[解説]

 故石井紘基衆議院議員は、以下のように著書『日本が自滅する日』(PHP,2002年)で述べています。

「今日わが国が直面している事態を見れば、大問題は既存の体制それ自体にあることがわかる。既存の体制とは、権力による経済浸蝕の構造、すなわち官僚経済体制である。市場を市場でなくしてしまった官僚経済体制にこそ日本経済低迷の原因があり、そこにこそ日本再生のための問題を解く鍵がある。」(pp.27)「二重三重の補助金をバラ撒く-農業経営基盤強化措置特別会計 農業構造改善事業のためには特別会計が利用されている。その一つが農業経営基盤強化措置特別会計だ。これはもともと戦後の農地解放時に設けられたもので、農地解放によって多くの農家が小作人から脱皮し農地の所有者になったため、その経営基盤を強化するのが目的であった。だから、その役割はとっくに消滅しているはずなのだが、その後は資金貸し付けなどの事業を増やし権益の拡大を行っている。」(pp.67)「要するに、訳のわからない仕組みを作って、訳のわからないことをやっているのだ。それが利権と政党・政治家の集票・集金に結びついていくのである。」(pp.69)「構造改革のための25のプログラム プログラム1 既得権益と闘う国民政権をつくり プログラム2 すべての特殊法人廃止を急ぐ1.経済活動に属する事業・組織はすべて廃止する。2.特殊法人の民営化(株式会社化)は原則として行うべきではない。(pp.237~241)

以上、石井紘基『日本が自滅する日』PHP,2002年

  残念ながら、石井紘基衆議院議員は、以上の日本の官僚経済を改革するプランを国会で質問する、3日前に、テロリストによって刺殺されました。2002年10月25日。

 今まさに、石井紘基氏が恐れていた、日本が自滅する日が近づいているのではないでしょうか?クールジャパン機構累積赤字98億円に次ぐ、累積赤字92億円を農水ファンド「農業漁業成長産業化支援機構(A-FIVE)」が出しました。しかし、2019年6月9日朝刊時点では、読売新聞も朝日新聞も、記事にしていません。そして、明日2019年6月10日は新聞休刊日。このまま、他紙は報道しないのでしょうか?

累損92億円 官民共同 投資先が破綻 最大クールジャパンに匹敵

2019年6月9日 毎日新聞  朝刊1面

 農林水産省が所管する官民ファンド「農林漁業成長産業化支援機構(A-FIVE)」の3月末までの累積損失が、約92億円に膨らむ見通しになった。2013年の開業以降、投資実績が振るわず、昨秋には投資先が経営破綻するなど、18年度だけで赤字が約28億円拡大。官民ファンドでは、海外需要開拓支援機構(クールジャパン機構)が昨年3月末時点で最大の約98億円の累損を計上しており、それに次ぐ損失となる。政府関与の投資ビジネスのあり方が問われる。【山下貴史】

 官民ファンドは政府と民間企業が共同出資して設立した投資組織。高度な研究開発や地域振興など政府の成長戦略を後押しし、リスクの高い分野に投資することで、民間投資を喚起するのが目的。内閣府によると、14ある官民ファンドのうち12が12年末の第2次安倍内閣発足以降に設置・改組された。

 A-FIVEは、農林漁業者が生産、加工、販売などを一体的にする「6次産業化」を進めて農山漁村の振興を図る狙いで、13年1月に設立。財務省の財政投融資資金300億円と民間出資19億円の計319億円が元手だ。しかし、農水省などによると、開業から6年過ぎた今年3月末までの投融資総額は111億円で、計画の1892億円を大きく下回る。

 昨年10月には、直接投資していた会社が初めて破綻し、約6億円の損失を計上。ブランド農産物の海外販路開拓などを目指した「食の劇団」(東京都)で、香港のレストラン進出が失敗し、破綻につながった。関係者によると、A-FIVEの役員が同社の社外取締役会長を兼務し、この投資案件の事実上の責任者だった。役員は6月下旬にA-FIVEを退任する予定で、退職慰労金1400万円が満額支払われる見通し。

 会計検査院は昨年4月、損失拡大が続くA-FIVEに業務の見直しを検討するよう指摘。今年4月、A-FIVEは24年度に単年度黒字化する改善計画を発表した。A-FIVEの桜井淳治統括部長は累損について「投資の見込みがずれ、スピードが遅いのは確か。今後は直接投資を増やして実績を積み上げたい」としている。

農水ファンド累損92億円 政府主導の運用限界 甘い計画、責任は回避

2019年6月9日 毎日新聞 朝刊 3面

 投資実績が伸び悩み、多額の累積損失を抱えた農林水産省所管の官民ファンド「農林漁業成長産業化支援機構(A-FIVE)」。不振の背景には、投資計画の見通しの甘さや組織の硬直的な体質も浮かび上がる。【山下貴史】

 政府は2013年5月、農林漁業の6次産業化の市場規模を、当時の1兆円から20年度に10兆円にする目標を掲げた。A-FIVEはこのシナリオに沿って動き出した。

 A-FIVEは当初、各地の地銀などと作った投資組合(サブファンド)を通じた「間接投資」で全国の案件が掘り起こせると考え、1件当たり1億円、年200件の投資実績を見込んだ。ファンドは通常、投資先の価値上昇に時間がかかるため、設立当初は収益よりも費用が先行する。収益確保には、一定の投資実績を達成する必要がある。

 しかし、もくろみは外れた。間接投資の実際の額は1件当たり3000万~3500万円と「小粒」で、今年3月末までの6年間の投融資件数は目標を大きく下回る125件。自ら支援する「直接投資」15件を含めても総額は111億円で、出資金319億円の3分の1程度にとどまった。

 「生産者にとっては国の補助金や日本政策金融公庫の低利融資を使うことが一般的で、認知度のないファンドにはなかなか手を伸ばしてくれなかった」。A-FIVEの満永俊典総務部長は、こう釈明する。農林水産業の担い手の高齢化が進む中、大規模事業に乗り出す生産者がそもそも少ないことも誤算だった。

 サブファンドは53組合作られたが、投資先が不十分で既に10組合が解散し、うち8組合は投資実績がゼロのままだった。会計検査院は昨年4月の報告書で、A-FIVEを名指しし、サブファンドによる投資不振を問題視した。

 硬直化した組織の体質も不振に拍車をかけた。A-FIVEの元社員は「サブファンドと共同で生産者向けの説明会を開くなど、投資先の開拓に努力している社員もいたが、役員から『開拓はサブファンドに任せるべきだ。失敗したら責任を負わされる』とストップをかけられていた。役所以上にお役所的だった」と証言する。

 「直接投資」でも手痛い失敗をした。日本の食材の海外展開を目指す「食の劇団」への投資では、香港のレストラン事業を後押し。店のフェイスブックによると、畳や掘りごたつのある個室を備え、和牛など日本から空輸した高級食材を使った2万円程度のコース料理を提供していた。利用客から称賛する投稿も目立ったが、開業の遅れなどが響き、わずか1年で頓挫。同社は破綻し、A-FIVEは約6億円の損失を出した。店は別の会社が引き継ぎ、営業を続けている。

 ビジネスを育てる長期的視点が欠けているとの指摘もある。「発足時は投資が役立ったのですが」。北海道余市町でワインの生産販売とレストランを運営する「オチガビワイナリー」の落(おち)希一郎専務は不満そうに振り返る。同社はA-FIVEとサブファンドから計約1億4000万円の出資を受け、開業した。しかし、A-FIVE側がすぐに株を売ろうとしたという。「『社員を季節雇用に切り替えろ』とコスト削減まで求められた」。追加融資も断られ、17年に全株を買い取った。「官民ファンドなのに農家を育てる気がない。農業は息の長い商売なのに」と嘆く。あるサブファンドの元幹部も「農林漁業は短期間で勝負がつくビジネスではない。本当に育成するつもりがあるのか」と疑問を呈す。

 「6次産業化のスローガンはイリュージョン(幻想)だった。その犠牲を、A-FIVEが(国から)押しつけられているのではないか」。昨年11月、財務省財政制度等審議会の分科会では、委員から国の責任を問う意見が飛び出した。

累積黒字82億円 改善計画に疑問

 A-FIVEは業績を回復できるのか。公表資料によると、昨年3月末までの人件費など運営経費は45億円を超え、出資先の不振に伴う減損処理は47件、計11億円に上る。社用車をなくし、昨年9月には本社機能を賃料が高い東京都千代田区大手町から同区麹町に移すなど経費削減も進める。

 今年4月に公表した改善計画によると、A-FIVEは食品業界の事業再編などにも投資対象を広げ、今年度だけで110億円、20~26年度に計590億円を投資。20年間の事業期間の期限である32年度末に82億円の累積黒字を出すとしている。

 農水省産業連携課の高橋広道課長は「高いハードルだが、非現実的ではない。イリュージョンと言われないよう努力したい」と意気込む。しかし、開業から6年間の投資額と同額を1年で達成するという楽観的な見方に、財務省幹部も「小規模な投資が多く、黒字回復は無理ではないか」と首をかしげる。

巨額損失相次ぐ

 A-FIVEに限らず、他にも問題を抱えた官民ファンドが目立つ。

 財務省は昨年11月、A-FIVEと並び、投資実績が計画を大きく下回る▽海外需要開拓支援機構(クールジャパン機構)▽海外交通・都市開発事業支援機構(JOIN)▽海外通信・放送・郵便事業支援機構(JICT)--の計4ファンドの監視を強化する方針を示した。4ファンドは今年4月の財務省財政制度等審議会の分科会に呼び出され、改善計画を提出した。

 経済産業省所管で、日本文化の輸出を手がけるクールジャパン機構は17年度までに計1910億円の投資を計画したが、実際の投融資額は399億円で、累積赤字は98億円に上る。過去にはこんな事例も。バンダイナムコホールディングス(HD)などが14年に設立したアニメの海外配信会社に10億円を出資したが、配信会社は「競争激化や市場の変化」(バンダイナムコHD)で事業停止に追い込まれた。機構はこの投資の結果について「個別案件の損益は答えられない」としている。

 総務省所管のJICTは17年度までに計1365億円の投資を計画したが、実際の投融資額は48億円で累積赤字は25億円に上る。17年3月には、「フリーテル」ブランドの格安スマートフォン会社「プラスワン・マーケティング」(東京都)に計13億円を投融資した。アジア進出を支援する目的だったが、同社は9カ月後に経営破綻。JICTは約13億円の損失を計上した。

 投資不振など運営能力への疑問に加え、お手盛り体質も浮かび上がる。昨年9月に発足した「産業革新投資機構(JIC)」(旧産業革新機構)は、最大で1億円を超える役職員報酬案を所管の経産省がいったん示したが、内外から「高過ぎる」との批判を浴びた。報酬案は撤回され、民間出身の社長ら役員9人が2カ月半後に「総退陣」するなど混乱した。