[初稿]2015年7月3日

[追記]2015年7月21日

 政府は2017年3月末までに、福島県原発20km圏内および高放射能汚染地帯の年間50ミリシーベルト以下の地域に、住民帰還をさせようとしています。そのため、2018年3月末で精神的賠償(1人月10万円)を打ち切る方針です。また、福島県も自主避難者への住宅支援事業を同じく2017年3月に打ち切る方針です。果たして、年間50ミリシーベルトまで健康に影響がないのでしょうか?

 年間50ミリシーベルトとは、原発労働者の1年間の被ばく線量の最高限度です。本来は5年間で最高限度100ミリシーベルト(1年あたり20ミリシーベルト)です。1年の中では50ミリシーベルトが最高限度となっています。この原発労働者と同じ線量(それも外部被ばくだけ)を一般住民に強制する日本政府と福島県、各自治体の決定は住民を緩慢に殺す政策だと思います。国際がん研究機関は、1ミリシーベルトを浴びるごとに、白血病が1000人→1003人に増えるというリスクがある、という報告を出しました。それも、政府やICRPが広島、長崎の被爆者の寿命調査の対象者12万人(対照者も含む)を超える30万人の欧米の原発労働者の疫学調査です。放医研の明石真言氏も「注目すべき貴重なデータ」「日本の原発作業員について被ばく限度の引き下げを検討する必要」と述べています。同様に、政府の50ミリシーベルトまで住民帰還の方針を撤回する必要があるのではないでしょうか。

                        記:川根眞也

白血病 低線量でもリスク増 国際がん研 作業員30万人調査

毎日新聞2015年7月2日夕刊8面

<記事全文>

【ワシントン共同】

 低線量の放射線を長期間にわたって浴びることで、白血病のリスクがごくわずかだが上昇するとの疫学調査結果を、国際がん研究機関(本部フランス)などのチームが英医学誌ランセット・ヘマトロジーに発表した。
 欧米の原子力施設で働く30万人以上の被ばく線量と健康状態のデータを分析した。低線量被ばくの健康影響を統計的に示した研究は少なく、東京電力福島第1原発などで働く作業員や、放射線機器を扱う医療従事者の健康管理に役立つ可能性がある。
 リスク上昇が非常に小さいため、国際放射線防護委員会(ICRP)の勧告に基づいて政府などが定める被ばく線量限度の再検討は必要なさそう。ただ一定の線量を超えないと健康影響は出ないとする考え方は見直しを迫られそうだ。
 チームは過去約60年間、フランスと英国、米国の原発や核燃料施設などで1年以上働いた約30万8300人の健康状態と被ばく線量の関係を統計的に分析した。
 結果は、被ばくがなくても白血病を発症する可能性を1とする「相対リスク」を考えた場合、1ミリシーベルトの被ばくごとに相対リスクが1000分の3程度上昇するという内容。100ミリシーベルト以下の低線量でもリスクはなくならないとした。
 作業員の年間被ばく線量は平均1.1ミリシーベルト、積算線量は平均15.9ミリシーベルトで、531人が白血病で死亡。リンパ腫なども調べたが、明確なリスク上昇は確認できなかった。
 ICRPは100ミリシーベルトを超すと発がんリスクが高まると指摘。それより低い線量では、健康影響を懸念する専門家と、心配ないとする専門家で意見が分かれている。
 今回の研究費は、米エネルギー省や日本の厚生労働省などが拠出した。

調査妥当か検証を 
放射線医学総合研究所の明石真言理事の話
 今回の調査結果は母集団が30万人以上という点で低線量被ばくの疫学調査としては最大の規模であり、注目すべき貴重なデータと言える。しかし調査方法の妥当性について検証する必要がある。妥当と判断されれば、日本の原発作業員について被ばく限度の引き下げを検討する必要が出てくるかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

低線量でもリスク増 白血病 国際がん研 作業員30万人 20150702 毎日夕刊001 コピー

 「100ミリシーベルトまで健康影響はない」と言ってきた人たち

広島・長崎原爆被爆者の健康影響が放射線影響研究所を中心に調査されており、放射線の長期的な影響も明らかにされています。原爆被爆者12万人(被爆していない人を含める)を対象とした調査から、200ミリシーベルト以上の大量の放射線を浴びると、被爆線量が高いほどがんになりやすいこと、そして被爆から2~10年後に白血病患者が増え、それ以後には白血病以外のがん患者が徐々に増えることがわかっています。しかし、およそ100ミリシーベルト未満の低線量被曝した場合には発がんリスクの上昇は明確には確認されていません

―放射線人体への影響 事故発生時から現在、そして今後の放射線の影響を正しく知る 原発事故による放射線の影響 不必要に怖がらず、必要な対策を 米原英典 独立行政法人 放射線医学総合研究所 放射線防護研究センター規制科学研究プログラムリーダー がんサポート 2011年9月

http://gansupport.jp/article/series/series02/3601.html

Q 人が放射線を浴びて被ばくした場合、100ミリシーベルトを健康に影響が出る目安にしているが、根拠は何か。

A 1950年代から続けている広島・長崎の被爆者の追跡調査から明らかだ。被ばくした人と、被ばくしていない人の集団を比較し、がんの発症者(白血病は死亡者)がどれぐらい増えたかを、受けた放射線量別に推定している。白血病以外では、100ミリシーベルト未満では1・8%だが、100~200ミリシーベルト未満で7・6%となり、線量が増えるほどリスクが増える。白血病でも同じことがいえる。

Q 調査結果を見ると、5~100ミリシーベルト未満でもわずかにリスクはあるのでは。

A 100ミリシーベルト未満の被ばくが要因で増えたとみられる白血病の死亡は3万387人中わずか4人。その他のがんは、被ばく後20年という長い潜伏期間があることを考えた方がいい。

―<発がんリスク>被爆者調査100ミリシーベルトが境 広島がんセミナー 理事長 田原 栄一氏 東京新聞WEB 放射線 識者はこう見る

http://www.tokyo-np.co.jp/feature/tohokujisin/archive/hoshasen/hoshasen9.html

 国際的にも100ミリシーベルト以下の被ばく量では、がんの増加は確認されていませんが、増加しないことを証明するのは困難です。ただし、この「困難」というのは福島にパンダがいないことを証明するのが困難(たぶんいないと思いますが、パンダをこっそり飼っている人の存在を完全に否定できない)であることと同じです。

ー 政府広報 放射線について正しい知識を 中川恵一氏 東京大学医学部附属病院 放射線科准教授 2014年8月17日

http://dwl.gov-online.go.jp/video/cao/dl/public_html/gov/pdf/paper/kijishita/ph624b.pdf

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[原論文]

Ionising radiation and risk of death from leukaemia and lymphoma in radiation-monitored workers (INWORKS):an international cohort study 

Klervi Leuraud, David B Richardson, Elisabeth Cardis, Robert D Daniels, Michael Gillies, Jacqueline A O’Hagan, Ghassan B Hamra, Richard Haylock,Dominique Laurier, Monika Moissonnier, Mary K Schubauer-Berigan, Isabelle Thierry-Chef, Ausrele Kesminiene

Lancet Haematol Vol 2 July 2015

[附属資料]

Ionising radiation and risk of death from leukaemia and lymphoma in radiation-monitored workers (INWORKS):an international cohort study Supplementary appendix

 この研究では、赤色骨髄の累積被ばく線量が0~5ミリシーベルトの原発労働者を「対照群」としています。ここに大きな誤りがあります。同様な作業に従事する放射線に被ばくしていない、工場労働者を「対照群」とすべきです。

 つまり、5ミリシーベルトまでは「健康にまったく影響がない」ことを前提としいます。それでも、白血病の増加が見られたのですから、もし、放射線に被ばくしていない、工場労働者を「対照群」としたら、もっと多くの白血病で死ぬ労働者が出た可能性があります。