関西電力が2018年11月7日高浜原発3号機の再稼働工程を始めました。新聞各紙は「高浜3号機再稼働」と書きますが、また、定期点検中であり、総合負荷性能検査がこの後あります。この間に放射能の蒸気漏れなどの事故を起こせば、再稼働工程は中止、再稼働は延期となります。事実、2018年5月、九州電力は玄海原発4号機について一次冷却水が漏れるトラブルを起こしたために、再稼働を1か月延期しています。

<参考>『玄海原発4号機、一時冷却水漏れトラブル。九電、「水温が上昇したため」とし原因不明のまま機器交換で2018年6月16日から再稼動工程を始める。』

 ですから、「関西電力が高浜3号機の再稼働工程を始めた」と書くのが正しいのであって、新聞やテレビが「高浜3号機が再稼働」と書くのは間違いです。

図 高浜発電所3号機 第23回定期検査の作業工程 関西電力 2018年11月6日 <注>2018年11月7日始まったのが、この原子炉起動試験。営業運転するには、この後、総合負荷性能検査に合格する必要がある。

 今回、高浜3号機の再稼働工程を始める、と関西電力が公表したのは、なんと前日の2018年11月6日でした。原発再稼働に反対する世論を警戒して、抜き打ち的に発表しています。再稼働を知らなかった方も多いのでないでしょうか。改めて、高浜原発3号機のトラブルと被ばく事故を振り返ります。多くの全国紙は報道していません。

 2018年9月10日、高浜3号機の定期点検中で、作業員が計画線量の倍超被ばく事故を起こしました。2018年9月12日、関西電力は、高浜原発3号機の蒸気発生器の細管1本と支持板の間に、長さ1センチ程度の異物を確認したことを公表しました。その後、2018年9月20日にこの長さ1センチ程度の異物は「2次系配管に含まれる酸化鉄の微粒子の塊と確認した。細管の外側を減肉させたとみられる金属片は見つからなかった。」と公表しました※1。これ以降、関西電力は再稼働工程を始める前日の2018年11月6日まで、定期点検でどのような機器のトラブルが見つかったのか、機器のどこを修理し、機器の何を交換したのか、一切公表していませんでした。また、この2次系配管に含まれる酸化鉄の微粒子の塊の写真も、元素分析の結果も公表していません。2018年9月12日の関西電力の発表では「蒸気発生器細管1本では、内側に長さ約4・8ミリのひび割れが見つかった。高温(約320度)の1次冷却水が入る部分。細管の厚さは約1・3ミリあるが、貫通はしていない。応力腐食割れとみられる。この細管も施栓する予定。」と発表※2。蒸気発生器の細管は全部で計1万146本にものぼりますが、この長さ1cm程度の異物がどこからやってきたのでしょうか。

※1 「蒸気発生器内異物、酸化鉄微粒子の塊 高浜3号、関電が確認」 福井新聞 2018年9月21日

※2   「蒸気発生器内に異物 高浜3号 細管1本が減肉」 福井新聞 2018年9月13日

 2018年9月20日の関西電力の公表では、この酸化鉄の微粒子(スラッジと関電は呼んでいる)の出所を、以下のように説明しています。

「弁やストレーナの分解点検の際に作業員の⾐服等に異物が付着していた場合、それが配管内に混⼊する可能性があることを確認しました。また、その弁等が配管の⽴ち上がり部に取り付けられている場合、作業前後の異物確認時に目視による確認が困難である範囲があることを確認しました。」

そして、その対策とは

「弁やストレーナの分解点検時に使⽤する機材や内部に⽴ち⼊る作業員の⾐服等に異物の付着がないことを確認することについて、作業⼿順書に追記して、異物混⼊防⽌の更なる徹底を図ることとしました。」

 つまり、定期点検のときには、作業員は機材をよく吹き、衣服をよく叩いてから、作業することにした、というのです。これが対策と言えるのでしょうか?

 まず、疑問なのは、このスラッジ(酸化鉄の微粒子)が果たして外部からの異物であるのか、ということです。写真も公表されていなければ、元素分析の結果も公表されていません。そもそも、高温高圧で配管を流れる水でさらされているなかで、なぜ、鉄の酸化物ができたのか?ということです。配管がどこかひび割れているのではないでしょうか。異物ではなく、配管そのものの損傷である可能性が否定できません。

 関西電力の説明は、ちょうど、高浜原発4号機の原子炉のふたの部分に取り付けてあった、温度計を出し入れする穴から放射能漏れ事故を起こしたときの説明とそっくりです。何でも、点検作業中の作業員の服や機材や、養生テープにくっついていたゴミのせいにするのでしょうか?

<参考>『ずさんな原発管理。原子炉容器上蓋の温度計を出し入れする穴は養生テープでふさいでいた。養生テープについたゴミが放射能漏れを引き起こす恐れ。それでも高浜4号機は2018年8月31日に再稼動工程を開始』

 実は、以下のように蒸気発生器の細管は1万146本もあったのですが、次々に配管が減肉(何物かによって削れて厚さが薄くなること)したり、応力腐食割れしたために、使えなくなり、蓋をして止めている状態です。この蓋をして使えないようにすることを「施栓」と言いますが、かつて、通産省と原子力安全委員会は「安全解析施栓率」を蒸気発生器の細管の3%までと定めていました。しかし、損傷細管が次々と増加すると、通産省と原子力安全委員会は電力会社の申請に基づいて次々に施栓率を引き上げていきました。高浜原発2号機にいたっては、施栓率を25%にまで引き上げることを許可してしまいました。この場合、「50%施栓率でも安全」と主張した上で、安全解析を関西電力に請け負わせるというでたらめな安全審査を行い、通産省は施栓率の引き上げを許可したのでした※3。

※3 中川保雄『放射線被曝の歴史』明石書店 pp.241~242

  今回の定期検査の時点で、高浜原発3号機の蒸気発生器の細管の「施栓率」は3%を超えています。安全とは言えません。欠陥原発は大事故を起こす前に運転を中止すべきです。すでに、この高浜原発3号機の定期点検で、労働者の被ばく事故が起きています。1日3時間10分程度の作業で、当初計画していた0.9ミリシーベルトをはるかに超える、1.81ミリシーベルトも被ばくしました。2018年9月10日午後発生したにもかかわらず、福井県に報告したのは9月12日でした。この作業員は一次系の弁の分解工事を行っていました。つまり、一次系の水が想定以上に放射能に汚染されていた、ということではないでしょうか?

 朝日新聞、毎日新聞、読売新聞などの全国紙は原発のトラブルの情報をほとんど書きません。地元新聞を読む以外には、原発の放射能漏れ事故やトラブルの詳細についてはわからない状況です。欠陥原発、老朽原発がトラブルの原因もわからず、場当たり的な対応で、次々と再稼働している状況に対して、新聞各社はその責任を果たすべきであると考えます。

 福井新聞の記事を紹介します。もはや、関西・北陸の原発の事故・トラブル・再稼働については、福井新聞を。九州の原発の事故・トラブル・再稼働については、佐賀新聞を、読むしかないようにも思います。ぜひ、みなさん、真実を伝える新聞を購読しましょう。

■高浜3号の定検作業員 計画線量 2倍超被ばく

2018年9月13日 午前5時00分 福井新聞

 関西電力は12日、定期検査中の高浜原発3号機(加圧水型軽水炉、出力87万キロワット)の原子炉格納容器内で作業をしていた協力会社の作業員が、1日分の計画線量の2倍を超える外部被ばくを受けたと発表した。法令で定める年間限度量は超えておらず、内部被ばくや皮膚の汚染はなかったとしている。

 関電によると、作業員は東亜バルブエンジニアリング(兵庫県)の下請け会社の50代男性。10日午後、1次系の弁の分解点検を約3時間10分行った。管理区域から退出する際に線量計を確認したところ、計画値の0・9ミリシーベルトを大きく超える1・81ミリシーベルトの被ばくが分かった。

 作業員の被ばく線量低減のため、一日1ミリシーベルトを超える作業に従事する際は、事前に労働基準監督署長への届け出が必要。関電は同日中に敦賀労基署へ線量超過を報告した。

 今回の作業では線量計の警報音が聞こえるようイヤホンを付ける必要があった。しかし作業員は装着しなかったため、警報音に気づかなかった。また、作業時間は2日前に同じ場所で行った別の作業員の被ばく実績値を元に、東亜バルブの放射線管理専任者が決めたが、線源と作業員の距離を十分考慮しなかったことが、計画外の被ばくを生んだとしている。関電は今回の被ばくについて、法令報告や安全協定上の異常報告に該当しないことから、別件と併せてこの日発表したとしている。(坂下享)

 <参考> 故中川保雄氏が、加圧水型原子炉の蒸気発生器細管が致命的な弱点であり、危険であるから原発を止めるべきだと1991年に訴えていた。中川保雄『放射線被曝の絵歴史』(2011年増補版,明石書店)から重要な指摘の部分を抜粋しました。長文ですが、ぜひ、お読み下さい。そして、近くの人へ伝えて下さい。

『加圧水型原発の致命的な欠陥は蒸気発生器。蒸気発生器の細管はギロチン破断するとメルトダウンにつながる。1991年2月9日関西電力美浜原発2号機、レベル3。』