内部被爆・放射線によるDNAの異常結合について
琉球大学名誉教 矢ヶ﨑克馬
●放射線の作用は「電離」
福島原発事故では原子炉から放出された放射性埃(放射性微粒子)が住民の生活空間に押し寄せ、放射線を発射しています。子どもが内部被曝したというデータも出ていますが、まず放射線がどういうことを体の中に引き起こすかというと、分子を切断するという作用があるのです。一般に「放射線」と呼んでいるものは、専門的に少し突っ込んで言えば「電離放射線」という名前がついています。「電離」とは、原子の中に回っている電子を原子から吹き飛ばすことで、これが分子を切断してしまうのです。分子が切断される相手、例えばDNAが切断された場合は、がんのもとになるDNAの組み換えなどが起こってしまう。そのほか体の組織についても、いろいろな機能をつかさどっている組織の分子を切断するので、体に様々な機能障害などが出てくる。ですから、放射線作用というのは、これが基礎にある以上、健康にとって害はあっても利益は何もない。このことをまずご報告しておきたいと思います。
●電離は分子切断
分子についてちょっと説明します。分子を作る力は電子が対(ペア)を構成することによります。これによってすごく大きな結合力ができる。電子のペアがわれわれの世界の一番の基礎です。では、放射線が分子に当たればどうなるか。ペアをなしている電子のひとつがはじき飛ばされてしまうので、ペアが破壊される、つまり分子が切断されてしまうのです。
●DNAの切断はきわめて有害
例えばDNAが1 本破壊された場合を考えてみましょう。DNAというのは巨大な分子がまったく同じ構造のものが2つ重なっている。2つあることによって細胞分裂などする時に確実に同じ遺伝子をコピーできるという構造になっているのです。
DNAが1 本だけ切られるような被曝は、主に外部被曝のガンマ線によるものです。それに対して、内部被曝で問題になるアルファ線、ベータ線はどういう切断をするか。2本とも切断してしまうような非常に密度の高い切断を行います。
ガンマ線がやってくるとまばらに分子を切断していきます。この場合、生物学的な修副作用があるので比較的確実に元どおりにできる。ところが、内部被曝の場合に主な被害を与えるアルファ線やベータ線では、ぎしぎしと分子を切断していきます。アルファ線は体の中では紙1 枚の厚さほどしか進みません。なぜそんなに短い距離しか進めないか。1 個1 個分子を切断するのにエネルギーを使うのですぐ止まってしまう。40 マイクロメートルという短い間にウラン235 などはなんと10 万個も分子を切断するのです。こうしてぎしぎしと分子が切断されると、ガンマ線のように平常に結びつくことが非常に確率的に低くなります。間違ってつながってしまう。つながる先を間違えて異常再結合した場合は、遺伝子が変性され、これらが生き残って活動すると大変な状態になります。20 年、30 年経ってからがんが発生すると言われます(晩発性がん)。子どもたちに与える影響というのは、変性されて発がんのもとになるような不安定となったDNAを子どもたちに伝えていくということなのです。遺伝子でなくて一般の細胞分子が切断されたような時には、遺伝的あるいは発がんの効果のほかに、例えば神経線維が失われて戻らなかった場合には機能不全が一杯起こってくる。様々な体調不全が出てくる。原爆ぶらぶら病という体の不調もそこからくるのです。