札幌市長、震災がれき受け入れ拒否「安全の保証ない」

朝日新聞 2012年4月5日 朝刊

 東日本大震災で発生したがれきの受け入れについて、札幌市の上田文雄市長は4日、国の示した基準では「受け入れられない」とする文書を細野豪志環境相あてに発送した。環境省が6日を回答期限に、都道府県や政令指定都市に受け入れに関する報告を求めていたが、上田市長は「安全の保証が得られる状況にない」としている。

 上田市長は市のホームページで「現在は焼却後1キロあたり8千ベクレル以下なら埋め立て可能な基準」とする国の基準や説明について、「『この数値は果たして、安全性の確証が得られるのか』というのが、多くの市民が抱く素朴な疑問」と主張。他の自治体によるがれきの受け入れ開始については、その基準に対し「本当に安全なのか、科学的根拠を示すことができてはいないようです」と指摘している。

 これまで上田市長は「放射性物質が付着しないがれきは当然受け入れる」との考えを示し、回答書では「安全に処理することが可能な災害廃棄物は、受け入れの用意がある」とするなど、受け入れるがれきに確実な安全性を求めている。昨年4月1日から今月4日まで市に寄せられた意見は、がれき受け入れ反対が1148件、賛成435件、その他34件だった。

*** 引用 中村和雄 ブログ  2012年4月7日***

 札幌市の上田文雄市長は、被災地のがれき受入について、国の基準では受け入れられないと拒否を明確にしました。朝日新聞が、受入拒否の理由について上田市長にインタビューしています。そのまま引用してご紹介します。

  ――「受け入れられない」と回答した一番の理由は

 普通のがれきと放射性物質は違うということ。がれきは時間で解決できるが、放射性物質は時間で解決できない。内部被曝(ひばく)の問題もある。いま国が示している基準は外部被曝についてだ。内部被曝については世界的に確立した理論がないのが現状だと思う。

 しかし、管理をしている間に、必ずそこが問題になる。広域でバラバラな管理基準になることが十分予想される。長い時間管理する中で土壌汚染が生じれば、経口摂取の危険性もある。

 ――時間で解決できない、とは
 福島第一原発事故のときに政府が盛んに言っていた「直ちに影響はない」というのは、言い換えれば「将来は分からない」ということ。5年10年の間に被害が現実のものとなったら大変なことになる。

 ――国が示す基準に疑問を投げかけているが
 どこを見ても、放射線と人間の関係についての深みのある情報が提供されていない。いま示されている数値で本当にクリアできるのか、埋めてしまえばいいという問題なのか、政府からは説明がないように思う。誰も確証を持っていないのに、地方を分断するような判断を迫るのはよくない政策ではないかと思う。

 ――どのくらいの数値ならいいと考えているか
 「何ベクレルならいいのか」というのは非常に難しい質問だ。「これなら大丈夫だ」ということは言えない。ただ、「今より環境を悪くしたくない」という思いだ。札幌市内の清掃工場の焼却灰からは1キロあたり13~18ベクレルの放射性物質が検出されている。僕が「(がれきを)受け入れない」と言えば、プラスアルファは防げる。
 危険性の高い環境をつくるのはリーダーのやるべきことではない。最低限言えるのは、被災地から場所を移さずに完全な管理下に置ける処分場をつくり、全国民の税金を使って押さえ込むということを徹底してやるべき、ということだ。

 ――受け入れに前向きな自治体もある中、「苦しい選択をした」とも述べている。「地域エゴ」と受け止められないように、どのように理解を求めていくのか
 それぞれの自治体の首長は、それぞれの状況に応じた市民の安全を考えておられると思う。「困っている人がいたら助けるのは当たり前ではないか」という大合唱の中で、ソロで頑張るのはなかなか厳しいものがある。だが、受け入れに手を挙げているところも、同じことを言っているのではないか。札幌だけが際立ったことを言っているわけではない。今だけ我慢してできる問題と、放射性物質を管理しなければならないという時間の長さの問題がある。そこが完全に欠落した議論になっている。
 最悪の事態は何かということをきちんと明らかにして選択させることが重要なのではないか。「安全だ、安全だ」では、原発事故の時と同じだ。放射性物質の扱いについても、「最悪の場合はこうだけれども、やってくれるか」ということでの選択でなければならないと思う。
(聞き手・芳垣文子、石間敦)

*** 引用 終わり ***

札幌市長、がれき拒否「発言で風評被害」に反論

読売新聞 2012年4月14日 朝刊
 
記者会見で、改めてがれきの受け入れ拒否を表明する上田・札幌市長

 東日本大震災で発生したがれきの処理を巡り、札幌市の上田文雄市長は12日の定例記者会見で、改めて受け入れ拒否を表明した。

 がれきの安全性を否定する自らの発言の影響については、「事実に基づいて言っている。風評被害を起こすとは思わない」との認識を示した。

 上田市長はこれまで同様、国が安全だとする放射性物質の基準やがれきの処理方法を疑問視した上で、「(原子力発電所事故による)放射性物質が付着したがれきは、どんなレベルでも国の責任で管理すべきだ」と主張。「放射性物質は30年、100年先まで管理しなければならず、地方自治体に押しつけるのは無理がある」と語った。

 こうした発言が被災地への風評被害を招いたり、被災者の心情を傷つけたりする可能性を指摘する質問に、「そうなるとは思わない。批判はいくらでも受けるが、事実に基づいており、全く根拠がないことを言っているのではない」と述べた。安全性を否定する理由は「内部被曝ひばくの問題がある」とした。

 政府からの受け入れ要請に対し、道は「積極的に協力する」と回答している。上田市長は会見で「意見が違うと受け止めている」とコメント。高橋はるみ知事が札幌市の対応を「残念だが、市長の信念」と発言したことの感想を問われると、「私の個人的な見解や生き方と受け止めているのなら心外に思う。あまり詳しく言うと、それ自体が風評被害だと言われるので申し上げない」と述べた。

*** 東日本大震災により発生したがれきの受入れについて 札幌市長 上田文雄 2012年3月23日 (全文)***

東日本大震災により発生したがれきの受入れについて

東日本大震災から一年が過ぎました。地震と津波による死者・行方不明者が18,997人という未曽有の大災害は、福島第一原子力発電所の大事故とともに、今なお人々の心と生活に大きな影を落としています。改めて被災者の皆さま方に心からお見舞い申し上げ、亡くなられた方々のご冥福をお祈りいたします。

震災から一年後となる、今年の3月11日前後、テレビの画面に繰り返し映し出されたのは、膨大ながれきの山と、その前に呆然と立ちすくむ被災者の姿でした。これを視聴した多くの人々の心には、「何とか自分達の町でもこのがれき処理を引き受けて早期処理に協力できないか」という、同胞としての優しい思いと共感が生まれたものと思います。

政府は、岩手県・宮城県の震災がれき約2,045万トンのうち、20%に相当する約401万トンを被災地以外の広域で処理するという方針を出し、今、その受入れの是非に関する各自治体の判断が、連日のように新聞紙上等をにぎわせています。
私は、これまで、「放射性物質が付着しないがれきについては、当然のことながら受け入れに協力をする。しかし、放射性物質で汚染され安全性を確認できないがれきについては、受入れはできない。」と、市長としての考えを述べさせていただきました。

『放射性廃棄物は、基本的には拡散させない』ことが原則というべきで、不幸にして汚染された場合には、なるべくその近くに抑え込み、国の責任において、市民の生活環境に放射性物質が漏れ出ないよう、集中的かつ長期間の管理を継続することが必要であると私は考えています。非常時であっても、国民の健康と生活環境そして日本の未来を守り、国内外からの信頼を得るためには、その基本を守ることが重要だと思います。
国は、震災がれきの80%を被災地内で処理し、残りの20%のがれきを広域で処理することとし、今後2年間での処理完了を目指しています。
これに対し、「現地に仮設処理施設を設置し精力的に焼却処理することで、全量がれき処理が可能であり、また輸送コストもかからず、被災地における雇用確保のためにも良い」という意見も、被災県から述べられ始めています。
また放射性物質についてですが、震災以前は「放射性セシウム濃度が、廃棄物1kgあたり100ベクレル以下であれば放射性物質として扱わなくてもよいレベル」だとされてきました。しかし現在では、「焼却後8,000ベクレル/kg以下であれば埋立て可能な基準」だとされています。「この数値は果たして、安全性の確証が得られるのか」というのが、多くの市民が抱く素朴な疑問です。全国、幾つかの自治体で、独自基準を設けて引き受ける事例が報道され始めていますが、その独自基準についても本当に安全なのか、科学的根拠を示すことはできてはいないようです。
低レベルの放射線被ばくによる健康被害は、人体の外部から放射線を浴びる場合だけではなく、長期間にわたり放射性物質を管理する経過の中で、人体の内部に取り入れられる可能性のある内部被ばくをも想定しなければならないといわれています。
チェルノブイリで放射線障害を受けた子ども達の治療活動にあたった日本人医師(長野県松本市長など)をはじめ、多くの学者がこの内部被ばくの深刻さを語っています。放射性物質は核種によっても違いますが、概ね人間の寿命より、はるかに長い時間放射能を持ち続けるという性質があります。そして誰にも「確定的に絶対安全だとは言えない」というのが現状だと思います。

札幌市の各清掃工場では、一般ごみ焼却後の灰からの放射性物質の濃度は、不検出あるいは1キログラム当たり13~18ベクレルという極めて低い数値しか出ておりません。私たちの住む北海道は日本有数の食糧庫であり、これから先も日本中に安全でおいしい食糧を供給し続けていかなくてはなりません。そしてそれが私たち道民にできる最大の貢献であり支援でもあると考えます。
私も昨年4月、被災地を視察してきました。目の前には灰色の荒涼たる街並みがどこまでも続き、その爪痕は、あまりにも悲しく、そしてあまりにも辛い光景で、今も私のまぶたに焼き付いています。
また私は、若い時に福島に1年半ほど生活していたことがあり、友人も沢山います。福島は、桃やリンゴなどの優れた農作物で知られており、それらを丹精こめて生産されている人々が、愛着のある家や畑から離れなければならない、その不条理と無念さに、私は今も胸を締めつけられるような思いでいます。
札幌市はこれまで、心やさしい市民の皆様方とともに、さまざまな支援を行ってまいりました。今なお札幌では、1,400人を超える被災者を受け入れており、あるいは一定期間子どもたちを招いて放射線から守る活動などにも積極的に取り組んできたところです。そのほか、山元町への長期派遣をはじめとした、延べ1,077人に及ぶ被災地への職員派遣、等々。今までも、そしてこれからも、札幌にできる最大限の支援を継続していく決意に変わりはありません。
またこのところ、震災がれきの受け入れについて、電話やファクス、電子メールなどで札幌市民はもとより、道内外の多くの方々から、賛同・批判それぞれの声をお寄せいただき、厳しい批判も多数拝見しています。ご意見をお寄せいただいた方々に感謝を申し上げます。これらのご意見を踏まえ、何度も自問自答を繰り返しながら、私は、「市長として判断する際に、最も大事にすべきこと、それは市民の健康と安全な生活の場を保全することだ」という、いわば「原点」にたどり着きました。
私自身が不安を払拭できないでいるこの問題について、市民に受入れをお願いすることはできません。
市民にとって「絶対に安全」であることが担保されるまで、引き続き慎重に検討していきたいと思っています。

2012年3月23日 札幌市長 上田文雄

  http://www.radiationexposuresociety.com/archives/1452