[解説]

 福島民友新聞社が、毎週日曜日に「坪倉先生の放射線教室」を連載しています。毎回、100ミリシーベルトの被ばくより、喫煙や大酒のみのほうごガンリスクが高く、放射線被ばくより生活習慣病にならないように気を付けることが、大切だ、などのとんでも放射線防護論を吹聴しています。

 今回は何と「妊婦さんは妊娠していない大人に比べて、セシウムが身体の中に入ったとしても、より早く外に出すことができます」と。食べ物や呼吸とともに摂取した、放射性セシウムは妊婦さんの胎内の各臓器に蓄積します。胎盤を通じて胎児にも蓄積します。例え、一般成人よりも妊婦の方が、放射性セシウムを排泄するスピードが早い、と言っても、毎日1ベクレル食べているだけで、だんだん体内に蓄積していきます。成人のモデル(健康な白人男性、体重70kg)でも、毎日1ベクレルのセシウム137を食べ続けていくと、700日後には体内に140ベクレル蓄積します。これは、国際放射線防護委員会(ICRP)がPub111に報告しています。

 これは、チェルノブイリ周辺住民の内部被ばくデータに基づくものです。チェルノブイリ原発事故後に多くの調査団、支援団体が入っていますが、その多くが放射能で汚染された地域住民に与えたアドバイスは、放射能で汚染された食べ物を出来るだけ食べず、放射能で汚染されていない食べ物を食べるように、ではありませんでした。政府が決めた基準値以下の放射能汚染された食べ物を食べることや、高濃度に放射能汚染されたキノコやベリー、川魚を食べるときは、何度も煮こぼしたり、酢漬けにしたりする、というアドバイスでした。果たして、チェルノブイリ周辺住民の健康状態は改善したのでしょうか?改善しませんでした。チェルノブイリ周辺住民の食べ物の汚染度は、100ベクレル/kgを超える放射性セシウムだったのでしょうか?いいえ、ウクライナの高放射能汚染地帯ナロジチ市でさえ、野菜や穀物はセシウム137だけで10~20ベクレル/kgです。キノコは数千~数万ベクレル/kg。(食品と暮らしの安全 小若順一氏ら調査)2017年7月ウクライナ、ナロジチ市中央病院院長マリア・パシェック氏によれば5~10ベクレル/kgの食品を食べている住民は、みな、健康を害しています。子どもたちは、全員病気です。あるクラス20人中2人は先天的奇形でした。40代半ばで多臓器がんにかかる男性、女性が長い間妊娠できず、やっと妊娠でき産んだ子どもを幼くして白血病で亡くしていました。繰り返しますが、これは100ベクレル/kgを超える放射性汚染食品を食べた結果ではなく、5~10ベクレル/kgほどの食品を食べた結果です。

 上のグラフは、国際放射線防護委員会(ICRP)が作成した、1回だけセシウム137を1000ベクレル食べた後、安全な空気、水、食べ物を食べた場合の体内に放射性セシウムがどのくらいの時間が経過したら、体内の放射性セシウムが0ベクレルになるのか、と研究したものであると同時に、チェルノブイリ周辺住民がどのくらい放射性セシウムを食べていて、それがどれくらい体内に蓄積していくか、というグラフです。

 毎日放射性セシウムを1日1ベクレル食べていくと、約700日後には、体内放射性セシウム濃度は、140ベクレルほどになる。

 そして、ウクライナ、ナロジチ市の住民のように、毎日10~20ベクレル食べていくと、約700日後には、体内の放射性セシウム濃度は1400ベクレルを超える。おとなは1日だいたい2kg食べますから、毎日10~20ベクレル食べる、すなわち、5~10ベクレル/kgの食品を食べる、ということ。これはナロジチ市の食品の放射能汚染濃度とほぼ同じです。

 これはチェルノブイリに支援に入った様々な団体の実測値に基づくものであり、いわば、人間をモルモット扱いにして得られたデータです。放射能汚染地帯住民に「放射性で汚染された食べ物は食べないように」とは言わず、「基準値以下の放射能汚染食品は安全ですよ」と言い続け、住民に放射能汚染食品を食べさせ続けさせた研究です。国際放射線防護委員会(ICRP)に言わせれば、これでも内部被ばく年間1ミリシーベルトにも行かない、と言います。しかし、実際のウクライナ、ナロジチ市住民は、子どもはみな病気、先天的奇形も産まれる、40代で多臓器がんで亡くなる。女性も妊娠できなくなる、子どもも幼くして白血病で亡くなる、状況です。

 ウクライナ、ナロジチ市の食品の放射能汚染の状況ら、福島県南相馬市の食品の汚染状況とそっくりです。今のウクライナ、ナロジチ市の姿は、未来の南相馬市を写している、と言えます。

 坪倉正治先生の言うことを信じていると、過酷な未来を迎えることになるでしょう。

 自分も、子どもたちも、健康を維持する道。それは、できうる限り、放射能で汚染された食べ物を食べないこと、早めの保養に行くことです。セシウム137で数ベクレル/kgの放射能汚染の食品を食べ続けながら、健康を維持することは決してできません。

 

坪倉先生の放射線教室

妊婦の検査体制を整える

2019年07月28日 福島民友

 

 

 

 原発事故後、放射線被ばくを抑えるためにさまざまな検査や対策が行われてきました。そしてその結果は報告書や論文にまとめられています。ここではその中のいくつかを紹介したいと思います。

 南相馬市立総合病院では、2012年から通常の内部被ばく検査に加え、希望される市内の妊婦さんに対し、検査ができる体制を整えてきました。妊娠中には被ばくがより心配になるのは当然です。この検査は南相馬市の医師会長だった故・高橋亨平先生の声掛けで始まりました。

 これまでの数年間に市内の約600人弱の妊婦さんを繰り返し計測し、誰からもセシウムを検出したことがありません。その一方で、いわゆる福島県産を避けるという状況は年々減ってきてはいるものの、依然として存在していました。

 妊婦さんは妊娠していない大人に比べて、セシウムが身体の中に入ったとしても、より早く外に出すことができます。通常の大人でももうほぼ検出しないような状況の現在、妊婦さんの誰からも検出はしなかったことは特に驚くような結果ではありません。

 この結果は、今回の原発事故後セシウムによる内部被ばくが妊婦さんおよび生まれてくるお子さんの健康に影響を与えることはないことを示しています。