原発事故前の福島県沖の海水、海底土と魚介類の放射能汚染はどれくらいだったのでしょうか?
原子力発電の全国的な稼働に伴い、放出される冷却水が日本沿岸の海を放射能汚染していないか、確かめるために、科学技術庁が1983年から「海洋環境における放射能調査及び総合評価事業」を行っています。この調査は、公益財団法人海洋生物環境研究所が、科学技術庁の委託を受け1983年当初より参画し,現在まで継続した調査を行ってきています。
全国の原子力発電所を対象に,その前面海域(15海域)において海水,海底土及び海産生物に含まれる人工放射性核種のうち,環境放射能モニタリング指針)に沿う形で,比較的半減期の長い90Sr(海水のみ)及び137Cs を軸に長期的な定点観測を行い,施設からの異常放出のないことを実証することを目的としています。1991 年度からは青森県六ヶ所村に建設が進む使用済み核燃料再処理施設の本格稼働を前に、トリチウム(3H)とプルトニウム(239+240Pu)を対象核種に加えた調査体制をとっています。
海洋放射能調査の対象している、原子力発電所の前面海域 15海域とは以下です。
福島県沖の海水中のセシウム137汚染は、原発事故前はチェルノブイリ原発事故が起きた1986年の7 mBq/L(ミリベクレル/L)が最高で、2010年には2 mBq/L(ミリベクレル/L)まで低くなっていました。
※注 1mBq/L(ミリベクレル/L)は1Bq/L(ミリベクレル/L)の1000分の1。
7 mBq/L=0.007 Bq/L
2 mBq/L=0.002 Bq/L
福島県沖の海水中のストロンチウム90は、原発事故前はチェルノブイリ原発事故が起きた1986年の3 mBq/L(ミリベクレル/L)が最高で、2010年には1.2 mBq/L(ミリベクレル/L)まで低くなっていました。
それが東京第一原発事故以降、海水中のセシウム137の濃度は約900倍の2000 mBq/L(=2 Bq/L)に、海水中のストロンチウム90は10倍の23 mBq/L(ミリベクレル/L)にまではねあがりました。
福島沖の表層水中の90Sr、137Csおよび137Cs+134Cs濃度の経年変化 1983~2012年度 が以下です。
原発事故前の福島第一、第二原発前の海域の海底土のセシウム137の汚染は4Bq/kg・乾燥重量(1983年)から1.3Bq/kg・乾燥重量(2010年)まで下がっていました。
それが東京第一原発事故以降、福島第一、第二原発前の海域の海底土のセシウム137の濃度は約170倍の220 Bq/kg・乾燥重量(2011年)にはねあがりました。
福島県沖の海底土のセシウム137濃度の経年変化 1983年~2011年 が以下です。
原発事故前の原子力発電所前面海域で採れた魚介類の筋肉中のセシウム137の汚染は以下のようでした。これは、原子力発電所前面海域を対象として設定した全国15 海域(上記)での漁獲量や棲息状況を考慮して選択した生物種について、1 海域3 生物種、年間2 回、計90 生物試料を入手して放射能分析したものです。
原発事故前は、チェルノブイリ原発事故が起きた、1986年の0.74 Bq/kg・湿重量が最高で、その後一貫して低減化し、2010年の0.22 Bq/kg・湿重量となりました。しかし、東京第一原発事故によって、最高1400 Bq/kg・湿重量ものセシウム137に魚介類は汚染されました。
以上、公益財団法人 海洋生物環境研究所中央研究所海洋環境グループ 及川真司氏らの以下の論文から引用、資料を作成しました。(川根眞也 2015年10月3日記)