重要な点は、目に見えない放射能というミクロの世界であるということです。半減期の長い放射能が食物連鎖や風などに乗って地球上を漂い、誰のどこに取り付くかは現在の医学では計り知ることは出来ません。
一九四〇年代から五〇年代にかけて各国の核実験が地球上のあちこちで始まりました。大量の放射能が大気圏や地球上に振りまかれています。そのことを裏付けるように六〇年頃から世界でガン患者が急増し、日本でも今死亡率のトップはガンで、年間三五万人といわれています。
私は、この放射能がその一因になっていると思っています。貴方もすでに被爆者になっているかもしれません。
私たち二三人の乗組員の内、半数がすでに被爆と関係あるガンなどで亡くなりました。
私も肝臓ガン、最初の子どもは死産で奇形児、今も白内障、気管支炎、不整脈、肺には腫瘍を抱え嗅覚も消え、三二種類もの薬を飲みながら命をつないでいます。しかし日米政府はこの大事な事件を被爆者や被害者の頭越しに、わずか九か月で政治決着を結んで解決済みにしてしまいました。そのため、私たちはその時点から被爆者ではなくなり亡くなっても発病しても援助も治療も原爆手帳も受けていません。私も差別や偏見を恐れて、被爆者であることを隠し東京の人ごみに隠れていましたが、退院後に、仲間たちが一人ずつ亡くなって行き自分にも次々と不幸が襲ってくる。この恐ろしさが何事もなかったかのように忘れられていくことの悔しさが募り、当事者が声を上げなければ又必ず同じようなことが起きる、と思うようになりました。
それからは放射能と内部被爆、核兵器と原発の怖さを何十年も伝え続けてきました。
ビキニ事件は日米間の政治がらみのため、元漁師で洗濯屋の親父が一人で訴えてもなかなか振り向いてはくれません。
東日本大地震が三月十一日とうとう牙をむきました。そして恐れていた原子力発電所が高さ十五メートルの大津波で破壊され、大災害の上に放射能が襲い掛かっています。
私は言いたいです。東海村の原発とビキニ事件は大きな関わりをもっているのに今は誰の口からもビキニ事件という言葉が出てきません。当時、核、放射能の恐ろしさをあれほど教え警告し平和運動の原点まで作ったのに。事件を隠した結果がどうなりましたか。二万三〇〇〇発の核弾頭が出来上がり、人類を脅かしています。
こともあろうに自民党政権は被った膨大なビキニ事件の被害額をわずかな見舞金に変え、国際法違反の責任も問わず、アメリカの核実験を容認し、協力するなどと国会で発言し、それらの擁護を取引材料にして正力松太郎、中曽根康弘、日本テレビの重役だった柴田秀利各氏たちが水面下で原子力技術やウラン、原子炉をアメリカに要求し東海村に導入したのです。後にアメリカ国立公文書館からそれらの資料が見つかり明らかになりました。
原発導入には、当時大勢の人たちが日本列島は活断層が網の目のように走っている、「危険だ危ない」といって反対しました。その答えが今出ているのです。もし直下型だったら、原子炉の破壊が起こり北海道から沖縄まで、いや世界中に被害は広がっていたはずです。
ビキニ事件以来半世紀以上、歴代の自民党政権は核兵器と放射能の恐ろしさを隠したまま安全だ安心だといって国民に教えてきません。これこそが流言飛語以上の重大な責任です。
そのため大人になっても怖さを知らず反対もしない。目の当たりにして初めて驚き、恐れおののいているのではないでしょうか。それは学者も各政治家も同じで、自ら原発は安全で安心だという幻想をいつの間にか信じてしまい、この凶器を利益を追求する企業に持たせてきました。事故がおきても企業には賠償する能力などないことは素人にも分かっていました。
難問の廃棄物の処理方法もまだです。ビキニ事件後に生れ、原発導入の経緯を知らない政治家たちがまるで現政権の責任でもあるかのように、苦しんでいる被災者をそっちのけにして足の引っ張り合いをして国会で騒いでいます。今は野党だ保守だなどと言っている場合ではありません。目の前の難問を力を合わせて解決させ、後に言いたいことがあるなら存分に言い合えばいいのに。
これから膨大な財源が必要になります。
原発導入に関わってきた者たちは、原発に有利な計らいをしてその見返りに利権、政治資金や地位など、甘い汁にたっぷりありついてきたはずです。
自分たちの思い違いで大勢の人たちが苦しんでいるのです。責任を感じるなら、溜め込んだ財産や資産はすべて差し出し(せめて50パーセントは)、苦しんでいる人たちに頭を下げて自ら仮設住宅に入り、発電所の中で陣頭指揮をとるのが筋だと思います。それでないと帳尻が合いません。太平洋戦争の指導者たちとちっとも変わっていない、これが日本人の特質なのでしょうか。
あと一つ言いたいことがあります。アメリカ軍と軍事同盟を結び、毎年五兆円もの税金を使って人を殺す為の軍事訓練を重ねている自衛隊は、日本国憲法に従って今すぐにでもやめ、災害救助隊に名前も内容も替えるべきだと思います。私は何年も前から子どもたちにこのことを言い続けてきました。災害地の現場がテレビで映し出されるたびに、救助隊のヘリコプターが今、一〇〇機二〇〇機現地に出動していたら多くの命が救えるのに、飢えと寒さに震えているあそこにはヘリコプターなら行ける、有事なのだ。自衛隊は何をしているのだ、イライラしながら見ていました。核兵器を積んで他国を攻撃する最新鋭のハイテク飛行機は要らない。ミサイルやたくさんのレーダーを搭載して人を殺しに行く四〇〇〇億円もするイージス艦も要りません。
大災害が発生して五日後に、北沢防衛庁長官が自衛隊の出動を検討していると言いました。
この間にどれだけの住民が苦しみながら死んで行ったか。悔しかったです。
憲法九条を持つ日本が世界に貢献しなければならないのは強力な災害救助隊だと思います。毎年繰り返される災害に一刻も早く出動し、助け、喜ばれ、信頼される救助隊。これこそが核兵器や戦争を無くして平和に向う早道で、二一世紀の『人類が目指さなければならない目標』だと思っています。
ビキニ水爆実験被爆者 元第五福竜丸乗組員 大石又七