2016年6月6日、第23回福島県県民健康調査検討委員会が開かれました。本来であれば、5月中に開くべきでした。G7サミット(2016年5月26~27日)とオバマ米大統領の広島訪問(2016年5月27日)の時期に、この事実がわかると不都合だと思ったのでしょうか?外国人記者が帰国した、10日後の6月6日に開かれました。

 福島の子どもたちの小児甲状腺がんは、先行検査115人、本格検査57人、計172人となりました。

 ここでは「甲状腺がん」と「がん疑い」とを区別せず、「甲状腺がん」と表現しています。福島県立医大の鈴木眞一氏は、甲状腺がんの手術を終えた子どものみを「甲状腺がん確定」とし、穿刺細胞診で悪性とされている子どもで、まだ手術を終えていない子どもを「がん疑い」としています。しかし、手術を終えた子どもたち132人のうち、誤診で良性結節だった子どもはたった1人しかいません。つまり、「がん疑い」と診断された子どもたちの99%以上が、甲状腺がんだったことによります。

 川根はもし、原発から20km圏内や飯舘村などの高線量地帯だけでなく、福島市や郡山市、二本松市、本宮市、いわき市など、放射能プルームが通った地域の子どもたちを避難させていれば、これほどの多くの小児甲状腺がんは発症しなかったかもしれない、と考えています。日本政府、福島県と各自治体は、住民の健康を守ることよりも、住民をつなぎとめることを優先してしまいました。国、自治体の第一の役割は市民の命と財産を守ることではないでしょうか?それを放棄した罪は重く、子どもたちの健康は取り戻すことはできません。

 鈴木眞一氏の説によれば、2014年度以降の本格検査で小児甲状腺がんは見つかる割合は10万人あたり、0.2人~0.3人のはずです。福島県が甲状腺検査の対象としている、0~18歳(2011年4月2日~2012年4月1日に生まれた子どもも含む)は38万1,286人ですから、福島県の子どもたち全員を検査しても小児甲状腺がんは年に0.76~1.14人しか見つからないはずです。つまり、年1人です。2014年度と2015年度の2年間の検査で、57名も小児甲状腺がんが見つかったことをどう説明するのでしょうか?

 今朝の新聞各紙を読みましたが、残念ながら、この本格検査で見つかった小児甲状腺がんの異常な多さを指摘した記事は一つもありませんでした。

大新聞は172人の福島の子どもたちの小児甲状腺がんをなかったことにしようとしているのか?

 以下の地域は明らかに、今後も小児甲状腺がんが多発する危険性のある地域です。初期のプルームによる、呼気被ばく(吸入摂取)、飲食や水よる被ばく(経口摂取)による内部被ばくに加えて、土壌に付着した土ぼこりの吸入摂取や経口摂取、放射能に汚染された食べ物や水を取ることによる経口摂取で、追加被ばくするからです。この地域の子ども、妊婦を始め、住民を避難させるべきです。学校は閉鎖するべきである、と考えます。

 小児甲状腺がんの子どもたち、先行検査(2011年度、2012年度、2013年度)と本格検査(2014年度、2015年度)の発症人数です。2016年3月31日現在。特に本格検査の見つかった子どもたちが、先行検査と同数やそれに近い発症例のあるところ、本格検査で始めて小児甲状腺がんが見つかったところを赤字にしました。南相馬市、伊達市などは、先行検査の人数よりも本格検査の人数が多いことに注意するべきです。ここでは除染ではなく、住民避難が第一優先であるべきです。ことは緊急を要します。

市町村名     先行検査   本格検査    合計人数

川俣町         2       0       2

浪江町         2       2       4

南相馬市       2      4      6

伊達市        2      7      9

田村市         3       2       5

富岡町         1       0       1

川内村         1       0       1

大熊町         1       2       3

福島市         12       8       20

二本松市        5       1       6

本宮市         3       3       6

大玉村         2       0       2

郡山市         25       17       42

桑折町         0       1       1

白河市         6       1       7

西郷村         1       0       1

泉崎村         1       0       1

三春町         1       0       1

いわき市        24       4       28

須賀川市        4       1       5

相馬市         0       1       1

鏡石町         0       1       1

中島村         0       1       1

矢吹町         1       0       1

石川町         1       0       1

平田村         1       0       1

棚倉町         1       0       1

塙町          1       0       1

下郷町         1       0       1

猪苗代湖町       1       0       1

会津美里町       1       0       1

会津坂下町       1       0       1

会津若松市       7       1       8

湯川町         1       0       1

pdf 福島県 子どもたちの甲状腺超音波検査結果と穿刺細胞診 先行検査と本格検査の推移 20160606

 福島県立医大は、これまで2011年度、2012年度、2013年度に行ってきた、子どもたちの甲状腺検査を「先行検査」と呼び、「原発事故2~3年で小児甲状腺がんは発症しない」という立場を取ってきました。2011~2013年度に見つかった、小児甲状腺がんの子どもたちは、スクリーニング効果にすぎない、といい続けてきました。のちのち見つかるかもしれない、甲状腺がんを前倒しで見つけているのにすぎない、と。

 2014年度以降の検査を「本格検査」と呼び、ここで甲状腺がんの子どもたちが多発すれば原発事故による放射性物質の影響かもしれない、という見解を示してきました。

 福島県全体で小児甲状腺がんを見ていくと、森を見て木を見ないものであり、本当のことが見えなくなります。各市町村ごとに発症を見ることが大切です。

 また、福島県や県民健康調査検討委員会の座長の星北斗氏は、福島県の子どもたちの線量評価から「放射線の影響と考えにくい」との発言を繰り返しています。しかし、県民健康調査 基本調査 に掲載されている、線量推計結果はすべて、外部被ばく線量のみです。内部被ばくを一切考慮していません。

 資料1 県民健康調査「基本調査」の実施状況について [PDFファイル/657KB]

 しかも、年間被ばく線量ですらなく、たった4か月分の外部被ばく線量で実態を小さく見せようとしています。

 放射線医学総合研究所が中心となって行っている、福島県住民の線量評価についても、外部被ばく+内部被ばくで評価しようとしていますが、内部被ばくについては食べ物と飲み物だけで評価しようとしています。まったく非科学的です。ウクライナ、べラルーシ、ロシアなどのチェルノブイリ原発事故での線量評価は、まず第一に甲状腺被ばくをサーベイメータで測った数値に基づくものであり、被ばく線量の決定的な要素は、呼気被ばくです。呼吸による内部被ばくを無視した、線量評価では、実態と比べると100倍を超える違いがあるでしょう。

 資料7 東京電力福島第一原子力発電所事故における住民の線量評価に関する包括研究 [PDFファイル/2.48MB]

 原発事故直後の2011年3月17日に、福島県立医科大学附属幼稚園の園児と職員の甲状腺の被ばく線量をサーベイメータで計測した、長崎大学 松田尚樹教授らのデータが存在するはずです。

事故直後の甲状腺被ばく実測値「ハードディスク故障」で不開示 おしどりポータルサイト 2015年3月24日

  また、政府事故調 中間報告 pp.304~305によれば、「2011年3月12 日、福島県はスクリーニングを開始した。しかし、対象者は想定以上の規模となり、県内の要員だけでは人手が足りなかったため、福島県は、国や自治体、大学、電事連等の支援を得て、避難所や常設会場でスクリーニングを実施し、延べ人数で県内の人口の1 割を超える20 万人以上がスクリーニングを受けた。このうち、1 万3,000cpmから10 万cpmの線量が測定されて部分的な拭き取り除染の対象になったのは901 人」とあります。901人分の記録は残されていないのでしょうか?もし、甲状腺のサーベイを行っていたとしたら、それは原発事故当初の貴重な内部被ばく線量を評価するものとなります。

 初期被ばくの生のデータを分析することでしか、内部被ばくの実相は見えてきません。政府や福島県はいいかげんな、外部被ばくのみでの線量評価や、食べ物と飲み水からだけの内部被ばく線量評価で、真実を隠蔽するのではなく、実際の内部被ばくの測定データに基づき、呼気被ばくを含めた被ばく線量評価を行うべきです。

 また、初期被ばくの上に、追加被ばくを強制されている、子どもたち、妊婦をはじめ住民を避難させるべきです。