内部被ばくについて、自主的に学習し、周りの方々に広めていくための会

高木仁三郎氏 プルトニウムの恐怖

高木仁三郎氏「プルトニウムの恐怖」岩波書店(108頁~111頁)

プルトニウムは、この世で最も毒性の強い超猛毒の物質である。その原因は、放出するα線である。

α線の電離作用は貫通力が低く、皮膚をわずか40ミクロンも走れば止まってしまい、体外被ばくとしての影響力は少ない。ところが、逆にいえば、プルトニウムが体内にとりこまれると、そのとりこまれたプルトニウムのまわりのごくわずか0.1ミリグラムにも満たない部分に、大きなエネルギーをすべて与えることを意味するから、その破壊効果はきわめて大きくなる。

呼吸を通じて鼻(口)から吸収されると、気管や肺の繊毛に沈着し、長く留まって組織を被爆する。

最も大きな問題は、肺を構成する細胞の核に存在する遺伝子を、そのα線の電離作用によって傷をつけることである。遺伝子は細胞の再生(代謝)を司っているから、傷ついた遺伝子によって誤った情報が伝えられ、増幅されるとガンを発生せる。

いっぽう消化器系を通してとりこまれたプルトニウムは胃腸壁を通して吸収されやすく、吸収されたプルトニウムは主として骨に集まりやすい。これは骨のガン、とくに白血病の原因となる。もちろん、とりこまれた部位に応じて各種のガンを誘発しうるが、肺がんと白血病が、プルトニウムの最も恐ろしい影響である。

ロッキー・フラッツ兵器工場によるプルトニウム汚染と健康被害  同書P.120~122

アメリカのロッキー・フラッツ平原にある、ダウケミカル社の工場は、1955年から一貫して核兵器用のプルトニウムを作ってきた。ロッキー・フラッツ工場の歴史は、プルトニウム放出の歴史だった。火災や敷地内の貯蔵中の廃液の漏れ出しなどの事故があり、また、日常的に放出されていたことによって、合計100gに近いプルトニウムが環境中に漏れ出したと推定されている。プルトニウムの1人あたりの許容量は4000万分の1g。つまり、40億人分の許容量のプルトニウムに当たる。

 その汚染は、工場の風下方向に何kmにも広がり、他の土地の何十倍もの汚染が観測された。土地の汚染は砂ぼこりとなった酸化プルトニウム粒子を舞い立たせ、空気汚染をもたらした。

 1970年代、コロラド州のジェファーソン郡保健局の医師ジョンソンは、住民たちの異常に気がついた。記録を集め始めた彼のファイルに、ガン死増加のデータが次第に蓄積され始めていた。

 彼は汚染地域を、地表地域を、地表土のプルトニウム汚染度に従って、3つに分けた。地域Ⅰはプルトニウム濃度が1850-29.6ベクレル/m2の地域(人口約15万人)、地域Ⅱは29.6-1.4ベクレル/m2の地域(人口約19万人)、地域Ⅲは1.4-0.37ベクレル/m2の地域(人口約25万人)。そして、同じデンバー地区内にある、汚染が0.37ベクレル/m2以下の地域Ⅳ(人口約42万人)と比較した。

 1969、1970、1971の3年間、すべてのガンを合計した発ガン率をみると、地域Ⅳを対照とした場合、地域Ⅰ、Ⅱ、Ⅲに住む白人男性の発ガン率を見ると、それぞれ24%、15%、8%高かった。女性では、同じ地域について、それぞれ10%、5%、4%高いという値が得られた。地域Ⅳは、州全体の発ガン率と統計的に有意の差がなかった。

 個別のガンの種類別にみると、肺・気管支ガン、白血病、リンパ腫、骨髄腫、睾丸・卵巣ガン、消化器ガンなど、ほとんどすべてのガンの発生率の増加が認められた。1969年―1971年の3年間で、地域Ⅰ、Ⅱ、Ⅲの人口に「統計的に予測されるガン」のケースは5747件であるのに対して、実際には6248件が観測され、501の「過剰のガン」があったと推測された。そのうち、とくに罹患者が多く顕著なのは、肺ガン(過剰数121、24%増)、直腸および結腸ガン(過剰数141、22%増)、などであった。

 この傾向は、その後も引き続き観測され、1975年の調査でも、白血病や肺ガンの死亡率の異常が確認されている。

核燃料施設の立地評価上必要なプルトニウムに関するめやす線量について               昭和58年5月26日  原子力安全委員会決定

原子力安全委員会資料より 「 ロッキーフラッツ火災事故被ばく者」

1965年10月15日、米国コロラド州ロッキーフラッツのプルトニウム製造工場のグローブボックス内で事故が起こった。金属プルトニウム取扱中の火災によって生じた酸化プルトニウムエアロゾルを吸入被ばくし、25 名にICRPPublication 2で示された最大許容身体負荷量を超えるプルトニウムの肺沈着9を生じた。最大のものはこの最大許容身体負荷量の17倍であった。1974年までは、全員について全く異常は報告されていない。被ばくからまだ時間がそれほどたっていないので、発ガンが見られないのは潜伏期のうちであると主張する人もある。本事故の被ばく者は酸化プルトニウムの吸入被ばくで、しかも粒子径も事故時に測定されているので、線量-効果関係を知るうえできわめて重要な情報を今後の追跡調査によってもたらすであろう。(注:同じ事件を原子力安全委員会が評価するとこうなります。 -川根眞也コメント)

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