読売新聞が、福島県の除染は1ミリ・シーベルトを目標にするのを止めるべきだ、という主張を2013年3月3日の1面の記事、社説で展開しています。1ミリ・シーベルトを実現するのが無理だから住民を避難させよ、ではなく、除染基準を引き上げて安全、安全を信じ込ませて、福島県民を帰還させるキャンペーンを始めています。

以下、1面記事から

☆☆ 帰還阻む「1ミリ・シーベルト」 要約 ☆☆

 福島県知事「1ミリ・シーベルトを目指しているが、達成に苦慮している。達成できる数値を示してほしい」。2月17日の国との意見交換会で、除染で目指す放射線量の安全基準について国にこう求めた。
 国はそもそも、国際放射線防護委員会(ICRP)の基準に照らし、年間積算線量20ミリ・シーベルト未満なら帰還できるとしている。当時の民主党政権の細野環境相が繰り替し強調したことで、除染の事実上の目標値になった。←これは細野元環境相がツィッター上で否定。福島県側からの要望に応えただけ。読売新聞の取材も受けていない、と抗議。

 中川恵一 東大医学部付属病院放射線科 准教授「1ミリ・シーベルトは混乱期に打ち出された実現困難な数値目標で、努力目標ではあっても、健康被害の有無を示す基準ではない」。「放射線でがんになって死亡する確率は100ミリ・シーベルトに達すると、わずかに上昇するとされる。科学的な知見を踏まえれば、まずは大人で10ミリ・シーベルト、子どもは5ミリ・シーベルトを目指すべきだ」。
 住民帰還に向け目標数値を見直す時に来ている。

☆☆ 読売新聞 社説『被曝健康評価 不安を和らげる対策が重要だ』 ☆☆

 東京電力福島第一原子力発電所事故による被曝ばくで健康影響が出る恐れは極めて小さいだろう。
 この事故の健康リスクは低い、と評価した報告書を世界保健機関(WHO)が公表した。「一般住民のがん発生数が平時より増えることはないだろう」とも述べている。
 これまでの国内外の調査とも合致する評価結果と言えよう。被災者の不安軽減につなげたい。
 WHOは、福島県などの放射線測定データなどから住民の被曝線量を推計し、これに基づいて、健康リスクを算出した。
 留意すべきは、WHOが「過小評価にならないようにした」という点だ。例えば避難区域の住民が事故後4か月間、避難せずに汚染された物を食べ続けた、と実際はあり得ない条件を想定した。事実上、過大な評価となっている。
 政府などの調査では、ほとんどの住民の被曝線量は10ミリ・シーベルト以下と推計している。胸の精密放射線診断1回で浴びる程度の量だ。WHOの値はその約5倍になる。
 このため、健康リスクは一部地域で平時より高く表れている。
 避難区域に含まれる福島県浪江町では、1歳女児が16歳までに甲状腺がんを発症する確率が、平時の0・0040%から、約9倍の0・0365%になった。
 それでも、対象年齢の女児が100人とすると、事故後の患者数は1人に満たない計算である。
 一般に日本人の2人に1人はがんになる。最大の原因は喫煙や食生活だ。被曝の影響はデータとしては検出できないほど小さい。
 政府は「リスクが高くなる」という評価が独り歩きせぬよう情報提供に努めるべきだ。加えてWHOが、住民の不安を重視して「精神的、社会的な配慮が必要」と強調したことにも対応すべきだ。
 特に、被曝した可能性がある人たちの健康調査は重要だろう。
 福島県などが取り組んでいる住民の健康調査は、思うように進んでいない。前提となる個人の被曝線量は、対象となる住民の約2割しか把握できていない。
 原子力規制委員会は近く、政府の支援を強化して、健康調査を加速するよう求める方針だ。支援の体制作りを急がねばならない。
 不安軽減には、除染目標値の年間「1ミリ・シーベルト以下」の見直しも必要だ。危険と安全の境界が「1ミリ・シーベルト」と受け止められている。
 福島県も避難住民の帰還の障害になっているとして、政府に新たな目標設定を求めている。政府は早急に検討を始めるべきだ。