[寄稿]広島、福島、そして東京オリンピック

2019年8月25日 ハンギョレ新聞

ソク・グァンフン緑色連合専門委員 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

  東京五輪参加選手団に福島産食材の献立を提供するという日本政府の方針に、国際的な憂慮が高まっている。また、五輪聖火リレーの出発点と野球競技場まで福島原子力発電所の近隣に配置された。1964年の東京五輪で、広島への原子爆弾投下当日に生まれた青年を聖火リレーの最終走者として前面に出し、原爆を乗り越えて立ち上がった日本を誇示した事例を模倣したのだ。五輪を通じて、広島再建の“感動”を福島で無理に再演しようとする安倍晋三政権の執着が伺える。

 しかし、広島と福島は放射能被害の側面で大きな差がある。広島の原爆は初期に大量殺傷と生存者の後遺症があったが、さらなる被爆は微小だった。広島の原爆は当時粗悪だった核技術によって搭載された高濃縮ウラニウム64キロののうち、わずか約1キロだけが反応し、核分裂物質の発生量自体が少なかった。また、地表面の土壌と結合して大量の放射能落塵が発生する地上核実験とは異なり、広島原爆は上空580メートルで爆発し超高温の核分裂物質が成層圏近くまで上昇し全域に拡散したため、日本に落ちた落塵も微小だった。しかも半減期(放射性物質で全原子の半分が崩壊するのにかかる時間)が短い核種が大部分であり、半減期3時間のマンガン-56程度が原爆直後の一日に集中した追加被爆の原因だった。長崎の経験も類似している。そのため広島と長崎は別途の放射能除染作業もなしに1950年代中盤には都市機能が完全に復旧した。

 一方、福島事故は大量殺傷はなかったが、時間が経つほど放射能被害が増えている。炉心溶融が起きた原子力発電所の核燃料総量は、高濃縮ウラニウムに換算すれば約12トンに及び、広島の原爆の核分裂反応ウラニウムの1万2千倍の量だ。一時日本政府は、福島で排出されたセシウムが広島の原爆の168倍と発表したが、それも単純な排出量の差であり、高空で地球全域に拡散して残った広島の落塵と地表面で排出された福島の落塵の差は比較にならないほど大きい。

 特に、半減期が約30年のセシウム-137、ストロンチウム-90は、広島がほとんど接することのなかった核種であり、今後数十年以上にわたり日本を苦しめる核種だ。そのうえ、福島の面積の約70%を占める山林は、アクセシビリティの問題からほとんど手つかずで放置されている。日本の学界によれば、このうち汝矣島(ヨイド)の面積の150倍にもなる山林(約430平方キロメートル)が高濃度のセシウム-137に汚染された。山林のセシウムが風雨を通じて住居地や農耕地に移動し、汚染された動植物が加工・流通される危険もある。実際、福島の杉材は地域で依然として流通していて、最近東京五輪の建築材料として出荷されもした。また、希少疾患の小児甲状腺がんは、事故以前はわずか1~2件だったが、事故後には217件に急増した。しかし、安倍政権は医師たちの調査を妨害し、政府の統制を受ける福島関連各種調査委員会を通じて詭弁を並べ立て、マスコミ報道を統制している。

 経済的負担も天文学的だ。日本経済研究センターは、専門家グループの分析を通じて福島のセシウム汚染土壌を集めた1400万トンの放射性廃棄物は、青森県の六ヶ所村廃棄場搬入費用基準で20兆円の負担が発生すると評価した。また、すでに120万トンに到達し、今後は200万トンに増える福島原子力発電所の汚染水も、トリチウムとストロンチウム除去費用だけで51兆円かかると評価した。住民賠償費(10兆円)まで合わせれば、日本政府の年間予算に匹敵する金額だ。費用を減らそうとする安倍政権は、土壌放射性廃棄物を土木工事に再使用する方針を明らかにし、汚染水は形式的な議論を経て太平洋に放流すると展望されるが、この問題を探査報道する日本のマスコミは見当たらない。

 結局、2013年の五輪誘致戦で安倍首相が明らかにした「状況は統制されている」という主張の実状は、報道機関と市民社会に対する“口止め”だったわけだ。世界で唯一、福島水産物に関し世界貿易機関(WTO)訴訟と勝利を経験した韓国こそ、東京五輪の放射能問題を世界に知らせる適任者だろう。政府の努力を期待してみる。

ソク・グァンフン緑色連合専門委員 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )