[初稿]2015年6月19日

[追記]2019年8月29日

放射性セシウムが母体に蓄積すると引き起こされるホルモンバランスの異常とその結果 川根眞也 2019年3月21日

https://drive.google.com/file/d/1x1V4U-WZfV7ndPPs86DfGa4nEKbh5kse/view?usp=sharing

[解説]

 政府は2015年6月12日、福島県の居住制限区域(年間50ミリシーベルト以下)および避難指示準備区域(年間20ミリシーベルト以下)を2017年3月までにすべて解除し、住民を強制的に帰還させる方針を決定しました。

 さらにこれを補完すべく、福島県は2015年6月15日、2017年3月で、自主避難者への住宅支援事業の打ち切る方針を決定しました。

 また、政府は2015年6月17日、全町避難が続いている楢葉町をお盆前の2015年8月に避難指示解除する方針を明らかにしました。

 これは、住民の緩慢な殺人を意味する決定だと思います。

 チェルノブイリ原発事故後、放射性セシウムが母親と胎児にどのような影響を与えたのか?そして、現在もどのような影響を与え続けているのか?ベラルーシ共和国ゴメリ医科大学学長(1990年~1999年)であった、ユーリ・I・バンダジェフスキー教授の『放射性セシウムが生殖系に与える医学的社会学的影響 チェルノブイリ原発事故 その人口「損失」の現実』(久保田護 訳 合同出版 2013年4月1日)から、その主要な部分を抜粋し、紹介します。

 同時にヤブロコフ、V・B・ネステレンコ、A・V・ネステレンコ、プレオブラジェンスカヤ著『調査報告 チェルノブイリ被害の全貌』(岩波書店 2013年4月26日)からも、妊娠異常と子どもたちの性的発達不全の部分を抜粋し、紹介します。

 空間線量で何ミリシーベルト以下では安全などという、砂上の楼閣の議論はやめにしましょう。ウクライナ、ロシア、ベラルーシの人びとの苦難に学び、より良い選択をすべきだと考えます。

                         2015年6月19日記 川根 眞也

放射性セシウムが生殖系に与える医学的社会学的影響

チェルノブイリ原発事故 その人口「損失」の現実

ユーリ・I・バンダジェフスキー 著 久保田護訳 2013年4月1日

 

 以下は、ユーリ・I・バンダジェフスキー著 久保田護訳『放射性セシウムが生殖系に与える医学的社会学的影響 チェルノブイリ原発事故 その人口「損失」の現実』合同出版の抜粋である。一部、わかりやすくなるように文章を簡略化したところがある。〔編集者〕

 1.1 チェルノブイリ原発事故以前のベラルーシ共和国の放射能汚染と人口統計の状況

 ベラルーシ共和国では最近、死亡率が出生率の1.6倍になっているが、戦争や疫病といった人類がもっとも困窮したときでも、このようなことはなかった。       pp.7

 1994年から2008年にかけて、ベラルーシの人口は60万7400人も減少した。これは総人口の5.6%も減少したことを意味する。15歳以下の子どもは2000年から2009年のあいだに29万も減った。 pp.9

 2000年から2008年にかけて、ベラルーシ共和国では先天性奇形や発育異常のある新生児の数が10万出生につき、359.5から558.7に増加した。 pp.9

 ベラルーシ共和国の人びとの生殖に重大な問題が生じていることを、先天性奇形の増加と出生率の低下が示している。このことと、死亡率の加速的な増加によって、人口が破局的に減少していることが説明できる。 pp.9

 ベラルーシでは疫学的にみて非常に多くの先天的障害児が生まれている。先天的奇形の新生児が、ベラルーシ共和国のとくにチェルノブイリ原発事故の汚染地域で増えていることについては、明確だ。しかし、このことは原子力ロビーと旧ソ連の代議士、ベラルーシ共和国の議員たちにとって、都合の悪いものだった。そこで、遺伝学者であり、奇形学のG・I・ラジューク教授の先天性・遺伝性研究所を閉鎖してしまった。ベラルーシには現在、先天性疾患の発生原因に関する問題に十分な対応ができる学術組織が存在しない。原子力ロビーにとっては、政府に医学的知識がない方が好都合なのだ。 pp.10

 国際原子力機関(IAEA)は、世界保健機関(WHO)を長年にわたって牛耳ってきた。そして、1959年、放射線被曝が人びとの健康に与える影響に関するデータは存在しないという協定を、WHOに押し付けた。世界中のすべての人びとの健康と生命よりもこの協定の方が大事なのだろうか。 pp.10

1.2 放射性セシウムが体内に取り込まれる条件での女性生殖器官の病態

 女性の体内でセシウム137濃度が40Bq/kgを超えると、月経周期のさまざまな時期で性ホルモン産生の逆転が起きることが明らかとなった。これらの女性ホルモンの産生異常は、女性生殖器の病気の原因となるだけでなく、不妊症の原因にもなる。女性ホルモンが正常に分泌されていれば、妊娠中のプロセスや母体と胎児とのあいだに起きる相互作用に対応するため、子宮粘膜と女性生殖器の準備態勢を整えることができる。しかし、女性ホルモン産生異常があれば、子宮粘膜と女性生殖器の準備態勢を整えることができず、不妊症になってしまう。 pp.12

 体内のセシウム137濃度が50Bq/kg以上になると、若い女性に起きる性ホルモンの産生異常は顕著になる。体内のセシウム137濃度が50Bq/kg以上の場合、検査した女性6人に1人に排卵が見られなかった。このように、放射性セシウムが体内に取り込まれると、その影響で月経周期の黄体期不全と無排卵症が起きる。これらはホルモン産生の制御プロセスにおける異常を反映している。結論として、無排卵症と黄体期不全により、不妊症となる。放射性物質の汚染地域で出生率が低下している主な原因のひとつは不妊症であると私たちは考えている。 pp.15

 セシウム137による土壌汚染が55万5000~148万ベクレル/m2と、常に放射性物質にさらされている環境で生活している少女たちがいる。この少女たちの体内の女性生殖器官は発達が遅れていた。調査を受けた少女たちの37%で二次性徴の発現が遅れ、81%の少女たちで月経周期の異常が見られた。脳下垂体性腺刺激ホルモンの分泌機能異常が39%の少女たちに指摘された。31.5%の症例ではステロイドホルモンの産生障害(糖質コルチコイドホルモンの生合成の障害)も指摘された。調査の結果、放射能汚染地域に住む少女たちに内分泌機能の低下があることが明らかになった。されに生殖機能の調節障害も示された。 pp.15

 性成熟の障害の程度と放射線の被曝量とのあいだには相関関係があることが明らかにされている。この知見は動物実験でも確認された。餌を通じて妊娠中の母親の体内にセシウム137が取りこまれると、仔の生殖器官の発育が障害される。具体的には、セシウム137で体内汚染された母親から生まれた仔の卵巣では、思春期に成熟卵胞が有意に少なくなっており、閉鎖卵胞は対照よりも増えていることが明らかになった。その実験動物の仔の卵巣では、成熟卵胞と機能中の黄体が併存していた。さらに、卵管と子宮の粘膜の形成にも遅れが生じていた。 pp.15

1.4 放射性セシウムがもたらす突然変異誘発作用

 体重1gあたり27000Bqのセシウム137を雄ラットに経口的に一度に投与した。すると、投与210日から230日後に、雄ラットの生殖細胞内で一価染色体と染色体断片が統計的に有意に増加した。このセシウム137を投与した雄ラットを正常な雌ラットと交配させた。すると、子宮着床前と着床後の両方で子宮内の胎児の死亡が増加した。この研究者たちはセシウム137を投与した雄ラットの体内で、ゲノムに病的な変化が起きたことが影響して胎児の死亡が増加したと考えている。 pp.18

 R・I・ゴンチャロワとN・I・リャボコニの研究では、放射性物質の汚染地域で育てた食物を実験用の雄マウスに与えて飼育した。すると、雄マウスの体内では放射性セシウムの濃度が853Bq/kgと1103Bq/kgに達した。その結果、雄マウスの生殖細胞と骨髄細胞では染色体とゲノムの突然変異が増加した。 pp.18

 セシウム137で汚染されたゴメリ州の郡部に7~8年のあいだ居住した後、ミンスク市に移住してきた子どもたちの末梢血のリンパ球では、ニ動原体染色体と環状染色体の頻度が高かったことが確認されている。これらの染色体異常は、放射線被曝によって起きる不安定型染色体異常の指標として知られている。 pp.19

 チェルノブイリ原発事故の非常事態が収束した後、発育奇形の数がベラルーシ全土で急激に増えてきた。それには多発性発育奇形、手足の縮小奇形、多指症の頻度が大きく寄与している。これらの発育奇形には優性突然変異が大きく寄与している。

 単発性や多発性の先天性奇形の発生率の分析結果から、土壌汚染が55万5000ベクレル/m2の郡では、1997~1998年のあいだに生まれた子どもたちの奇形発生率が対照群よりも高いことが示された。 pp.19

1.5 妊娠中および授乳期間中の放射性核種の体内取り込みの特徴

 放射性セシウムの体内への蓄積過程は複雑で、今日でもいまだに十分な研究がなされていない。筆者らは、体内の放射性セシウムの濃度が、性別や年齢、からだの生理的状態、臓器や組織の構造、またはそれらの代謝の性質、さらにRh式赤血球表面抗原によっても影響を与えることを明らかにした。同一の餌を与えても、雌の方が雄よりも放射性セシウム濃度が低くなる。 pp.20

 しかし、妊娠は特殊な生理現象であり、母親の消化管で放射性セシウムが多量に吸収される。哺乳類では、動物でもヒトでも、放射性セシウムの大部分は、胎盤で吸収されてしまい、胎児の体内にはほとんど取り込まれない。しかし、妊娠中の病気や胎児の発育によっては、発育中の胎児の臓器で放射性セシウムの濃度が高くなることもありうる。 pp.20

 子宮内で発育期にセシウム137の影響を受けた仔ラットは、自分で餌を摂るようになると、餌の中の放射性セシウムをより多く体内に取り込むようになる。 pp.22

 血液型がRh+の人びとはRh-の人びとよりも放射性セシウムを多く体内に取り込むことが、筆者らの研究で明らかになった。胎盤の放射性セシウム濃度も、Rh-の女性の方がRh+の女性よりも統計的に有意に低かった。放射性セシウムの膜構造への結合に関する研究を考察すると、赤血球表面にRh因子を提示する抗原決定基が、体内への放射性セシウムの取り込み過程に関与している可能性が考えられる。 pp.22

1.7 胎盤の放射性セシウムの取り込み

 胎盤は妊娠時に出現するもっとも重要な一時的器官であり、胎児の発育を支えている。ヒトと多くの哺乳動物、とくにげっ歯類の胎盤は、血絨毛型の構造を持つ。血絨毛型胎盤を持つ動物では、母親のからだと発育中の胎児組織のあいだに血管系を介して緊密な関係が築かれる。母親と胎児の両方の内分泌系、神経系、免疫系、造血系などの重要な器官系によって母親と胎児のあいだの関係が調節されている。 pp.36

 母親の血液の細胞は、栄養膜構造を通って胎児の体内に入り、また胎児の血液の細胞も母親の体内に入る。胎児の赤血球の30%は、常に母親の血液中を循環していることが証明されている。胎児のリンパ球もまた母親の血液中で記録される。胎児は胎盤を介して母親から免疫担当細胞と免疫グロブリンを受け取る。筆者らは1994年に仮説を提出した。母親の免疫担当幹細胞が胎盤障壁を通過して胎児に入り、母親と胎児の液性免疫の連関が形成されるという仮説である。 pp.36

 ヒトでも、放射性セシウムは胎盤障壁を通過してしまう。ヒトでは、胎児の放射性セシウムの濃度よりも胎盤の放射性セシウムの濃度の方が高いことに注目する必要がある。先天性奇形の胎児の場合では、放射性セシウム濃度が著しく高い。これは、胎盤の障壁機能が低下していることを意味しているかもしれない。ヒトでは、胎盤にセシウム137が蓄積すると、胎盤の機能が著しく変化する。胎盤のセシウム137濃度が100Bq/kgを超えると、妊娠の終わりが近づくにしたがい、中間絨毛が増加し、終末絨毛が減少した。絨毛は細胞栄養芽層で覆われ、間質は粗雑で結合織の細胞が増加していた。これはホルモン産生のプロセスを意味している。先天性奇形の胎児の胎盤では、絨毛間質と絨毛間腔への出血の形態をとる血液循環障害が顕著にみられ、限局性の小梗塞巣も認められた。 pp.37

1.8 放射性セシウムを取り込んだ母―胎児系の内分泌の相互関係

 妊娠した女性の体内にセシウム137が取り込まれると、発育中の胎児で大きなホルモン分泌の変化が起きる。胎盤の放射性セシウム濃度が高くなると、胎児の臍帯血エストラジオール濃度が著しく低下することが示された。また、同時に胎児の臍帯血テストステロン濃度は顕著に高くなった。胎盤の放射性セシウム濃度が高くなると、母親の血中甲状腺ホルモン濃度(サイロキシンとトリヨードサイロニン濃度)が明らかに高くなった。同時に、母親の血中コルチゾール濃度ははっきりと増加した。反対に、胎児の臍帯血中コルチゾール濃度は低下した。 pp.38

 このように、母親―胎児系にセシウム137が入り込むと、何よりもまず、発育中の胎児に顕著なホルモン濃度の変化が起きる。副腎皮質にセシウム137が強く取り込まれることが注目される。セシウム137が取り込まれると、ミトコンドリアの酵素系に機能障害が起きる。セシウム137が副腎皮質のホルモン産生細胞に悪影響を与えるため、男性ホルモンのテストステロンの産生が増加し、女性ホルモンのエストラジオールが減少するとも考えられる。この仮説ではまず、副腎皮質の主要なホルモンであるコルチゾールの正合成が障害される。この状況が、下垂体副腎皮質刺激ホルモンの産生増加に拍車をかけ、副腎皮質の細胞を刺激してテストステロンの過剰産生を招く。副腎皮質の先天性機能不全の状態が起きる。これは以後の子どもの発育に間違いなく悪影響を与えるだろう。放射性セシウムの影響で起きる子どもたちの内分泌状態の逆転は、子どもたちの性的な発達の異常と外部環境に対する生後の適応障害を引き起こす主な原因のひとつであると筆者らは考えている。そして、子どもたちが成長してから内分泌系、神経系、免疫系や、ほかの多くの器官系の病気になるのは、セシウム137の影響で胎児期からホルモン産生が異常になっていることが基礎にあると考えられる。 pp.40

ヤブロコフ、V・B・ネステレンコ、A・V・ネステレンコ、プレオブラジェンスカヤ
『調査報告 チェルノブイリ被害の全貌』岩波書店 2013年4月26日より

5.6 泌尿生殖器系の疾患
ベラルーシ
 被ばくした親のもとに生まれた10歳から14歳の女児に、1993年から2003年にかけて性成熟の有意な遅れが見られた(National Belarussian Report,2006)pp.92
 大惨事後、2000年までに重度汚染地域(セシウム137で55万5000ベクレル/m2以上)で生まれた子どもは、相対的に汚染度が低い地域で生まれた子どもより生殖器の障害が多かった。その差は女子で5倍、男子は3倍である(Nesterennko et al.,1993) pp.93

 チェルノブイリ事故によって、セシウム137で55万5000ベクレル/m2以上重度に汚染された地域では、コルチゾール、サイロキシン、プロゲステロンといったホルモンの機能不全に関連した性的および身体的な発達異常のある子どもが増加した(Sharapov,2001;Reuters,2000b) pp.93

 ゴメリ州チェチェルスク地区における生殖器の発達異常および性的発達異常と、地域の放射能汚染値(18万5000~295万ベクレル/m2)とには相関が見られた(Kulakov et al.,1997)  pp.93
 若い男性のインポテンツと地域の放射能汚染値には相関が認められた(Shilko et al.,1993)

ウクライナ
 汚染地域の子どもに泌尿生殖器系の疾患が増加し、1987年に1000人あたり0.8例だった発生率が2004年には22.8例になった(Horishna,2005)  pp.93

 放射能汚染地域(セシウム137で3万7000ベクレル/m2以上)の少女たちは思春期の発来が遅く(Vovk and Mysugyna,1994)、汚染地域(セシウム137で18万5000ベクレル/m2以上)に住む1017人の女児および十代の少女のうち、11%に性成熟の遅れが見られた(Luk’yanova,2003) pp.94

 ストロンチウム90とプルトニウムに汚染された地域では、思春期の発来が男子で2年、女子で1年遅れた。セシウム137で汚染された地域では性的発達の早発が見られた(Paramonova and Nedvetskaya,1993) pp.94

 ジトーミル州の汚染度の高い地域では第二次性徴の開始が遅れ、女子における第二次性徴の期間が標準より長くなっている(Sorokman,1999) pp.94

 1986年に未成年で被ばくした女性は、被ばくしなかった女性に比べて出産時の問題が著しく多い(Nyagy,2006) pp.94

 1986年に未成年で被ばくした女性が産んだ新生児は、被ばくしなかった女性が産んだ新生児に比べて身体障害の発生率が2倍に達する(Nyagy,2006) pp.94

 大惨事後8年間にわたり、汚染地域(セシウム137で18万5000ベクレル/m2以上)で1万6000人の妊婦を対象に行われた調査の結果、次のことが明らかになった。すなわち、腎疾患の罹患率が12%から51%に上昇、羊水過少症が48%、新生児の呼吸器疾患が2.8倍、早産がほぼ2倍に増加。また、妊娠30週から32週という通常より早い時期に胎盤の劣化(胎盤の老化現象)が見られた(Dashkevich et al.,1995) pp.94

 十代の少年少女における慢性腎盂腎炎、腎臓結石、尿路疾患の発生率と、居住する地域の汚染度に相関が見られた(Karpenko et al.,2003) pp.94

 汚染地域(セシウム137で18万5000ベクレル/m2以上)では月経周期障害と診断される患者が多く(Babich and Lypchanskaya,1994)、月経障害の症例数は大惨事の3倍になった。大惨事に続く数年間は月経過多が多く、5,6年後には月経の回数減少や月経停止が多かった(Gorptchenko et al.,1995)被ばくし、検診を受けた1017人の少女の14%に月経障害が見られた(Luk’yanova,2003;Dashkevich and Janyuta,1997) pp.94

 女性リクビダートルと汚染地域(セシウム137で18万5000ベクレル/m2以上)に住む女性における胎盤の発育異常や変性は、胎盤に取り込まれたセシウム137の量と相関があった。観察された変化には、胎盤の厚さの不均等や線維瘢痕形成、のう胞、石灰沈着、未梢絨毛間質の未分化、未熟な線維芽細胞などがあり、結果として新生児の低体重につながった(Luk’yanova,2003; Luk’yanova et al.,2005;Ivanyuta and Dubchak,2000;Zqdorozhnaya,1993) pp.94

 大惨事後8年から10年で、避難者と汚染地域(セシウム137で18万5000ベクレル/m2以上)の住民に、自然流産や妊娠後期における妊娠中毒症、早産その他、妊娠にまつわる異常の発生頻度が有意に増加した(Grodzinsky,1998;Golbchykov et al.,2002;Kyra et al.,2003) pp.95
 汚染地域(セシウム137で18万5000ベクレル/m2以上)に住む妊婦のうち54.1%に子癇前症、貧血、胎盤の損傷が見られた(対照群は10.3%)。78.2%は出産時に合併症と過多出血を経験したが、これは対照群の2.2倍だった(Luk’yanova,2003;Sergienko,1997,1998) pp.95

 キエフ州の重度汚染地域(セシウム137で55万5000ベクレル/m2以上)では流産が特に頻発した(Gerasymova and Romanenko,2002)。汚染地域(セシウム137で18万5000ベクレル/m2以上)では自然流産のリスクが他の地域より高い(Lipchak et al.,2003) pp.95

 重度汚染地域(セシウム137で55万5000ベクレル/m2以上)に住む少女は、流産や妊娠合併症、再生不良貧血、早産の可能性が他の地域より高い(Horishna,2005) pp.95

 大惨事に続く7,8年間、リクビダートルの約30%に性機能障害と精子の異常があった(Romanenko et al.,1995b) pp.95

 検査を受けたリクビダートルの42%で精子数が最大53%減少し、可動精子の割合が低下しただけでなく(対照群70~75%に対して35~40%)、死滅精子の数も増加した(対照群25%に対して最大70%)(Gorptchenko et al.,1995)。 pp.95

<編集者注> 

 かのチェルノブイリの国では、放射性物質の種類によって人体への危険度を考え、セシウム137、ストロンチウム90、プルトニウム238,239,240の土壌汚染それぞれ汚染度合によって、強制避難、移住、移住権利、放射線管理区域が設定されています。

 日本のようにガラスバッヂのような、不確かで定量化できないものを使った、放射線管理はしていません。

 政府が言う、年間20シーベルトの区域は空間線量3.8マイクロシーベルト/時の地域です。以下のNUMO(核のゴミの最終処分場を探していた機関) フェロー河田東海夫氏の2011年5月24日の資料では、セシウム137で重度汚染地域(セシウム137で55万5000ベクレル/m2)の空間線量率は2マイクロシーベルト/時である、と示されています。汚染地域(セシウム137で18万5000ベクレル/m2以上)の空間線量率は0.66マイクロシーベルト/時です。いずれも地上1mでの値です。年間20ミリシーベルトに福島県住民を帰還されるとはどういうことか?上記の文章をすべて、

55万5000ベクレル/m2→空間線量2マイクロシーベルト/時

18万5000ベクレル/m2→空間線量0.66マイクロシーベルト/時

放射線管理区域3万7000ベクレル/m2→空間線量0.13マイクロシーベルト/時

として、読み直してみて下さい。いかにこの原発20km圏内+高放射能汚染地帯に住民を帰還させることが「緩慢な殺人」を意味するものであるか、明らかになると思います。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

土壌汚染問題とその対応 河田東海夫(NUMOフェロー) 2011年5月24日