焦点 香港「逃亡犯条例」改正案撤回 「警察の暴力、許せぬ」 調査委求めデモ激化も

2019年9月5日 毎日新聞 朝刊2面

[解説]

 香港の自由と民主主義を守る闘いに連帯します。「逃亡犯条例」改正案の完全撤回は勝ち取れましたが、民主派は5大要求を掲げ闘っています。

 読売新聞などは、今朝の朝刊1面、8面で「逃亡犯条例」の完全撤回に触れた報道をしながら、民主派の求める「5大要求」について一切触れません。「読売読むと世の中が分からなくなる」、です。

 毎日新聞が、民主派に寄り添った記事を掲載しています。しかし、毎日新聞は、一方で東京電力福島第一原発の1/2号機排気筒の最頂部(高さ2.3m、重さ4トン)の切断、撤去について、一切報道していません。読売新聞もです。

 毎日新聞、読売新聞は、完全に国際原子力機関(IAEA)のコントロール下に置かれたようです。危険な福島第一原発廃炉に関する報道は、東京パララリンピック、オリンピックまでは一切、報道しない、と編集部が決めたのでしょう。

 できるはずもない、2021年から2号機の核燃料デブリ取り出し決定など「明るいニュース」だけ伝えるのでしょう。

 東電福島第一廃炉については、東京新聞が頑張っています。読むなら、東京新聞。

焦点 香港「逃亡犯条例」改正案撤回 「警察の暴力、許せぬ」 調査委求めデモ激化も

2019年9月5日 毎日新聞 朝刊2面

 香港の林鄭月娥(りんていげつが)行政長官が「逃亡犯条例」改正案の「完全撤回」を表明したことで、6月上旬から続く政府への大規模な抗議活動は一つの節目を迎えた。ただ、デモ隊側の「警察の暴力的な対応は許せない」との反発は激しい。今回の「勝利」を弾みとして今後、「5大要求」の貫徹を目指して抗議活動が強化される事態も想定される。

 香港政府は、デモのきっかけとなった「逃亡犯条例」改正案が完全撤回されたことで、市民の批判がデモ隊の一部の過激な若者らに向かい、運動が次第に収束するシナリオを描く。デモに伴い観光客が減少するなど、経済への悪影響も広がっている。市民の間に、残りの4要求を求めて激しいデモを続けるよりも、社会の安定を求める声が広がることを期待しているためだ。

 林鄭氏は4日に発表した談話で「ごく少数の者が『1国2制度』に挑戦し、中央政府を攻撃し、国旗と国章を汚し、香港を危険な状況へと追いやった。香港政府はあらゆる違法行為や暴力行為に対して厳しく対処する」と述べ、過激化した若者らを強く非難した。

 だが、政府の思惑通りに事態が進む可能性は、現状では低そうだ。「今さら条例案を完全撤回しても遅すぎる。5大要求を政府がすべて受け入れるまで、抗議活動は続ける」。デモに参加してきた女性(25)は取材に吐き捨てるように語った。インターネット上でも「5大要求は一つも欠けてはならない」「民主的な選挙を」などといった書き込みが相次ぐ。

 特に深刻なのが警察への怒りだ。衝突が激化する中で警察は取り締まりを強化し、若者らには負傷者が続出。地下鉄の車両に逃げ込んだ若者らを警官が激しく殴りつける映像などが拡散され、デモ隊の怒りはもはや憎悪の域に達している。若者らもレンガや火炎瓶を警官隊に投げるなど過激化しているが、世論の批判は主に警察に向かう。

 デモ隊が求める独立調査委員会を設置すれば、警察官が処分を受ける可能性が出てくる。約3万人の警察官が連日のデモ対応で疲弊しきっている中、さらに士気を大きく損ねる恐れがある調査委設置は林鄭氏にとって難しいのが実情だ。

 市民の不満の根底には、行政長官選挙や立法会(議会)選挙が親中派に有利な仕組みで、民意が反映されていないことがある。今月28日には、民主的な選挙制度の実現を求めた大規模デモ「雨傘運動」の開始から5年の節目を迎える。11月24日には区議会議員選挙もある。また林鄭氏が要求通りに辞任したとしても、事態を好転させられる後任の人物は見当たらないのが実情だ。辞任から半年以内に行政長官選挙を実施しなければならず、5大要求の一つでもある民主的な選挙制度を求めてデモがさらに激化する可能性もある。【香港・福岡静哉】

中国、分断図る

 中国は「逃亡犯条例」改正案の「完全撤回」が事態の収拾につながるか慎重に見極める方針だ。10月1日には新中国建国70年の重要な節目を控えており、香港政府に対して抗議デモへの厳しい対応を促すとみられる。

 中国政府はこれまで、デモ隊側に譲歩しない強硬な態度を続けてきた。香港問題を担当する国務院香港マカオ事務弁公室の楊光報道官らは3日、北京で記者会見し、デモ隊が条例改正案の完全撤回などを求めた「5大要求」について「政治的な脅迫」と批判していた。

 ただ、条例改正案の撤回を巡っては、6月の段階で既に「廃案」は決まっており、実質的な影響は小さくなっていた。北京の外交筋は「中国にとって完全撤回は最も受け入れやすい要求」と指摘していた。

 中国政府は香港政府の対応を通じて「少数の暴徒と大多数の香港市民」を分断する戦略を鮮明にしている。今回の譲歩によってデモ参加者の足並みが乱れ、収束に向かう流れを期待しているとみられる。

 中国政府の危機感は、デモの焦点が条例改正案完全撤回から普通選挙の実施などの民主化要求に広がっている点に移っている。楊氏は3日の会見で「(抗議デモの)矛先が、条例改正案と無関係になり、香港の統治権の奪取と『1国2制度』の有名無実化に向かっている」と指摘した。

 中国の趙克志(ちょうこくし)国務委員兼公安相は先月26日、広東省を視察し、「国家の政治的安全を断固として守らなければならない」と述べ、国内への混乱の波及に警戒を強めていた。

 一方で、香港情勢は台湾の統一戦略にも直結する。台湾は来年1月に総統選挙を控える重要な時期にある。独立志向のある民進党の蔡英文総統はデモ隊への理解を示して民主主義の価値観を強調し、再選への追い風を受ける形になっている。香港からも2014年の香港民主化デモ「雨傘運動」の元リーダーの黄之鋒氏が3日から台湾の民進党本部などを訪ね、共闘を呼びかけた。

 習近平指導部は国家の主権や統一に関わる動きに神経をとがらせており、今後も中国軍の香港駐留部隊や武装警察(武警)の介入をちらつかせて最大限の圧力を続けるとみられる。【北京・河津啓介