福島第1原発事故 大崎・試験焼却中止仮処分申し立て 申し合わせに違反か/人格権の侵害あるか /宮

毎日新聞 2019年3月28日 地方版  宮崎県

地裁、来月上旬に決定

 東京電力福島第1原発事故による放射性物質に汚染された牧草などの試験焼却中止を求めて住民が大崎地域広域行政事務組合などを相手取った仮処分申し立てで、仙台地裁(関根規夫裁判長)は4月上旬ごろに決定を出す。一連の審理は非公開で進められているが、(1)試験焼却が住民と組合との申し合わせ違反にあたるか(2)試験焼却で放射性物質が放出され、人格権の侵害はあるか--が争点となっている。【山田研】

 仮処分は、大崎市岩出山の焼却施設「西部玉造クリーンセンター」を巡り、2007年に同組合との間で「申し合わせ」を交わした住民団体「上宮協栄会」などが申し立てた。同組合が昨年10月から国の基準(1キロ当たり8000ベクレル)を下回る汚染牧草などを試験焼却している3施設のうち、同センターでの焼却と焼却対象牧草の搬入をそれぞれ中止するよう求めている。

 住民側提出の準備書面によると、「焼却場の機能・設備等を変更する場合は地元住民に事前に説明し合意を得る」などと定めた申し合わせについて、住民側は「汚染牧草焼却は機能・設備の変更にあたるが、合意を得ずに実施」「前文に『地元住民の環境を今後とも守る為(ため)』と目的を明記しており、公害防止協定」として、焼却は「契約」に反すると主張。これに対し、組合側は原発事故後に制定された放射性物質汚染対処特措法で「国の基準以下の濃度の廃棄物は一般廃棄物として処理できると定められた」として変更にあたらないとする。

  一方、関根裁判長は1月の審尋で、申し合わせを巡り、損害賠償ではなく試験焼却の中止まで求める根拠として、焼却による人格権侵害を説明するよう住民側に求めたという。

 そこで住民側は、同センター周辺に放射性物質の付いた微小なほこりを吸着するリネン(麻布)をつるして調べたところ、施設風下側の濃度が高いなどの調査結果を提出。比較的濃度の低い内部被ばくでも健康被害が生じる可能性があるとする報告などから、住民側の不安を説明し、「平穏生活権」の侵害を訴えた。平穏生活権は、人格権の重要な一内容として「生命・身体が侵害される危険感や不安感なく精神的に平穏な生活を送る権利」と規定した。

 一方、組合側は、環境省の資料を基に煙突に取り付けたバグフィルターで「放射性物質を99・9%捕らえるので周辺が汚染されることはない」と放射性物質の拡散を否定。リネンに付いた放射性物質については「焼却によるものかは分からない」と反論する。

 大崎市は、裁判所に提出した書面について「非公開で行われている」として報道各社に提供していない。

 組合側は5~7月にも3施設で試験焼却を続ける方針だが、中止の仮処分が下った場合は、後の司法手続きで決定が覆らない限り同センターでの焼却はできなくなる。

予算執行差し止め訴訟 「職務義務違反で違法」 住民側が陳述 地裁弁論

 大崎地域広域行政組合による東京電力福島第1原発事故の汚染牧草の試験焼却を巡り、住民側は仮処分申し立てとは別に、試験焼却に関する大崎市の予算執行差し止めを求める住民訴訟を起こしており、その第3回口頭弁論が27日、仙台地裁で開かれた。

 住民訴訟は同組合を構成する大崎市をはじめとする1市4町の住民が提訴。仮処分では同組合の西部玉造クリーンセンターだけの焼却中止を求めるのに対し、住民訴訟では同市古川と涌谷町を含めた3施設すべてでの焼却などを対象に予算執行差し止めを求めている。

 この日の弁論で住民側は先に提出した準備書面に関して陳述。「住民の合意を得ない限り、焼却予算執行は職務上の義務違反にあたり違法」などと主張した。次回、6月4日の弁論でさらに補足説明の上、組合側が反論することになった。

 住民側は弁論終了後に仙台市内で集会を開催。阿部忠悦原告団長は「(予算執行)差し止めが認められると確信している。(仮処分で中止が地裁に認められなくても)当然、退くわけにはいかない」と語った。【山田研】