福島県住民の初期被ばくを追う(3) 原発事故前の東京電力の全面マスク+酸素ボンベ着用基準は400ベクレル/m3以上でした。原発事故後、この基準は全面マスクの着用基準200ベクレル/m3以上と大幅に緩和されています。

 この全面マスク+酸素ボンベ着用とは、以下のようなものです。宇宙服のように酸素ボンベを背負うか、エアラインホースに接続されたマスクを着用し、その現場の空気を一切吸ってはならない、という規定が、原発事故前の東電、福島第一原子力発電所構内にはありました。その基準は、管理区域のD区域と呼ばれ、表面汚染が40万ベクレル/m2以上、空気中の放射性物質の濃度400ベクレル/m3以上でした。

 以下が、東京電力株式会社 福島第一原子力発電所 放射線防護教育用テキスト 放射線作業と遵守事項 pp.9に規定されていた、管理区域の区域区分です。

 また、管理区域 C区域 では全面マスクまたは反面マスクの着用が義務づけられていました。これは表面汚染が4万ベクレル/m2以上40万ベクレル/m2未満、空気中の放射性物質の濃度が40ベクレル/m3以上400ベクレル/m3未満でした。全面マスクといえども、99.9%以上の粒子捕集効率にすぎません。すなわち400ベクレルあれば、0.4ベクレル/m3の放射性物質は吸い込んでしまうことを意味しています。このC区域は0.4ベクレル/m3以上の吸入摂取がないレベル、と考えることができます。東京電力は、少なくとも40ベクレル/m3の放射性物質を含む空気を原発作業員に吸わせるべきではない、という基準を持っていた、ということです。

 管理区域C区域でのマスクは以下のようです。

 果たして、2011年3月11日から始る、東京電力 福島第一原子力発電所の1~4号機の全電源喪失、冷却機能の喪失、そして核燃料のメルトダウン、圧力容器からのメルトスルー。そして、格納容器の破損、圧力抑制室の破損による、放射性物質の放出はいつ、どのくらいの量だったのでしょうか。また、その放射性物質の種類は?

 フランスIRSN(フランス放射線防護安全研究所、日本の原子力安全保安院に相当)が2012年2月28日に公表した報告書では、「放射性物質の大量放出は2011年3月12日から25日に行われた。約15回におよぶ事象(爆発、ベント、格納容器や圧力抑制プールの破損、などか?編者注)があった。しかし、主要な大量放出は2011年3月17日まで起きた。」と書かれています。以下がその報告書に掲載されていた、1秒間あたりの放射性物質の放出量と、それが何号機のものなのか、です。青が1号機からの放出、赤が2号機からの放出、緑が3号機からの放出です。

原典:Summary of the Fukushima accident‘s impact on the environment in Japan,one year after the accident フランス放射線防護安全研究所(IRSN) 2012年2月28日公表

 これと、以下の日本原子力研究開発機構が計算したシュミレーションとを合わせて考えると、2011年3月12日、3月15日、3月18日、19日、20日、21日、22日、23日、24日、25日と30日に大量放出があったことがわかります。特に、もっとも最大の放射能が放出されたのは、2011年3月15日の午後から夜にかけてではないでしょうか。

 

 この2011年3月12日から3月25日、および、3月30日~3月31日のダストサンプリングのデータが、福島県および周辺の住民の初期被ばくを推定するために決定的に重要です。以下に、川根が収集したダストサンプリングのデータを掲載します。pdfです。ダウンロードしてご覧下さい。あなたの街で、いつ、どれくらいの放射能が空気中に入っていたのかがわかります。だたし、決定的な期間のダストサンプリングのデータが欠損しています。

ダストサンプリングの測定結果 各ポイントにおけるヨウ素131、セシウム134、セシウム137それぞれの放射能濃度最大値及び最新値 文部科学省 平成23年4月30日10時00分現在

ダストサンプリングの測定結果 各ポイントにおけるヨウ素131、セシウム134、セシウム137それぞれの放射能濃度最大値及び最新値 文部科学省 平成23年5月10日13時00分現在

ダストサンプリングの測定結果(福島県) 文科省 2011 0318 0319 0325 2011年6月7日現在 

緊急時モニタリングにおける大気浮遊じんのγ線核種分析結果について 20110312 0314 福島県放射線監視室 2016年5月26日

 また、床次眞司教授らが2012年7月12日に公表した論文“Thyroid doses for evacuees from the Fukushima nuclear accident”の中で、2011年3月12日6時から4月6日0時まで、ずっと屋外で生活した場合の1才児の被ばく線量をシュミレーションしています。赤の実線内の区域が1000ミリシーベルト、赤の破線は500ミリシーベルト、オレンジ色が100ミリシーベルトに相当する区域です。

 川俣町山木屋地区は2011年4月22日まで避難指示が出ていませんでした。約半数の住民は自主的に避難していましたが、半数の住民は残っていた、と古川道郎町長は言っています(通販生活 フクシマの首長 第9回 川俣町 古川道郎町長)。果たして、山木屋地区住民はどれくらいの放射性物質を吸い込んでしまったのでしょうか。上記、ダストサンプリングのデータでは、2011年3月25日、15:05~15:22の空気は 555.00ベクレル/m3のヨウ素131を含んでいました。東電が定めた、宇宙服並みの酸素ボンベ付き全面マスク着用基準に相当します。

 The system for Prediction of Environmental Emergency Dose Information (SPEEDI) estimated that
the thyroid dose for 1-year-old infants spending time outdoors in various areas of Tsushima District during the period between 6:00 on March 12th to 0:00 on April 6th may range from 100 mSv to 500 mSv as shown in (Fig. 1)