初稿:2017年6月24日

                                     追記・改訂:2017年6月28日

 日本で、史上最悪のプルトニウム吸入被ばく事故が、日本原子力開発機構大洗研究開発センター(茨城県東茨城郡大洗町成田町4002)の燃料研究棟で起きました。この事故は、同燃料研究棟の廃止に伴い、貯蔵していたウラン、プルトニウム数gを含む核燃料物質の点検中に起きました。多くの新聞がまったく報道しませんが、この核燃料物質は、高速実験炉「常陽」の燃料の試作品に伴ってできたくず。21個あるうちの最初の貯蔵容器缶のふたを開けた時に起きた事故であることを、毎日新聞だけが報じています(2017年6月8日朝刊2面)。

 その後2017年6月19日に、事故を起した日本原子力研究開発機構が、原子力規制委員会に事故報告書「燃料棟における汚染について」を提出しました。この事故報告書の中では、貯蔵容器は全部で80個あり、前日6月5日までに30個の点検作業を終え、31個目の貯蔵容器の点検作業中に事故が起きたことが書かれています。

 プルトニウム239の人体への健康被害については、「通過コンパートメントに入ったプルトニウムのうち, 45%が肝臓にそして45%が骨に移行するものと仮定する(ICRP,1972)。残留半減期は肝臓においては20年,骨においては50年であるとする(ICRP,1986)。生殖腺に移行する割合は,男性については3.5X 10-4女性については1.1X 10-4である。生殖腺の組織に沈着したプルトニウムは,そこに永久に残留するものと仮定する。pp.274」と国際放射線防護委員会(ICRP)も重要視しています。

【出典】作業者による放射性核種の摂取に関する個人モニタリング:立案と解釈 ICRP Pub54

    Individual Monitoring for Intakes of Radionuclides by Workers ICRP Pub 54

 また、「一旦体内に侵入したPu は、極めて排泄しにくい特徴を持ち、PuO2 の肺の生物学的半減期は500 日、肝臓の生物学的半減期は20 年、骨の生物学的半減期は50 年と考えられている」(森下祐樹、2015年)と、酸化プルトニウム(PuO2)が肺に入った場合の生物学的半減期は500年、つまり肺に入ったら、一生出てこないということが指摘されています。

【出典】「エネルギー弁別・位置検出型α線器の開発に関する研究」名古屋大学院医系研究科医療技術学専攻 森下祐樹 2015年

 2017年6月9日の毎日新聞朝刊では、「肺から2万2000ベクレルのプルトニウム239が検出された50代の男性職員について、同機構が男性の体内に取り込まれた放射性物質の総量を36万ベクレルと推定している」とかかれています。これは後日、放射線医学総合研究所 量子科学技術研究開発機構が、この肺から2万2000ベクレルのプルトニウム239は、皮膚についたプルトニウム239を誤検出したものと否定します(2017年6月12日)。果たして、肺からプルトニウム239 2万2000ベクレルは誤検出だったのでしょうか。また、2017年6月8日、毎日新聞朝刊が報じたように、作業員Eの方の被ばく体内総量は、プルトニウム239をはじめ、36万ベクレルだったのでしょうか。

 また、新聞報道等では、プルトニウム239やアメリシウム241しか問題とされていません。しかし、この貯蔵容器に入っていたものが、高速実験炉「常陽」の試作燃料のくずであるならば、多量のウラン238などのウランが含まれていたはずです。いわば、劣化ウラン弾の劣化ウランを吸い込んだと同じ健康被害が出る危険性があります。アメリカとイギリスは1991年の湾岸戦争でイラクで800トンもの劣化ウラン弾を使用しました。

 (米陸軍環境政策局によれば,7,000発をサウジアラビアで訓練発射,イラクでの実戦で4,000発を発射.さらに3,000発を火災や事故で消失しました。したがって総計で1万4,000発の戦車砲弾(劣化ウラン500トン相当)が使われています。英国チャレンジャー戦車も,少なくとも100発の劣化ウラン砲弾を発射しました。米空軍は,陸軍以上に劣化ウラン砲弾を使用しました。戦争中にA-10対地攻撃機「戦車キラー」が広範囲にわたって用いられ,94万発の30ミリ劣化ウラン砲弾が発射されました。30ミリ砲弾1発に含まれる劣化ウランは約300g。したがって総計約280トンになります。米陸軍500トン、米空軍280トン、イギリス陸軍3.6トン、総計783.6トン)

【出典】鈴木頌さんのブログ 未来破壊兵器=劣化ウラン弾

 1991年の湾岸戦争に従軍した米兵が帰国後、「湾岸戦争症候群」と呼ばれる病気を発症しています。劣化ウラン弾が爆発した後のウランを吸い込むことにより、脳幹と脳下部のハウスキーピング機能が損傷し、疲労感・痛み・記憶障害・倦怠感や関節痛などの症状を発症したのです。(ハーレィ,2000)イラクでは、被ばくしたウランの遺伝毒性によって、ガンや先天性疾患が増加しています。(アル・アニ、ベイカー,2009)

【出典】欧州放射線リスク委員会(ECRR)編『放射線被ばくによる健康影響とリスク評価』明石書店 2011年11月30日 pp.237

    放射能兵器劣化ウラン 核の戦場 ウラン汚染地帯 編・著 劣化ウラン研究会(山崎久隆ほか) 技術と人間 2003年3月 pp.32

 大洗研究開発センター作業員の被ばく事故を隠蔽させてはなりません。そして、将来に渡る健康被害に対して、万全の補償を行うべきです。もっとも内部被ばくの大きかった作業員Eの一番近くにいた、作業員Dの方はまだ20代です。

 さらに、2017年6月26日付けの東洋経済によれば、同誌が原子力規制庁に取材したところ、日本原子力研究開発機構が、ウランやプルトニウムなどの核物質を、法令に違反した保管していた容器が4571個にも及ぶことが発覚しました。今回のプルトニウム被ばく事故が起きた燃料研究棟は、北地区であり、違法に保管されていた、ウランやプルトニウムを初めとする核物質は、北地区だけで101あったことが判明しました。点検すべき容器は80個ではなく、101個だったのではないでしょうか。

 さらに、高速実験炉 常陽、重水臨界実験装置 DCA、福島燃料材料試験部における燃料材料試験施設 ① 照射燃料集合体試験施設(FMF)② 照射材料試験施設(MMF)③ 第2 照射材料試験施設(MMF-2)④    照射燃料試験施設(AGF)、は南地区ですが、ここには違法に保管されていたウランやプルトニウムを初めとする核物質が2106個あったと報告されていたのです。2017年3月末現在。そもそも、「福島燃料材料試験部」とは、何の研究を目的とするところなのでしょうか?

 今回の事故は起きるべくして起きた事故であり、今後も起きる可能性を示唆しています。全容の解明が急務です。そして、来年2018年7月に迫る、日米原子力協定(非核保有国の日本に使用済み核燃料からプルトニウムの抽出の権利を認めている)改訂をやめ、破棄すべきです。日本はすべてのプルトニウムをアメリカ、イギリスに売るべきです。核兵器開発につながる、プルトニウム抽出を中止すべきです。

【出典】独立行政法人日本原子力研究開発機構大洗研究開発センター(北地区)の原子炉の設置変更  JMTR(材料試験炉)原子炉施設の変更 の概要について 第48回原子力委員会 資料第3-2号 2008年7月11日

【出典】燃材施設のユーティリティ運転管理に係る業務 ① 業務概要説明資料 ② 入札関係資料 ③ 事業基本情報(契約状況等) 日本原子力研究開発機構高速炉研究開発部門 大洗研究開発センター 福島燃料材料試験部 2016年3月4日

 

★★★ 引用開始 ★★★

原子力機構・内部被ばく 2.2万ベクレル 保管26年、ガス発生か 点検最初の袋破裂

毎日新聞2017年6月8日 東京朝刊

 日本原子力研究開発機構の大洗研究開発センター(茨城県大洗町)で発生した被ばく事故。核燃料物質を点検していた作業員5人のうち、1人の肺からは過去に例のない2万2000ベクレルのプルトニウム239が検出され、がんなど健康への影響が懸念される。原子力機構を巡っては安全管理体制の不備が指摘されており、当時の作業が適切に実施されていたのかなどの解明が今後の焦点になる。

 原子力機構によると、今回の事故は、最も被ばく量の多い50代男性が点検のため、ボルト留めされた金属製容器のふたを開封したところ、中のビニール袋が破裂して、ウランとプルトニウムを含む粉末が飛散した。他に男性2人がそばで点検の補助をしていた。

 この粉末は、敷地内にある高速実験炉「常陽」(1977年に初臨界)で実験する燃料の試料を作った際に出たくずで、約300グラムあった。粉末はまずポリエチレン製の容器に入れられ、二重のビニール袋で密閉したうえで、金属製容器に入れて91年から26年間保管していた。開封した記録は確認できないという。

 今回の点検は、原子力機構の別の施設で原子力規制委員会から核燃料物質の不適切な管理を指摘されたのを受けて、実施していた。同機構は今回と同様にウランとプルトニウムを含む粉末を保管した金属製容器計21個を点検する計画で、事故が起きたのは最初の1個の点検中だった。

 なぜビニール袋が破裂したのか。出光一哉・九州大教授(核燃料工学)は「ウランやプルトニウムなどは時間がたつと原子核が崩壊し、ヘリウムの原子核(アルファ線)が飛び出す。長期間保管してヘリウムガスがたまり、容器の内圧が高まって破裂した可能性はある」と指摘する。

 原子力機構の関係者もこの可能性を認め「破損の可能性があるポリエチレン製容器を長期保管で使うのはよくなかったかもしれない」と明かした。

 茨城県と大洗町などは7日、原子力安全協定に基づき、大洗研究開発センターの立ち入り調査に入った。17人が事故のあった分析室の内部をモニターで確認したほか、排気に含まれる放射性物質の濃度を調べたという。県原子力安全対策課の近藤雅明・原子力安全調整官は「被害の拡大は無いことは確認した」と話した。水戸労働基準監督署や県警も事故原因や作業が適切だったかを調査している。【岡田英、山下智恵、加藤栄】

体外排出まで影響

 「被ばくした作業員の発がんリスクが今後上がるのは明白。影響を見る必要がある」。量子科学技術研究開発機構の明石真言(まこと)執行役は7日、作業員が搬送された放射線医学総合研究所(放医研、千葉市)での記者会見で述べた。

 今回の事故は、鼻や口などから放射性物質を体内に取り込んだ内部被ばくのケースで、外部被ばくによるJCO臨界事故(1999年)とは異なる。JCO事故では、作業員2人が6~20シーベルトの外部被ばくをして死亡したが、これは一瞬で大量に被ばくしたため急性症状が出た。内部被ばくは体内にとどまった放射性物質が放射線を出し続けるため、体外に排出されるか、放射線が弱くなるまで人体に影響を及ぼし続ける。

 今回、放射性物質を最も多く取り込んだ50代男性の肺からは、2万2000ベクレルのプルトニウム239(半減期2万4100年)と、220ベクレルのアメリシウム241(同432年)が検出された。これらは、放射線の中でも人体への影響が大きいアルファ線を出すため、肺が受ける被ばく線量は大きい。暫定評価では、被ばく線量は今後50年間で12シーベルト、1年間で1・2シーベルトと推定された。放射線業務従事者の法定許容限度は年50ミリシーベルト(1シーベルトの20分の1)だ。 放医研は5人の治療のため、放射性物質の体外への排出を促す「キレート剤」を点滴し、効果を見極める。JCO臨界事故の際、作業員の治療に当たった前川和彦・東京大名誉教授(救急医学)は「1、2週間のうちに、プルトニウムがどれぐらい排出されるか見極める必要がある」と話している。【酒造唯、阿部周一】

被ばく体内に総量36万ベクレルか原子力機構事故
                 毎日新聞 2017 年6 月8 日11 時06 分(最終更新6 月8 日17 時41 分)

 日本原子力研究開発機構の大洗研究開発センター(茨城県大洗町)で放射性物質が飛散して作業員5人が被ばくした事故で、肺から2万2000ベクレルのプルトニウム239が検出された50代の男性職員について、同機構が男性の体内に取り込まれた放射性物質の総量を36万ベクレルと推定していることが8日、分かった。同機構などはさらに詳細な被ばく状況を調べている。

 原子力機構によると、男性職員の肺の被ばく値から、血液や骨、臓器など体全体に取り込まれた放射性物資の総量を算出し、36万ベクレルと推定した。この数値は1年間で1.2シーベルト、50年間で12シーベルトの内部被ばくを見込む根拠になったという。

 5人は燃料研究棟の分析室で核物質の点検中、ステンレス製容器を開けた際に中に入っていたビニール袋が破裂し、粉末状の放射性物質が飛散。男性職員を含めて4人が放射性物質であるプルトニウム239やアメリシウム241を肺に吸い込み内部被ばくした。破裂した原因はわかっていない。

 5人は搬送された放射線医学総合研究所(千葉市)で放射性物質の排出を促す薬剤投与などの治療を受けているが、現時点で体調不良などの訴えはないという。原子力機構などは詳しい内部被ばく状況や健康影響などを調べている。【鈴木理之】

★★★ 引用終り ★★★

【出典】燃料研究棟における汚染について 日本原子力研究開発機構 理事長 児玉敏雄 原子力規制委員会宛 2017年6月19日 pp.2

「80個の貯蔵容器のうち、事故発生までに30個の貯蔵容器についての点検作業を実施(前日までに28個の点検等を実施。発生当日の平成29年6月6日は点検等作業実施済みの2個の再確認を含む4個の点検等作業まで実施)し、31個目の貯蔵容器の点検等作業時に本事象が発生した」

 そして、以下が2017年6月9日に日本原子力研究開発機構大洗研究開発センターが公表した、鼻スミヤ・肺モニタの測定値です。

 この作業員Eの方の、肺にプルトニウム239が2万2000ベクレル、アメリシウム241が220ベクレルという内部被ばくは年間1.2シーベルトに相当し、死に至る危険性のあるレベルです。

 この5名の作業員の方々は、2017年6月7日放射線医学総合研究所 量子科学技術研究開発機構に移され、DTPA(ジエチレントリアミン5酢酸)というキレート剤を投与されるなどの治療を受けます。2017年6月12日の量子研(放医研)の発表では、作業員を受け入れ以降、肺モニタを3~4回実施したが、全員がすべての回で「プルトニウムについての明確なエネルギーピークが確認できなかった。」「アメリシウムについては、計測データからエネルギーピークを確認した方がいるが、そのレベルは減少している。」と公表しています。

 これと同時に、日本原子力研究開発機構は、2017年6月12日、日本原子力研究開発機構が測定した作業員Eの方の肺の中の プルトニウム239 2万2000ベクレルは「皮膚のしわなどにわずかに残ったプルトニウムを検出した可能性があり」、「(肺に吸い込んだプルトニウムを)過大に評価した可能性がある」と釈明しました(2017年6月13日読売新聞 37面、原子力機構大洗研究開発センター燃料研究棟における汚染について(続報2) 添付2 肺モニタによる測定状況について 日本原子力研究開発機構大洗研究開発センター 2017年6月12日)。

 果たして、日本原子力研究開発機構の測定した、作業員Eの方の肺モニタでの2万2000ベクレルは、誤検出であり、プルトニウム239が一切検出されなかったのでしょうか。

 そもそも、この2017年6月13日読売新聞 37面「被曝事故 プルトニウム『不検出』…放医研発表 作業員の肺検査で」には、プルトニウム239の「検出限界値(5000~1万ベクレル)以下」と書いてあります。2017年6月14日に川根が電話取材をしたところ、放医研の肺モニタはゲルマニウム半導体検出器とのこと。ゲルマニウム半導体検出器では、プルトニウム239、アメリシウム241の出すガンマ線しか測定できません。プルトニウム239、アメリシウム241の出すガンマ線のエネルギーは非常に似通っており、これらを区別するのは非常に困難です。ですから、検出下限が5000ベクレルと高くなるのです。

 そもそも、先の日本原子力研究開発機構が2017年6月6日に測定した「鼻スミア・肺モニタ測定値」で、鼻スミア測定値は、アルファ線のベクレル数であり、作業員Eが24ベクレル、作業員Cが13ベクレル、作業員Dが3ベクレルです。これは、プルトニウム239とアメリシウム241などが出すアルファ線核種の合計を示しています(α・β線測定 ES-7284 日本放射線エンジニアリング(株))。鼻の穴に、これぼどのアルファ線汚染があるときに、肺にプルトニウム239だけが入っていないということはありえません。

 2017年6月19日になって、量子研(放医研)の尿からプルトニウムが微量検出されたと、いったん退院させた作業員を再度入院させています。その尿から検出されたプルトニウムの量については、量子研(放医研)は、「検出下限値の1日分の尿で約1ミリベクレル上回る程度」(2017年6月20日読売新聞朝刊32面)とだけ発表し、具体的な検査結果を公表していません。

【出典】大洗研究開発センターで被ばくされた方の二度目の入院について 量子研(放医研) 2017年6月19日

 採取した尿を調べれば、明らかにプルトニウム239が検出される被ばくをした作業員であったことは量子研(放医研)はわかっていたはずです。作業員5人をわざわざいったん退院させた理由がわかりません。肺モニタで「不検出」(本当はプルトニウム239が5000ベクレルあったかもしれない)だからと、便や尿を採取しておきながら、その分析結果が出る前に退院させました。事態の沈静化、人々の記憶から、プルトニウム被ばく事故を消し去ることだけが目的だったのではないでしょうか。

 プルトニウム内部被ばく事故が起きた、日本原子力研究開発機構 大洗研究開発センター 燃料研究棟108号室の床面のアルファ汚染、ベータ(ガンマ)汚染のcount/分(つまりcpm)は以下の通りです。「添付7 表面密度測定結果 日本原子力研究開発機構大洗研究開発センター 2017年6月9日」および「燃料研究棟における汚染について 日本原子力研究開発機構 理事長 児玉敏雄 原子力規制委員会宛2017年6月19日」から、川根が作成しました。作業員Eの方は、この⑧の位置から更にフードに近い位置に立って貯蔵容器のふたを開けていました。床面のアルファ汚染は1万count/分を超えたのではないでしょうか。作業員Eの方が立っていた場所のアルファ汚染、ベータ(ガンマ)汚染は公表されていません。