国連科学委『福島でがんは増加しない』の非科学的結論

 

 原子放射線の影響に関する国連科学委員会(略称:国連科学委員会 UNSCEAR)は2014年4月2日、東京電力福島第一原発事故の健康への影響に関する最終報告書を公表しました。

 その中で、1歳児、10歳児、大人の甲状腺被ばく線量の推定を示しながら、「事故の影響による子供の白血病や将来的な乳がん、妊婦の流産や出生後の小児がんも明らかな増加は予想されないと」結論を出しました。

 これはチェルノブイリ原発事故に苦しむ、ウクライナ、ベラルーシ、ロシアの被害報告を無視する非科学的な報告書です。

 日本政府が2011年10月、東京第一原発事故によってまき散らされた放射性物質による食品の放射能汚染の健康影響を評価するために作成した「評価書 食品中に含まれる放射性物質 食品安全委員会 平成23年10月」の44ページには、ウクライナの小児および18歳未満の若年者が1986年から1994年に531人が甲状腺がんだと診断されたこと。そして、その20%の甲状腺放射線量が10~50mSv(原文では0.01~0.05Gy)だったと記載されています。(Tronko et al. 1996

 まさに、東京第一原発事故でも事故後1年間の甲状腺等価線量が

 原発20km圏内で

   1歳児  15   ~82ミリシーベルト

  10歳児   12   ~58ミリシーベルト

  大人      7.2~34ミリシーベルト

 計画的避難区域で

   1歳児  47   ~83ミリシーベルト

  10歳児   27   ~58ミリシーベルト

  大人       16   ~35ミリシーベルト

 それ以外の福島県で

   1歳児  33   ~52ミリシーベルト

  10歳児   15   ~31ミリシーベルト

  大人      7.8~17ミリシーベルト

であったと、国連科学委員会自身が評価しています。これはまさにウクライナの小児甲状腺がんの症例531人の20%の甲状腺被ばく線量10~50ミリシーベルトと同じです。そうでありながら、国連科学委員会が小児甲状腺がんは加しないと結論するのは、現地の被害報告を無視するものです。

 国連科学委員会は、チェルノブイリ原発事故で苦しむ、ウクライナ、ベラルーシ、ロシアの被害報告を無視した、この最終報告を即時撤回すべきです。

福島事故健康影響 がん増加予想せず 国連科学委最終報告

 

東京新聞 2014年4月3日(木)朝刊 2面

 【ウィーン=共同】国連放射線影響科学委員会(事務局ウィーン)は二日、東京電力福島第一原発事故の健康への影響に関する最終報告書を公表した。事故の放射線によるがん発症率への影響は小さく、福島県での明確ながんの増加は「予想していない」と結論付けた。

 一方、原発の周辺住民の甲状腺被ばく線量(等価線量)は、被ばくの影響を受けやすい一歳児が事故後一年間で最大約八〇ミリシーベルトと推定。同委員会のワイス福島第一原発事故評価議長は、「甲状腺がんになる危険性は低いが、今後継続的な検診が必要だ」と話した。

 報告書によると、原発北西側の二十キロ圏外で放射線量が高く、事故後に計画的避難区域に指定された地域では、一歳児の事故後一年間の甲状腺被ばく線量は四七~八三ミリシーベルトと推定。事故直後に避難した二十キロ圏内の一歳児は一五~八二ミリシーベルトとした。

 被ばくは主に、避難前や避難途中に空気中の放射性物質を吸い込んだり、飲食物を通じて体内に取り込まれたりしたことが原因と説明。二十キロ圏内では住民が早期に避難したため、一歳児で最大七五〇ミリシーベルトの被ばくを免れたと分析している。

 事故の影響による子供の白血病や将来的な乳がん、妊婦の流産や出生後の小児がんも明らかな増加は予想されないとしている。

 事故の収束作業に当たった東電などの作業員については、十三人の甲状腺被ばく線量を二~一二シーベルトと推定したが、現在まで健康への影響はみられないという。

評価書 食品中に含まれる放射性物質 食品安全委員会 2011年10月

評価書 食品中に含まれる放射性物質  食品安全委員会 2011年10月 pp.44より

 

IV.放射性ヨウ素 

8.ヒトへの影響 

(2)慢性影響

  ②チェルノブイリ原子力発電所事故

 ウクライナの小児及び18 歳未満の若年者において1986~1994 年に甲状腺がんと診断された症例531 例を対象に解析したところ、そのうち55%がチェルノブイリ原子力発電所の事故時に6 歳未満であった(Tronko et al. 1996)。小児及び19 歳未満の若年者における甲状腺がんの年間発生率は、1986 年以前の約0.05 人/100,000 人から1992 年の0.43/100,000 に上昇した。発生率(/100,000)は、チェルノブイリに最も近い地域で最も高く、Chernihiv で3.8、Zhytomyr で1.6 及びKiev で1 であった(Tronko et al. 1996)。解析した症例群における甲状腺放射線量は0.01~1.5 Gy (注:10~1500ミリシーベルト)と推定された。症例の約20%が被ばく線量0.01~0.05 Gy(注:10~50ミリシーベルト80%が0.1~0.3 Gy 未満(注:100~300ミリシーベルト未満)であった。

※ 注は川根がつけ加えました。