(1) 昨日、2018年6月18日、福島県は、第31回県民健康調査検討委員会を開催しました。その中で、県民健康調査で見つかった小児甲状腺がんは198名(良性結節であった1名をのぞく)と発表されました。
県民健康管理調査 小児甲状腺がん患者(手術実施人数,未手術人数)
先行検査(2011、2012、2013年度実施) 115名(101名、14名未手術) 他、良性結節であった者1名
2巡目検査(2014、2015年度実施) 71名(52名、19名未手術)
3巡目検査(2016、2017年度実施) 12名(9名、3名未手術)
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合計 198名(162名、36名未手術)
福島県立医大は、この甲状腺がんの摘出手術を受けたものを「がん確定」、手術をまだ受けていないものを「がん疑い」としているだけです。川根は穿刺細胞診を受けて悪性であると診断されたものを、甲状腺がんとして記載しています。事実、穿刺細胞診で「悪性」とされたのに、実際に手術で良性であったのは、先行検査116名の中のたった1人です。偽陽性(がんであると判断されたが、手術の結果がんが発見されないこと)は163名中1名(0.6%)なのですから。
(2)この第31回の県民健康調査検討委員会における福島の小児甲状腺がんについて、報道した2018年6月19日の新聞は、福島民友、福島民報、朝日新聞、毎日新聞でした。東京新聞は報道しませんでした。読売新聞も今回は報道しませんでした。犯罪的なことに、読売新聞は小児甲状腺がんのことは報道せずに、2018年6月19日朝刊23面地域ページ「福島」で「被曝『子孫に影響』3割強 県民調査 正しい知識の周知必要」と、県民アンケートの結果しか報道していません。198名もの小児甲状腺がんに罹った子どもたちのことは大事ではないのでしょうか。
福島民友 甲状腺がん9人 県民健康調査3巡目 新たに2人確定 2018年6月19日 2面
朝日新聞 福島 甲状腺がん新たに3人 2018年6月19日 35面
毎日新聞 福島第一原発事故 福島・甲状腺がん新たに2人 2018年6月19日24面
東京新聞 2018年6月19日朝刊 報道せず
読売新聞 2018年6月19日朝刊 報道せず。
以下の記事のみ「被曝『子孫に影響』3割強 県民調査 正しい知識の周知必要 読売新聞 福島版 2018年6月19日23面」
(3)福島中央テレビは、2018年6月18日18時のニュースで「県民健康調査 甲状腺がん新たに2人」と報道しています。その中で、対象人数を38万人とだけ、報道していますが、これは間違いです。3巡目の検査では、20歳を超えてからは5年おき、つまり、25歳まで検査をしない、と福島県立医大が決めたのです。「平成28年5月1日から検査を開始し、20歳を超えるまでの対象者に、平成28年度及び平成29年度の2か年で市町村順に検査を実施し、それ以降は市町村順の枠組みをなくし、受診者に対し受診時期を分かり易くするため、25歳、30歳等の5年ごとの節目の検査を実施する。」 ー第31回福島県県民健康調査 甲状腺検査 本格検査(検査3回目)実施状況 2018年6月18日
このため、これまでの先行検査37万人、2巡目検査38万人の対象人数に対して、3巡目検査の対象人数は、33万人台に大幅に減っています。そして、3巡目の検査は22万人しか受けていません。特に20歳以上の方がたった4.2%しか受診していません。以下、資料 ③-37、38。しかし、現時点(2018年)でもっとも甲状腺がんの発症リスクがあるのが、この20歳以上の世代です。
https://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/273526.pdf
「県民健康調査 甲状腺がん新たに2人」 福島中央テレビ 2018年6月18日18時のニュース
委員会は原発事故との因果関係は考えにくいとしている。
子どもの甲状腺検査で3巡目の検査で新たに2人に甲状腺がんが見つかった。
県は、2011年の原発事故当時の18歳未満の子どもなど、およそ38万人を対象に甲状腺の検査を続けている。
きょうの検討委員会で、おととしから行われている3巡目の検査で、新たに2人に甲状腺がんが見つかったことが明らかになった。
1巡目から3巡目まであわせると162人が甲状腺がんと診断され、3巡目で見つかったのは、今回の2人をあわせ9人。
この結果について委員会は原発事故との因果関係は考えにくいとしている。
検査は先月から4巡目に入っていて、委員会ではひきつづき結果を公表していく予定。
(4)県民健康調査検討委員会は「原発事故との因果関係は考えにくい」としています。福島県民は怒っています。これは棄民政策ではないでしょうか。子どもはそもそもがんにかからないもの。小児がんは、まず化学物質、放射能、放射線被ばく、との影響を考えるべきです。福島県は無駄な議論をする前に、子どもたちに爆発的に発症している甲状腺がんの治療の対策をとるべきです。第31回県民健康調査は、前回30回から3ヶ月。新たな小児甲状腺がんが2人。つまり×4=年間8人の発症。対象人数は33万人。(福島中央テレビの38万人は間違い。)1次検査を受けた人数は22万人にすぎません。未だに「チェルノブイリの時の小児甲状腺がんの多発年齢は原発事故当時0~6歳。福島は15歳。だから福島の小児甲状腺がんは原発事故の影響ではない。スクリーニング効果」と県民健康調査検討委員会は言っています。福島の小児甲状腺がんの子どもたちの発症年齢の平均は
先行検査(2011、2012、2013年度) 116名 原発事故当時 平均年齢 14.9±2.6歳
2巡目検査(2014、2015年度) 71名 原発事故当時 平均年齢 12.6±3.2歳
3巡目検査(2016、2017年度) 12名 原発事故当時 平均年齢 11.2±2.9歳
と、どんどん原発事故当時の年齢が若くなっています。そもそも、チェルノブイリの時の小児甲状腺がんの多発年齢が原発事故当時の年齢が0~6歳、という研究報告は原発事故から10年たったときのものです。現時点(2018年)ではまだ、はっきりとしたその傾向が現れていない、と考えるべきです。
問題なのは、先行検査でもっとも発症しているのが、原発事故当時15歳の子どもたち。平均年齢14.9+原発事故から7年=21.9歳。現時点では21歳、22歳です。福島県立医大では、この21歳、22歳を今回の3巡目検査から、検査の対象から外したのです。これは意図的に、甲状腺がんを見つけず、甲状腺がんの患者数を見かけ上減らすために行われているトリックであると思います。詐欺に近い犯罪的な行為です。これから4巡目検査が行われますが、ここでも「節目検査」の名の下に、発症リスクの高い年齢である、対象者22歳、23歳、24歳が検査対象から外されています。
福島県立医大は、少なくとも検査対象者をもとの2年おきに戻すべきです。ベラルーシでは、原発事故当時0~18歳の人々を、甲状腺がんのリスクグループとしてとらえ、年1回の甲状腺超音波検診を義務づけています。原発事故から32年たった現在でもです。日本でなぜ、同じことができないのでしょうか。
また、原発事故当時0~6歳の子どもたちがチェルノブイリでは高い発症率だったが、日本では14歳、15歳が高い発症率になった、となぜ考えないのでしょうか。2011年3月16日、2号機が爆発した翌日、そして3号機からも放射能の大量放出があった日(フランスIRSNの下記資料参照)、会津地区と中通り地区の中学3年生は高校の合格発表で1日外に出ていました。まさに、14歳、15歳の年齢です。福島でも関東地方でももっとも強い放射能プルーム(放射能の雲)が通ったのは、2011年3月15日、3月16日でした。この空気にもっとも多く含まれていたのはヨウ素131、テルル132でした。甲状腺がんの原因となる気体です。14歳、15歳の会津、中通りの子どもたちはこの空気の中にさらされたのでした。本来は、合格発表を中止し、屋内退避を指示するべきでした。教育行政が子どもたちを被曝させたと言えます。
チェルノブイリ原発事故の際は、旧ソ連が情報の国家統制の下、1986年4月26日の4号炉の原発事故を首都ミンスクの住民も1週間知りませんでした。その間、母親たちや父親たちは小さい子どもたちに牛乳を飲ませ、外で遊ばせていたのです。
ところが、日本の原発事故の場合は、福島中央テレビが無人カメラで1号機の爆発(2011年3月12日 15:36pm)をとらえていて、その4分後にはテレビで報道しています。そして、その1時間9分後、2011年3月12日 16:49pm日本テレビ系列(NNN)で、この1号機爆発の映像を報道したのでした。
福島中央テレビ「原発水素爆発、わたしたちはどう伝えたか」(2011 年9 月11 日放送
日本の小さい子どもを持つ、お母さん、お父さん方は子どもにも、牛乳を飲ませなかったのではないでしょうか。外にも行かせず、家の中で守ろうとしていたのではないでしょうか。それに引き換え、中学生、高校生は普通に部活動をやっていたのではないでしょうか。郡山市は合唱が盛んな学校が多く、2011年3月原発が爆発してからも屋外で合唱の練習を行っていた、と聞いています。そして、2011年3月15日2号機が圧力抑制室底抜け、4号機が爆発。翌日3月16日未明に3号機が1秒あたり最大の放射能を放出します。その2011年3月16日に会津地区および中通り地区では高校の合格発表が行われ、15歳になろうとする少年少女たちが1日屋外にいたのです。
チェルノブイリと日本では、原発事故当時、強い被ばくした年齢が異なるのではないでしょうか。原発事故当時、中学生、高校生だった年齢層は、高校の合格発表と部活動によって、強い初期被ばくをした可能性があります。そのもっとも大きな原因は牛乳ではなく、空気です。
(5)冒頭に紹介した、福島民友の記事に、驚くべきことが書かれています。
甲状腺の治療費 延べ233人に交付
県は18日の県民健康調査検討委員会で、甲状腺検査でがんや、がんの疑いと診断された場合にかかる治療費の自己負担分を県が支払う支援事業について、2015(平成27)年7月の制度開始から17年度末までに延べ313件、233人に対し支援金を交付したと報告した。
県によると、交付額は計約1590万円で、15年度に121件、16年度に104件、17年度に88件交付した。手術を含むケースには82人に交付した。
県は、手術や経過観察などの治療費について、治療を受ける時点で19歳以上となった人や、県外に住民票を移した人の自己負担分全額を支払う支援制度を設けている。
福島民友は述べ233件と見出しにつけていますが、本文を読めばわかるように、延べの件数は313件で、支援金を受けた方は233人です。つまり、福島の小児甲状腺がんの患者は198人ではなく、少なくとも233人はいる、ということです。
なぜ、こんな人数が違うのか?それは、福島県立医大が、「県民健康調査検討委員会」が見つけた患者だけを統計に入れているからです。検査は2年おき、20歳を超えたら5年おきです。この2年間や5年間に甲状腺がんが見つかっても、この統計には含まれない、というからくり。ちなみに、原発事故当時4歳の男の子が、福島県立医大で甲状腺がんと診断され、甲状腺がんの摘出手術を受けているのに、県民健康調査検討委員会の人数にはなく、先にあげた年齢分布に4歳の子どもはいません。なかったことにされています。
福島県立医大は自ら把握している、患者の実数を公表するべきです。原発事故の被害を小さくみせるだけの手法はただちにやめるべきです。
(6)ウクライナのセルゲイ・クリメンコ教授。ウクライナの子どもたち(事故当時0~4歳)の甲状腺がんの発症は、高線量被ばくの場合のピークは被ばく11年後から、低線量の場合は被ばく20年後から、と講演で述べています。2015年12月1日、ウクライナ、キエフにて。つまり、日本でもこれから深刻な問題になるのはこれからです。甲状腺超音波検査の検査体制を強化すべきです。特に、20歳以降の受診率が4.2%などという事態を繰り替えさないように、20歳以降毎年検査をし、また、検査を受けられる体制を職場、専門学校、大学等で作るべきです。手遅れになり、肺に転移し、死をもたらすこともあります。日本政府、福島県、各自治体の取り組みの強化を求めます。
チェルノブイリ原発事故当時0ー4歳の子どもたち 高線量被ばくと低線量被ばくの子どもたちが甲状腺がんと診断された症例数 10万人あたり セルゲイ・クリメンコ教授 20151201キエフ