Woods Hole Oceanographic Institution By David Pacchioli May 3, 2013
マグロの話
福島原発から来た放射性物質が海洋生態系でどのように移動するかを知るには、微小プランクトンの生態を把握することである。しかし、福島原発事故を象徴するようになった巨大生物がいる。太平洋クロマグロである。
太平洋クロマグロは、世界の食卓で珍重される魚のひとつである。最高級すし食材としての魅力を持つクロマグロは、回遊魚でもある。日本とフィリピンの沖合で産卵し、幼魚のうちに4か月かけて太平洋9,600kmを横断し、米国カリフォルニア州沖合の餌の豊富な海域で育つ。数年後、成長して成熟すると、今度は自身が産卵するため太平洋を引き返していく。
海洋生物の放射性物質の取込みとマグロの回遊パターン調査の専門家であるストーニーブルック大学のニコラス・フィッシャー教授とスタンフォード大学ホプキンス海洋研究所の大学院博士課程の学生ダニエル・マディガンは、2011年夏にカリフォルニア沖で水揚げされる若いクロマグロが、福島沖の汚染海域で孵化後の日々を過ごした可能性が高いことを知っていた。それらのクロマグロは、遠く離れた2つの大陸の間で放射性物質を運んだのだろうか。
それを確かめるため、フィッシャーとマディガンは、カリフォルニア州サンディエゴ沖で2011年8月にスポーツフィッシング愛好者が釣り上げたマグロから組織試料を採取し、フィッシャーの研究室で分析した。「分析したクロマグロのすべて(15匹中15匹)で、セシウム134とセシウム137の両方が見つかったのです」。これは福島第一原発事故からの汚染を示すまぎれもない証拠である、とフィッシャーは、東京の「海洋放射能汚染に関する国際シンポジウム」で報告した。
しかし、彼らが測定した放射能レベルは非常に低かった。サンディエゴ沖で釣れたクロマグロは、両方の放射性物質からの総セシウム濃度が1kg当り10ベクレルと、カリウム40の自然放射線濃度をわずか3%上回っただけで、日米政府が定める安全な消費レベルよりははるかに低かった。
回遊するマグロが、取り込んだ全セシウムを太平洋横断中に1日2%失っていたと推定し、さらに、太平洋横断中に冷戦時代の原爆実験の名残であるセシウム137を取り込んでいたと推定して、さかのぼって計算を行い、フィッシャーらは 、マグロは日本近海を出発したころには、体内濃度が測定値より15倍高い1kgあたり約150ベクレルであった可能性が高い、とした。
彼らは、カリフォルニア沖の定住魚であり太平洋を回遊しないキハダマグロからも試料を採取し、クロマグロで測定されたセシウムが海流または大気によって運ばれてきたものだという可能性を否定した。キハダマグロにみられたのはバックグラウンドレベルのセシウム137だけで、半減期の短いセシウム134は見つからなかったからである。
フィッシャーとマディガンが2012年5月下旬に発表したこの結果は、すさまじい反響を呼んだ。フィッシャーは無数のインタビューに応じ、テレビ番組にも出て測定結果を説明した。
人々の根拠のない放射能への不安に対処するため、フィッシャーとフランス人科学者グループは、これらのクロマグロを食べた人が取り込む放射線量(0.008マイクロシーベルト)を算定し、バナナを食べてその自然なカリウムから取り込む放射線量(0.1マイクロシーベルト)、歯科用X線撮影から受ける線量(5マイクロシーベルト)、大陸横断飛行で受ける線量(40マイクロシーベルト)と比較した。「クロマグロについては、放射能より含有水銀の方がむしろ心配です」と彼は言う。
2012年と2013年にクロマグロの放射能を分析するにあたり、フィッシャーは、それらのクロマグロが2011年時点の幼魚とは異なり、汚染水域で1年間は過ごした後であろうこと、そしてそのセシウム濃度がはるかに高まっている可能性があることを認めた。一方で、餌場となった水域のセシウム濃度が比較的低かったために低下した可能性もあるという。マディガン、フィッシャー、そしてゾフィア・バウマン博士による最近の報告によると、2012年にサンディエゴ沖で水揚げされたクロマグロには、2011年のマグロから検出された値の半分未満しか放射性セシウムが含まれておらず、マグロ組織に含まれる放射性セシウム濃度が実際に低下していたことが示された。
しかし、フィッシャーによると、クロマグロだけでなく、サメ、海鳥、アカウミガメなど他の大型回遊生物や渡り鳥の固有の回遊・渡りパターンを追跡する上で、福島原発由来の放射性核種が利用できると考えられる点にある。回遊・渡りパターンのタイミングと経路に対して理解が深まれば、漁場を管理し、絶滅危惧種の保護戦略をより効果的に策定する上で役立つはずである。
米沖のマグロから放射性セシウム
NHK NEWS WEB 2012年5月29日9時35分更新
アメリカ西海岸沖で去年8月に捕獲されたクロマグロから微量の放射性セシウムが検出されたと、アメリカの研究チームが発表しました。
研究チームでは、東京電力福島第一原子力発電所の事故による放射性物質が回遊するマグロを通じて広がったものとみていますが、微量のため、食べても健康に影響はないとしています。
これは、アメリカ・スタンフォード大学などの研究チームが、28日、アメリカの専門誌で発表したものです。
それによりますと、研究チームは、去年8月、カリフォルニア州サンディエゴ沖でクロマグロ15匹を捕獲して調べた結果、1キログラム当たり4ベクレルのセシウム134と、6.3ベクレルのセシウム137が見つかったということです。
研究チームは、2008年にも同じ地域でクロマグロを捕獲していますが、いずれもセシウム134は検出されず、セシウム137もごくわずかでした。
このため研究チームでは、去年セシウムが検出されたクロマグロは、福島第一原発の事故当時日本近海にいて、その後、海流に乗ってアメリカの西海岸沖まで回遊し、放射性物質が広がったものとみています。しかし、今回クロマグロから検出された放射能については、微量のため、食べても健康への影響はないとしています。
ただ、今回明らかになったデータは、原発事故の影響が太平洋の広い範囲に及んでいることを示しているとしています。
[解説]上記論文では、乾燥重量なので、生に直すと、セシウム134.137合計で約2.5ベクレル/kg。下記のデータから比べてもかなり放射能汚染度が高いです。大気圏内核実験の影響だけであるならば、ビンナガマグロの肉は、セシウム137のみで0.20ベクレル/kgの汚染度であると思います。
また、2019年3月採取のビンナガマグロ(千葉県沖620km)からセシウム137のみで0.43ベクレル/kgが検出されています。かなら汚染度が高いのではないか、と思われますが、過去のデータ数が少なく、判断できません。
■2019年3月上旬採取 ビンナガマグロ 千葉県沖南東約620km 北緯31度00分東経144度00分
セシウム137 0.42ベクレル/kg 検査機関 (株)静環検査センター
ビンナガマグロの放射能汚染 ようこそ日本の環境放射能と放射線 データベースより
ビンナガ(肉) セシウム137 0.22ベクレル/kg 1966年採取 採取地 太平洋 1966年5月31日採取
ビンナガ(肉) セシウム137 0.27ベクレル/kg 1966年採取 採取地 太平洋 1966年8月12日採取
ビンナガ(肉) セシウム137 1.18ベクレル/kg 1966年採取 採取地 太平洋 1966年10月14日採取
ビンナガ(肉) セシウム137 0.90ベクレル/kg 1966年採取 採取地 太平洋 1966年10月14日採取
ビンナガ(肉) セシウム137 0.70ベクレル/kg 1982年採取 採取地 太平洋 1982年11月26日採取
ビンナガ(肉) セシウム137 0.65ベクレル/kg 2013年採取 採取地 太平洋 2013年4月採取
ビンナガ(肉) セシウム137 0.49ベクレル/kg 2013年採取 採取地 太平洋 2013年11月14日採取