2017年10月23日、第28回福島県県民健康調査検討委員会は、福島の小児甲状腺がんが193名となったことを報告しました。福島民友、福島民報は1面・7面、6面で大きく報道しましたが、朝日、毎日、読売、日経や産経の全国紙や地方紙の東京新聞で、この193名となった小児甲状腺がんのことを報道したのは、朝日新聞だけでした。その朝日新聞も37面、縦5.8cm×横5.5cmの小さな記事だけでした。
朝日新聞 2017年10月24日朝刊 37面
※ 毎日新聞、読売新聞、日経新聞、産経新聞、東京新聞は、この193名の小児甲状腺がんの事実を一切、報道しませんでした。
福島民友 2017年10月24日 7面 その1
福島民報 2017年10月24日 6面 その1
福島民報 2017年10月24日 6面 その2
福島民報 2017年10月24日 6面 その3
明日、2017年12月25日に、第29回 福島県県民健康調査検討委員会が開かれます。全国紙や東京新聞は、たとえ不十分な統計結果であったとして、これまで報道してきた、福島県が発表してきた小児甲状腺がんのことを記事にするべきです。
ちなみに、犯罪的なことに、第28回の県民健康調査検討委員会の席上、国際医療福祉大学クリニック 鈴木元氏が「1歳児の甲状腺被ばく量を再評価、甲状腺被ばく推計は平均値40ミリシーベルトで、安定ヨウ素剤を飲む目安50ミリシーベルトを下回った」という発表をしています。あたかも、自分たちに都合がいい推計値を出すことで、国連放射線影響科学委員会(UNSCEAR)2013年報告書で示した推計値の7~69%にとどまった、と言い、福島県立医大が原発事故当時、福島県民に安定ヨウ素剤を服用させなかったことを正当化しようとしています。
福島民友 2017年10月24日 1面
日本経済新聞、産経新聞は、福島の小児甲状腺がん193名のことは一切報道しないのに、この「1歳児の甲状腺被ばく推計が最も高いとされる、飯舘村、浪江町でも最大40ミリシーベルト」だけを報道しています。
日本経済新聞 2017年10月24日 46面
産経新聞 2017年10月24日 28面
ちなみに、福島県立医大は原発事故当時、医師や看護師が逃げないように、医師や看護師、その家族には安定ヨウ素剤を服用させています。また、自衛隊員も安定ヨウ素剤を服用した上で、原発事故の住民の避難誘導にあたっています。一方、警察官、消防職員は、安定ヨウ素剤を服用されらないまま、避難誘導にあたっていました。
<参考>原発事故後、県立医大では放射能への恐怖が渦巻いた。若い女性職員の不安は大きかったし、子どもを連れて避難したいという声も出た。「医大内の混乱を鎮めるために配布は必要だった」と医大病院の副院長、細矢光亮(54)は話す。細井の話を受け、16日には職員の子どもにも配ることが決まった。対象は15歳以下とされた。各部で職員の子どもの数をまとめ、必要分を病院経営課で渡すことにした。17日には看護部に358人分が配された。19日から21日にはそのほかの部署の子ども用に814人分を配った。子どもの服用基準は「爆発時」または「毎時100マイクロシーベルト以上」とした。配布の事実は外に漏らさないように、と口止めがされた。ー朝日新聞(プロメテウスの罠)医師、前線へ:19 服用の指示が出ない 2013年11月6日
しかし、福島県の住民は安定ヨウ素剤の服用指示を受けていません。これは放射線医学総合研究所 理事 明石真言氏による「福島県民の被ばく線量は低いから、安定ヨウ素剤は服用の必要はない」という助言を受け、政府の原子力災害現地対策本部が、住民に配布するために十分な安定ヨウ素剤が備蓄されていたにもかかわらず、住民に安定ヨウ素剤の服用指示を出さなかったからです。
<解説> 放射線医学総合研究所は、2011年3月14日原子力安全委員会の定めた服用法から逸脱しないよう解説文「東北地方太平洋沖地震に伴い発生した原子力発電所被害に関する放射能分野の基礎知識」を公表しました。国や県の指示がない状態で飲むな、と。「服用の必要があるかないかは、環境中への放射性ヨウ素の放出量から受ける被ばく量を推定し、医学的観点から決定すべきものです。」(同 解説文 2011年3月14日 13時50分更新)
東北地方太平洋沖地震に伴い発生した原子力発電所被害に関する放射能分野の基礎知識 放射線医学総合研究所 2011年3月14日 13時50分更新
国会事故調査委員会は同報告書の中で、「福島県はSPEEDIの情報も受け取っており(県は後にSPEEDIのデータを消去している)、国や東電から受け取った原発の状況に関する情報も十分ではなかったが保有していた、県の緊急時環境放射線モニタリングで地点で採取した葉菜からは100万ベクレル/kg以上の高いヨウ素の検出を認識している。福島県は、ヨウ素剤の配布・服用指示を行った市町村と比して、空間線量や原子炉の状況など、安定ヨウ素剤の服用を指示する情報は手元にあったといえる。」(国会事故調査委員会報告書 pp.411)と福島県の不作為の罪を告発しています。
双葉町の前町長 井戸川克隆氏は、双葉町町民を川俣町に避難・誘導させますが、避難中の患者らとともに、1号機の爆発のがれきを受けました(2011年3月12日午後13時36分過ぎ)。それは10センチメートルくらいの大きなかけらのようなもので、ゆっくり舞い散る牡丹雪のようなものだったと言います(井戸川克隆『なぜわたしは町民を埼玉に避難させたか』駒草出版、2015年 pp.42)。住民を川俣町に避難させた後、2011年3月12日夜、職員2名とともに、福島県立医大へ赴き、ホール・ボディー・カウンター(WBC)で、自らおよび職員2名の内部被ばくを測定させています。井戸川克隆氏の体からはセシウム134、セシウム137が万単位のベクレル、ヨウ素131が31万ベクレル検出された、と福島県立医大から報告を受けています。
内部被ばくを考える市民研究会 資料
『井戸川克隆氏 体内にヨウ素131 31万ベクレル。内部被ばくは1シーベルトか?』
この井戸川氏の体内に入ったヨウ素131の粒子径が仮に1.0マイクロメートルであり、吸入摂取の場合、10万ベクレルあたり337ミリシーベルトの甲状腺等価線量となる、日本放射線安全管理学会は述べています。井戸川克隆氏は31万ベクレルですから、337ミリシーベルトの3倍、つまり、1000ミリシーベルト超えになります。(上記、資料に抜粋を掲載してあります。)
<資料>日本放射線安全管理学会『放射性ヨウ素・セシウム安全対策に関する研究成果報告3 被災地域住民及び隣接地域住民の甲状腺モニタリングのあり方について』2011年7月20日付 pp.28
被災地域住民及び隣接地域住民の甲状腺モニタリングのあり方について 日本放射線安全管理学会 放射性ヨウ素・セシウム安全対策アドホック委員会 内部被曝評価班 2011年7月10日
井戸川克隆町長(当時)は、原子力災害対策本部、福島県からも一切指示がないまま、独自の判断で、2011年3月13日、3月14日の2日間にわたって、川俣町に避難していた、40歳未満の町民に安定ヨウ素剤を服用させていました。なぜ40歳未満であったか、というと、それは原子力災害避難訓練では「40歳以上では安定ヨウ素剤の効果が認められない」と、40歳未満にだけ服用させることが指示されていたからでした。
2011年12月7日に「原子力安全委員会原子力施設等防災専門部会・被ばく医療分科会」が開かれ、甲状腺被ばく100mSvでの服用指示の是非や、小児の場合50mSvで服用指示を出すべきではないか、国際保健機関(WHO)が作った小児に関して10mSvで服用させるガイドラインの是非が討議されました。
ブログ おしどり マコケンの脱ってみる? 衝撃の安定ヨウ素剤の服用基準について@被ばく医療分科会の件。
原発事故の翌年2012年1月に「被ばく時年齢が40歳以上の場合の甲状腺癌のリスクについて」という意見書が提出されました。広島大学原爆放射線医科学研究所の細井義夫氏が、40歳以上でも被ばくによる甲状腺がんの増加が見られたという論文を紹介し、40歳以上でも安定ヨウ素剤を服用させるべきと提言しました。
原発事故から2年と4ヶ月たった、2013年7月19日、40歳以上の服用を原子力規制委員会が認めました。また、自治体でも事前配布とともに「40歳以上の方への配布方法」(福島県いわき市と明記した所も出始めました。
ブログ No Immediate Danger より引用・抜粋
8-5-5 長瀧重信氏のヨーロッパ甲状腺学会での報告
まさに、後だしジャンケンの様相です。原子力規制当局は、原発事故をまったくの想定外としていて、現実の原発事故が起きた場合の安定ヨウ素剤の服用指示も、小児の服用指示も、40歳以上の服用指示も、十分検討していなかったのです。その一方で、福島県立医大、自衛隊だけは、安定ヨウ素剤を自分たちの基準で配布し、服用する、という事態となっていたのでした。
鈴木元氏の、福島県の被ばくした1歳児の甲状腺等価線量が、最大40ミリシーベルト(2017年10月23日 第28回県民健康調査検討委員会)というのは、井戸川克隆氏などの原発事故直後の住民のホール・ボディーカウンター(WBC)や甲状腺線量の実測値を無視した、計算によるものです。鈴木元氏は、床次眞司教授らの川俣町,いわき市,飯舘の小児1080人の甲状腺被ばく検査について言及しましたが、問題なのは、この実測値すら無視していることです。井戸川克隆氏や双葉町職員のホール・ボディーカウンター(WBC)の実測値の検討がありません。原発事故作業員らのホール・ボディーカウンター(WBC)や甲状腺線量の実測値も検討されていません。
まさに、机上の空論です。
このように、実際に被ばくした福島県民や原発作業員、自衛隊員、警察官、消防隊員などの被ばくの事実を無視した、被ばく線量の推定は止めるべきです。
さらに、小児甲状腺がんは福島県内のみの問題ではありません。現時点でも97名の患者が、福島県のみならず、東北・関東圏に出ています。民間団体の3.11甲状腺がん子ども基金の2017年8月2日の発表では、甲状腺がんにかかり、手術を受けたまたは受ける予定の方々(原発事故当時0~18歳)が、福島県69名、岩手県1名、宮城県3名、秋田県1名、群馬県1名、茨城県1名、千葉県2名、新潟県1名、東京都4名、埼玉県4名、神奈川県4名、長野県2名、山梨県1名、静岡県1名、計96名出ています。2017年9月17日発表では新たに1名の患者が出ています(都道府県名は現時点で非公表)。これは、甲状腺がんにかかった方がたへ、「手のひらサポート」として、10万円を給付、放射線治療(RI治療)を受ける方には更に10万円を給付する取り組みです。応募し、申請を受けているかたがすでに97名にもなっています。更に、2017年9月17日の発表では、すでに96名中4人の方が、転移があり、再手術を受けたことが判明しています。3.11甲状腺がん子ども基金では、それらの転移・再手術を受けた方々にも、追加10万円の給付を行うことを決定しました。
原発事故前の小児甲状腺がん(0~19歳)の発症率は、年間10万人当たり0.1~0.2人でした。1975年に日本全国で0-19歳人口は3517万人、0-19歳で小児甲状腺がんにかかった人数は日本全国で51人です。チェルノブイリ原発事故から7年目の1992年は非常に多く、日本全国で0-19歳人口が3099万人、0-19歳で小児甲状腺がんにかかった人数は日本全国で113人です。
埼玉県の0~19歳人口は約126万人、東京都は約208万人です(2015年度)。したがって、原発事故前の年間10万人当たり0.1~0.2人という数字を当てはめれば、原発事故から6年間で、埼玉県は8~15人、東京都は12~25人の小児甲状腺がんの子どもが出てもおかしくありません。しかし、一方、福島県の先行検査は対象人数38万人、本格検査(2回目)は37万人、本格検査(3回目)は33万人、計約108万人ですから、原発事故から6年間で6~13人出る計算になります。それが、第28回福島県県民健康調査検討委員会(2017年10月23日開催)の発表では、193名ですから、明らかな多発と言えます。しかも、本格検査(第3回目)はまだ、2次検査が終了していない子どもたちがたくさんいます。結節が5mm以上またはのう胞が20mm以上ある子どもで、2次検査の対象となっている子どもが754人、しかし、2次検査を受診している子どもが438人しかいません。更に、2次検査結果が確定した子どもが367人、この中から7名の小児甲状腺がんの患者が出ています(2017年6月30日現在)。
本格検査(2回目)では、結節が5mm以上またはのう胞が20mm以上ある子どもで、2次検査の対象となっている子どもが2227人(3回目の約3倍)、2次検査を受診していた子どもが1844人(3回目の約5倍)。更に、2次検査結果が確定した子どもが1788人(3回目の約5倍)、この中から71名の小児甲状腺がんの患者が出ています(2017年6月30日現在)。
そもそも、福島県小児科医会が2015年7月5日総会声明を出すとともに「県民健康調査における甲状腺検査(以下「甲状腺検査」)に関しては以下の事項を要望する」の中で、「こころのケア」をし、「受診者(子ども)と保護者の同意」を取ることを要望しています。あたかも、甲状腺がんは多発していない、原発事故の影響はない、これくらいの少ない放射線で甲状腺がんは起きない、と宣伝しながら、子どもの精神衛生上2年に1度の甲状腺検査を受ける必要がない、という論調を小児科医自ら行ってきました。その結果、本格検査(3回目)は対象人数33万人であるのに、1次検査を受けた人数は14万人、41.1%にすぎません。本来、本格検査(2回目)と同じ人数が受診をしているならば、2次検査対象者は754人→1433人に、小児甲状腺がんの子どもも7人→55人出る可能性がある、ということです。
つまり、甲状腺がんにかかっていながらも、検査を受けず、進行している子どもたちがいる危険性があります。
「原発事故の影響であるか、否か」の不毛な議論はやめて、東北・関東地方、いや、日本全国での子どもたちの甲状腺超音波検診を行うべきです。ベラルーシでは、初期に原発事故の放射性物質誘発がんである、小児甲状腺がんが、進行が早く、転移する悪性であることがわからず、部分摘出や葉の切除をしていました。結果、リンパや肺に転移し、中には肺がんになり、血を吐いて亡くなった子どももいます。原発事故から数年間に15人の子どもたちが亡くなっています。それから、原発事故による、この小児甲状腺がんは、右葉や、左葉の一部にがんがあっても、甲状腺を全摘出することが、国の法律として定められています(ベラルーシ・プロジェクト報告 pp.24 内部被ばくを考える市民研究会 川根眞也)。
<参考>「ベラルーシ・プロジェクト報告」の購入はこちらから
http://www.radiationexposuresociety.com/archives/2909
故ユーリ・ジミチック博士(ベラルーシ)は、鈴木眞一教授や山下俊一教授らから招かれ、福島で何度も上記の内容の講演をしてきました。しかし、鈴木眞一氏や山下俊一氏らは、ベラルーシの経験を無視して、甲状腺がんの部分摘出を行っています。
予防原則の上から、対象者の全員の検査を義務づけることが必要です。福島県民健康調査検討委員会は、20歳までは2年ごとですが、それ以降は「25歳、30歳などの節目検診」にする計画です。このような愚かな計画ではなく、基本毎年の検診を義務付けるべきです。低線量での被ばくであれば、10年、20年での発症の危険性もあります。「甲状腺がんは手術すれば予後がいいがん」というのは、大人の甲状腺がんの話であって、原発事故由来の小児甲状腺がんは進行が早く、転移しやすい、悪性のがんです。大人の甲状腺がんと同じ扱いをするのは間違いです。
検査体制やサポート体制を抜本的に見直し、日本全国で甲状腺超音波検査が受けられ、治療ができる体制を早急に作り上げるべきだと考えます。
2011年3月13日、14日