国際放射線防護委員会(ICRP)の理論が、日本の放射線医学総合研究所の放射線防護理論のすべてであり、日本政府、福島県をはじめとする自治体の市民の放射線防護の基本となっています。「これくらいの被ばくで鼻血が出ない」というのも、もともとは国際放射線防護委員会(ICRP)の外部被ばくによる放射線の確定的影響のデータから言っていることに過ぎません。ホット・パーティクルが鼻腔に着いた場合の議論を、そもそも国際放射線防護委員会(ICRP)はしていないのです。

 twitterで美澄博雅‏さん(@hiroma_misumi)が2019年2月24日に書かれていました。国際放射線防護委員会(ICRP)は、組織への放射線の照射が均等ではなく、不均等の場合(例えばホット・パーティクルのよる照射)も検討していた、が、これを無視できると結論していた、と。

 以下(2つのグラフの後)が、問題の国際放射線防護委員会(ICRP)のパブリケーション26(1977年1月17日勧告)の記述です。被ばくした細胞だけではなく、その周りの細胞に影響を与える、バイスタンダー効果を考えるとき、この国際放射線防護委員会(ICRP)の理論は破綻しています。

 被ばく線量とガン死などの健康被害とが直線の比例関係にあるとする、しきい値なし直線線量応答理論(LNT理論)を国際放射線防護委員会(ICRP)は採用しています。しかし、実際の被ばく者を観察してみると、低線量域の被ばくによる健康被害がLNT理論では説明できないほど、多いのです。国際放射線防護委員会(ICRP)はLNT理論を持ち出して「これは放射線被ばくが原因ではない」と言います。しかし、バイスタンダー効果を考慮すると、ブルラコワーバスビーの二相性線量応答理論が正しいように思います。低線量でこそ、放射線被ばくによる健康影響は大きくなり、ある程度高い線量と同じくらいになることもある、という理論です。

 すなわち、広島、長崎の被爆者のガン死(100ミリシーベルトを超える高線量の被ばく)を持ち出して、そこから比例関係で、東電福島第一原発事故の被ばく者の健康被害を議論することは、決定的に誤りです。簡単にいうと、数ミリシーベルト程度では健康被害が出ない、と言う結論になります。しかし、低線量で被ばく影響が極端に大きくなる、ブルラコワーバスビーの二相性線量応答理論では、こうした数ミリシーベルトでの健康被害がありうる、と考えることができるのです。

 最後に、長崎の被爆者の腎臓 プルトニウムが出すアルファ線(七条和子 2009年8月7日)を紹介します。これは亡くなった広島、長崎の原爆被ばく者の臓器片を、原爆攻撃から60年以上経ってから七条和子氏らが観察したものです。肺だけでなく、腎臓などさまざまな臓器に蓄積したプルトニウムが被ばくから60年経ってもアルファ線を出している様子です。この影響は、国際放射線防護委員会(ICRP)のしきい値なし直線線量応答理論(LNT理論)では説明できません。そもそも、ホット・パーティクルによる影響を無視して、臓器に均等に放射線物質が沈着し、それによる放射線しか考えていないのです。不均等被ばくを無視した理由が以下、パブリケーション26(1977年1月17日勧告)に書かれています。

 原爆被爆者は、1つの原発部位からガンが発生するのではなく、同時多発的にさまざまな臓器のガンを発症する、多臓器ガンの健康被害を受けています。このホット・パーティクルがその多臓器ガンの原因ではないでしょうか。東電福島第一原発事故でも、これから同じことが起こるのではないでしょうか。

図 国際放射線防護委員会(ICRP)が採用している、しきい値なし直線線量応答理論(LNT理論)

図 ブルラコワーバスビーの二相性線量応答理論

資料 国際放射線防護委員会(ICRP)のパブリケーション26(1977年1月17日勧告)の記述

(33) 組織の照射が不均等な場合,もし,個々の細胞への線量がその組織に対する線量一効果関係を直線と見なすことのできる線量の範囲以上に広範囲に異なるならば,組織全体にわたる平均線量の使用は厳密には妥当でなくなる放射性粒子による肺の照射はこの一例であろう。しかし,理論的な考察と利用できる疫学的な証拠に基づき,委員会は次のように信じている。すなわち,晩発性の確率的影響に対しては,一定量の放射線エネルギーの吸収は,これが均等に分布しているときよりも一連の“ホット・スポット”によるときの方(つまり、ホット・パーティクルによる被ばく)が普通は効果が小さいようである。なぜなら,大線量は細胞の再生能力の喪失あるいは細胞の死を引き起こす効果があるからである。したがって,ある組織中の粒子状の放射線源について,均等線量分布を仮定してリスクを算定すると,おそらく実際のリスクを過大に評価するであろう。さらに,非確率的影響に対しては,中程度の線量レベルで起こるかもしれない細胞喪失の量ぐらいでは器官の機能低下を起こすことはほとんどありそうにない。

ICRP pub26 pp.28,29 日本語訳 日本アイソトープ協会 発行 財団法人 仁科記念財団 より

(注)赤字、及び(赤字)は編集者

写真 長崎の被爆者の腎臓 プルトニウムが出すアルファ線 七条和子 2009年8月7日