<声明>原子力規制委員会は20ミリシーベルト/年まで住民帰還をさせる方針を撤回せよ!
          内部被ばくを考える市民研究会第3回総会
          2013年11月16日

原子力規制委員会は20ミリシーベルト/年まで住民帰還をさせる方針を撤回せよ!
個人線量計で安全を守ることはできない。土地の放射能汚染濃度で居住禁止区域、農作物生産・野生食品採取禁止区域、新たな企業生産拡大禁止区域を決めよ!
初期被ばくした住民を放射能汚染のない土地へ移住させよ!

1.原子力規制委員会は20ミリシーベルト/年まで住民帰還をさせる方針
 原子力規制委員会は2013年11月11日『帰還に向けた安全・安心対策に関する基本的考え方―線量水準に応じた防護措置の具体化のためにー』(案)を公表しました。その中で、依然として「100ミリシーベルトまで安全論」を振りかざしています。
 国際放射線防護委員会(ICRP)は1985年のパリ宣言以来、一般公衆の年間被ばく許容値を5ミリシーベルト/年から1ミリシーベルト/年と引き下げています。ところが、原子力規制委員会は同提言(案)の中で、ICRPも1ミリシーベルト/年は「放射線による被ばくにおける安全と危険の境界を表したものではない」、事故時は「公衆の被ばく線量の低減活動の目安とする線量域(1~20 ミリシーベルト/年)」の中で「社会的・経済的リスク等を考慮した上で、適切と判断される値を目標として選択し、生活を継続しつつ、長期的にこの線量域の下方を目指すことが適当である」としている、と主張しています。つまり、「社会的・経済的リスク」が優先され、その下で住民の健康被害のリスクを考えるALARA(アララ)の原則(as low as reasonably achievable “”実現可能な限り低く” という意味)を採用すべきだとしています。
 提言は結論として「避難指示区域への住民の帰還にあたっては、当該地域の空間線量率から推定される年間積算線量が20 ミリシーベルト/年を下回ることは、必須の条件である」とし、20ミリシーベルト/年までは住民帰還させるべき、と主張しています。これはチェルノブイリ事故の際に旧ソ連ですら取らなかった、市民の健康被害、経済的被害を無視する、とんでもない基準です。
 現行の日本の電離放射線防護規則では、原発労働者やX線技師などの放射線業務従事者の年間外部被ばくについて、5年間で100ミリシーベルト、かつ1年間で50ミリシーベルトを超えてはならない、としています。女性(妊娠の可能性がない場合)については3カ月につき5ミリシーベルトを超えてはならない。妊娠中の女性については腹部表面における等価線量が2ミリシーベルトを超えてはならない(妊娠がわかってから出産まで)、としています。つまり、妊娠している期間を考慮すると約半年で2ミリシーベルト、1年間で4ミリシーベルト/年を超えてはならない、ということです。当然のことながら、18歳未満の未成年はこのすべての規制値未満となります。
 政府が住民帰還させようとする20ミリシーベルト/年とは、この放射線業務従事者の5年間で100ミリシーベルトの上限一杯に相当します。妊娠している女性の年間4ミリシーベルトの実に5倍になります。

2.個人線量計で安全を守ることはできない。
 原子力規制委員会は同提言の中で、個人線量計(ガラスバッジなど)の測定結果をうけて、「空間線量率から推定される被ばく線量に比べて低い傾向ではある」として、「住民の帰還にあたって、被ばく線量については、『空間線量率から推定される被ばく線量』ではなく、個人線量計等を用いて直接実測された個々人の被ばく線量により評価することを基本とすべき」と提言しています。矢ヶ崎克馬氏が指摘しているように「空間線量のモニターはあらゆる方向からの放射線を拾うが、個人線量計は首からかけるのと背後からの放射線は減衰する。結果として線量は低くでる。実態が改善されていないのに帰還させようとしている、避難民の健康を考えているとはとても思えない」としています。(東京新聞 2013年11月13日)
 チェルノブイリ事故の際、旧ソ連の放射線防護委員会は放射線許容暫定基準を1986年以降制定しています。その基準は、①事故当初の空中放射線による外部被ばく ②土壌に沈着した放射性降下物による長期の外部被ばく ③放射性元素の呼吸と消化吸収による内部被ばくを考慮して、定められています。(ベラ・ベルベオーク/ロジェ・ベルベオーク『チェルノブイリの惨事』緑風出版)
個人線量計で被ばく量を測り、住民帰還するかしないかを決めるなどというでたらめを旧ソ連はしていません。原子力規制委員会は放射線防護の基本方針を根本から考え直すべきです。

3.初期被ばくした住民を放射能汚染のない土地へ移住させよ!
 チェルノブイリ事故から5年目の1991年2月に可決されたウクライナの法律では、Ⅰ.無条件住民避難が必要な区域、Ⅱ.暫時住民避難の必要な区域、Ⅲ.放射線監視区域、Ⅳ.汚染区域 の定義を土地の汚染度で決めています。Ⅰ.無条件住民避難が必要な区域は、セシウム137の汚染が55.5万ベクレル/m2以上、ストロンチウム90が3.7万ベクレル/m2以上、プルトニウムによる汚染が3700ベクレル/m2以上です。この地域の個人被ばく量が5ミリシーベルト/年を超えるため、危険区域であり、住民の居住は不可能とされています。ここでは農作物は生産できません。農業禁止区域とされて、土地や耕作地は没収されます。旧ソ連や被災地ウクライナ、ベラルーシ、ロシアでは、こうした土地の放射能汚染濃度と住民の個人被ばく量との関係を求め、土地の汚染区分によって、無条件住民避難や暫時住民避難を決めています。(『チェルノブイリの惨事』)
 旧ソ連では無条件住民避難の基準は5ミリシーベルト/年でした。日本では20ミリシーベルト/年が採用されようとしています。自民党や公明党は帰還困難区域、つまり50ミリシーベルト/年超えでも住民が帰還する意思があれば尊重するという基本方針です。(自由民主党、公明党『原子力事故災害からの復興加速化に向けて~全ては被災者と被災地の再生のために~』2013年11月8日)

 セシウム137が55.5万ベクレル/m2を超える地域は日本では千葉県の我孫子市や流山市でも存在します。(常総生活協同組合 土壌沈着量測定結果)福島県内だけで、それも「帰還困難区域」の一部で住民のガラスバッジでの被ばく線量が20ミリシーベルト/年を超えた地域の住民だけに、他地域への移住を認め、国が補償するなどというでたらめを許してはなりません。
個人線量計で安全を守ることはできません。空間線量から推定される数値よりも個人線量計の数値が低くでるのは、背中側からの放射線量が人体に吸収されているからです。そして、個人線量計でわかるのは被ばくした結果であり、放射線被ばくを予防することはできません。土地の放射能汚染濃度で居住禁止区域、農作物生産・野生食品採取禁止区域、新たな企業生産拡大禁止区域を決めるべきです。
 チェルノブイリ事故の際、ベラルーシの科学者は国際放射線防護委員会(ICRP)の国際勧告基準年間1ミリシーベルトとは70年間での生涯被ばく量が70ミリシーベルトとなったのだと指摘しました。旧ソビエト放射線防護委員会が5ミリシーベルト/年、70年間での生涯被ばく量が350ミリシーベルトで避難か、その場で居住するかを決めるべきとしたのに対し、断固として反対しました。(『チェルノブイリの惨事』)
 そもそも東京第一原発から20km圏内の住民および計画的避難準備区域の住民は高濃度の放射性物質を吸入し、また、汚染された食べ物を一時的にせよ摂取しています。内部被ばくによる初期被ばくをしています。将来の健康リスクがあることは、ウクライナ、ベラルーシ、ロシアの国家報告からも明らかです。初期に高い被ばくをした住民を1ミリシーベルト/年を超える地域に戻すことは健康リスクをさらに高めることになります。少なくとも、年間1ミリシーベルト(70年間での生涯被ばく量が70ミリシーベルト)を超える地域の住民を避難させるべきです。現在のベラルーシの法律では1ミリシーベルト/年を超える地域は移住権利がある地域とされています。それはセシウム137で18.5万ベクレル/m2を超える地域に相当します。
 「放射能の恐ろしさや放射線被ばくの危険性に関する公的なあるいは国際的な評価は、核兵器を開発し、それを使用し、その技術を原発に拡張した人々とそれに協力した人々によって築き上げられてきた。それらの『定説』とされている考えを批判的に受け止めることができなければ、被爆国のわれわれが世界の他の国の人々よりも放射能の恐ろしさについてよく知っているなどとはとても言えない。被害をどう見るかが問題とされる事柄を、加害した側が一方的に評価するようなことが、しかもそれが科学的とされるようなことが、まかり通ってもよいのだろうか。そのような問題のある評価を基にして、現在の放射線被ばく防護の基準と法令が定められている。一般には通用しないやり方で、放射線被ばくの危険性とそれによる被害を隠し、あるいはそれらをきわめて過小に評価することによって、原子力開発は押し進められてきたのである。」(中川保雄『放射線被曝の歴史』明石書店 2011年増補版)
 原子力規制委員会の住民帰還20ミリシーベルト/年の方針の撤回を強く求めます。