文部科学省が2018年10月、小学生、中学生、高校生に放射線教育をおこなうための、放射線副読本を改訂しました。この内容は2011年版、2014年版よりも悪い内容になっています。2011年版は文部科学省が直接作らず、原子力文化振興財団に丸投げしたもの。2014年版は「原発村に丸投げするな!」の批判を浴び、文部科学省初等中等教育局教育課程課の職員がその反省の下に改訂したものです。川根も、「放射線教育を考える会」として、文部科学省の担当課と内容について交渉してきました。2014年版は不十分な内容ですが、いくつか改善点が見られます。しかし、2018年10月版はその良い点をすべてかなぐり捨てて、更に悪質な「放射線は量が問題」という内容に改悪されています。

[2011年版から2014年版の改善点と2018年版の問題点]

① 東京電力、福島第一原発事故が起きた後の「放射線副読本」にもかかわらず、原発事故の記述が一切なかった2011年版から、2014年版では冒頭に東日本一帯に広がる放射能汚染地図を掲載したこと。今回改訂された、2018年10月版では、この図版が削除されています。 ② 不十分ながらも、放射性物質に汚染された子どもたちのからだを「移動教室」によって、心身ともにリラックスする取り組みが福島県で行われていることが記載されたこと。本来ならば、これは「保養」と呼ぶべき事業であり、福島県のみならず、東日本全域で取り組まれなければなりません。この「移動教室」の取り組みが2018年10月版では削除されました。

③ 直接的にはありませんが、自然放射能と人工放射能との違いを2014年版では書いています。そして、放射性セシウムのような原発事故由来の放射性物質の摂取量を少なくすることが大切です、と書いています。

「不必要な内部被曝ばくを防ぐには、原子力事故由来の放射性セシウムのような、放射性物質の摂取量をできるだけ少なくすることが大切です。なお、カリウムは生物に必要な元素で、自然界に存在する放射性カリウムは原子力事故以前からほとんどの食品に含ふくまれています。体の中のカリウム濃度は一定に保たれているので、カリウムをたくさん食べたからといって、余計に蓄積するものではありません。」2014年版 pp.11

④ 2018年10月版では、この自然放射能と人工放射能との違いについての記述が消え、そして、両者をごっちゃにして「放射線は量が問題」という記述があらたに挿入されています。

「放射線が人の健康に及ぼす影響については、広島・長崎の原爆被爆者の追跡調査などの積み重ねにより研究が進められてきており、放射線の有無ではなく、その量が関係していることが分かっています。」2018年10月版 pp.10

[解説]自然放射能と人工放射能の決定的な違い

① 自然放射能は、地球誕生時から存在していました。自然放射能であるウラン238の半減期は45億年。地球誕生は48億年前ですから、地球誕生時には現在の2倍の量のウラン238が存在し、現在の2倍の放射線で海は満ち溢れていたと考えられます。カリウム40は宇宙期限の自然放射能です。カリウム40の半減期は12.5億年。地球の年齢48憶年は、その4倍。つまり、地球誕生時には、現在のカリウム40の2の4乗倍=16倍の放射線に満ち溢れていました。

② 生命は地球誕生から8億年たった頃に誕生したと言われ、以来40億年かけて、このやっかいな自然放射能による遺伝子破壊と取り組んできました。カリウムは生命を作る細胞には欠かせない元素であり、細胞の中では高い濃度で存在し(約90%)、細胞の外では低い濃度で(約2%)存在する元素です。逆にナトリウムは細胞の外で高い濃度で存在し(約55%)、細胞の内部では低い濃度で存在します。このことが、(1) 細胞の大きさを維持するのに役立ち、(2) 体内を弱アルカリ性に維持し、(3) 筋肉の収縮のための電位を作るのに役立ち、(4) 細胞が栄養分を吸収することに、役立ちます。

③ その細胞の生命活動に不可欠なカリウムの中に、放射性のカリウム40が質量比0.0177%含まれています(カリウム40は宇宙起源)。つまり、10万個カリウムの原子があれば、17個か18個が放射能を持つカリウム40です。しかし、この半減期が12.5億年であることは忘れないで下さい。(2018年12月13日記では1000個のカリウムとなっていました。正しくは10万個のカリウムの原子があれば、17個か18個が放射能を持つカリウム40です)

[練習問題] よく「これくらいの放射線は安全だ」と主張する、放射線の専門家は、こう言います。

ア.「私たちが普段食べている食品にもカリウム40が含まれている。」

イ.「日本人のからだには約4000ベクレルのカリウム40が含まれている。」

ウ.「だから、放射能ゼロの食品などあり得ない。」

エ.「カリウム40と同じ程度の放射性セシウムを食べても安全。」

と。果たしてそうでしょうか。あなたは、この放射線の専門家に対して、どう反論しますか?考えてみて下さい。

[解答例]

 確かに、食品にはカリウム40が含まれていて、バナナ1本には13ベクレル、ご飯1杯には6ベクレル、ポテトチップス1袋には36ベクレル、含まれています。日本人の成人男性で体重60kgの人のからだには約4000ベクレルのカリウム40が含まれています。アとイは正しい。

 しかし、カリウム40は自然放射能ですが、放射性セシウム(セシウム134,セシウム137など)やストロンチウム90は人工放射能で、そもそも食品中にはほとんど含まれていなかったもの。原発事故前は、バナナ、ご飯、ポテトチップスには放射性セシウム、ストロンチウム90は1ベクレル/kgも含まれていませんでした。

<参考>1988年(チェルノブイリ原発事故の2年後)で

精米 セシウム137 0.036ベクレル/kg(44試料の平均値) お茶碗1杯200gとすると 0.007ベクレルのセシウム137

   ストロンチウム90 0.010ベクレル/kg(44試料の平均値) お茶碗1杯200gとすると 0.002ベクレルのストロンチウム90

 自然放射能カリウム40と原発事故や大気圏内核実験で放出された人工放射能(放射性セシウムやストロンチウム90など)とを、同列に扱うのは詐欺です。編集者はこれを「カリウム詐欺」と呼んで批判しています。ウは間違い。

 エについて「カリウム40と同じ程度の放射性セシウムを食べても安全」でしょうか?ちょっと、説明が長くなります。最後までお付き合い下さい。

 自然放射能カリウム40が、生命の遺伝子に悪影響を与えるのを少なくし、被害をできるだけ少なくするために、生命はいろいろな工夫をしました。

・ 細胞の内外の同じ場所にカリウムを留めない。細胞にはアトポーシスという自殺プログラムが組み込まれていて、一定の時間が経つと細胞は壊れていきます。同時に隣の細胞が細胞分裂をして、その間隙を埋めていきます。そのため、食事でカリウムと摂ると同時に、同量のカリウムを排出しています。かりにカリウムを食べ過ぎたとしても、過剰な分のカリウムは数時間以内に、尿でその50%が排出されます。カリウムには、尿、汗をはじめ7つの代謝経路があります。食べ過ぎても、多い分は排出されます。

・ ここでカリウム原子1000個の中に17個か18個含まれているカリウム40の半減期を思い出して下さい。半減期12.5億年。多くのカリウム40は崩壊してベータ線、ガンマ線を出すことなく、体外に排出されていくのです。しかし、カリウム自体がからだ全身にありますから、体重60kgの男性の場合1秒間に4000個のカリウム40が崩壊しています。(これが4000ベクレルの意味です。)1個のカリウム40は崩壊の時にベータ線1本、ガンマ線1本を出します。しかし、カリウム40が宇宙起源ですから、一部分に不均等に集まっていることはありません。からだ全身に平均的に散らばっています。からだのあちこちでベータ線、ガンマ線を出し遺伝子を傷つけても、人間などの生命は遺伝子修復の働きを持っていますから、修復できます。

・ また、生命はこのカリウム40が出すベータ線、ガンマ線の影響をできるだけ小さくするために、細胞分裂のときにだけ、DNAの二重らせん構造の姿を取ることにしました。他のときは、DNAをヒストンという何個もの糸玉にぐるぐる巻きにして、更にそれをまとめて、X字の形にした染色体にしました。こうすることでカリウム40などの自然放射線がDNAを切断して、傷をつけることを防ぐことができます。唯一、DNAが放射線の傷つけられやすいのは、細胞分裂のときに、この染色体の糸玉がほどけて2本のらせんになったときです。2本のDNAのらせんが、対となる塩基を引き寄せて、それぞれのパートナーのDNAを複製します。この時が放射線により切られてしまう可能性が高い。その細胞分裂のDNA複製の時以外は、ヒストンという糸玉にぐるぐるまきにし、更にまとめてX字の染色体の形に生命がしているのは、自然放射線に対する対策だと言われています。

 ところが、自然放射能カリウム40に効果的なこれらの崩御策が、人工放射能である、セシウム134,セシウム137,ストロンチウム90などには効きません。

・ 地球上に人工放射能セシウム134,セシウム137,ストロンチウム90などがばらまかれたのは、1942年のアメリカの原爆開発の時からです。アメリカはウランの核分裂を利用した核爆弾の製造に取り掛かります。それがマンハッタン計画です。アメリカは原爆で使うプルトニウムを生産するために、原子力発電所を作りました。そもそも原発は原爆のために考え出されたことを覚えておく必要があります。原発の推進は必然的に核兵器開発につながります。1945年7月アメリカは3発の原爆を開発します。1発は7月16日ニューメキシコ州アラモゴードで核実験トリニティに使い、2発目は8月6日に広島に投下。ウラン型原爆でした。3発目は8月9日に長崎に投下。プルトニウム型原爆でした。

・ 対抗するソ連が1949年原爆実験に成功。以来、米ソは競い合って大気圏内で核実験を繰り返します。その数、アメリカ 1032回、ソ連 715回。そして、米ソだけでなく、核兵器保有国はどんどん増えていきます。フランス 210回、中国 45回、イギリス 45回。北朝鮮 6回、インド 3回、パキスタン 2回。イスラエル、南アフリカ 1回。1963年米ソを中心とし大気圏内などの核実験を禁止する、部分核実験禁止条約(PTBT)を結ばれるまで、地球上全域にセシウム134,セシウム137,ストロンチウム90などがまき散らされていったのです。

・ このセシウム134,セシウム137,ストロンチウム90など人工放射能は、自然放射能と違い、地球上の生命がつきあい始めてから、たった73年ほどしか経っていません。自然放射能カリウム40とは違い、排出する経路が確立していません。また、人工放射性物質ですから、大地や水、空気に偏在し、食品の中の一部分に偏在してあります。呼吸、飲食で体内に吸収した際に、体の臓器の一部分に偏在します。決して、からだ全体に平均的に散らばることはありません。ですから、自然放射能カリウム40は一定以上蓄積せず、各臓器にも濃縮することはありませんが、人工放射能セシウム134,セシウム137,ストロンチウム90などは、食べ続けるとどんどん体内に蓄積し、臓器の一部分に濃縮していきます。つまり、特定の臓器の特定の組織を放射線で傷つけます。また、ミトコンドリアという部分が細胞のエネルギーを作っていますが、セシウム137はこのミトコンドリアのエネルギー生産をできなくすることがわかっています。さらに、女性がセシウム137を40ベクレル/kg(体重あたり)蓄積すると、性ホルモンの産生を阻害され、妊娠できなくなることが分かっています。また、そうしたセシウム137で体内汚染された女性の体内では、胎児もホルモンの異常から奇形となって生まれたり、将来からだが弱い子どもとして生まれる危険があることが分かっています。(ユーリ・I・バンダジェブスキー,N・F・ドウバボヤ『放射性セシウムが生殖系に与える医学的社会学的影響』2013年,合同出版)カリウム40では、こうした不妊、先天的奇形、病弱で生まれること、は起こりえません。

・ また、セシウム134の半減期は2年、セシウム137の半減期は30年、ストロンチウム90の半減期は29年です。人間が生きている間に崩壊して、ベータ線、ガンマ線を出す確率が、カリウム40と比べて非常に高いです。これが、自然放射能カリウム40とまったく健康影響が異なる点です。

・ 放射線の専門家がよくこう言います。「カリウム40もセシウム137、ストロンチウム90が出すガンマ線、ベータ線は同じだから健康影響は同じです。」と。これは間違いです。(1)カリウム40は、カリウムとして新陳代謝され、一定以上に溜まることはない。しかし、人工放射能セシウム137、ストロンチウム90は1ベクレルでも食べ続ければ蓄積する。(2)カリウム40は、カリウムとして摂取され、偏在することはない。からだ全身に均一に散らばる。しかし、人工放射能セシウム137、ストロンチウム90は人工放射能であるため、一部分の臓器の組織に偏在し、濃縮する。(3)「セシウム137は筋肉にしかたまらない。細胞分裂しにくい、脳や心臓にはたまらない」と放射線生物学で言われるが、セシウム137はもっとも多く甲状腺に蓄積し、脳や心臓にも蓄積する。セシウム137が甲状腺がんを引き起こすことはあり得る。また、心筋梗塞や脳梗塞を引き起こすことがあり得る。カリウム40ではこのどれもあり得ない。(4)カリウム40が骨髄に集中的に蓄積することはないが、ストロンチウム90は骨髄に集中的に蓄積する。崩壊すると、ベータ線を出し、骨髄細胞を傷つけ、白血病と骨がんを引き起こす。カリウム40ではあり得ない。

 したがって、エ.「カリウム40と同じ程度の放射性セシウムを食べても安全。」は大間違い。もし、これを語る放射線の専門家がいたら、その方は「カリウム詐欺」師です。

 これと同じ理屈で、文部科学省は「放射線は量が問題です」と子どもたちに刷り込みをしようとしています。この「量」には、カリウム40なのか、セシウム134,セシウム137,ストロンチウム90なのか、という核種の違いは考えに入れていません。ただベクレル数だけを問題にして、カリウム40がバナナ1本に13ベクレル、ポテトチップス1袋に36ベクレルあるならば、バナナ1本にセシウム137が36-13=23ベクレル入っていても、ポテトチップス1袋食べるのと同じだから安全、と説明しているのです。

 これは「カリウム詐欺」です。うそを子どもたちに信じこませ、福島県産をはじめとする、放射能汚染食品を子どもたちから食べさせようとしています。文部科学省は子どもたちから洗脳し、その家族、大人たちへと、放射能のうそを信じ込ませ、放射能汚染食品を平気で食べれる日本人を育成しようとしています。放射線のウソを書き連ねた、放射線の副読本は撤回すべきです。

<参考となる資料>

放射能の基礎知識 人工放射能はなぜ危険か?

国際放射線防護委員会(ICRP)の放射線防護モデルを信用したら、殺されます。ICRP pub111より

 

体重5kgの赤ちゃんは毎日0.32ベクレル セシウム137 を摂取し続けると体内10ベクレル/㎏になる

 

<文部科学省 放射線副読本 ダウンロードページ>

小学生のための放射線副読本 文部科学省 2011年3月

中学生のための放射線副読本 文部科学省 2011年3月 上巻

中学生のための放射線副読本 文部科学省 2011年3月 下巻

高校生のための放射線副読本 文部科学省 2011年3月 上巻

高校生のための放射線副読本 文部科学省 2011年3月 下巻

http://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/8315890/www.mext.go.jp/b_menu/shuppan/sonota/attach/1313004.htm

小学生のための放射線副読本 文部科学省 2014年2月改訂

中学生・高校生のための放射線副読本 文部科学省 2014年2月改訂

http://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/9514442/www.mext.go.jp/b_menu/shuppan/sonota/attach/1344729.htm

小学生のための放射線副読本 文部科学省 2018年10月改訂

中学生・高校生のための放射線副読本 文部科学省 2018年10月改訂

http://www.mext.go.jp/b_menu/shuppan/sonota/attach/1409776.htm