トモダチ作戦 ロナルド・レーガン訴訟 「悲惨な被ばく状況知って」 被爆2世の日系人ジャーナリスト
2016年4月27日 東京新聞 24面
東日本大震災のトモダチ作戦で、米空母「ロナルド・レーガン」の乗組員をはじめとする米海軍兵士たちが、福島第一原発事故で被ばくしたとして、東京電力と原発メーカーを訴えている損害賠償訴訟。この問題を当初から追い、兵士たちを支援する被爆2 世の日系人ジャーナリスト、エィミー・ツジモトさんは「日本人を助けようと奮闘した無名の兵士たちが、既に数人が死に追い込まれるといった悲惨な状況下に 置かれている現実を知ってもらいたい」と訴える。(佐藤大)
ロナルド・レーガンと第七艦隊の六隻は、トモダチ作戦の一環として急きょ、東北に向かった。津波に流された人たちの救出活動などを行ったが、原発事故による放射性物質の大量放出を知らされなかった。
兵士たちは二〇一一年三月十二日の福島沖到着から作戦終了までの間に被ばくしたとして、一二年十二月、サンディエゴの米連邦地裁で被害救済を求めて提訴し た。多くが、白血病や骨肉腫などの健康被害を訴え、これまでに五人が死亡し、帰港後に生まれた乗組員の一歳半の男児が死亡したという。原告は最初の八人か ら現在では三百八十七人に増えている。
東電は「健康被害が福島の事故と因果関係があるとは解明できない」と主張し、日本での裁判を求めているという。
ツジモトさんは、白血病や骨肉腫は放射性物質の摂取により引き起こされやすい病気で、高い放射線の値を示す当時の映像や資料が残っていることなどから因果関係は明らかだと反論する。「兵士たちは純粋な気持ちで日本人を救おうとしてくれたのに全く耳を貸さないというのは、トモダチ作戦を汚すような対応だ。多くは除隊を余儀なくされ、闘病生活を送っている。東電が主張する日本での裁判自体が、非人道的な冷たい仕打ちだ」
ツジモトさんは日系四世。医療関係の仕事に就いていた母親が一九四五年、広島で被爆している。母親は生前、被爆について語らなかったが、ツジモトさんは幼いころに寝たきりの時期があり、目や耳の不調、嚢胞(のうほう)に悩まされた。被爆の影響と確信している。大学卒業後、ジャーナリストとなり国際問題を論 じる一方、放射線被ばく、とりわけ若者に対する身体的影響について発信を続け、原発の怖さも訴えてきた。
福島の事故後は日本での講演活動 などを通じて、特に福島の子どもたちを被ばくから守るための活動を続ける。「被ばくで、遺伝子や細胞が破壊され、健康被害をもたらす現実。若い人たちが人生を切り開く大事な時期に、健康被害によってチャレンジの機を失ったりすることがないよう、適切な医療対策が必要だ」
事故から五年がすぎ、ややもすると事故が風化しつつある中で、「兵士たちの苦悩を少しでも知ることで、日本の人々が福島の惨状にあらためて目を向けてもらえるようつなげたい。放射線が子どもたちに与える影響の怖さを命ある限り伝え続けたい」と話す。
東電が拒否しているため本格的な審理は始まっていないが、米国で訴訟を進める意義を強調する。
「米国の裁判には『ディスカバリー(証拠開示手続き)』という制度があり、東電側は、事故当時の放射性物質の行方を『いつ、どこで、誰に報告したか』など を明らかにしなければならない。これは、米国の兵士のみならず福島の人々に対しても大きな意義をもたらす。被ばくしたと考えられる人々にとっても、健康被害との因果関係を立証する手だてとなるでしょう」