[解説]

 水産庁の元海洋放射能研究室の室長 吉田勝彦氏が以下のような文章を書いていました。この結語の中に、「確実なことは、1000mSv の被曝でガンになる確率は5%増加」「100mSv 以下の低線量被曝については判らない」「喫煙者のガンになる確率を被曝線量に換算すると、年間に32 mSv 被曝したことと等しく」「チェルノブイリ事故では、放射線による影響より、放射線の恐怖による影響の方がずっと高かった」と驚くようなことを書いています。

 これが、水産物の放射能汚染から、日本の市民の命と健康を守るための、水産物の放射能測定を行う責任者であった人間の書いた言葉か、と思うと、日本の放射線防護体制がいかに有名無実なものであるかが、わかります。

 以下、2012年初頭に書かれた、水産庁元海洋放射能研究室長 吉田勝彦氏の「水産物の放射能汚染をどうみるか」の結語を紹介します。

出典:水産物の放射能汚染をどうみるか 水産庁 吉田 勝彦 2012年

 年間線量限度について、必ずしも正確に理解されているとは思えない報道がされているように思えるので、若干コメントしたい。

 広島・長崎の長期間にわたる調査結果により、確実なことは、1000mSv の被曝でガンになる確率は5%増加する。100mSv をこえる被曝をした場合、何十年もの間に明らかにガンになる確率は線量の増加につれて大きくなる。しかし、100mSv 以下の低線量被曝については科学的に明確な答えを出せない。言い換えれば、現在までの研究結果によれば、「100mSv 以下の低線量被曝については判らない」という結論が科学的な結論である。従って、低線量被曝について科学的に正しい安全基準や許容基準を決めることは不可能である。

 国際放射線防護委員会(ICRP)の勧告による、一般人の年間線量限度1mSv、職業人の年間線量限度50mSv は安全と危険を示す境界ではない。このことが正しく理解されていないことから、多くの混乱が生じたと思われる。

 一般人の年間線量限度1mSv はどのような時に適用されるかというと、「被曝を受ける個人には便益は無いが社会にとって便益のある線源による被曝」に適用される。具体例をあげると、原発の稼働に伴い周辺環境に放出される放射能量は線量限度年間1mSv 以下にすることが義務付けられ、2007 年勧告では計画状況での公衆被曝に設定する拘束値となった。ICRP の勧告はあくまでも、100mSv 以下の低線量被曝では有意にガンが発生することは証明できないのであるから、被曝を減らしていくための目安にすぎないということである。ICRP の作業仮説は「しきい値なしで、即ち、被曝線量が0 にならない限り、ガンになる確率は被曝線量に比例する」ということである。ICRP の作業仮説に従えば、ガンになる確率は100mSv で0.5%、20 mSv で0.1 %であり、1mSv でも0.005 %である。因みに、喫煙者のガンになる確率を被曝線量に換算すると、年間に32 mSv 被曝したことと等しくなる。また、同じ被曝線量では、一度に被曝するより、少しづつ被曝する方が健康への被害は少ないと言われている。

 チェルノブイリ事故では、放射線による影響より、放射線の恐怖による影響の方がずっと高かったということも報告されている。最後に、極端に放射線を恐れるあまり、ストレスによる病、栄養不足、運動不足により健康を損ねないように、冷静な対処を心から願ってやまない。

[解説]

 上記の文章を書いた、水産庁の元海洋放射能研究室長 吉田勝彦氏がどういう人物かを調べていたら、極めて面白い資料を発見しました。
 以下は一般市民の数学やグラフに対する知識が少ないことを利用した詐欺ではないでしょうか。極めて悪質です。
 最初の図の折れ線グラフと、2番目の棒グラフは、実は同じ研究結果をグラフ化したものです。どちらも「笠松不二男,1999年」とあります。同じ研究結果を、最初の水産庁 森田貴己氏は、意図的に縦軸の目盛りを指数表示にすることで、小型魚から大型魚にかわっても、放射性セシウムの生物濃縮が起こらないように、見せかけているのです。
 以下最初の資料の中のグラフの縦軸は指数表示になっていて、2番目のグラフの縦軸は自然数表示です。最初のグラフではセシウム137の濃縮係数が1,10,100と急速に増えていくのに対して、2番目のグラフではセシウム137の濃縮係数が10,20,30,……と増えていきます。要するに同じ研究結果でありながら、グラフの縦軸の目盛りを換えることで(指数表示と自然数表示)、最初のグラフでは、水産庁 水産庁増殖推進部研究指導課の森田貴己氏は、海の生物では食べる・食べられるの食物連鎖によって、放射性セシウムが濃縮することはない、と結論づけているのです。2番目のグラフは元海洋放射能研究室長 吉田勝彦氏のものでした。ある意味、水産庁は綿々と市民を騙すための説明に多くの努力を傾注しているように見えます。「これくらいの放射能は安全です」と。吉田氏から森田氏へと。

グラフ1:水産物 食物連鎖を通じて生物濃縮しないの? 水産庁 森田貴己 2011年5月11日

グラフ2:水産物の放射性セシウム濃縮係数 笠松不二男,1999年

出典:水産生物中の放射性セシウムについて 水産庁 森田貴己 2012年9月25日

出典:水産物の放射能汚染をどうみるか 元水産庁中央水産研究所海洋放射能研究室 吉田勝彦 2011年