「3.11甲状腺がん子ども基金」が35人に初の療養費を給付しました。2016年12月26日に記者会見で発表しました。「手のひらサポート」として、1人10万円の療養費を給付するものです。また、甲状腺がんが肺に転移し、RI治療(アイソトープ治療)を受けることになった患者さんには追加10万円(合計20万円)を支給するものです。今回、給付となったのは35人。地域は、福島県26人、神奈川県3人、宮城県1人、群馬県1人、千葉県1人、埼玉県1人、長野県1人、新潟県1人。

 3.11甲状腺がん子ども基金 申請、問い合わせは、フリーダイヤル0120ー966ー544へ

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 手のひらサポート(療養費給付事業) 第1期募集要項は、上記webをご覧下さい。

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 OUR PLANET TV 白石草さんが、2016年12月26日の記者会見を報道されています。感謝しつつ、「3.11甲状腺がん子ども基金」の記者会見の内容を文字おこしします。ただし、注釈が必要な場合は、川根が随時、言葉を足していますので、記者会見の文言そのままではありません。編集責任は川根眞也にあります。

OUR PLANET TV 甲状腺がん・福島県外で重症化〜基金が初の療養費給付 2016年12月26日 08:28

 2016年12月1日から受け付けを開始し、12月15日までに書類申請を受けつけ、36人から申請がありました。今回、うち35人に給付を決定しました。(1名の方は、穿刺細胞診の結果、良性であったとの診断を受けた方なので、今回の給付の要件に合わなかった。)また、電話での問い合わせは60件ありました。それ以外にも、インターネットでのダウンロードもあるので、かなり多くの方が申請のための問い合わせをされました。(崎山比早子 代表理事)

 特に、福島県外の3名の方が、RI治療(アイソトープ治療)を受けなくてはならない患者さんでした。福島県外の患者の症例では、① 腫瘍径が大きかったり、② 肺転移していたり、重症化しているケースが非常に目立ちます。自覚症状があってから受診したために、がんの発見が遅れたためだと思われます。環境省の「東京電力福島第一原子力発電所事故に伴う住民の健康管理のあり方に関する専門家会議」が2014年12月22日「中間取りまとめ」を発表し、福島県外の甲状腺検査について、必要ないと結論を出し、また、福島県の県民健康調査においても、検査の縮小の方向を打ち出しています。今回の甲状腺がんの患者から福島県内外からの申請を考えると、こういう方向性には大きな疑問が残ります。(海渡雄一弁護士 副代表理事)

 一部の自治体で、助成金を出すなどの方法で甲状腺検診の支援を行っていますが、これからもこの取り組みは是非拡大していっていただきたい。しかし、これだけではすでに不十分なのではないか。ヨウ素131が流れていった地域全体で国が包括的な甲状腺検査体制を敷く必要があるのではないか。ヨウ素131の濃度で見ると、会津若松市よりも宮城県や茨城県、東京都、神奈川県などのほうが濃い地域があります。明らかに線量の高い地域があります。会津若松市でも小児甲状腺がんの子どもが出ているわけですから、こうした福島県外の地域に甲状腺検査体制を拡大することは必要が高い施策であると思います。(海渡雄一弁護士 副代表理事)

 申請された方がたまたまそうだったのかもしれませんが、申請された方に男性の方が多かった。通常甲状腺がんは女性が罹りやすいとされ、男性:女性では1:3から1:7くらいまでの臨床データがあります。今回の基金への申請は男性:女性が1:2の比率で、明らかに男性の比率が多かったです。そして、男性の患者さんは、より低年齢で、より重症化している、という印象があります。これは、通常の甲状腺がんの発症とは異なる発症パターンがあるのではないか。解明がまたれる重要な所見ではないか、と思われます。(海渡雄一弁護士 副代表理事)

 福島県の患者からの訴えでは、検査から手術までの期間が非常に長い、何度も検査を受けされられて結果がなかなか確定しない、「まだ小さいから大丈夫だ」などの、不安を訴える声が多く寄せられています。血液検査の結果や甲状腺結節やのう胞の大きさなど、自分の診療に関する情報が開示されていない。また、診断結果の個人情報(カルテ)の開示をもとめると、主治医からいやな顔をされたり、ひどいケースでは医師からどなられたりする場合があったとの訴えがありました。福島県外の病院で受診を受けた患者さんは、自分の症状のようすも非常に詳しく把握されていて、申請の用紙にもそのことが詳しく記載されているのですが、福島県内の病院で受診されている患者さんは、検査時にも手術時にも自分の結節の大きさもきちんと知らされていないためか、記載されていない例が多数ありました。福島県内の甲状腺がんの検査や手術について、十分な検査や説明がされていないのではないか。普通、血液検査を行ったら、結果の用紙をもらえると思いますが、福島県の検査では血液検査のデータの用紙ももらえない状況があります。(海渡雄一弁護士 副代表理事)

 健康状態ですが、半数の方は体調が良好だと言っています。一方で、疲れやすい、風邪を引きやすい、免疫力が低下している、など体調が悪化しているお子さんが目立ちました。この点も危惧される点です。(海渡雄一弁護士 副代表理事)

 また、治療に伴って困窮化している家庭があることがわかりました。お父さんがいない、シングル・マザーの家庭であったり、家族全員が甲状腺がんに罹ってしまったり、支援なくしては生活できないという切実な訴えがありました。治療費、そして、治療を受けるために病院に通うそのことが家族にとって大きな負担になっていることがわかりました。甲状腺がんに罹っているみなさんへの国の支援を制度化していくことが急務であると思われます。今の福島県の健康管理調査と福島県のサポート事業だけでは絶対に不足しているだろうと思います。今後、3.11甲状腺がん子ども基金としても、患者さんの意見を深く聞きながら、意見をまとめ発表していきたいと考えています。(海渡雄一弁護士 副代表理事)

 最後に、甲状腺がんであることを外部の方に知られることを、強く恐れている方が多数いらっしゃいました。就職時期にかかっているお子さんが多いのですが、手術がされたことがわかると就職に不利益が出るのではないか、被ばくしたということで今後の結婚に差別が出てくるのではないか、不安視する声がありました。この甲状腺がんの方々を支援するに当たって、個人情報を保護する立場にたって支援することが非常に重要であると思っています。この点は、3.11甲状腺がん子ども基金として、心してやっていきたいと思っています。(海渡雄一弁護士 副代表理事)

 福島の小児甲状腺がんではが原発事故当時の年齢が小さい子どもがいないことから、原発事故の影響ではない、とよく言われます。(2016年6月6日の第23回県民健康調査検討委員会の発表で、原発事故当時5歳の子どもが1人初めて見つかった。)ベラルーシの国のがん登録のグラフです。チェルノブイリ原発事故当時、0歳から18歳未満だった患者、1986年から2010年までの4001人の症例です。たしかに、原発事故当時0歳から4歳まで方は多いですが、一方で、15歳、16歳、17歳の方もそれだけで全体の27%を占めます。国連科学委員会UNSCEARも「子どもと未成年の小児甲状腺がんはチェルノブイリ原発事故との関係がある」と認めています。決して、0歳から4歳までの子どもに限定しているわけではありません。(吉田由布子 理事)

 一方、甲状腺がんは予後がいいと言われます。しかし、一般的には、がんの治療した後の5年後、10年後の生存率で「予後がいい」「予後が悪い」を判断するわけです。子どもの場合は考えると、ただそれだけで判断していいのか。フォローをしっかりしていかないといけないと思います。チェルノブイリの国々では、手術後のフォローをしっかりしています。(吉田由布子 理事) 

 アメリカの1973年から2004年までの小児甲状腺がんの1753例の症例の分析があります。どういう場合にリスクがあるか、が書かれています。男性の場合と女性の場合との違いであるとか、甲状腺乳頭がんである場合と、そうでない場合との比較であるとか。診断後の経過について分析が書かれています。その中に、手術をした場合と手術をしなかった場合との比較があります。手術をしなかった場合、手術した場合の19倍の悪い結果になっている、と書かれています。小児甲状腺がんが見つかっても、手術をしなくても大丈夫であるかのような言説がまかり通っていますが、早期に発見して早期に治療することが患者さんにとってプラスであると考えます。福島県外に甲状腺検査を広げることをやっていただきたい。そもそも国がやるべきことですけれども、現在は一部自治体がやっています。是非とも、国が甲状腺検査を行う施策を早急に決めていただきたい。(吉田由布子 理事)

The incidence of pediatric thyroid cancer is increasing and is higher in girls than in boys and may have an adverse outcome Hogan ARほか 2009年

 また、甲状腺がんの手術以降、就職など自分の計画していたことができなくなっている方がいます。ずっと病院に通わなくてはいけない、甲状腺の専門の病院も少ない、待ち時間も非常に長い。ですから、自分の時間が長くとれる仕事にしようとか、学校を休学しようとか、そういった例も見られました。単に手術しただけではなく、手術後のフォローもきちんと行うのが国としての責任ではないか、と思います。(吉田由布子 理事)

質疑応答より

A: 福島県の県民健康調査検討委員会による、甲状腺検査を受けているのにもかかわらず見逃され、自分の自覚症状から検査を別の検査機関に受け、手術を受けた事例が複数ありました(少なくとも2名からの申請書に記載あり)。(海渡雄一弁護士 副代表理事)

A: 県外の小児甲状腺がんの患者の症例では、甲状腺全摘出が90%以上です。部分摘出は非常に少ないです。一方、福島県内の患者の症例では、甲状腺の部分摘出が80%以上、全摘出は20%未満です。35名の方全員が甲状腺がんの手術を受けたわけではありません。今回の「手のひらサポート」は、悪性と診断され、まだ、手術を受けていない方も対象ですから。福島県内ですでに手術を終えた方は24名、今後手術を受けるかたは2人。福島県外では8名がすでに手術を受けていて、これから手術を受ける方は1人です。(吉田由布子 理事)

A: 申請書を見て、予想はある程度していましたが、驚かされたのは、福島県外からの申請がかなり多いということ。病状が進行している患者の方が多いことです。いろいろ問題があたっとしても、検診をして早く見つけていれば、腫瘍が大きくならずに、また、転移することもなかったかもしれない。やはり、早期発見が大切だと思う。2016年9月26日、27日の国際専門家会議(注1 参照)の後12月9日に、山下俊一先生は、甲状腺検査は縮小というか、検査を自主的に受けさせた方がいいという提言を出しました。その理由が「RI治療(アイソトープ治療)を受けるリスクが高い」ことを挙げています。それは日本の治療の技術がものすごく低い、ということを意味しませんか。そういうことを専門家の方が言っていいんですか、という感想を持ちました。(崎山比早子 代表理事)

A: 乳がんになった場合は、普通隠しませんよね。社会的なプレッシャーで隠すということがありません。ところがこの甲状腺がんの場合はなぜそういう社会プレッシャーを感じるのか、と考えます。福島では特に「復興」と言われています。甲状腺がんの患者がいるということが、「復興」の妨げになるという考え方が社会に蔓延している、という異常な事態がある、ということではないでしょうか。これを打破するのは、市民一人ひとりの認識だと思います。甲状腺がんに罹った方は被害者です。その方々が社会からそういう風に見られるというのは二重の被害なわけです。これはありないことだと思います。(崎山比早子 代表理事)

A: この基金は、こうした記者会見に出ることができない患者のみなさんに換わって、患者さんたちのこうした声なき声を代わりに社会に向かって訴えていく、個人情報を守りながら、という任務があるのではないかと思っています。今回は、送られてきた申請書に基づいてお話しているわけですが、来月(2017年1月)は給付した後にみなさんからアンケートをいただくことになっていますから、アンケートの中で要望等も出されてくると思います。この基金の活動を通じて、甲状腺がんにかかったことが言いづらい状況を変えていくことができるのではないか、と思っています。(海渡雄一弁護士 副代表理事)

A: 症状が重い、RI治療(アイソトープ治療)(注2)の方は3名いました。この方は、甲状腺がんから肺に転移されている方です。RI治療(アイソトープ治療)の方には追加10万円(合計20万円)の療養費の支給することになっていて、口座番号がお伝えいただいた方にはお支払いしてあります。(吉田由布子 理事)

A: この基金は個人が特定される情報は出さないことを原則にしているので、この肺転移があり、RI治療(アイソトープ治療)の方3名の県名はいまのところは公表できません。もう少したくさんの事例が集まってきて、個人識別が難しくなった段階になったら、そういう情報も公表できると思います。もう少し時間を下さい。3名の方の県は一県ではなく、ばらけていることだけは言えます。(海渡雄一弁護士 副代表理事)

A: 福島県外の患者さんで手術した方で、リンパ節転移があった方は87%くらいです。(県外の患者さんは8名手術されているので7名くらい。編者 注)(崎山比早子 代表理事)

A: 毎月ごとに審査があり、認定された方に療養費を支払う予定です。2017年1月は中旬ごろに審査を行います。(代表理事、副理事、理事 うなずく)

A: なぜ、「甲状腺がんおよびがん疑い」と福島県立医大が区別するのか、わかりません。今までに穿刺細胞診で「悪性」と診断された方で、手術の結果「良性」だった方は1人しかいません。(注3)私たちは穿刺細胞診で悪性とされた方は、甲状腺がんに罹った方として、療養費の対象としています。(崎山比早子 代表理事)

A: 私たち基金の立場は、東電 福島第一原発事故による、ヨウ素131が濃く通った地域として、この1都14県(岩手、宮城、山形、福島、新潟、栃木、群馬、茨城、千葉、埼玉、東京、神奈川、静岡、山梨、長野)を対象地域としています。この地域で、小児甲状腺がんが過剰発生しているとなれば、原発事故とのなんらかの関係があると疑わざるを得ない、と考えています。しかし、確定的に、科学的に証明することは誰にもできないでしょう。しかし、原発事故と因果関係があるかもしれない、甲状腺がんに罹って手術を受ける方を支援していく、本来、福島原発事故子ども被災者支援法が本来、この役目を果たすはずだった。それが実行されない、その中で民間であるわれわれがそういう方々に支援の手を差し伸べていこう。ということで立ち上がったのがこの基金の趣旨です。因果関係がない、ということは証明されていません。また、因果関係がないことを証明するのは私たちの任務ではありません。(海渡雄一弁護士 副代表理事)

A: 福島県内の小児甲状腺がんの多発の状況については、疫学的分析として津田敏秀教授がすでに明らかにしています。それ以外の地域の小児甲状腺がんについては、誰も調査していませんから、どれだけの症例が発生しているのか分かりません。しかし、今回の申請にあるように、これだけの重症例があることから、背後にまだ小さいがんの方がいるかもしれない、ということは可能性として想定できると思います。福島県以外の地域で過剰発生している、という認識には私たちはまだ立っていません。しかし、「福島県外の地域では小児甲状腺がんが過剰発生していない」ということを証明する政府の側にあると思います。(海渡雄一弁護士 副代表理事)

A: 福島県外では小児甲状腺がんが増えていない、と証明するのは検診をするしかないわけです。福島県外でも検診をきちっとやってデータを取ることが必要である、と思います。(崎山比早子 代表理事)

A: 福島県の県民健康調査の甲状腺検査も2年に1回、20歳を過ぎると5年に1回ですから、県民健康調査を受けている方でも、検査と検査の間に結節が非常に大きくなった方もいるかもしれません。ですから、福島県の方で、県民健康調査を受けていたのに、自身の自覚症状から診断を受けに行って甲状腺がんが見つかった方は、「検査の見落とし」というよりも、「検査と検査との期間が長かったから」という理由かもしれません。

(注1)国際専門家会議

国際専門家会議は2016年9月26、27の両日、国際原子力機関(IAEA)、原子力放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)、世界保健機関(WHO)など海外の専門機関と福島県立医科大など国内の専門家が出席して福島市で開催され、子どもの甲状腺がん、とりわけ県民健康調査に導入されている甲状腺超音波検査結果を中心に議論が行われました。山下俊一氏は、国際専門家会議では「福島事故による一般住民の甲状腺被ばく線量はチェルノブイリ事故に比べはるかに低く、甲状腺異常の増加は高性能な超音波診断機器の導入に伴うスクリーニング(検診)効果と考えられる」とする内容の提言がまとまったとして、内掘雅雄 福島県知事に2016年12月9日提出しています。-日本財団のブログ 福島事故はチェルノブイリに比べ低い 甲状腺被ばく線量、スクリーニング効果指摘国際専門家会議の提言、県知事に提出

(注2)RI療法は、肺転移している場合の治療法で、具体的には、高濃度の放射性ヨウ素を内服し、遠隔転移している甲状腺がんを内部被曝させて破壊するというもの。医療従事者や家族などへの被ばくを防ぐために、厳格な遮蔽設備が必要となり、日本では現在、治療を受けられるベッドが全国135床しかない。ーourplanetブログ「甲状腺がん・福島県外で重症化〜基金が初の療養費給付」2016年12月26日より

(注3) 福島県の県民健康調査検討委員会が行った、「悪性疑い」の患者の手術は、先行検査で101名、本格検査で43名の方が手術を受けています。合計144名のうち、手術を行った結果「良性」であった方は、先行検査で1人しかいません。143人の方は、穿刺細胞診で「悪性」と診断され、手術でも「悪性」でした。穿刺細胞診による「悪性」の診断の精度は、99.3%ということになります。県民健康調査検討委員会が、手術を終えた患者を「甲状腺がん確定」とし、まだ手術を終えていない患者を「悪性疑い」と区別することの意味はもはやありません。

  第1期、申請の受けつけは2017年3月31日まで。申請、問い合わせは、フリーダイヤル0120ー966ー544まで。

 対象地域:1都14県は次の通り。

 岩手、宮城、山形、福島、新潟、栃木、群馬、茨城、千葉、埼玉、東京、神奈川、静岡、山梨、長野

 ただし、秋田県南部でもかなり濃いヨウ素131のプルームが通ったこともわかっているので、秋田県南部から申請があった場合は、理事会で検討する方針です。(海渡雄一弁護士 副代表理事)