[解説]

 2019年9月1日 東京電力は1/2号機排気筒の最頂部の切断、撤去に成功しました。新聞各紙はどう伝えたのでしょうか?

 まず、東京新聞は2019年9月2日朝刊2面で、1/2号機排気筒の最頂部の切断、撤去について詳しく報道しました。作業員3名の投入もきちんと伝えました。

東京新聞

福島第一 排気筒やっと切断 「1日」が「1カ月」工程見直し不可避

2019年9月2日 東京新聞 朝刊 2面

 東京電力は一日、福島第一原発1、2号機原子炉建屋そばに立つ排気筒(高さ百二十メートル、直径約三メートル)の解体作業を続け、筒頂部から本体約二メートル分を輪切りにして大型クレーンで地上に下ろした。一日で終わるはずだった最初の切断に一カ月を要した。この間、機器の不具合が頻発。来年三月までに上半分の解体を目指すが、作業工程の見直しは避けられない。

 東電によると、八月三十一日午後七時半ごろ、筒頂部にクレーンで設置した切断装置の発電機が燃料切れで停止。代替の発電機も動かず、前日三十日朝から稼働していた切断装置は一時的に全電源を失った。

 翌一日午前六時前、別のクレーンで作業員三人が乗った鉄製のかごを高さ百二十メートルまでつり上げ、作業員が筒頂部の装置に乗り移って給油した。その後、発電機を再起動して午前十一時五十二分から切断を再開。装置に付いている回転のこぎりで七十センチほど残していた輪切り部分を、午後三時七分に切り終えた。

 切断装置と一緒に地上へ下ろした筒本体の重さは約四トン。今後、二~四メートルのブロックに分けて高さを半分にする。別の装置で損傷が激しい鉄塔の支柱も切断する必要があるが、本番での使用経験はまだない。

 作業が難航した理由の一つは、回転のこぎりの刃の摩耗が東電の想定より早かったためという。筒本体は七割以上輪切りにすると、強度を保つために装置を外せず、刃の交換ができなくなる。東電は地上に下ろした筒本体の材質を分析し、今後の計画に役立てる。(小川慎一)

[解説]

 犯罪的なのは朝日新聞の報道です。朝日新聞は2019年8月1日は、この1/2号機排気筒解体作業が開始されたときに、「作業員の被ばくを避けるため遠隔操作で作業を行う」と報道していました。それが、9月1日最頂部が9ヵ所切断したままそれ以上作業できなくなったために、作業員が投入されたことを、朝日新聞全国版で報道しませんでした。

 ところが、朝日新聞福島版では、「第1原発排気筒頭頂部つり下ろし 異例の作業員投入」と報道したのです。

 朝日新聞全国版しか読んでいない読者は、遠隔操作で作業員もたいした被ばくもなく、最頂部の切断、撤去が行われたかのように思うことでしょう。東京パラリンピック、オリンピックまでは、原発廃炉にかかわる危険なニュースを全国版に載せないよう、報道管制が引かれているかのようです。

朝日新聞 2019年8月2日 朝刊3面

高い放射線量、遠隔で操作 作業員の被曝対策 福島第一排気筒解体

写真・図版1、2号機排気筒の解体計画

 東京電力福島第一原発の排気筒の解体作業が1日、始まった。排気筒は事故時の「ベント(排気)」で放射性物質を含む水蒸気を放出するのに使われた象徴的な設備だ。今も高濃度の放射性物質に汚染されており、遠隔操作の難しい作業になる。相次ぐトラブルで遅れていた工事にようやく取りかかった。

 解体されるのは、原発敷地内にある4本のうちの1本で、炉心溶融事故を起こした1、2号機の共用排気筒(高さ120メートル、直径3・2メートル)。1号機建屋の水素爆発の影響で、排気筒を支える支柱のつなぎ目が破断し、劣化が進んでいた。原子力規制委員会から「倒れると危険だ」と指摘され、東電は16年に解体する方針を示していた。

 解体は作業員の被曝(ひばく)を減らすため、200メートル離れた高台に設置した、大型バスを改造した遠隔操作室で作業する。約140台のカメラ映像を見ながら、大型クレーンでつり上げた解体装置を動かす。作業初日は午前7時半ごろから装置のつり上げを始め、筒の周りにあるはしごや電線管などの切断にとりかかる予定だった。だが、通信トラブルで装置の一部が動かず、昼過ぎから作業が始まった。2日から筒本体を輪切りにする作業に取りかかる。解体後は敷地内で保管する。

 当初は3月に始める予定だったが、追加の安全対策が必要になったり、東電がクレーンの設計図の確認を怠って高さが足りなかったりして延期された。今年度中に排気筒の上半分の解体を完了する予定だが、強風時は作業を中止するため、天候次第で遅れる可能性があるという。

 工事開始が遅れたことについて、磯貝智彦所長は「周辺の工事の影響については調整をしながら進めている。大きな支障があるとは考えていない」と話した。

 今回、解体装置の開発や操作は、福島第一原発がある福島県大熊町の建設会社「エイブル」が担う。構内での重要作業を地元企業が担うのは異例という。岡井勇・第一工事部長は「地元企業として無事成功させ、地元の期待にしっかり応えられるよう安全に進めたい」と話した。(石塚広志、杉本崇)

 朝日新聞 2019年9年2日 東京版27面

1日の予定が作業に1カ月 福島第一、排気筒の一部切断

 東京電力福島第一原発の1、2号機の共用排気筒(高さ120メートル、直径3・2メートル)の解体で、最初の作業となる頭頂部(長さ約2メートル、約4トン)の切断が1日、ようやく終わった。解体作業は8月1日に開始。頭頂部の切断は8月2日の1日間のみで終える予定だったが、装置のトラブルなどが相次ぎ、約1カ月かかった。

 解体装置の4枚の回転刃の摩耗が想定より早く、すり減ったり、止まったりして、作業は計5回中断した。熱中症になった作業員もいた。

 東電は「初めての作業で、慎重に進めたこともあり、想定より時間を要した。予備日などに作業をすることで今年度内の完了を目指したい」とし、計画に変更はないとしている。(石塚広志)

[解説]   ↑

 作業員3人が投入されて作業が行われたことの記述はない。

朝日新聞 2019年9月2日 福島版19面

異例の作業員投入 第一原発排気筒頭頂部つり下ろし /福島県

 東京電力福島第一原発の1、2号機の共用排気筒(高さ120メートル、直径3・2メートル)の解体作業で1日、ようやく頭頂部がつり下ろされた。だが、この日、作業員3人がゴンドラで上がるという異例の作業が行われた。被曝の恐れから、作業は遠隔操作を主としているが、早くも現場に人の投入という「最終手段」が使われた形となった。

 東電によると、頂上に取り付けられた切断用の装置の電源には二つの発電機があるが、8月31日午後7時半ごろ、主電源が燃料切れとなり、予備電源を起動させようとしたが動かなかったという。

 解体部分はすでに筒状の周囲の9割以上を切り込み、装置を取り外すと頭頂部が落下するリスクがあった。そのため、作業を行う大熊町の建設会社「エイブル」の作業員3人が1日に頂上に行くことになった。

 午前5時40分ごろ、ゴンドラがつり上げられ、2時間半ほど燃料補給や点検作業をしたという。頂上付近の放射線量は30マイクロシーベルト程度で、東電は大きな被曝にはならないとみている。

 切り取りの作業は正午前に再開し、午後3時ごろ完了。午後4時すぎ、頭頂部(約2メートル、約4トン)が地上に下ろされた。

 (石塚広志)

[解説]

 朝日新聞の記事には、「頂上付近の放射線量は30マイクロシーベルト/時」とありますが、これは誤りです。東京電力が2019425日に公表した資料によれば、120mの最頂部での線量は80マイクロシーベルト/時です。以下、資料の0.07mSv/h~0.30mSv/hと記載されているうち、0.30mSv/hを誤って30マイクロシーベルト/時と記載したものと思われます。しかし、0.30mSv/hは正しくは300マイクロシーベルト/時です。これが高さ60m付近での線量です。このような場所で人間が長時間作業することはできません。

図1 1/2号機排気筒の解体前調査結果 筒身外部の線量(γ線)は0.07~0.30mSv/h 東京電力 2019年4月25日

図2 朝日新聞 2019年9月2日 朝刊 全国版 福島第一 排気筒の一部切断 1日の予定が作業に1ヵ月(作業員の投入について記述を削除) 27面 福島県版 第一原発排気筒頭頂部つり下ろし 異例の作業員投入 19面(作業員の投入について報道)

[解説]

 福島県の地方紙、福島民友、福島民報は2019年9月2日に、排気筒上端部の切断、撤去を報道しましたが、残念ながら、作業員3人が作業に投入されたことはカットしました。東京電力福島第一原発では、多くの福島県出身の作業員が被ばくしながら、作業しているのに、この被ばく労働をなぜ福島民友、福島民報は報道しないのでしょうか?東電福島第一原発の危険な被ばく労働を報道しない姿勢は改めるべきです。福島県の地方紙としての誇りを持って、報道するべき事実を報道するべきです。

福島民友 2019年9月2日2面

排気筒上端部ようやく切断 第1原発、1ヵ月遅れ

 東京電力は1日、福島第一原発1、2号機の共用排気筒(高さ約120メートル)の上半分を解体する作業で、最上端部の高さ約2.3メートル部分を輪切りにし、地上に下ろした。解体の最初の工程を終えた。切断装置に不具合が相次ぎ、当初計画より約1ヵ月遅れた。

 解体作業は地元企業が担当。現場の放射線量が高く、大型のクレーンで切断装置をつり上げ遠隔操作で作業を進めたが、通信障害や回転のこぎりの刃の摩耗などで難航。切断装置のケーブルが外れる施工ミスや、作業員の熱中症なども影響した。この日は午前5時40分ごろに作業を再開し、午後4時すぎに切断部分を地上に下ろした。

 排気筒は2011年の事故の際、1号機の原子炉格納容器の圧力を下げるため、放射性物質を含む蒸気を放出する「ベント」に使われた。支柱に破断があり、解体は倒壊の危険性を下げるのが目的。今回の作業は8月1日に始まり、2日間で終える予定だった。

福島民報 2019年9月2日 2面

排気筒最上端部を切断 福島第一原発 最初の工程を終了 

 東京電力は1日、福島第一原発1、2号機の共用排気筒(高さ約120メートル)の上半分を解体する作業で、最上端部の円筒部分(高さ約2.3メートル)を輪切りにし、地上に下す最初の工程を終えた。切断装置の不具合などで作業が難航し、当初計画より約1ヵ月遅れた。

 東電は今後も同様に排気筒を約3メートルずつ輪切りにし、地上に下ろす作業を繰り返す。今年度中の完了を目指している。

 地元企業が請け負う解体作業は8月1日に始まった。大型のクレーンでつり上げた切断装置に不具合が相次ぎ、三度にわたって中断した。遠隔操作の通信障害や回転のこぎりの刃の摩耗などもあり、作業が遅れた。

 排気筒は2011(平成23)年の原発事故発生直後、原子炉格納容器の圧力を下げるため、放射性物質を含む蒸気を放出するベントに使われた。支柱に破断が見つかっており、倒壊の危険性を下げるため解体する。

 図3 排気筒上端部ようやく切断 第1原発、1ヵ月遅れ 2019年9月2日 福島民友 2面 排気筒最上端を切断 福島第一原発 最初の工程終了 2019年9月2日 福島民報 2面

[解説]  

 日本共産党の機関紙、赤旗もほぼ、福島民友、福島民報と同様な内容の解体作業の報道をしました。しかし、赤旗もまた、作業員の3人の投入について書きませんでした。予定にない作業員の被ばくについて、赤旗も報道するべきです。

赤旗 2019年9月3日 14面

排気筒 ようやく切断 福島第1原発 解体 4週間遅れ

 東京電力は1日、福島第一原発の1、2号機排気筒(高さ120メートル)の解体作業について、最上部のブロックの切断・つり下ろし作業を完了したと発表しました。解体作業を開始した直後から解体装置の動作不良や台風対策などで中断を繰り返し、約4週間遅れの完了となりました。

 東電によると、排気筒の上半分の約60メートルを23ブロックに分けて解体する計画。当初は5月に作業を開始する予定でしたが、解体装置を上からつるすクレーンの高さが足りないことが判明し延期。8月1日に作業を開始しました。

 しかし7日に筒身本体の切断を開始したものの、刃の摩耗やモーターの負荷によって解体装置の動作不良が発生し、作業が中断。接近していた台風の通過を待ち、21日に切断作業を再開しましたが、動作不良で再度中断しました。部品を交換して30日に作業を再開しました。9月1日に切断・つり下ろし作業が完了しました。

 作業開始時の計画では、8月下旬に23ブロックのうち4ブロックの解体が完了する予定でした。現時点で約4週間の遅れが発生していますが、東電は予備日に作業することで今年度内の解体完了をめざすとしています。

図4 排気筒ようやく切断 福島第1原発 解体 4週間遅れ 2019年9月3日 赤旗 14面

[解説]

 犯罪的なのは、読売新聞と毎日新聞です。同2紙は,2019年8月2日の読売新聞社説、毎日新聞の記事で、1/2号機排気筒の解体作業を開始したことを伝えながら、2019年9月1日の最頂部の切断・撤去を一切書きませんでした。これではあたかも解体作業が順調に進んでいるかのイメージを与えます。読売新聞と毎日新聞は、東京パラリンピック、オリンピックまでは、福島第一原発の危険な廃炉作業は、一切報道しない姿勢なのでしょうか。国際原子力機関(IAEA)職員でも編集部に常駐しているか、のようです。

図5 読売新聞 2019年9月2日 朝刊 全国版・福島県版 1/2号機排気筒解体作業を一切報道せず 毎日新聞 2019年9月2日 朝刊 全国版・福島県版 1/2号機排気筒解体作業を一切報道せず

[解説]

 しかし、いずれの新聞も、1/2号機排気筒の解体作業で放射能が環境に放出されたことを書いていません。原発事故当時の1号機ベント、2号機圧力容器の主蒸気排気、更に圧力抑制室の底抜けによる放射能が1/2号機排気筒の内部に付着しています。

〈参考〉

2019年9月1日、東京電力が福島第一原発1/2号機排気筒(高さ120m)の最頂部の切断、撤去に成功。舞い散る放射能汚染は?(2)

 

 新聞各紙は、東日本、いや、北半球に原発事故の際に付着した放射能が舞い散った可能性を東京電力の過去の資料に基づいて書くべきです。上記資料は2013年などの東京電力の資料に基づいて書いたものです。東京電力は2019年4月25日の資料では、1/2号機排気筒の外部のガンマ線の線量だけを測って、「計測されたのは、セシウム134,セシウム137だけ」「排気筒の内部に放射能が付着しているせいではなく、下にある1号機原子炉建屋のオペレーションフロアからの散乱ガンマ線の影響」という主張は虚偽です。上記資料に詳しく分析、評価しました。

 報道機関は、東京電力の下請け機関に成り下がらず、独自に東京電力資料の分析をした上で記事を書くべきです。

 [追記] 2019年9月9日

 NHK福島放送局のニュースを確認しました。上記、新聞各紙にはない排気筒の事実が書かれています。「排気筒は原発の構内で最も高い構造物で、事故の際、放射性物質を含む気体が放出され、内部が汚染されている上、水素爆発などの影響で鉄骨にひびも見つかっています。」と内部が放射能で汚染されている事実を報道しています。また、作業員が投入されたことも報道しています。ただし、これも、全国のニュースでは流れず、福島限定です。

NHK NEWS WEBで「排気筒」で検索してみて下さい。出てくるのは2019年5月30日のニュース「福島第一原発の排気筒解体はことし7月下旬に着手へ」が最新です。

NHK NEWS WEB

事実を報道するのは福島県のみ、他の都道府県民には知らせない、というNHKの姿勢が見て取れます。

NHK 福島放送局

排気筒解体 1回目の作業終了

2019年9月2日 12時54分

福島 NEWS WEB

東京電力福島第一原子力発電所で3度にわたって中止され、先月30日に再開した排気筒の解体作業は、1日に1回目となる頭頂部の切断と吊り下ろしの作業が、3日がかりで終了しました。

福島第一原発にある高さ120メートルの排気筒の解体作業は、先月1日に、1回目となる頭頂部から2.3メートルの部分の切断が開始されましたが、熱中症の懸念や台風の影響のほか、切断装置の電源ケーブルが外れるトラブルで3度延期されていました。
先月30日に再開されたあとも、遠隔で指令を送る通信のトラブルで一時、切断装置が動かなくなったり、装置の刃がすり減ったりして中断を繰り返し、1日は、装置の燃料がなくなったことから、作業員をクレーンに乗せ高さ120メートルまで運び、補給を行いました。
そして、午後4時すぎに切断した部分を地上に吊り下ろし、1回目の作業が3日がかりで終了しました。
排気筒は原発の構内で最も高い構造物で、事故の際、放射性物質を含む気体が放出され、内部が汚染されている上、水素爆発などの影響で鉄骨にひびも見つかっています。
東京電力は、半分ほどのおよそ60メートルの高さまで解体する計画で、今年度中に完了することにしていて、「今回出た課題を検証し、進め方を改善していきたい」としています。