拝啓、福島民友新聞さま。拝啓、福島民報社さま。

 東京新聞が独自の情報公開請求に基づき、福島県民の初期被ばくの事実と、日本政府関係者の内部被ばく隠ぺい、過小評価、放射能と健康被害の関連の否定に次ぐ否定を行っていたことを報道しています。

 そもそも、どの新聞であれ、市民の立場に立ち、真実を追求し報道する役割を持っています。しかし、それでもこの東京新聞の報道は素晴らしいものです。

 翻って、福島民友新聞さま。福島民報社さま。貴社は福島県の地方新聞であり、多くの福島県民に愛されている新聞です。その貴社の報道は、今でも、山下俊一氏や早野龍五氏、坪倉正治氏など「甲状腺の専門医」や「放射線の専門家」あるいは「東京大学」の名の下に、「これくらいの放射能は安全だ」という記事で満ち溢れています。いまのままの報道姿勢でいいのでしょうか?

 2019年2月19日付け、東京新聞朝刊21面は、2001年8月原子力安全委員会では、「チェルノブイリでは50ミリシーベルトの甲状腺被ばくでもがんが増えたと言われる」、ヨウ素剤の(予防)服用は「米国で『50ミリシーベルトで服用』を採用する動きがある」、ところが「被ばく医療分科会の会合で、(突然)服用基準から50ミリシーベルトが削除され、100ミリシーベルトになった」との鈴木元氏(国際医療福祉大学教授)の発言を紹介し、「行政の圧力に寄り倒された」と当時ヨウ素剤検討委員会委員だった、前川和彦氏(東京大学名誉教授)の発言を紹介しています。ちなみに、当時ヨウ素剤検討会の主査が山下俊一氏(長崎大学)であったとも紹介されています。

 2011年3月21日、この山下俊一氏は福島県福島市の福島県庁に置かれていたオフサイトセンター(OFC)で「小児の甲状腺被ばくは深刻なレベルに達する可能性がある」と述べた後、2時間後の福島市民向け講演会では「(放射線による健康被害は)心配いらないと断定する」「放射線の影響はニコニコ笑っている人には来ません」と発言していました。これも、東京新聞が2019年1月28日朝刊1面で報道したことです。

 福島民友新聞さま。福島民報社さま。貴社には、福島県民の気持ちに沿い、真実を追求する記事を書いてほしいと思います。もう、政府関係者のうその「これくらいの放射線は安全です」という記事はいりません。チェルノブイリ現地の被害状況については、衆議院が2011年10月5日から13日にかけて超党派13名を派遣して書かれた報告書“チェルノブイリの長い影~チェルノブイリ核事故の健康被害~”を是非、お読み下さい。この調査団の報告書は、国会が派遣したにもかかわらず、あまりにも深刻な健康被害が記されているため、未だに出版されていません。さらに、現時点ではインターネット上で削除されているものです。以下からダウンロードできます。

チェルノブイリの長い影~チェルノブイリ核事故の健康被害~ 

 ここでは、チェルノブイリ原発事故の放射能の被害を受けた人々の罹患率は、小児だけではなく、大人も増えていることが記されています。1987年(チェルノブイリ原発事故の翌年)に10,000人あたり1,372人だった罹患率は、その17年後の2004年には10,000人あたり5,732人と4.2倍になったことが報告されています。

 子どもの罹患率は、1987年(チェルノブイリ原発事故の翌年)に10,000人あたり455人だった罹患率が、その17年後の2004年には10,000人あたり1,423人と3.1倍になったことが報告されています。

また、アレクセイ・V・ヤブロコフ博士他『調査報告チェルノブイリ被害の全貌』岩波書店2013年4月25日も是非とも読むべき本です。

 

  この本が重要なのは、国際放射線防護委員会(ICRP)や国際原子力機関(IAEA)、国連科学委員会(UNSCEAR)が研究論文として採用していない、ロシア語、ウクライナ語、ベラルーシ語などのスラブ系言語の文献、論文5000点以上の資料をまとめたものだからです。アメリカを頂点とする核兵器開発、原発開発、放射線医療推進の経済的団体は、チェルノブイリ原発事故がたいしたものではないかのように、あの手この手で市民をだまそうとしています。チェルノブイリ原発事故の被害の実相は、国際放射線防護委員会(ICRP)や国際原子力機関(IAEA)、国連科学委員会(UNSCEAR)の研究からは分かりません。これら被害現地の研究論文をすべて無視しているからです。放射線による健康被害についての論文は、すべてmSv(ミリシーベルト)と健康被害との関係に比例関係がないと、国際的な学術誌には掲載されない仕組みを、彼らが作り上げています。しかし、人間は部品の集まりのロボットのような存在ではありません。被ばく線量mSv(ミリシーベルト)と健康被害との関係に比例関係がないものばかりです。そもそも、初期被ばくの被ばく線量mSv(ミリシーベルト)は測定されていません。原発事故後の被ばく線量も、外部被ばくだけでは説明がつかない健康被害ばかりです。また、内部被ばくはそもそも測りようがありません。ストロンチウム90やウラン、プルトニウム239などは、ベータ線やアルファ線しか出さず、ガンマ線を出さないため、ホールボディーカウンターでは測れないからです。死後に死体を解剖し、骨からストロンチウム90を、各種臓器のスライド片からウラン、プルトニウム239の出すアルファ線を見つけるしかありません。国際放射線防護委員会(ICRP)や国際原子力機関(IAEA)、国連科学委員会(UNSCEAR)は、こうした人間の解剖学的な研究結果や、健康被害の疫学調査を無視した、原子力推進に都合がいい研究論文のつまみ食いしかしていません。

 その原子力推進の学術研究の中心人物の1人が山下俊一氏です。

 福島民友新聞さま。福島民報社さま。山下俊一氏について、特集記事を書きませんか。山下俊一氏の発言やさまざまな「放射線の専門家」たちの言説を報道してきた、責任がみなさんにはあると考えます。

 また、今回の東京新聞の記事では、放射線医学総合研究所の理事、明石真言氏が、「福島県で疫学調査は必要性が薄い」と進言したことが報道されています(2019年2月19日付け、東京新聞朝刊20面)。そもそも、放射線医学総合研究所は、第五福竜丸が米水爆実験で被曝したビキニ事件をきっかけに1957年に設立されました。元乗組員の健康診断をしています。しかし、この放射線医学総合研究所は、かつての広島、長崎に設置されたABCC(アメリカ原爆障害調査委員会)と同様、ヒバクシャの調査研究はしますが、治療はしない機関です。第五福竜丸の乗組員23名のうち、1955年以降生き残った22名は、放射線医学総合研究所で毎年1回健康診断を受けていますが、うち12名の乗組員が肝臓がん・肝硬変をわざと見逃しにされたまま、それが原因で亡くなっています。

参考:放射線医学総合研究所の実態は、ヒバクシャの調査・研究。放射線防護や治療ではない

 

  以下、東京新聞の記事、全文を紹介します。福島民友新聞さま、福島民報社さまの今後の報道姿勢を再検討する資料にしていただければ幸いです。

福島原発事故で放医研理事 官邸に「疫学調査不要」 国が見送る一因に
2019年2月18日 東京新聞 朝刊 1面

東京電力福島第一原発事故後の二〇一一年四月、国の研究機関・放射線医学総合研究所(放医研)の明石真言(まこと)理事が福山哲郎官房副長官(当時)に、住民の疫学調査は不要と進言していたことが分かった。原発事故の疫学調査では一般的に、多発が心配される甲状腺がんの患者数や分布を調べ、放射線の影響を分析する。しかし、国は本格的な調査に乗り出さず、福島県が「県民健康調査」を始めた。(榊原崇仁)=結論ありき まん延<20><21>面

 甲状腺がんの原因となる甲状腺内部被ばくの測定も、国は千八十人で終えていた。明石氏はこの測定を問題視しなかった上、甲状腺がんの状況も調べなくてよいと提案したことになる。

 本紙は、同年四月二十六日に明石氏らが福山氏と首相官邸で面会し、住民の被ばくについて説明した会合の議事概要を情報開示請求で得た。文部科学省が作成し、放医研が保有していた。

 それによると、経済産業省の幹部が「論点として疫学調査の必要性の有無があろうが…」と切り出し、明石氏が「住民の被ばく線量は最も高くても一〇〇ミリシーベルトに至らず」「(疫学調査は)科学的には必要性が薄い」と述べていた。

 明石氏は現在、量子科学技術研究開発機構執行役。取材に応じ、「健康影響が確認できる基準は一〇〇ミリシーベルトと理解していたが、外部被ばくは原発の正門付近の空間線量からそこまでにならないと判断した。甲状腺の内部被ばくは国の測定で線量が高い人でも五〇ミリシーベルト、一〇〇ミリシーベルトにならなかったはず」と説明。「必要性が薄い」と判断した理由に、平常時との差が確認できるほど病気が増えると考えにくかったことを挙げた。

 放医研は文科省所管で一九五七年に発足した。緊急被ばく医療体制の中心的機関として位置付けられ、福島の事故では官邸や各省庁の助言役として活動。国が疫学調査をする場合は、実施主体になる可能性があった。国がこの調査をしなかったのは、放医研が否定的だったことが影響したとみられる。

こちら特報部 背信の果て(5)(下) 「50ミリシーベルトでもリスク」突然却下 「行政的圧力に寄り倒された」
東京新聞 2019年2月19日 朝刊21面

そもそも健康調査が不要とまで言えたのか。

 国の公表資料や明石氏らの説明によれば、甲状腺の内部被ばくで一〇〇ミリシーベルトを、がんが増えうる目安にしていた。国が一一年三月下旬に行った測定ではそこに達する子どもがいなかったため、「被ばく線量は小さい」「健康調査を行うまでもない」と判断されてきたようだ。

 しかし、国の測定は、対象地域が原発から遠い三十キロ圏外で、調べたのも千八十人だけ。地域的に偏りがあり、数が少ない。被ばくの全容は分からない。

 そもそも一〇〇ミリシーベルトも注意が必要。福島県が行っている健康調査に携わる国際医療福祉大の鈴木元(げん)・教授が重要な指摘をしている。

 時は二〇〇一年一月までさかのぼる。長く勤めた放医研を離れ、原爆放射線の影響を調べる「放射線影響研究所」にいた鈴木氏は、原子力安全委員会(原安委)の会合で「チェルノブイリでは五〇ミリシーベルトの甲状腺被ばくでもがんが増えたと言われる」と紹介する文書を示した。

 鈴木氏は「ピーター・ヤコブというドイツ人の研究者がいて、学術雑誌の『ネイチャー』なんかで現地の話を書き、五〇ミリシーベルトでもリスクがあると分析していたから」と振り返る。

 〇一年は茨城県東海村の臨界事故の翌々年。防災体制の見直しが進んでいた。原安委の会合では、甲状腺被ばくを抑える安定ヨウ素剤の服用基準を議論していた。鈴木氏は「がんは五〇ミリシーベルトでも増える」と考え、この値になりそうな場合は服用するという手順を提案しようとしていた。

 公表資料によると、原安委は〇一年八月、本格的に服用基準を協議する「ヨウ素剤検討会」を始めた。委員の鈴木氏は、米国で「五〇ミリシーベルトで服用」を採用する動きがあると説明。年末に事務局が示した提言案に五〇ミリシーベルトが盛り込まれた。

 しかし二週間後にあった上部会合の被ばく医療分科会で突然、服用基準から五〇ミリシーベルトが削除され、一〇〇ミリシーベルトになった。屋内退避基準の下限と同じ値だった。

 鈴木氏は反発したが、そのまま〇二年四月に提言はまとめられ、国の指針に反映された。ただ、同時期にあった原安委の別会合の議事録を見ると、ヨウ素剤検討会に名を連ねた前川和彦・東京大名誉教授が一連の経過に触れ、「行政的な圧力に寄り倒された」と述べたことが記されていた。

 「よう分からん。科学者が関わる話じゃない」。何があったか鈴木氏に聞くと、こう述べるだけだった。

 ちなみにヨウ素剤検討会の主査は長崎大の山下俊一教授だった。福島原発事故からまもない一一年三月下旬、専門家に「避難指示区域内の被ばくは考慮すべきだ」と見解を示した一方、一般向けの講演で「放射線の影響はニコニコ笑う人に来ない」と話した人物だ。

 ヨウ素剤の服用基準は、がんが増えうる目安としても使われた。ただ、実は一二年三月、原安委は国際的な動向を踏まえ「服用基準は五〇ミリシーベルトが適当」と記した文書をまとめていた。

 後継組織として同年九月にできた原子力規制委員会は国の指針にそう書き込んでいない。甲状腺被ばく線量で服用基準を記さず「規制委が必要性を判断」などとなっている。がんの判断基準を曖昧にしたいのだろうか。

 鈴木氏は規制委の会合でも「がんは五〇ミリシーベルトでも増える」と訴えてきた。微妙な成果が、事務方のまとめた文書の目に付きにくい場所に残されている。具体的には、ヨウ素剤服用の解説書にある付属資料。甲状腺がんの用語説明として、こう記される。

 「甲状腺等価線量で五〇~一〇〇ミリシーベルト以上の場合、がんが発生する可能性がある」