以下はさいたま市のホームページ上に掲載されている、さいたま市危機管理アドバイザー 菊地透氏の『福島原発事故からの放射線・放射能の状況と放射線影響に関しての考察』です。原文には一切手を加えていません。

 日本の放射線の専門家で良心のある方はいないのでしょうか?このような人物にアドバイスを求める自治体の首長の見識が問われていると思います。

 彼の解説の後に、川根のコメントを載せています。

*** 引用 さいたま市のホームページより ***

【福島原発事故からの放射線・放射能の状況と放射線影響に関しての考察】
自治医科大学RIセンター管理主任 菊地 透
(医療放射線防護連絡協議会総務理事)

1.自然環境中の放射線・放射能について

 放射線・放射能は、人間の五感に感じませんが自然環境中に存在しています。世界の人々はこれらの放射線源から年間1000~10,000μSv(マイクロシーベルト)の放射線を受けており、世界の平均は年間2400μSvとなっています。また、体の中には約7000ベクレル(体重60kg)の放射能を有しており、絶えず食品中の天然放射性物質を体内に摂取し続けています。

2.放射線の健康影響について

 放射線の人体への影響は、細胞中のDNA等に損傷を与えますが、多くの場合はDNA修復により損傷は回復されます。しかし、大量の放射線を一度に受けると損傷が回復しきれないため、細胞死や遺伝子突然変異や染色体異常が蓄積されて、がん化が誘発されます。

 なお、これまで人体への健康影響に関しては、広島・長崎の原爆被爆者に対する長期間の健康調査では、100,000μSv以下の被曝グループからは、がんや遺伝的影響、胎児影響などの放射線影響が有意に増加することは確認されておりません。

また、今回の放射線被曝は、自然環境中の放射線源と同様に、ごく少量の放射線を長期間受けることになりますが、健康への影響は心配ありません。

3.さいたま市内の放射線・放射能の状況について

 福島原発事故の放射性物質は風に運ばれ、さいたま市内には3月15日、この風が通過する際に一時的に1時間当たり1μSvを超えましたが、短時間で減少しております。その後、3月22日の雨で大気中の放射性物質が、市内の地表面、建物、草木等に降下付着し、数日間は1時間当たり0.1μSvを超えましたが、6月になってからは 0.05μSv程度と通常の自然環境中(通常の範囲:1時間当たり0.03~0.05μSv)の放射線・放射能レベルに戻っています。

4.校庭の放射線量率について

 幼稚園や校庭にも3.で前述したとおり、放射性降下物が土表面に付着しております。福島県では、年間20,000μSv以下を基準に、校庭の放射線量率が1時間当たり3.8μSvを超える場合は、校庭利用を1時間以内に制限しました。その後、放射線量率が1時間当たり1μSv を超える場合は校庭の浄化を提示しましたが、これは子供の放射線影響が大人の2倍程度高いため、子供への特別な配慮をしたものです。

 なお、2.で記述したとおり、広島・長崎の原爆被爆者に対する長期間の健康調査においても、100,000μSv 以下の被曝グループにいた子供たちから、がん増加など有害な影響は確認されておりません。

5. 日常生活について

 さいたま市内の校庭を含めた地域環境は、現状では1時間当たり 1μSv を超える場所はありません。また、現在は0.05μSv 前後と通常の自然環境レベルに戻っていることから、日常生活にはまったく支障がなく、子供たちの学校生活も従来どおりさせていただいても大丈夫であると認識しています。

【参考】
Sv(シーベルト):人体が放射線を受けたときに、その影響の度合いを表す目安の放射線量の単位

単位:1ミリシーベルト(mSv) = 1,000マイクロシーベルト(μSv)

*** 引用おわり ***

【コメント】

 昨年4月に、内閣参与の原子力の専門家、小佐古敏荘氏が辞任したことはまだ記憶に新しい。彼は子どもに年間被ばく20ミリシーベルトなんて、僕は認めることができない、と言いました。(※1)

 菊地透氏はこの文章でもあるように、福島県において外部被ばく 年間20ミリシーベルトに相当する、空間線量 3.8マイクロシーベルト/時での校庭での活動をよしとした文科省の基準をさも安全値であるかのように語っています。彼には良心がないのでしょう。

 さいたま市には1.0マイクロシーベルト/時を越えるところがないから、安全と言っています。1.0マイクロシーベルト/時は通常ありえないレベルであることを彼は語りません。よく「これくらいの放射線は安全です」学派が、インドのケララ州、ブラジルのガリパリを持ちだします。しかし、原子力村の一員でもある、高度情報科学技術研究機構が書いている、ATOMICA原子力百科事典でインドのケララ州の欄をみると、以下のように記載されています。(※2)

「20mSv/年以上被曝しているグループでは、そのグループの人数が少ないので確実ではないが、それ以下の線量のグループと比べて、妊性は1番低く、幼児死亡率は最も高くなっている傾向がある。」

 つまり、年間20ミリシーベルト以上被ばくすると、女性は妊娠が困難になり、幼児死亡率も高いことを原子力村の人間も認めているのです。

 これを菊地透氏は語っていません。

 また、2のところで、彼は「放射線の人体への影響は、細胞中のDNA等に損傷を与えますが、多くの場合はDNA修復により損傷は回復されます。しかし、大量の放射線を一度に受けると損傷が回復しきれないため、細胞死や遺伝子突然変異や染色体異常が蓄積されて、がん化が誘発されます。」と語っています。これが100ミリシーベルトまでは安全です、という議論につながっています。

 しかし、多くの研究が示すように、低レベル放射線が人体に影響を与えることは確実です。それは主に内部被ばくによります。外部被ばくを考えると、例えば、年間被ばく1ミリシーベルトでも人体にさまざまな影響があります。国際放射線防護委員会(ICRP)ですら、年間被ばく1ミリシーベルトでガン死が1万人に1人増えることを認めています。それを菊地透氏は語りません。

 ちなみに、アメリカの故J・W・ゴフマン氏は年間被ばく1ミリシーベルトで、1万人にがん死が4人増えると言っています。つまり、2500人に1人です。

 上記の菊地透氏の文章で、放射線の子どもへの影響は2倍と書かれています。J・W・ゴフマン氏は少なくとも3~4倍と著書で書かれています。海外の研究家では子どもの放射線の影響は10倍という方もいます。

 もし、子どもの放射線の影響が10倍だとしたら、年間被ばく1ミリシーベルトで1万人に10人の子どものがん死が増えることになります。すなわち、1000人に1人です。これを菊地透氏は無視できる、と考えるでしょうか。

 菊地透氏は5で「現在は(1時間あたり)0.05μSv 前後と通常の自然環境レベルに戻っていることから、日常生活にはまったく支障がなく」と書いています。

 おかしいです。埼玉県の1990年から1998年の自然放射線の平均値は彼も部分的に紹介しているように(1時間あたり0.03~0.05μSvの0.03のところ)、0.035マイクロシーベルト/時です。よほどのことがないと、0.05までいきません。それを通常の数値とすることにごまかしがあります。

 事実、東京第一原発が爆発したが、また放射性プルーム(放射性物質いっぱいの風のこと)が埼玉県に到着する前の3月12日の空間線量は0.033~0.034マイクロシーベルト/時です。現在は0.050が普通ですからこれは約2倍になっているということです。これを菊地透氏は語りません。(※3)

 5の最後で、菊地透氏は「広島・長崎の原爆被爆者に対する長期間の健康調査においても、100,000μSv 以下の被曝グループにいた子供たちから、がん増加など有害な影響は確認されておりません。」と書いています。

 これもうそです。広島、長崎で産まれた畸形児や流産した胎児はアメリカで1200体保管されています。アメリカは知っています。

 年間100ミリシーベルトではなく、非常に低い放射線量を浴びた2次被爆者が原爆症を発症しています。広島、長崎の黒い雨の降った地域で生活し、または、外から入ってきて、そこの野菜を食べた人の中に、こうした畸形児を産んだり、流産したりした方がいるのです。(※4)

 放射線には遺伝的影響があります。これを菊地透氏は認めません。遺伝的影響がないのに、どうして放射線でガンが起きると言うのでしょうか。100ミリシーベルト以上でないと健康に影響はないとどうして言いきるのでしょうか。学問的良心のかけらもなく、ただただ政治的な発言をする、彼のような人物をさいたま市の危機管理アドバイザーとするべきではありません。

 ※1 小佐古敏荘氏は広島、長崎の原爆症集団認定訴訟の際に、国側の弁護人として外部被ばくを強調し、内部被ばくを過小評価した人物。この裁判ではことごとく、国側が敗北している。国も内部被ばくの影響を認めざるを得なかった。

 小佐古敏荘氏の辞任時の会見資料から

「小佐古氏はまた、学校の放射線基準を、年間1ミリシーベルトとするよう主張したのに採用されなかったことを明かし、『年間20ミリシーベルト近い被ばくをする人は放射線業務従事者でも極めて少ない。この数値を小学生らに求めることは、私のヒューマニズムからしても受け入れがたい』と語った」

「年間20 mSv近い被ばくをする人は、約8万4千人の原子力発電所の放射線業務従事者でも、極めて少ないのです。この数値を乳児、幼児、小学生に求めることは、学問上の見地からのみならず、私のヒューマニズムからしても受け入れがたいものです.年間10mSvの数値も、ウラン鉱山の残土処分場の中の覆土上でも中々見ることのできない数値で(せいぜい年間数mSvです) 、この数値の使用は慎重であるべきであります。」

※2 原子力百科事典 ATOMICA

http://www.rist.or.jp/index.html

 

※3 埼玉県 さいたま市の空間放射線量測定結果

埼玉県の空間放射線量はいくつだったか?

※4 広島・長崎被爆者の赤ちゃん資料 1200人分 アメリカ研究利用 20120422