[解説]

 根元に25シーベルト/時、または15シーベルト/時もの放射性物質が付着している、1/2号機排気筒の最頂部が2019年9月1日切断、撤去されました。東京新聞が報道したところによれば、この120mもある1/2号機排気筒の高さ45mのところに1箇所、高さ66mのところに4箇所、計5箇所の傷んだ部分があります。

1/2号機排気筒の5箇所の傷んだ部分 こちら原発取材班 福島第一原発 傷んだ排気筒はこう解体する 2018年12月5日 東京新聞 朝刊4面

1/2号機排気筒の5箇所の傷んだ部分拡大123 こちら原発取材班 福島第一原発 傷んだ排気筒はこう解体する 2018年12月5日 東京新聞 朝刊4面

1/2号機排気筒の5箇所の傷んだ部分拡大45 こちら原発取材班 福島第一原発 傷んだ排気筒はこう解体する 2018年12月5日 東京新聞 朝刊4面

 東京電力が2013年11月21日、11月22日1/2号機排気筒の下部の線量を測定し、その結果から分析したところによれば、排気筒の下部に約25シーベルト/時(線源①)、約15シーベルト/時(線源②)がある、としています。

<参考>福島第一原子力発電所1/2号機排気筒の下部線量測定について 東京電力 2013年12月6日

福島第一原子力発電所1/2号機排気筒の下部線量測定について 線量率測定結果 2013年12月6日 東京電力 pp.3

福島第一原子力発電所1/2号機排気筒の下部線量測定について 線源における線量率の測定 2013年12月6日 東京電力 pp.4

 2019年4月25日、東京電力は今回の1/2号機排気筒解体作業を行うにあたって、排気筒内外の線量を測定し、その結果を公表しました。

<参考> 福島第一原子力発電所1/2号機排気筒解体計画について(準備作業・解体前調査の報告) 東京電力 2019年4月25日

 この中で、東京電力は排気筒の外部と内部の線量率の測定結果(ガンマ線のみしか測っていない!)から、放射能汚染の線源はセシウム134とセシウム137のみだと断定し、また、その高い線量率の原因は、排気筒内部にある放射能汚染源ではなく、1号機建屋のオペレーティングフロアからの散乱ガンマ線の影響だとしました。したがって、排気筒の放射能汚染は少ない、と断定しました。その上で、今回の1/2号機排気筒解体作業は、覆うカバーが一切なく、オープンエアで行われています。

図1 排気筒の解体前の調査結果 γ線スペクトル 福島第一原子力発電所1/2号機排気筒解体計画について(準備作業・解体前調査の報告) 東京電力 2019年4月25日

図2 1/2号機排気筒 筒身内部・外部の線量測定結果の比較 東京電力 2019年4月25日

 どんな放射性核種が舞い散る可能性があるのか、はこの資料の続編(2)で詳しくみていきます。少なくとも

セシウム137 ベータ線、ガンマ線

ストロンチウム90 ベータ線のみ

アメリシウム241 アルファ線のみ

アメリシウム243 アルファ線のみ

テクネチウム99 ベータ線のみ

プルトニウム240 アルファ線のみ

プルトニウム239 アルファ線のみ

ネプツニウム237 アルファ線のみ

セシウム135 ベータ線のみ

が1/2号機排気筒内部に付着しているはずです。なぜ、ガンマ線スペクトル分析でセシウム137だけしか検出されなかったのか?それは、上記にあるように、以下は一切、ガンマ線を出さないからです。

ストロンチウム90 ベータ線のみ

アメリシウム241 アルファ線のみ

アメリシウム243 アルファ線のみ

テクネチウム99 ベータ線のみ

プルトニウム240 アルファ線のみ

プルトニウム239 アルファ線のみ

ネプツニウム237 アルファ線のみ

セシウム135 ベータ線のみ

 すなわち、東京電力の言う「セシウム137しか検出されなかった」は虚偽説明であり、「アルファ線核種、ベータ線核種が大量に排気筒内部に付着している可能性が極めて高い」が「ガンマ線核種しか測定していない」のが正しい、説明です。

 また、「1号機オペレーティングフロアからの散乱ガンマ線が、排気筒の線量率の原因」との東京電力の説明には笑うしかありません。よくもそんなウソがシャアシャアと言えるな、という感想を持ちました。

 確かに、上記 図2 1/2号機排気筒 筒身内部・外部の線量測定結果の比較 東京電力 2019年4月25日 のグラフを見ると、下部からのガンマ線の影響を強く受けている印象を受けます。しかし、不思議なことにこの1/2号機排気筒の外部線量の測定結果、60m以上、上しかありません。

図3 排気筒の解体前の調査結果 外部線量測定結果 福島第一原子力発電所1/2号機排気筒解体計画について(準備作業・解体前調査の報告) 東京電力 2019年4月25日

 なぜ、60m~120mの線量の測定結果は公表し、0~57mの線量の測定結果は公表できないのか?それは、排気筒の線量の原因が、1/2号機排気筒の下部の線源①や線源②、いやそれだけではなく、シーベルト/時単位の線源があるからではないでしょうか。原因は1号機建屋のオペレーティングフロアではありません。

 上記、図2「1/2号機排気筒 筒身内部・外部の線量測定結果の比較 東京電力 2019年4月25日」のデータを手で打ち込みなおし、高さ0mからのグラフに直してみました。

図4 1/2号機排気筒 外部γ線量率 mSv/h 2019年4月13日、4月18日 東京電力測定

 ガンマ線の線量は、距離の二乗に反比例して減衰していきます。この逆二乗の法則から求めた線量率が、上記グラフに重なるようにするためには、地表0mに1000ミリシーベルト/時の線源がないといけません。地表0mに1000ミリシーベルト/時の線源があるとした場合の計算値のグラフが以下です。

図5 1/2号機排気筒 外部γ線量率 mSv/h 地上0mでの線量率を1000mSv/hとし、逆二乗の法則から求めた計算値 川根眞也

 これが正しいとするならば、地表に1000ミリシーベルト/時、すなわち、1シーベルト/時の線源があることになります。しかし、東京電力が2018年7月23日~8月2日に1号機建屋のオペレーティングフロアの線量調査を行った結果は、もっとも高い使用済み核燃料プール(SPF)周辺の崩落屋根の下でさえ、40~80ミリシーベルト/時だった、と報告しています。→1号機オペレーティングフロアの線量は高くて40~80ミリシーベルト/時

図6 福島第一原子力発電所1号機オペレーティングフロア調査結果について 東京電力 2018年9月6日

<参考>福島第一原子力発電所1号機オペレーティングフロア調査結果について 東京電力 2018年9月6日

 すなわち、1号機建屋オペレーティングフロアには、1000ミリシーベルト/時の線源はありません。すると、どこに1000ミリシーベルト/時の線源があるのでしょうか?論理的な結論は原発事故から8年と6か月手つかずのままになっている、1/2号機排気筒の下部にある放射能汚染源が1000ミリシーベルト/時である、と考えざるを得ません。1号機、2号機のベントの時に、核燃料デブリそのものが付着していると考えるべきです。また、上記の図4「1/2号機排気筒 外部γ線量率 mSv/h 2019年4月13日、4月18日 東京電力測定」のグラフをていねいに見ると分かるように、ところどころ線量が跳ね上がっているところは、下部の放射能汚染源とは別の放射能汚染源が付着している、と考えるべきです。0.01ミリシーベルト/時上がるということは10マイクロシーベルト/時も上がるということです。とんでもないそこに汚染がある、ということです。

 1/2号機排気筒をオープンエアで解体するべきではありません。セシウム137だけではなく、以下の放射能が環境中にばら撒かれるからです。東京電力はただちに作業を中断し、遮へいを行った方法での解体作業に切り替えるべきです。

セシウム137

ストロンチウム90

アメリシウム241

アメリシウム243

テクネチウム99

プルトニウム240

プルトニウム239

ネプツニウム237

セシウム135

 ちなみに、上記の資料「福島第一原子力発電所1号機オペレーティングフロア調査結果について 東京電力 2018年9月6日」によれば、1号機建屋オペレーティングフロアにばら撒かれた瓦礫の粒子の92%が0.3~0.5マイクロメートル以下の粒子でした。PM2.5とは「2.5マイクロメートル以下の粒子」ということです。したがって、この0.3~0.5マイクロメートルの粒子は、北京からの黄砂がPM2.5となり、日本の東京まで2100km飛んで来るように、この1/2号機排気筒の放射能(主にベータ線核種とアルファ線核種)は、風向きと雨雲次第で日本全土どこにでも運ばれてきます。それどころか、北半球を回ることでしょう。

図7 オペレーティングフロア粒径分布測定結果 福島第一原子力発電所1号機オペレーティングフロア調査結果について 東京電力 2018年9月6日

 繰り返します。東京電力はただちに作業を中断し、遮へいを行った方法での解体作業に切り替えるべきです。