埼玉県さいたま市は、福島県南会津町に「舘岩少年自然の家」(福島県南会津郡南会津町宮里字向山2847-1)を保有しています。さいたま市の103小学校と57中学校は、児童または生徒を連れて、夏または冬に校外学習に行きます。子どもたちの内部被ばくは大丈夫なのでしょうか。

 「舘岩少年自然の家」の空間線量率を測定すると、特にエントランスが非常に高く、0.23マイクロシーベルト/時を超えるときがあります。しかし、川根の実地調査では、どうやら、ここには「木賊温泉(とくさおんせん)」があり、そこから出てくる自然放射能ラドンなどの影響で、空間線量率が高いことがわかりました。

 一般に、ラドン温泉では、空間線量率が0.23マイクロシーベルト/時を超えることがままあります。岐阜県中津川市にある「ろうそく温泉」は日本一のラドン含有量を誇りますが、ここは場合によると0.43マイクロシーベルト/時にもなります。しかし、人工放射能であるセシウム134はND(検出下限0.28ベクレル/kg)、セシウム137もND(0.31ベクレル/kg)です。しかし、空間線量率は0.43マイクロシーベルト/時にも上がり、また、ベータ線17cpmまで上がりました。これらの原因はつまり、自然放射能です。

 

 南相馬市のベテランママの会、番場さちこ氏などは、空間線量率だけを比較して、「ここ福岡市は私の南相馬市の空間線量率と同じ。南相馬市は安全です。」と講演で話しています。

(番場さち子氏は)持参した放射線量計で(福岡市の)会場を測定し、福島第1原発から23キロにある南相馬市の馬場さんの事務所の毎時0・12マイクロシーベルトを上回る毎時0・14マイクロシーベルトを観測したという。『福島のお嬢さんが結婚できないなどの風評被害をなくしたい。事実は皆さんの捉え方次第だが、現実を淡々と伝えていきたい』と話した。」

ーくらしQ はじめての福島学 「忘れずにいることが支援」 九州 毎日新聞 2016年8月17日 

 そもそも、空間線量率で、被ばく影響をおし測ることそのものがおかしいです(立命館大学名誉教授の安斎育郎氏も同様ですが)。天然ウランを多く含むペグマタイトなどの岩石が多いところでは、その自然放射能による空間線量の上昇率が大きいからです。福岡県には安宅鉱山(あたかこうざん,川崎町安宅小峠)や竜円鉱山(たつえんこうざん,川崎町真崎)などのウラン鉱山があります(現在は閉山)。だから、空間線量率も高くなることがあるのです。しかし、東電福島第一原発が放出した、セシウム134、セシウム137、ストロンチウム90などは微量です。

 一方、南相馬市はウラン鉱山などもなく、自然放射能が極めて低いにもかかわらず、東電福島第一原発が放出した、セシウム134、セシウム137、ストロンチウム90などが多量にあります。プルトニウム239による汚染も疑われています。

 福岡市の空間線量率はもともと高いもの。しかし、人工放射能による汚染は非常に少ないです。南相馬市はもともと空間線量率は低いのが、現在はもとの自然放射能の3倍以上になっています。南相馬市原町区などは10倍以上にもなっています。健康影響は、人工放射能の影響が決定的に重大です。自然放射能は人体がためようとせず、積極的に排泄するからです。一方、人工放射能(セシウム134,セシウム137,ストロンチウム90,プルトニウム239など)と、地球上の生命が付き合い始めたのは、アメリカの原爆開発からに過ぎません。1942年にアメリカは核兵器を開発するために、原発を作り、そして、プルトニウムを生産し始めました。つまり、人類がこれら人工放射能と付き合い始めたのはたかだか76年ほど。人体に入った人工放射能は積極的に排泄する機能がないため、人体の各臓器で濃縮し、沈着します。同じ、ベータ線、ガンマ線を出す放射性物質と言えども、特定の臓器にたまらず、また、平均的に薄く広く広がるカリウム40は、健康への影響は極めて少ないのです。一方、カリウムと似た化学的性質を持つ、放射性セシウムはそもそも微粒子となって呼吸器から取り込まれたり、食品のごく一部に付着する、または、植物の根によって吸収された場合は、稲の場合、①茎、②穂軸、③葉身・止葉、④小穂の順にたまりやすさが違います。これはカリウム40には見られないことです。人間の場合、大人では体内にカリウム40はおよそ4000ベクレルありますが、どんなにバナナを食べ過ぎても、この4000という値を超えて、どんどん増えていくことはありません。しかし、放射性セシウムの場合は放射能汚染されたものを食べ続ければ、当初は4000でも1万、2万と増えていきます。ここが、自然放射能カリウム40との決定的な違いです。ちなみに2012年夏、川俣町で自家製野菜を食べていた(しいたけが14万ベクレル/kgであった)男性の体に2万ベクレルほどの放射性セシウムが蓄積していました。彼は翌年の夏、突然死をしています。万の単位で放射性セシウムが蓄積すると死の危険があります。ベラルーシの経験では成長期の子どもたちのからだに数百ベクレル蓄積すると、子どもたちはみな病気になります。繰り返しますが、自然放射能カリウム40ではこのような突然死や病気は起きません。

 番場さち子氏は詐欺師と呼ばれても仕方がないでしょう。安斎育郎氏も。また、早野龍五氏も、福島、フランス、ベラルーシの高校生にDシャトルという線量計を身につけさせて、生活の中での外部被ばくを測り、「福島での生活も海外での被ばくと同じ」という結論を出させています。「科学」を装った、詐欺です。

東京大学基金 早野龍五教授からの活動報告4 Dシャトル・プロジェクトについて

 

 さて、さいたま市の小中学生は福島県南会津村の「舘岩少年自然の家」に行く際には、4時間近くバスの乗るために、途中の那須塩原でトイレ休憩をしなくてはなりません。川根はその那須塩原市の道の駅 湯の香しおばらの空間線量率が異常に高いことを計測し、校外学習でトイレ休憩をここで取る際には、生徒も職員も全員マスクを着用することを提案し、毎回、了承されてきました。

 今回、道の駅の看板下の土壌を採取、分析にかけたところ、セシウム134が200ベクレル/kg,セシウム137が1900ベクレル/kg検出されました。放射性セシウム合計 2100ベクレル/kgです。これは「放射線管理区域」をはるかに超える数値です。以下、放射線障害防止法令にあたってみると、以下のようになります。ちなみに、土壌汚染(ベクレル/kg)を土地汚染(ベクレル/m2)に換算するには65倍します(2011年5月7日原子力安全委員会の回答)。那須塩原市の道の駅の看板下の土壌は、2100×65=13万6500ベクレル/m2に相当します。

<放射線障害防止法令による管理区域の規定・作業室での使用基準>

「管理区域」の規定―ガンマ線・ベータ線核種 4Bq/cm2  → 4万Bq/m2を超える(那須塩原市道の駅13万6500ベクレル/m2)

            アルファ線核種   0.4 Bq/cm2 → 4000Bq/m2を超える

     (放射線障害防止法施行規則第1条 用語の定義)

     「管理区域」では 

①「管理区域の境界には、柵その他人がみだりに立ち入らないようにするための施設を設け、かつ、それに標識を付すること」

(放射線障害防止法施行規則第14条の7-8 使用施設の基準)

※    道の駅湯の香しおばらの看板付近には、柵もなく、生徒が自由に触れる状態になっていました。誰もそこが危険だと思っていませんでした。

     ②「密封されていない放射性同位元素の使用は作業室で行うこと」

(放射線障害防止法施行規則第15条の1-2 使用の基準)

※    道の駅湯の香しおばらの看板の下の土壌の放射性物質はむき出しで風に舞い散る状態。「密封されていない放射性同位元素」に相当します。したがって、この道の駅湯の香しおばらの場所は「作業室」に相当します。

  ③「作業室での飲食及び喫煙は禁止すること」

(放射線障害防止法施行規則第15条の5 使用の基準)

※    道の駅湯の香しおばらの看板付近でたばこを吸っている職員もいました。風で舞い散る中、トイレで水を飲む生徒も。

    ④「作業室又は汚染作業室内の人が触れる物の表面の放射性同位元素の密度は、その表面の放射性同位元素の汚染を除去し、又はその触れる物を廃棄することにより、表面密度限度を超えないようにすること」

(放射線障害防止法施行規則第15条の6 使用の基準)

  「表面密度限度」の規定―ガンマ線・ベータ線核種  40Bq/cm2 →  40万Bq/m2

              アルファ線核種       4 Bq/cm2 →  4万Bq/m2

     (放射線障害防止法施行規則第1条の13 用語の定義)

   ※道の駅湯の香しおばらにおいて、放射性物質は何も管理されていませんでした。走って転んでも、手を払うだけ。除染などしませんでした。

  ⑤「作業室においては、作業衣、保護具等を着用して作業し、これを着用してみだりに作業室から退出しないこと。」

(放射線障害防止法施行規則第15条の7 使用の基準)

   ※道の駅湯の香しおばらでのトイレ休憩では、教員も生徒も、ジャージ、スキーウェアで歩き回り、そのままバスに乗りました。

    ⑥「作業室から退出するときは、人体及び作業衣、履物、保護具等人体に着用している物の表面の放射性同位元素による汚染を検査し、かつ、その汚染を除去すること。」

(放射線障害防止法施行規則第15条の8 使用の基準)

   ※原発では右のような測定器で、手、服、履物の汚染をチェックします。道の駅湯の香しおばらでは、トイレからバスに戻るときに何もしませんでした。

  ⑦「放射性汚染物で、その表面の放射性同位元素の密度が原子力規制委員会が定める密度を超えているものはみだりに管理区域から持ち出さない。」

(放射線障害防止法施行規則第15条の10 使用の基準)

   ※「原子力規制委員会の定める密度」―ガンマ線・ベータ線核種 4Bq/cm2→4万Bq/m2

                    アルファ線核種    0.4 Bq/cm2→4000Bq/m2

   ※道の駅湯の香しおばらでは、トイレからバスに戻るときに靴底に、「原子力規制委員会の定める密度」を超える土がついていた可能性が十分にあります。

道の駅湯の香しおばら内看板アグリパス塩原の下の土壌採取

 空間線量 0.24マイクロシーベルト/時 ベータ線 8cpm

 土壌採取時 2018年2月19日14:35pm

 採取者:川根眞也

 土壌分析結果 セシウム134  200Bq/kg

 (別紙)   セシウム137 1900Bq/kg

    放射性セシウムだけで2100Bq/kg

    土壌1kgの放射能汚染(Bq/kg)から土地の放射能汚染(Bq/m2)は65倍する。

              2100(Bq/kg) × 65 = 13万6500 (Bq/m2)

※ 「管理区域」4万ベクレル/m2の3倍を超えます。この土は持ち出し禁止です。川根は放射線障害防止法施行規則第15条第10項違反をしたことになります。さいたま市立A中学校の職員および生徒も、靴底に放射能汚染された土をバスも持ち込んでいるので、職員および生徒も同様に法令違反をしたことになります。

 さいたま市教育委員会は、福島県南会津村の「舘岩少年自然の家」の利用もそうですが、那須塩原市の道の駅湯の香しおばら、など、「管理区域」「作業室」に相当する場所に児童・生徒を連れていくのを中止するべきではないでしょうか。また、栃木県日光市、群馬県赤城も同様です。放射能で汚染されて地域に住む子どもたちだからこそ、放射能汚染のない(または少ない)場所に保養を兼ねた校外学習を行うべきだと思います。