川内原発は、日本のエネルギーを原発に依存するのか、どうか、という問題だけではなく、私たちの健康に直接つながる問題です。いったん、原発事故が起きれば、その流出した放射性物質(RI)は九州一体の海域に広がり、更に対馬海流、黒潮に乗って西日本全域の海域を汚染していきます。

 九州大学広瀬直毅准教授ら 2011年7月7日発表した「川内原子力発電所からの仮想的な放射性物質流出に対する海洋拡散シュミレーションを実施 2014年7月7日発表」です。

PRESS RELEASE(2011 /07/07)九州大学 九州大学広報室

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川内原子力発電所からの仮想的な放射性物質流出 に対する海洋拡散シミュレーョンを実施

■概 要
九州大学応用力研究所 広瀬直毅准教授らは、万一の原発 広瀬直毅准教授らは、万一の原発事故に備えて、放射性物質の海洋拡散をシミュレーョンしました。その結果、川内原子力発電所起源とする場合流出放射性散をシミュレーョンしました。その結果、川内原子力発電所起源とする場合、流出放射性物質はあまり沖合へ拡散せず、主に沿岸付近を移動し、日本の沿岸域の大部分で濃度が上昇する恐れがあること、また隣国に達するに達する可能性があることわかりました。 

■背景

 東目本大震災に伴い、福島県の原子力発電所から流出した放射性物質(RT)の海洋拡散が現在問題となっています。万一の場合に備えて、福島以外の原発に対しても排出物の輸送過程をある程度予測しておく必要があります。

 日本周辺の海流分布をみると、太平洋側の排出物は黒潮あるいは親潮に流れ、日本海側ならば対馬暖流によって下流側へと輸送されると予想できますが、九州西岸に位置する川内原発は両暖流の上流に位置するため、流出物質が太平洋側へ南下するのか、日本海へと北上するのか、判断が難しいのが現状です。

■内容
 そこで広瀬准教授らは、現実的な海況を再現・予測することのできる九州大学応用力学研究所海況予測モデル(DREAMS、分解能約7.4kmメッシュ)の流速推定値を用いて、川内原発付近を起源とするRTの輸送過程についてシミュレーションを行いました。2011年3月11目からの1ヶ月聞に10PBq(1京Bq)のRTが海水中に流出したと仮定し、その濃度分布を移流拡散方程式によってシミュレーションしました。計算期開が短いためRTの半減期は考慮せず、さらに簡単のため蒸発も沈殿もせず海水に溶け込んだ中立トレーサーと仮定しています。

■結果
 モデル計算によると、起源付近においては、1ヶ月間(RT流出中)200Bq/L以上の高濃度状態が続き、15km沖合での最高値も60Bq/Lに達しました。しかし、それでも東京電力による福島県沖合15kmのモニタリング値(4月中句)と比べると一桁小さいので、本研究の仮定以上のRT流出量を想定する必要があるかもしれません。

 放出停止後は最高濃度部が北方へ移動し、特に有明海内外では長期聞にわたって高濃度(1Bq/L以上)の状態が続くと算出されました。逆に起源付近の濃度は比較的速やかに低下、5月24日頃には1Bq/Lを下回りました。

 トレーサーの一部は南方へも輸送され、流出から約1ヶ月後に黒潮に乗ると、速やかに太平洋沿岸域へ拡がります(図1b)。

 海流の速度に差があるため、太平洋側に比べて、日本海側へのトレーサー輸送速度は遅くはありますが、濃度は日本海側の方が高く、長崎市付近で13Bq/L(4/22頃)、博多付近で1.5Bq/L(5/20頃)に達します(図2a)。その後も高濃度水塊が日本海の沿岸域を進行することになります(図1c)。

 また、5月後半から韓国東岸でも急にトレーサー濃度が上昇します。東シナ海で水深100~200mの深さまで拡散したRTトレーサーが、対馬海峡西水道の底部を伝って韓国海域に達し、沿岸湧昇によって表層に現れたものです。

 以上はある一時期の仮想的な状況におけるRT輸送過程ですので、流況や気象条件によって結果が異なる可能性には汪意が必要です。少なくとも、川内原発から排出された物質は、東シナ海・日本海・太平洋の沿岸付近に高濃度帯を形成する恐れがあり、隣国にまで達する可能性があると指摘されます。

■今後の展開

 以上の結果を、日本海洋学会秋季大会(2011年9月・於 九州大学応用力学研究所)にて報告する予定です。さらに実験期聞(現在は100日間)を延長し、より長期聞の拡散過程を調査する予定です。また、海況や気象条件の異なった季節の試算も行なう必要があります。他の原子力発電所に関しても同様の数値計算を行ないたいと考えています。

図1.川内原子力発電所付近から流出したRIトレーサーの濃度分布

図2.各沿岸海域におけるRI濃度の時間変化 横軸は3/11からの日数。

 

【お問い合わせ】

九州大学応用力学研究所准教授 広瀬 直毅

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