2019年1月31日~2月1日、関東地方では空間線量の急上昇が見られました。いったん、茨城県東海村、核燃料サイクル工学研究所でのプルトニウム被ばく事故(前日の2019年1月30日14:24に発生)の影響を考えました。
結論としては、この関東地方の空間線量の急上昇は、自然放射能の影響であると考えます。信州ラボの一ノ瀬修一氏からていねいな説明をいただき、川根も独自に裏付け調査を行いました。
「雨が降ると急に空間線量率が上昇するのは、降雨とともに自然放射能が降ってくるからです。」という説明は、すべての場合で正しいとは限りません。しかし、2013年8月15日に長野県諏訪市や松本市で起きた、原発事故前のレベルを超える、空間線量率の急上昇は、自然放射能が原因であると結論します。一方、同じ年に発生した、福島県南相馬市旧太田村の120ベクレル/kg,150ベクレル/kg,180ベクレル/kgの放射性セシウム汚染のお米の発生は、東電福島第一原発3号機の屋上のがれき撤去作業による、放射性物質の飛散(風が原因)であると考えます。
(1)降雨によるフォールアウトまたは、風によるフォールアウトの実例
グラフ:福島県双葉町郡山(郡山公民館)空間線量率 2013年8月14日~8月21日 信州ラボ、一ノ瀬修一氏のアドバイスで作成しました。感謝いたします。
グラフ:東京都新宿区 モニタリングポスト 2011年3月1日~7月31日 ようこそ日本の環境放射能と放射線からデータをダウンロードし、作成。
東京都新宿区の場合は、降雨とともに、放射性セシウムなどが降下したため、空間線量率が上昇したまま下がりませんでした。福島県双葉町郡山(郡山公民館)の場合は、風によって、汚染された可能性があります。こちらも、空間線量率が急上昇したあとも放射線量率が高いまま、下がりませんでした。
ちなみに、東電福島第一原発3号機がれき撤去作業で、連続ダストモニタの警報が鳴り、作業員のからだが4万ベクレル/m2を超える放射能汚染になったのは2013年8月に2回。8月12日と8月19日でした。上の福島県双葉町郡山(郡山公民館)空間線量率の最大のピーク13:50に1.195マイクロシーベルト/時は、2013年8月19日警報が鳴った10:04から約4時間後です。この作業員2名の頭やからだが13万ベクレル/m2と7万ベクレル/m2に汚染されました。放射線管理区域は4万ベクレル/m2ですから、数時間の作業で、放射線管理区域の3倍や、2倍近くにもなったのです。そしてセシウム137などの核種が半減期30年という長寿命核種であるため、その後、以前の空間線量率より上がったままの状態がずっと続きました。
<参考>『福島県南相馬市旧太田村2013度産米 180ベクレル/kg 2013年12月20日 と 3号機屋上がれき撤去作業』
(2)自然放射能由来による空間線量率の急上昇と減衰の実例
川根は当初、2013年8月15日の長野県諏訪市の異常の空間線量率の上昇は、雨による自然放射能のビスマス214や鉛214の降下のせいではなく、東電福島第一原発3号機屋上のがれき撤去の影響である、と考えていました。原発事故前の過去のデータを分析すると、長野県でたとえ雨があっても、空間線量率が0.10マイクロシーベルト/時を超えることがなかったからです。原発事故前は、長野県には長野市にしかモニタリングポストがありませんでした。長野県長野市でのモニタリングポストでの日最大値は、2008年度は0.0634マイクロシーベルト/時(2008年8月19日)、2009年度は0.0627マイクロシーベルト/時(2009年11月2日)がでした。この日、長野県諏訪市では、空間線量率が最高0.147マイクロシーベルト/時まで上がりました。これは、先の2008年度、2009年度の最高値(ただし長野県長野市)のなんと2.3倍もの空間線量率になります。ここから、いったんは川根はこれは東電福島第一原発3号機屋上のがれき撤去の影響、と考えた次第です。
グラフ:長野県諏訪市 諏訪合同庁舎モニタリングポスト 空間線量率の推移と降雨 2013年8月14日00:00~8月21日00:00
しかし、信州ラボの一ノ瀬修一氏からのアドバイスにより、原子力規制委員会の放射線モニタリング情報から過去のデータをダウンロードし、グラフ化、分析しました。また、独自に国土交通省 気象庁の各種データ・資料から過去の気象データをダウンロードし、分析しました。すると、以下のことが分かりました。
① 2013年8月15日の長野県諏訪市の降雨は観測史上最大の1時間あたりの降雨がありました。74.5mm/1時間あたり。長野県の山沿い以外は日本列島は高気圧に覆われ、快晴でした。
図:2013年8月15日(木)8割の地点で真夏日 長野県諏訪市で観測史上1位を記録する74.5/1hの雨 気象庁予報部予報課
[解説文]
2013年8月15日(木)
8割の地点で真夏日高気圧に覆われた西~東日本は猛暑が続き、午後は山沿いを中心に局地的な雨。沖縄は暖湿気の流入により断続的な雨。長野県諏訪で観測史上1位を更新する74.5mm/1hの雨。つまり、日本列島のかなりの範囲で降るべき雨が長野県諏訪市地方に集中的に降った。自然放射能のビスマスや鉛も東日本あたりに降る分が諏訪市あたりだけに落ちた、と考えることができます。しかし、逆に考えると、これほどの条件がそろわないと、0.10マイクロシーベルト/時を超える空間線量率は、長野県では観測され得ない、と推定できます。やはり、0.10マイクロシーベルト/時を超える超える空間線量率は危険信号です。
表:長野県諏訪 2013年8月15日(10分ごとの値) 国土交通省 気象庁 過去の気象データから 2013年8月15日10分ごとの値
② 長野県諏訪市で、この最大0.147マイクロシーベルト/時を観測した2013年8月15日20:40pmからちょうど、4時間30分後の2013年8月16日1:10amに、長野県諏訪市の空間線量率は、降雨前の0.052マイクロシーベルト/時に戻りました。この4時間30分は鉛214の半減期26.8分のちょうど約10倍の時間(268分=4時間28分)にあたります。放射性物質は、半減期を迎えると0になる訳ではありません。半分の放射能になるだけです。放射性物質がほぼなくなるには、少なくとも半減期の10倍の時間が必要です。それは、1半減期で1/2になり、2半減期で1/2×1/2=1/4に。3半減期で1/8に、……、10半減期では1/2×1/2×……×1/2(10回かけ合わせる)=1/1024、と約1000分の2になるからです。つまり、1000ベクレル放射能で汚染されていても、10半減期後には1ベクレルになる、ということ。1ベクレルの放射能はないか、あるか、と問われればあります。しかし、あえて無視できるとすれば、1000が1になる、10半減期で放射性物質がほぼなくなる、と考えることができます。
雨で落ちてくる自然放射能のビスマス214や鉛214はそれぞれ3.3時間と4.5時間で1000分の1、ほぼ0になります。逆に考えると、セシウム137の半減期は30年、つまり、300年経たないとほぼ0にはなりません。ストロンチウム90の半減期は29年。つまり、290年経たないとほぼ0にはなりません。福島県の森林面積は97万2000ha、県面積の7割を占めます。この森林の放射能は300年の期間なくならない、ということになります。福島市や郡山市で除染したものの、雨や風が吹けば元通り、場合によっては、除染前よりも高い放射能汚染になることもあります。それは町のそばに森林があるからです。すなわち、高濃度に汚染された福島の地は300年かかって人が住めるか、住めないかです。
2013年8月15日の雨で長野県諏訪市は、自然放射能のビスマスや鉛によって、いったんは3万8800ベクレル/m2に汚染された、と考えることができます。空間線量率が0.10上昇すると、放射性セシウムの換算では、4万ベクレル/m2の放射能汚染に相当するからです。日本の法令上の放射線管理区域(法令上の名称は「管理区域」)の規定は4つありますが、その場所の表面汚染では4万ベクレル/m2と規定されています。2013年8月15日の雨で、いったん長野県諏訪市は、放射線管理区域相当になったのです。しかし、原因はビスマス214や鉛214でした。
ですから、4時間30分後には元通りです。
<結論>自然放射能のビスマス214や鉛214が降雨によって降ってきて大地が汚染された場合は、最大4時間30分後に元の空間線量率に戻ります。元に戻らなかったら、長寿命核種により大地が汚染された、ということです。その場合はセシウム137の場合、300年かかって1000分の1の放射能になります。ストロンチウム90の場合は290年かかります。
ただし、自然放射能でも、空間線量率は0.01や0.02の変動(上昇)は当たり前にあります。降雨の場合は0.03弱(上昇)あります。しかし、0.01マイクロシーベルト/時の上昇であっても、セシウム137の場合は、4000ベクレル/m2の汚染相当がある、ということです。これは、放射能汚染がないとは言えません。EUの規定では、「放射能汚染がないとされるのは2000ベクレル/m2」ですから(※)。長寿命核種セシウム137やストロンチウム90で、0.01マイクロシーベルト/時相当の汚染があった場合は、モニタリングポストの数値には表れない、ということは肝の銘ずるべきです。ちなみに、ストロンチウム90はガンマ線を出しません。ベータ線だけです。モニタリングポストや多くの空間線量計はガンマ線しか測れないので、ストロンチウム90の汚染は分かりません。ベータ線にも反応できる、ガイガーカウンターの空間線量計を放射線防護のために持つことが大切です。
※ ピエルパウロ・ミッティカ『原発事故20年ーチェルノブイリの現在』柏書房 2011年10月1日 pp.40