県内原発3基 40年超運転、年内断念 関電工程見直し 最大9カ月遅れ

福井新聞  2019年2月5日  朝刊1面
関西電力は2019年2月4日、原則40年の運転を延長し再稼働を目指す高浜原発1、2号機と美浜原発3号機の安全対策工事の工程を見直し、2019年内の再稼働を断念した。当初の工程より約6~9カ月延長する。2017年1月に高浜原発で起きた大型クレーン倒壊事故で約3カ月工事を中断したことや、工事が並行し、必要な資機材を置くスペースなどを再調整したため。同日、関電の森中郁雄・原子力事業本部長代理が県庁を訪れ、清水英男安全環境部長に報告した。(牧野将寛)

 高浜1、2号機は2016年6月、美浜3号機は同年11月に原子力規制委員会が40年超運転を認可した。見直しでは、工事完了時期を高浜1号機は今年8月から2020年5月、高浜2号機は2020年3月から21年1月、美浜3号機は2020年1月から同年7月に変更する。 高浜原発では、工事の進行に伴い、スペースの確保や輸送ルートなどの見直しが必要になった。美浜原発では、使用済み燃料プールの耐震補強で地盤をより深く掘削する必要があることなどが判明した。 森中本部長代理は清水部長に、安全対策工事の実施状況について説明した。森中本部長代理は「当社としては今後も引き続き安全の確保を最優先に、緊張感を持って地元に軸足を置いた原子力運営に取り組んでいく」と理解を求めた。 これに対し、清水部長は「この工事は関電の責任と判断で進められていると認識している」と指摘。安全対策工事を行っている同じ敷地内で高浜は3、4号機が運転中で、美浜は1、2号機の廃炉措置を行っている。「対策工事に伴う協力会社の労災もいくつか発生している。地元の安全安心のためには、協力会社の社員を含め、原発の敷地内で土木工事を施工しているんだという再度しっかり認識してほしい」とくぎを刺した。

 関電は2019年2月中に、原子炉設置変更許可の工事工程変更を原子力規制委員会に申請するとしている。

 40年超運転を目指す原発1基が再稼働すれば関電の収益が月約45億円改善する。3基の再稼働が最大9カ月遅れることで計約1080億円分が失われる計算になる。

敷地限られ工事集中 再稼働難しさ浮き彫り 関電40年超運転年内断念

福井新聞  2019年2月5日  朝刊2面

安全対策工事が進む高浜1、2号機。工期の遅れで年内の再稼働は見送りとなった=2019年1月29日、高浜町音海(小柳慶祥撮影)

安全対策工事の遅れについて清水英男県安全環境部長(左)に説明する関西電力の森中郁雄原子力事業本部長代理=4日、県庁

安全対策工事の遅れについて清水英男県安全環境部長(左)に説明する関西電力の森中郁雄原子力事業本部長代理=2019年2月4日、県庁

見直した主な安全対策工事の工程

見直した主な安全対策工事の工程

 40年超運転を目指す関西電力高浜原発1、2号機と美浜原発3号機は、限られた敷地の中で大規模な安全対策工事をいくつも実施せざるを得ない状況が再稼働の遅れを招いた。東京電力福島第1原発事故後、新規制基準の要求通りに原発を再稼働させる難しさが改めて浮き彫りになった形だ。(坂下享、牧野将寛)

 高浜1、2号機の遅れは、建屋の裏手と山の斜面の間にある限られたスペースで大規模工事が輻輳(ふくそう)したのが主な原因。コンクリート製ドーム屋根を原子炉格納容器上部に設置するためのクレーンが配置されているほか、水や油のタンク類設置、取り換え工事が集中している。全てを一気に行うことができないという。

 「実施する工事を途中で入れ替える形で工程を組んでいるが、作業が進むに従って小さな遅れが交通渋滞のように積み重なった」(関電担当者)。“交通整理”の結果、半年もの遅れが出ることが分かったという。2017年1月の大型クレーン倒壊事故で工事が一時中断した約3カ月分を加え、計約9カ月の遅れとなる。

 一方、美浜3号機は使用済み燃料プールの補強と高台の崩壊対策で実施している掘削工事が遅れにつながった。十分な強度を持った岩盤が予想以上に深かったことや、掘削方法をより安全なものに切り替えたことが原因とした。これらの工事エリアは後に取り換える炉内構造物の搬入ルートと重なっており、ルート変更もできない。並行して工事ができないことが結果的に約半年の遅れを生んだ。

 3基の工事では労災が複数発生している。2018年10月には、福井県が滋賀県と協定を結んだドクターヘリを初出動させるに至った。県幹部との面談後、森中郁雄原子力事業本部長代理は記者団に、「工事の輻輳などで工程を検討してきたが、遅れることになった。われわれが一番大事だと考えているのは、工程を優先することではない」と、見通しの甘さや労災との因果関係を否定。作業員の安全確保を最優先にしたものであることを繰り返し強調した。

 一方、40年超運転を目指し先陣を切るのは高浜1号機。工事完了は2020年5月で、同6月の再稼働を目指す。使用済み燃料の中間貯蔵施設の県外立地について、関電は「20年を年頭にできるだけ早く確定」と県と約束しており、重要案件の時期が重なることになる。これについては、「時期が重なったのはたまたま。両方、全力で取り組んでいく」と述べるにとどめた。