原発事故 安定ヨウ素剤服用のもっとも効果的なのは被ばく24時間前と被ばく後2時間後です。

 この衝撃的な事実を解説している、論文を紹介します。書いたのは、放射線医学総合研究所の蜂谷みさを氏と明石真言氏。川根はかねてから、放射線医学総合研究所は、あの原発事故の際、福島県民にも、東北・関東の人びとにも、安定ヨウ素剤を服用させる指示を出さなかった、犯罪的な組織である、と言ってきました。その放射線防護にまったく、役に立たなかった放射線医学総合研究所は実は安定ヨウ素剤が放射線防護に役立つことを研究によって知っていて、それも原発事故による放射能プルームを浴びるであろう、24時間前に服用すればもっとも効果が高く、被ばく後2時間以内であれば80%の防護効果があることを書いていました。これは最新医学別冊 新しい診断と治療のABC『甲状腺疾患』改訂第2版(編集森昌朗 最新医学社 2012年10月25日刊)に掲載されていた論文に、川根がいくつか解説を加えたものです。原発事故から1年と7ヶ月たった、2012年10月に刊行されていました。

 放射線医学総合研究所は、広島、長崎の被爆者の健康調査はするが治療をしなかった、ABCC(アメリカ原爆障害調査委員会)と同様、次の核戦争、原発事故に備えて、調査研究するだけの機関です。彼らが言うことは科学ではなく、科学的色彩を帯びた、プロパガンダ「このくらいの放射能は安全です」です。時々、核兵器開発、原発推進に都合の悪い発言や研究があると、あっという間にその痕跡もないように消し去るのが、彼らの仕事だと考えるべきでしょう。

 その放射線医学総合研究所が語った、真実がこれです。

放射線障害と甲状腺疾患:原子力事故と甲状腺ブロック

蜂谷みさを(放射線医学総合研究所緊急被ばく医療センター 被ばく医療部 主任研究員) 
明石真言(放射線医学総合研究所理事)
【出典】最新医学別冊 新しい診断と治療のABC『甲状腺疾患』改訂第2版 編集森昌朗 最新医学社pp.252~261 2012年10月25日刊

<要旨>
 ウランを核分裂されている原子炉では、核分裂生成物として放射性ヨウ素が作られ、事故が起きれば放出される。ヨウ素は甲状腺ホルモンの合成に不可欠であり、体内に摂取されると安定型か放射性かにかかわらず、速やかに甲状腺に集積される。この放射性ヨウ素の甲状腺への集積を阻害するのが、安定ヨウ素剤である。適切な量と時期を考慮して服用することで、最大の効果と安全が確保できる。放射線被ばく、特に内部被ばくに関しては、誤った知識が多く、正しい理解が重要である。

はじめに
 原子力や放射線施設にかかわる事故が起きると、安定ヨウ素剤が取り上げられることが多い。これは科学的に正しいこともあるが、実はそうでないことが多い。安定ヨウ素剤は、放射性ヨウ素が体内に摂取される場合とその可能性がある場合に、甲状腺に放射性ヨウ素が取りこまれるのを防ぐ(ブロック)目的のために服用するが、ほかの放射性核種に対しても“防護剤”であるという誤った考え方は、ヨウ素含嗽(がんそう=うがいのこと)や消毒薬を飲むなどの誤使用もある。緊急時には昆布やわかめをどれくらい食べれば良いか、などの質問もされる。
 ルネサンス初期のスイスの医師であり、錬金術師でもあったParacelsusは、「この世に毒でないものはない。あるものが毒になるか薬になるかはその用いる量によるのである。」と述べているが、どの薬剤でもそうであるように、副作用がある。2011年3月11日に起きた東日本大震災では、対応にあたった方の中に、ヨウ素剤の連日服用で、一過性ではあるが甲状腺機能低下症を起こした例もある1)。本稿は、医師を始めとする医療関係者が、原子力事故・災害時の安定ヨウ素剤の服用に関して、正しく理解することを目的とする。

核分裂と原子炉
 ウラン、プルトニウム、トリウムなど核燃料と言われる放射性物質は、重い原子核が同じ程度の質量を持つ2つ以上の原子核に分裂する現象、つまり核分裂を起こしやすい性質を持つ。ウランには、核分裂を簡単に起こすウラン235(235U)と起こさないウラン234(234U)、ウラン238(238U)がある。235Uに中性子を1つ吸収させると、ウラン原子は不安定になり、2つの原子核に分裂し、高速中性子が飛びだす(図1)。核分裂を起こす際には、多量のエネルギーが放出される。核分裂の際に2~3個の中性子やγ線、β線を放出することが多く、核燃料物質から放出された中性子は、別の核燃料物質に衝突する。これらの放射性核種は核分裂性物質とも言われ、衝突した中性子を吸収してさらに核分裂を起こす。このように、次々と外から中性子を補給することになしに核分裂が継続することを、核分裂連鎖反応と言い、この連鎖反応と発熱反応の性質を利用して一度に大量の熱を産生する。これが原子力発電の原理である。原子力発電所は、核燃料(原子燃料)の核分裂の連鎖反応によって原子核エネルギーを熱として取り出し、水蒸気を発生させてタービンを回し、これを発電機に送って発電する。

 

原子力発電所と放射性物質
 原子炉では、核燃料物質を燃料として使用し、核分裂反応を起こさせているので、それに由来する放射性物質が作られる。核分裂によってできた放射性核種、またはそのような核種(核分裂片)からの放射性崩壊によってできた核種を核分裂生成物(FP)と言う。現在日本で使用している発電用原子炉は“軽水炉”と言い、中性子の速度を下げる“減速材”と発生した熱を取り出すための“冷却材”に軽水(普通の水)を使用している(図2)。この軽水炉には、原子炉で直接蒸気を発生させる沸騰水型原子炉(BWR)と原子炉で作った高温高圧の水を蒸気発生器と呼ばれる熱交換器に導いて、ここで蒸気を発声させる加圧水型原子炉(PWR)の2種類があり、2011年3月11日に事故が起きた東京電力福島第一原子力発電所は、BWR型の炉であった。
 原子力発電所は主にウランを連続的に核分裂させ、エネルギーを得ている。235Uの核分裂による核分裂生成物には、セシウム134(134Cs)およびセシウム137(137Cs)、ストロンチウム90(90Sr)、ヨウ素131(131I)およびヨウ素129(129I)などがあり、福島第一原子力発電所事故では、核分裂生成物のうち特に揮発性の高いヨウ素と134Csおよび137Csが環境中に多く放出された。このように放射性ヨウ素は、原子力発電所の燃料である235Uの核分裂反応の際にできる放射性物質として代表的なものの1つである。放射性ヨウ素の半減期は、129Iが約1,570万年、131Iが約8日、133Iが約21時間である。核分裂の際に発生した放射性ヨウ素は、通常は原子力発電所では閉じこめられているが、原子力発電所の事故では、その科学的な性質もあり、放射性ヨウ素の放出の可能性は高い。東京電力福島第一原子力発電所事故にかかわる1号機、2号機、3号機から放出された放射性ヨウ素量を表1に示すが、134Cs(半減期:2.1年)と137Cs(半減期:30.0年)の放出量はそれぞれ1.8×1016Bq(ベクレル)と1.5×1016Bq(ベクレル)であり、これらより多い2)。

ヨウ素
 ヨウ素(Iodone,I)が発見されたのは1800年代前半であり3)、今日では甲状腺ホルモンの産生には欠くことができないことが知られている。少し古井が、米国のデータによれば毎日必要なヨウ素の量は150μg(マイクログラム,編集者注)であり、1日最大摂取しても副作用がないのは1,100μg(マイクログラム,編集者注)とされる4)。ヨウ素は上部消化管から速やかに吸収される。つまり30~60分内に吸収され、食餌から十分なヨウ素を摂取していれば36~48時間で甲状腺に集積する。しかしながら、ヨウ素が欠乏しているとより速く12~24時間で甲状腺に集積する。一方、甲状腺におけるヨウ素の生物学的半減期は、60100日くらいと考えられている。ヨウ素には24の同位体があり、117Iから140Iまであるが、このうち127Iは安定ヨウ素である。摂取された放射性ヨウ素の体内での動態は安定ヨウ素と同じであり、消化管からの吸収が良く、甲状腺への集積が速い。放射性ヨウ素摂取による障害は、チェルノブイリ事故で観察されたように甲状腺がんであり、大量の摂取では甲状腺機能低下症が見られる。甲状腺機能亢進症の131I療法時では、機能低下症を起こすには甲状腺の線量で少なくとも30Gy(グレイ,編集者注)は必要であり、時には甲状腺の線量が120 Gy(グレイ,編集者注)にもなるような131Iが必要となることを考えると、後者(機能低下症)の障害が起こるとすればかなりの大事故である。
(編集者注) 1Gy(グレイ)=1Sv(シーベルト)に同じ。30Gy=30シーベルト。120Gy=120シーベルト。

安定ヨウ素剤の投与とその時期
 50~100mgの安定ヨウ素剤を適切な時期に投与した場合、摂取された放射性ヨウ素の甲状腺の取り込みがほぼ完全にブロックされることを示した論文は多く、微量であるが放射性ヨウ素をヒトに投与し、安定ヨウ素剤の効果を観た論文もある5)。

またヨウ素の量に関しても1回の服用量30mgで100mgと効果に差がないことも示されている。しかしながら、この機序には不明な点が多く、つまりこれまでの知見では、①放射性ヨウ素の安定型ヨウ素による希釈、②ヨウ素輸送系の飽和、③甲状腺への放射性ヨウ素取込みの阻害、④甲状腺ホルモンの遊離阻害、のように考えられている。
 安定ヨウ素剤の結果を、ヨウ素代謝モデルを使い試算した例がある6)。図3にこのモデルの概要を占示す7)8)。このモデルでは食餌で十分なヨウ素を摂取している場合(250μg/日)と不十分な摂取しかない場合(50μg/日)を仮定している。循環血液中の甲状腺ホルモン画分はタンパク質結合ヨウ素(PBI)として計算しており、尿中排泄のclearance exchange rateは0.08/時間、甲状腺ホルモン画分からは、0.0071/時間、甲状腺からの場合0.0005/時間としている。このモデルを使用し、100mgのヨウ化カリウム(KI)を飲む時期により131Iの甲状腺における活性を見たものである。131I摂取の何時間前にヨウ化カリウム(KI)を服用すると効果的であるかに関しては、24時間前に服用すると甲状腺における摂取が93%も阻害されるが、72時間前になると32%、96時間前では5%しか阻害できない(図4A)。

(編集者注)すなわち、原発事故のプルームがその人を襲う直前1日(24時間)以内がもっと効果があり、3日前に飲んだ場合では効果は3分の1になる。4日前に飲んだものはまったく役に立たない。つまり、安定ヨウ素剤の効き目は1~2日と考えるべき。連日、プルームの襲われている場合は1日置きに飲む必要がある。

131I摂取後にヨウ化カリウム(KI)を投与した場合、2時間では80%阻害できるが、8時間後になると40%、24時間では7%しか阻害できず(図4B)、放射性ヨウ素摂取24時間前もしくは直後にヨウ化カリウム(KI)を投与するのが良いことが示されている。このこと自体は過去の論文の結果と同じであるが、この論文ではこのモデルを用いて日常のヨウ素の摂取量より、放射性ヨウ素の摂取時におけるヨウ化カリウム(KI)の効果が異なることを示している(図5)。131I摂取後の甲状腺における蓄積は、安定ヨウ素を日常十分にとっている場合は30%であり、欠乏している場合60%に比べても半分である。また8時間後にヨウ化カリウム(KI)を投与した場合の防護効果も、十分な摂取では40%であるのに対して、欠乏している場合は17%と、安定ヨウ素剤の効果も低いとする結果が出ている。チェルノブイリで、甲状腺がんの罹患が高いのは、日常のヨウ素の摂取量不足が関係しているとの指摘もある。日本人は、外国に比べてヨウ素の摂取量が多いと言われているがそうだろうか。毎日海藻、特に昆布を食べるかだし汁を飲む、ヨウ素を多く含むと言われているイワシ、サバ、カツオを多く食べる日本人がどのくらいいるのかも含めて、今後さらなる研究が必要となろう。

 

 安定ヨウ素剤の過剰摂取

 安定ヨウ素剤の副作用と言うと、過敏症が思い浮かぶ。しかしながら意外と知られていないのが、甲状腺機能低下症であり、ヨウ素を過剰摂取すると、甲状腺腫が生じることが以前から知られている。母親が過剰にヨウ素摂取した場合の新生児の甲状腺腫9)、また古くは北海道の一部地域で昆布からの過剰なヨウ素を摂取したことにより生じた甲状腺腫では、1日に200mgものヨウ素を摂取したとの報告もある10)。

さらに健康な日本人10人に1週間ヨウ素制限食餌を与えた後、毎日27mgのヨウ素を4週間服用させたところ、FT4(遊離サイロキシン、甲状腺がつくるホルモン,編集者注)は投与開始1日後から減少し始め、投与14日後には統計的に有意に減少している11)。このうち2人は正常範囲以下にまで低下している。甲状腺刺激ホルモン(TSH)は、投与5日目から増加し、21日目後に投与に比し、2倍以上にもなり有意な増加が認められている。甲状腺の大きさは、超音波で測定しており、投与開始後28日後には有意な肥大が観察されている。このように、過剰なヨウ素摂取は甲状腺機能低下につながる。1日27mgで甲状腺腫や機能低下が現れるとすれば、76mg服用ではさらにその可能性が高くなる。新生児では、甲状腺は未熟であり、がんばかりでなく、安定ヨウ素剤の投与に関しても注意深い観察が必要である。
おわりに
 放射性物質による体内汚染に対する防護や治療で、安定ヨウ素剤ほど効果があるものはない。これは体内のヨウ素の80%が甲状腺に集まる、吸収が早い、などが理由である。放射性ヨウ素が体内に摂取されることが予想されるか摂取された場合、安定ヨウ素剤の正しい服用で、甲状腺被ばくを低減できる。昆布やわかめなどの海藻にもヨウ素は含まれているが、一定量のヨウ素を服用するためにどれくらい海藻が必要かは、すぐには分からない。また、同じ昆布でも種類によって含有量が異なり、また調理方法によって摂取量が変わってしまう。嗽(うがい)や消毒液には、内服に不適切な成分が含まれている。つまり必要な量のヨウ素を服用するためには、ヨウ化カリウム(KI)などの安定ヨウ素剤以外は使用しないことである。

          謝辞
 本稿を終えるにあたり、図表の作成などにご協力いただいた山本亜紀さんに感謝いたします。

                              明石真言・蜂谷みさを

 <編集>内部被ばくを考える市民研究会 川根 眞也 2015年7月8日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[初稿]2015年8月1日 内部被ばくを考える市民研究会 川根眞也