[解説]

 大阪維新の会、松井一郎市長が、トリチウムを含む福島第一原発の汚染水について、「自然界レベルの基準を下回っているのであれば海洋放出すべきだ」と大阪湾での放出を容認する発言をしました。2019年9月17日。

 まず、「自然界レベルの基準」など存在しません。松井一郎氏は原子力規制委員会にも問い合わせて、「自然界レベルの基準」などないことをただちに確認すべきです。また「科学が風評に負けてはだめだ」と述べ、「環境被害が生じないという国の確認を条件に」と言いますが、日本で語られる放射能問題での科学の多くはアメリカの核兵器の被害を隠すために、アメリカ主導で政治的に作られたものです。特に国連科学委員会(UNSCEAR)がその端的な象徴です。1945年8月6日に広島、8月9日に長崎に原爆を投下したアメリカは、核戦争を実戦的に闘い抜くために、米軍の調査団を広島、長崎に派遣しました、米海軍シールズ・ウォレン大佐が、人体被害効果(影響)調査の班長を務めましたが、その後の米軍の調査団の報告は徹底的に、広島、長崎の被爆者の遺伝的影響はなかった、とした報告書を出しました。一方で、広島、長崎で生まれた赤ちゃんの死体のホルマリン漬けを1200人分もアメリカに持ってかえって、軍に保管していることが明らかになっています。まさに、被爆者の遺伝的影響の資料として。

 1956年に国連科学委員会(UNSCEAR)が作られますが、これはアメリカ主導で作られたものです。「科学」の名前を冠していながら、その委員は、科学界の各分野から選ばれたのではなく、国家の代表でした。また、アメリカ代表団の代表がこのシールズ・ウォレン海軍大佐でした。その頃、アメリカはビキニ環礁からアメリカ国内ネバダ州にも移動して核実験を行っており、国民の放射能被ばくに対する懸念に答える必要がありました。「これくらいの放射線では健康被害はでない」という報告をまとめるために、「科学」の冠した国連の委員会、国連科学委員会(UNSCEAR)が作られたのです。アメリカ代表団には、遺伝学者は排除されました。

 松井一郎市長が語る、科学とは国連科学委員会(UNSCEAR)の科学です。私たちを放射能による健康被害から守る科学ではありません。

<参考>

『広島・長崎被爆者の赤ちゃん資料 1200人分 アメリカ研究利用 20120422』

内部被ばくを考える市民研究会資料 2012年4月23日

 

松井大阪市長、福島原発処理水 大阪湾放出に応じる構え 

2019年9月17日 産経新聞
福島原発処理水の大阪湾への放出に応じる構えの大阪市の松井市長
 

 日本維新の会の松井一郎代表(大阪市長)は17日、東京電力福島第1原子力発電所で増え続ける有害放射性物質除去後の処理水に関し、「科学が風評に負けてはだめだ」と述べ、環境被害が生じないという国の確認を条件に、大阪湾での海洋放出に応じる考えを示した。大阪府と市は、東日本大震災の復興支援として、岩手県のがれき処理にも協力している。

 松井氏は大阪市内で記者団に「自然界レベルの基準を下回っているのであれば海洋放出すべきだ。政府、環境相が丁寧に説明し、決断すべきだ」と述べた。

 海洋放出をめぐっては、原田義昭前環境相が「海洋放出しかない」と述べた直後、小泉進次郎環境相が11日の就任会見で“所管外”と前置きした上で「努力してきた方々の苦労をさらに大きくしてしまうことがあったとしたならば、大変申し訳ない」と語っている。

 維新の橋下徹元代表はその後、ツイッターで海洋放出について「大阪湾だと兵庫や和歌山からクレームが来るというなら、(大阪の)道頓堀や中之島へ」と発信。小泉氏には「これまでのようにポエムを語るだけでは大臣の仕事は務まらない。吉村洋文大阪府知事と小泉氏のタッグで解決策を捻り出して欲しい」と注文をつけた。

 吉村氏もツイッターに「誰かがやらないとこの問題は解決しない。国の小泉氏が腹をくくれば、腹をくくる地方の政治家もでてくるだろう」と記し、国と地方が連携し、被災地の負担を軽減していく必要性を訴えた。