原発周辺地域の甲状腺がん被害者共同訴訟原告募集開始(プレスリリース)
Posted on 2014/10/28 by nnaakadmin
原発周辺地域の甲状腺がん被害者共同訴訟原告募集開始(プレスリリース)
去る2014年10月17日、古里(コリ)原発周辺地域10キロ内に20年間住んでいた住民の甲状腺がんの発症に対する責任がコリ原発にあるという1審の判決があった。これは、国内で最初に癌の発生に対する原発の責任を認めた判決として、原発事故が発生してなくとも、放射性物質を放出する原発が健康に危害を与える施設であるという事実を法的に認めた判決である。 原子力発電所は、日常的に気体放射性物質と液体放射性物質が排出される。気体放射性物質はフィルターを通してはいるが、それに引っかからない三重水素 と貴ガス(ノーブルガス)(アルゴン(Ar)、クリプトン(Kr)、キセノン(Xe)など)は、そのまま環境に放出され、液体の放射性物質は、リットル当たり50ベ クレル(1秒に一度核崩壊する放射性物質の放射能の強さ)の濃度以下で海水で希釈して、温排水と一緒に海に流す。放射性物質の放出基準が別に用意されてい るが、原発周辺地域の制限区域を基準に、年間線量基準で管理している。制限区域は、軽水炉の場合700m、重水炉の場合914mに設定して、甲状腺等価線量では年間0.75ミリシーベルトであり、有効線量では年間0.25ミリシーベルトの基準を適用して、この基準以下と評価できる放射性物質を放出してい る。 しかし、法的基準値内の放射線量であっても、原発周辺に放出される放射性物質による住民の被ばくは、原発周辺地域の住民のがん発生を増加させてきたことが 確認された。ソウル大学医学研究院原子力影響・疫学研究所が2011年に教育科学技術部の依頼で提出した「原子力従事者と周辺地域住民の疫学調査研究」によると、原発周辺地域(5キロ内)住民のがん発生が対照地域に比べ、全体的に増加したが、特に女性の甲状腺がんの場合、統計的に有意に対照地域に比べ、 2.5倍ほど増加したことが確認された。この報告書は、全体の20年の追跡調査の中で、最近10年間に研究対象者の約60〜70%が集められ、その過程で、既存の癌患者がみな排除されることで、起こりうる癌の発生に関するデータが縮小される可能性があり、これを補完するなら、原発によるがん発生の相関関係はさらに増加するものと予想される。 原発による甲状腺がん発症の責任に対する裁判所の判決文には「加害企業がある有害な原因物質を排出し、それが被害者に到達して損害が発生した場合、加害者側ではそれが無害であることを証明できない限り、責任を免れることはできないと見るのが、社会公正の概念に適している」という最高裁判所の判例を挙げ、例えがんの発生が法的基準値以下の放射性物質の放出によるものであっても、法的責任があるという判断をした。これまで原発周辺地域でのがん発症により苦しんできた住民が原発に責任を問う道が開かれたということだ。 ここに、私達は被害者の共同訴訟を通して、原発の癌発生の責任を問う計画だ。
<原発周辺地域の甲状腺がん被害者の共同訴訟原告募集>
*原告資格:各原発の放射能緊急計画区域(8〜10キロ)内に3年以上居住したことのある甲状腺がん発症者
*原告申請期間:1次2014年11月30日
*必要書類:訴訟委任約定書、住民登録抄本(変動事項含む)、家族関係証明書、診断書
*費用:印紙代、送達量(ただし、勝訴時、費用は弁護士と協議のうえ決定)
*申請 コリ原発 – 釜山環境運動連合、キジャン社会福祉生活相談所 ウォルソン原発 – キョンジュ環境運動連合 ハヌル原発 – 核から安全に住みたいと願うウルチンの人々 ハンビッ原発 – ヨングァン原子力発電所の安全性確保のための共同行動 ソウル – 環境運動連合
2014年10月23日
キョンジュ環境運動連合、プサン環境運動連合、ソウル大学保健大学院職業環境健康研究所、ヨングァン原子力発電所の安全性確保のための共同行動、核から安全に住みたいと願うウルチンの人々、核なき世界のための医師会、環境保健市民センター、環境運動連合
別のブログから全文引用。
【編集】川根 眞也
イ・ジンソプ裁判準備書面(2014年9月12日)
1.被告の主張要旨
被告は、①この事件発電所(古里原子力発電所)運営のために発生した放射線量は、原子力安全法令及び関連通知で規定された法的限度値を十分に下回っており、原発の運転中に、原発周辺住民の健康に影響を与えるほどの放射能などの有害物質を排出さしたことはなく、②原告らの居住地は、この事件発電所運営による放射能の影響が全くない地域なので、原告らの損害賠償責任は認められないと主張している。
2.原告のパク・クムソンの甲状腺がん発症と放射線排出の間の因果関係
イ.この事件発電所(古里原子力発電所)の放射線排出
被告は、2012年9月4日に提出した答弁書で「この事件発電所(古里原子力発電所)周辺地域住民の年間被ばく線量」に関する表を提示し、この事件発電所周辺地域の住民が微々たる水準ではあるが、原告住民が放射線に被曝された事実を自認した(9月4日の弁論時)。また、「原発従事者および周辺地域住民の疫学調査研究」という論文42ページによると、以下のように原告住民が放射線に被曝した事実が確認される。
図:地域別、年度別の住民の被ばく線量(全身)分布(単位:mSv/ 年)
地域
年度
|
古里(コリ)
|
月城(ウォルソン)
|
霊光(ヨングァン)
現 ハンビッ
|
蔚珍(ウルチン)
|
||||
被ばく量
|
被ばく量
|
被ばく量
|
被ばく量
|
被ばく量
|
被ばく量
|
被ばく量
|
被ばく量
|
|
1990
|
0.00374
|
ㅡ
|
0.00168
|
ㅡ
|
0.00021
|
ㅡ
|
0.00038
|
ㅡ
|
1991
|
ㅡ
|
ㅡ
|
ㅡ
|
ㅡ
|
ㅡ
|
ㅡ
|
ㅡ
|
ㅡ
|
1992
|
0.00502
|
ㅡ
|
0.00202
|
ㅡ
|
0.00046
|
ㅡ
|
0.00090
|
ㅡ
|
1993
|
0.00788
|
ㅡ
|
0.00182
|
ㅡ
|
0.00020
|
ㅡ
|
0.00134
|
ㅡ
|
1994
|
0.00691
|
ㅡ
|
0.00271
|
ㅡ
|
0.01520
|
ㅡ
|
0.00149
|
ㅡ
|
1995
|
0.00686
|
0.00690
|
0.00424
|
0.00420
|
0.00183
|
0.00180
|
0.00124
|
0.00120
|
1996
|
0.00136
|
0.00140
|
0.00270
|
0.00270
|
0.00164
|
0.00190
|
0.00271
|
0.00170
|
1997
|
ㅡ
|
0.00240
|
ㅡ
|
0.00240
|
ㅡ
|
0.00300
|
ㅡ
|
0.00030
|
*1998
|
0.00327
|
0.00210
|
0.00280
|
0.00170
|
0.00085
|
0.00070
|
0.00125
|
0.00090
|
*1999
|
0.00821
|
0.00490
|
0.00371
|
0.00230
|
0.00174
|
0.00110
|
0.00162
|
0.00100
|
*2000
|
0.00627
|
0.00360
|
0.00302
|
0.00350
|
0.00415
|
0.00270
|
0.00257
|
0.00130
|
*2001
|
0.00061
|
0.00640
|
0.00060
|
0.00440
|
0.00027
|
0.00160
|
0.00085
|
0.00230
|
2002
|
0.00278
|
0.00270
|
0.00784
|
0.00690
|
0.00677
|
0.00680
|
0.01880
|
0.01670
|
2003
|
0.00214
|
0.00210
|
0.00679
|
0.00600
|
0.00619
|
0.00600
|
0.00366
|
0.00360
|
2004
|
0.00541
|
0.00520
|
0.00517
|
0.00460
|
0.00581
|
0.00600
|
0.00251
|
0.00240
|
2005
|
0.00415
|
0.00512
|
0.00332
|
0.00285
|
0.00291
|
0.00301
|
0.00349
|
0.00338
|
2006
|
0.00688
|
0.00664
|
0.00389
|
0.00348
|
0.00383
|
0.00485
|
0.00170
|
0.00165
|
2007
|
0.01580
|
0.01510
|
0.00678
|
0.00579
|
0.00632
|
0.00604
|
0.00210
|
0.00209
|
2008
|
0.00474
|
0.00460
|
0.00962
|
0.00831
|
0.01090
|
0.00957
|
0.00196
|
0.00190
|
そして、上記の論文は、原発周辺地域を原発との距離を5㎞以内、近距離対照地域を5㎞〜30㎞に設定している(55ページ)。
グループコード
|
地域
|
原発からの距離
|
A
|
原発周辺地域
|
5km 以内
|
B
|
近距離対照地域
|
5km-30km
|
C
|
遠距離対照地域
|
30km 以外
|
ロ.原告らのこの事件発電所(古里原子力発電所)周辺居住の事実
原告らは、1991年2月20日から1993年4月まで慶南ヤンサン郡ジャンアン邑ジョワチョン里17に居住した事実があり、これは、この事件発電所(古里原子力発電所)と約3.9km離れたところである。
また、原告らは、釜山キジャン郡イルグァン面サムソン里33-19アパートに1997年6月24日から10年以上長期間居住しており、この事件発電所(古里原子力発電所)とは距離は約8.5kmである。
ハ.東南圏原子力医学院の事実照会応答(2012.12.12.)
2012年12月12日東南圏原子力医学院の事実照会応答によると、古里原発周辺に居住する住民を対象に無料がん検診を実施したが、検診対象者971人のうち、がん発見者は33名であり、上記の癌発見者33人のうち甲状腺癌の診断は12人と発表した。
一方、国立がんセンターのがん発生率データによると、2010年に韓国の平均癌の発生率は、人口10万人当たり405.1人で、上記のがん検診対象者を10万人とした場合、がんの発見は3,398.5人なので、これは韓国の平均癌の発生率に比べて8.38倍高い結果である。
ハ.「原発従事者および周辺地域住民の疫学調査研究」
「原発従事者および周辺地域住民の疫学調査研究」によると、原発周辺に居住する女性の場合、甲状腺がん発生率が2.5倍以上高くなっていると報告した。
甲状腺疾患
甲状腺疾患を患った経験があるか、今も患っている対象者が占める割合をみると、女性が男性よりも比較的高い様相を見せている。男性の場合、地域間の差は有意ではなかったが、女性では疾患既往歴のある対象者の割合が周辺地域で高い有意な様相を見せている。(216ページ)
図:地域の放射線関連がんの発生率と相対危険度(女性)
がんの部位
|
指標
|
周辺地域
|
対照地域
|
|
近距離
|
遠距離
|
|||
放射線関連がん(全体)
|
発生率
|
190.5
|
182.3
|
147.0
|
相対危険度
|
1.2(0.77-1.74)
|
1.1(0.69-1.68)
|
1.0
|
|
胃がん
|
発生率
|
50.1
|
59.4
|
44.9
|
相対危険度
|
1.2(0.83-1.68)
|
1.3(0.89-1.79)
|
1.0
|
|
肺がん
|
発生率
|
13.5
|
26.8
|
20.1
|
相対危険度
|
0.8(0.38-1.74)
|
1.4(0.64-2.83)
|
1.0
|
|
乳がん
|
発生率
|
45.2
|
30.6
|
29.2
|
相対危険度
|
1.5(00.90-2.60)
|
1.1(0.60-1.99)
|
1.0
|
|
甲状腺がん
|
発生率
|
61.4
|
43.6
|
26.6
|
相対危険度
|
2.5(1.43-4.38)
|
1.8(0.98-3.24)
|
1.0
|
二.2014年6月30日の大韓職業環境医学会診療記録の鑑定回答
大韓職業環境医学会は、2014年6月30日、原告パク・クムソンの甲状腺がんと被告の放射線被ばくとの間の関連性について、次のように鑑定結果を回答した。
○甲状腺がんの最も重要なリスク要因は、治療用の放射線被ばくと環境災害による放射線被ばくである。
○チェルノブイリ原発事故でも女性から甲状腺がんが有意に増加し、放射線被ばくと甲状腺がんは、線量 – 応答関係(LNT理論に基づく)があることが報告された。
○2007年3月1日〜20112月28日の間、国内で行われた「原発従事者および周辺地域住民の疫学調査研究」の結果報告書によると、遠隔対照地域に比べて原発周辺地域での女性の甲状腺がん発症リスクが2.5倍高く、原発周辺地域での放射線被ばくが甲状腺腺癌の増加の原因である可能性が高いとしている。
ホ.小結
したがって、この事件発電所(古里原子力発電所)の放射線排出と原告パク・クムソンの甲状腺がんの発症との間には、相当因果関係があり、この事件発生の経緯、原告の年齢、がんの手術とがんの再発の可能性などの事情に照らして慰謝料は2億ウォンと定めるのが相当である。
3.結論
それならば、被告は、原告パク・クムソンに2億ウォンと甲状腺がんの診断日の2012年2月13日からこの事件の請求趣旨変更書送達日まで年5%の、その翌日からすべてを返済する日まで年20%の各割合による金銭を支払う義務がある。
〔コリ原発、甲状腺がん認定判決資料〕判決文全文
プサン地方裁判所東部地裁第二民事部
判決
事件:2012地裁合議部100370損害賠償(キ)
原告
1.イ
2.パク
3.イ
原告の住所
プサン、キジャン郡
原告の訴訟代理人弁護士
被告:韓国水力原子力株式会社
キョンジュ市ファラン路125
代表取締役:キム・ジョンシン
訴訟代理人:政府法務公団担当弁護士
弁論終結:2014年9月12日
判決の宣告:2014年10月17日
主文
1.被告は、原告パクに15万円及びこれに対する2012年2月13日から2014年10月17日まで年5%、その翌日から完済日まで年20%の各割合による金銭を支払え。
2.原告イ、イの請求および原告パクの残りの請求をそれぞれ棄却する。
3.訴訟費用のうち、原告イ、イと被告との間に生じた部分は、上記原告らが負担し、パクと被告との間に生じた部分の9/10は、原稿パクが、残りは被告がそれぞれ負担する。
4.第1項は、仮執行することができる。
請求趣旨
被告は、原告イ、イに各5000万ウォン及びこれに対してこの事件の訴状送達の翌日から完済日まで年20%の比率による金銭を、原告パクに2億ウォン及びこれに対する2012年2月13日からこの事件の請求趣旨変更申請書の送達日まで年5%、その翌日から完済日まで年20%の各比率による金銭を支払え。
理由
1.基本事実
イ.当事者の関係
原告らは、プサン、キジャン郡ギジャン邑に居住する住民であり、被告は、プサン、キジャン郡ジャンアン邑コリでコリ原子力発電所1号機(1978年4月29日から稼働)、2号機(1983年7月頃から稼働)、3号機(1985年9月頃から稼動)、4号機(1986年4月頃から稼働)、新コリ1号機(2011年2月頃から稼働)、新コリ2号機(2011年12月頃から稼働)など6基の原子力発電所(以下、総称し「この事件の発電所」とする)を運営する会社である。
ロ.原告パクの居住履歴
原告パクは1990年2月25日慶南ヤンサン郡(1995年ヤンサン郡がプサン、キジャン郡に移管)イルグァン面イチョン里407-1に転入し、1993年頃まで近隣に住み、1993年10月16日ソンナム市に転入したが、1996年3月30日、再びプサン、キジャン郡イチョン里848(この事件の発電所から約7.689㎞離れている)に転入した後、現在まで、上記の地域および近隣のサムソン里、ドンブ里などに居住してきた。
ハ.この事件の発電所からの放射線放出
この事件の発電所の制限区域(放射線管理区域および保全区域の周辺区域として、その区域の境界からの被ばく放射線量が原子力委員会が定める値を超える恐れがある場所をいう。原子力安全法施行令第2条第7号)境界での年間放射線被曝量は、次のとおりである。
<コリ原子力発電所周辺の地域住民の年間被ばく線量(境界区域基準)> (単位:mSv/年)
1991
|
1992
|
1993
|
1994
|
1995
|
1996
|
1997
|
1998
|
1999
|
2000
|
2001
|
0.003
|
0.00552
|
0.00788
|
0.0069
|
0.00686
|
0.00136
|
0.00242
|
0.00208
|
0.00488
|
0.00361
|
0.00642
|
2002
|
2003
|
2004
|
2005
|
2006
|
2007
|
2008
|
2009
|
2010
|
2011
|
|
0.00269
|
0.00207
|
0.00522
|
0.00512
|
0.00664
|
0.00512
|
0.00460
|
0.00226
|
0.00152
|
0.00171
|
|
ニ.原告パクの甲状腺がんの診断
(1)原告パクは2012年2月ごろ、東南圏原子力医学院で甲状腺がん(甲状腺の悪性新生物)の診断を受け、20122年2月2日に入院し、2012年2月3日に、甲状腺全摘出および中心部のリンパ節の清掃手術を受けて2012年2月14日に退院した。
(2)原告パクは今後、放射性同位元素治療を受けながら甲状腺ホルモン製剤を一生服用しなければならない状態である。
ホ.関連の医学知識および統計
(1)甲状腺がんの特徴
甲状腺がんの最も重要な危険要因は、治療による放射線被ばくと環境災害による放射線被ばくであり、被ばく放射線量に比例してリスクが増加することが知られている。家族性症候群がある場合にも、甲状腺がんの発生確率が高い。チェルノブイリ原発事故に関する複数のレポートによると、事故後、女性からの甲状腺がんが有意に増加したことが調査さ
れ、放射線被ばくと甲状腺がんが線量 – 応答関係(LNT理論に基づく)があることが明らかにされた。
(2)疫学調査の結果
ソウル大学医学研究院原子力影響・疫学研究所で2011年4月、教育科学技術部に提出した「原発従事者および周辺地域住民の疫学調査研究」の結果によると、原子力発電所からの距離が遠いほど、甲状腺がんの発生率は減少しており、原子力発電所周辺地域(原子力発電所から5㎞以内)の女性住民の甲状腺がんの発生率は、遠距離対照地域(原子力発電所から30㎞以上離れた地域)の女性住民の2.5倍にのぼることが分かった。
(3)キジャン郡の健康診断の結果
東南圏原子力医学院とプサン、キジャン郡は共同で、2010年7月頃から2013年12月頃まで「キジャン郡民の健康増進事業」の一環としてキジャン郡民4910人を対象に、総合健康検診を実施したが、上記期間中にがん検診を受けたキジャン郡民計3031人のうち、甲状腺がんの診断を受けた住民は41人だった。一方、ソウル大学病院江南センターの癌検出率(大腸がん、肺がん、前立腺がんなどのすべての種類の癌を含む)は1.06%、サムスンソウル病院は1.04%である。
[認定根拠]争いのない事実、甲第1乃至4、7、8、12号証、乙第1号証(付属番号があるものは、各種番号を含む)の各記載、この裁判所の大韓職業環境学会長への診療記録鑑定嘱託結果、この裁判所の東南圏原子力医学院への各事実照会回答の結果、弁論全体の趣旨
2.原稿パクの請求についての判断
イ.当事者の主張
(1)原告パクの主張
原告パクはこの事件の発電所周辺で20年以上居住しながら、被告が運営するこの事件の発電所から放出される放射線にさらされ、それにより甲状腺がんの診断を受けたことにより、この事件の発電所からの放射線放出と甲状腺がんとの間には因果関係があるので、被告は、この事件の発電所での放射線被ばくにより原稿パクが被った損害を賠償する責任があると主張し、被告に対して慰謝料2億ウォンの支給を求める。
(2)被告の主張
被告は、以下の理由で、この事件の発電所から放出された放射線と原稿パクの発病との間には因果関係がないと主張する。
①この事件の発電所を運営しながら、発生した放射線量は、関連法令や告示で規定された限度値を下回るため、被告は、この事件の発電所周辺地域の住民の健康に影響を与えるほどの放射能を排出していない。
②原告パクが居住した地域(この事件の発電所から約7.689㎞離れている)は、原発周辺地域住民の疫学調査で、甲状腺がんの発生率との相関関係を示した地域(原子力発電所から5㎞以内)に該当しないため、この事件の発電所の影響を受けない場所である。
③原発周辺住民の疫学調査でも、甲状腺がん発症女性の原子力発電所周辺の居住期間と癌の発生率が比例してしておらず、男性の場合は、同様の結果が表れておらず、甲状腺癌以外の他のがんの増加傾向は認められなかった。
ロ.判断
(1)損害賠償責任の成立の当否
一般的に、不法行為による損害賠償請求事件で加害行為と損害発生の間の因果関係の証明責任は請求者である被害者が負担するが、大気汚染や水質汚染による公害による損害賠償を請求する訴訟では、企業が排出した原因物質が大気や水を介して間接的に損害を与えることが多く、公害問題については、現在の科学水準でも解明できない分野があるため、加害行為と損害発生との間の因果関係を構成する一つ一つの輪を自然科学的に証明するということが非常に困難であったり不可能な場合が多い。
したがって、これらの公害訴訟で被害者に事実の因果関係の存在に関して、科学的に厳密な証明を要求するということは、公害による司法救済を事実上拒否した結果になることがある一方で、加害企業は技術的・経済的に被害者よりはるかに原因調査が容易な場合が多いだけでなく、原因を隠蔽する恐れがあるので、加害企業がどのような有害な原因物質を排出し、それが被害者に到達して損害が発生した場合、加害者側ではそれが無害であることを証明できない限り、責任を免れることはできないと見るのが、社会公正の概念に適している(最高裁判所2012年1月12日宣告2009ハ84608、84615,84622、84639判決など参照)。
さらに、ある施設を適法に運営し、公用に提供している場合にも、そこから発生する有害排出物により、第三者が損害を被り、その有害の程度が社会生活上、通常の受忍限度を超える場合は違法であると評価することができる(最高裁判所2003年6月27日、宣告2001ハ734判決など参照)。
この事件を見るにあたり、上記認定事実および上記の証拠によって認められる次のような事情、つまり
①甲状腺がんの発生には、放射線被ばくが決定的な要因として作用することが知られている点、
②被告は、プサン、キジャン郡ジャンアン邑で合計6機の原子力発電所を運営しているが、原告パクはそれから約10㎞以内、または10㎞余り離れた地域で20年近く住んでおり、放射線に長期間さらされてきたと思われる点、
③原告パク・クムソンの甲状腺がん発生には、この事件の発電所で放出された放射線以外の原因があると思える明確な材料はない点、
④この事件の発電所から放出された年間放射線量(制限区域線量基準)は、原子力安全法施行令第2条第4号、別表1に規定された年間有効線量限度(1mSv)、原子力安全委員会告示第2012-29号16条第2項第2号に規定された制限区域の境界での年間有効線量(0.25mSv)に及ばず、原発周辺地域住民の疫学調査の結果、甲状腺がんとは異なり、胃がん、肝臓がん、肺がんは、原子力発電所からの距離と発症率との間に明確な相関関係がないことが調査されているが、関連法令で定められた年間有効線量は、国民健康上の危害を防止するために定められた最低限度の基準として、人体が被ばくした場合、絶対に安全を担保することができる数値を表したものと断定することはできない点、
⑤原発周辺地域の住民の疫学調査の結果、近距離対照地域の原子力発電所で5㎞以上30㎞離れた地域でも遠距離対照地域に比べて1.8倍の高い甲状腺癌の発症率を見せており、原告パクが居住してきた地域が、この事件の発電所の放射線流出の影響を受けない地域だと見るのは難しいこと、⑥他のがんとは異なり、甲状腺がんの場合、原子力発電所からの距離と発症率との間の相関関係を示すことが調査された点、⑦原告パクが侵害された利益は、身体の健康に関連するものであり、財産上の利益その他の利益よりも重要であるだけでなく、公共の必要性により、容易に犠牲となってはならない法益である点などに照らして、原告パクがこの事件の発電所付近で居住しながら、相当の期間、この事件の発電所から放たれた放射線にさらされ、それにより甲状腺がんの診断を受けたと見るのが相当である。
したがって、この事件の発電所を運営する被告は、放射線放出により原告パクが被った損害を賠償する責任がある。
(2)損害賠償責任の範囲
甲状腺がんの一般的な予後(甲状腺がんは他の臓器に広がる場合でも、長期生存している場合が多い)、今後の治療内容、被告も関連法令で規定された年間有効放射線量を超えないように努力してきており、この事件の発電所に起因する住民の健康侵害を最小限に抑えるため、毎年キジャン郡住民の総合健康検診を支援してきた点、原告パクがこれまで支出した治療費用、原告パクがこれらの事情を考慮して慰謝料を請求していると思われる点、その他弁論で示された諸般の事情に照らして、慰謝料を1,500万ウォンと定める。
ハ.小結論
したがって、被告は、原告パクに慰謝料1500万ウォン及びこれに対する放射線の放出による損害発生日以降として、原告が求めるところにより、2012年2月13日から被告が履行義務の存在の当否と範囲について異議を唱えるのが妥当なこの判決宣告日の2014年10月17日まで民法で定められた年5%、その翌日から完済日まで訴訟促進などに関する特例法に定められた年間20%の各比率による遅延損害金を支払う義務がある。
3.原告イ、イの請求に対する判断
イ.原告らの主張
原告イは直腸癌の診断を、原告イは先天性自閉症の障害判定をそれぞれ受け、イは被告がこの事件の発電所を運営する過程で放出された放射線に長期間さらされた結果であるとして、被告は、不法行為による損害賠償として、上記原告らに、各5,000万ウォンの慰謝料を支払う義務があると主張した。
ロ.判断
詳しく見ると、上記認定事実によれば、原告イ、イはこの事件の発電所周辺で長く住んできており、原告イは、大腸がんの診断を、原告イは先天性自閉症障害の診断を受けたが、一方、この裁判所の大韓職業環境医学会長への診療記録鑑定嘱託結果によると、大腸がんの発症要因としては、50歳以上の年齢、赤身の肉や肉加工品の多量摂取、肥満、飲酒、家族歴などがあり、従来の研究では、放射線被ばくおよび直腸癌発生との間の線量 – 応答関係(LNT理論に基づく)は、成立していないことが明らかな点、自閉症の原因は、現在までに確実に究明されておらず、1年に1mSv以下の放射線被ばくの下で、先天性自閉症の発生が増加するという研究はまだない点などに照らしてみると、上記認定事実と原告が提出した証拠だけでは、上記原告らの上記各病気の診断とこの事件の発電所の放射線放出の間の因果関係を認めるのには不足しており、他に証拠がない。
したがって、上記原告らの損害賠償請求は、さらに調べる必要なく、理由がない。
4.結論
それならば、原告パクの請求は、上記の認定範囲内で理由があり、容認し、原告パクの残りの請求と、原告イ、イの請求は理由がなく、それぞれ棄却をし、主文の通り、判決する。
裁判長判事
イ・ジンソプ裁判まとめ
・裁判内容
被告である韓国水力原子力が運営するコリ原子力発電所(コリ1号機~4号機、新コリ1,2号機)の稼働中に放出される放射線と近隣住民の病気および障害に関する因果関係を争った。とくにa)イ・ジンソプ氏の妻パク・クムソン氏の甲状腺がん、b)イ・ジンソプ氏の直腸がん、c)イ・ジンソプ氏の息子イ・キュンド氏の自閉症についてその因果関係を争った。
・裁判判決
上記bについてはその因果関係を認め、被告に賠償を命じた。aおよびc関しては因果関係を認めず、訴えを退けた。
・裁判の経緯
1978年4月:コリ原発1号機稼動
1983年7月:コリ原発2号機稼働
1985年9月:コリ原発3号機稼動
1986年4月:コリ原発4号機稼働
1990年:パク・クムソン氏、コリ原発から約3.9km離れた慶尚南道プサン市キジャン郡イルグァン面イチョン里に居住開始(それまではソウル居住)
1991年:イ・ジンソプ氏、パク・クムソン氏と結婚しパク氏の家に移住。(1993年まで居住)
1992年:キュンド氏誕生。先天性自閉症と判明。
1993年10月~1996年:ソウル市に移住
1996年3月:プサン市キジャン郡イチョン里に移住。翌年、コリ原発から約8.5km離れたキジャン郡サムソン里へ移住し10年以上居住。
2007年:イ・ジンソプ氏の義母が胃がん判定
2011年2:新コリ1号機稼働
2011年3月:イ・ジンソプ氏、直腸がん判定
2011年12月:新コリ2号機稼働
2012年2月:パク・クムソン氏、甲状腺がんの判定
2012年7月:プサン地方裁判所に提訴。その後2014年10月まで4~5回の審議。
2014年10月:第一審結審。パク・クムソン氏の甲状腺がんの因果関係を認定、原告一部勝訴。
・<コリ原子力発電所周辺の地域住民の年間被ばく線量(境界区域基準)>
(単位:mSv/年)
1991
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1992
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1993
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1994
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1995
|
1996
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1997
|
1998
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1999
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2000
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2001
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0.003
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0.00552
|
0.00788
|
0.0069
|
0.00686
|
0.00136
|
0.00242
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0.00208
|
0.00488
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0.00361
|
0.00642
|
2002
|
2003
|
2004
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2005
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2006
|
2007
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2008
|
2009
|
2010
|
2011
|
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0.00269
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0.00207
|
0.00522
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0.00512
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0.00664
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0.00512
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0.00460
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0.00226
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0.00152
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0.00171
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・関連の医学知識および統計
(1)甲状腺がんの特徴
甲状腺がんの最も重要な危険要因は、治療による放射線被ばくと環境災害による放射線被ばくであり、被ばく放射線量に比例してリスクが増加することが知られている。家族性症候群がある場合にも、甲状腺がんの発生確率が高い。チェルノブイリ原発事故に関する複数のレポートによると、事故後、女性からの甲状腺がんが有意に増加したことが調査され、放射線被ばくと甲状腺がんが線量 – 応答関係(LNT理論に基づく)があることが明らかにされた。
(2)疫学調査の結果
ソウル大学医学研究院原子力影響・疫学研究所で2011年4月、教育科学技術部に提出した「原発従事者および周辺地域住民の疫学調査研究」の結果によると、原子力発電所からの距離が遠いほど、甲状腺がんの発生率は減少しており、原子力発電所周辺地域(原子力発電所から5㎞以内)の女性住民の甲状腺がんの発生率は、遠距離対照地域(原子力発電所から30㎞以上離れた地域)の女性住民の2.5倍にのぼることが分かった。
(3)キジャン郡の健康診断の結果
東南圏原子力医学院とプサン、キジャン郡は共同で、2010年7月頃から2013年12月頃まで「キジャン郡民の健康増進事業」の一環としてキジャン郡民4910人を対象に、総合健康検診を実施したが、上記期間中にがん検診を受けたキジャン郡民計3031人のうち、甲状腺がんの診断を受けた住民は41人だった。一方、ソウル大学病院江南センターの癌検出率(大腸がん、肺がん、前立腺がんなどのすべての種類の癌を含む)は1.06%、サムスンソウル病院は1.04%である。
・裁判所の判断
①甲状腺がんの発生には、放射線被ばくが決定的な要因として作用することが知られている
②被告は、プサン、キジャン郡ジャンアン邑で合計6機の原子力発電所を運営しているが、原告パクはそれから約10㎞以内、または10㎞余り離れた地域で20年近く住んでおり、放射線に長期間さらされてきたと思われる
③原告パク・クムソンの甲状腺がん発生には、この事件の発電所で放出された放射線以外の原因があると思える明確な材料はない
④この事件の発電所から放出された年間放射線量(制限区域線量基準)は、原子力安全法施行令に規定された年間有効線量限度(1mSv)、原子力安全委員会告示に規定された制限区域の境界での年間有効線量(0.25mSv)に及ばないが、関連法令で定められた年間有効線量は、国民健康上の危害を防止するために定められた最低限度の基準として、人体が被ばくした場合、絶対に安全を担保することができる数値を表したものと断定することはできない
⑤原発周辺地域の住民の疫学調査の結果、近距離対照地域の原子力発電所で5㎞以上30㎞離れた地域でも遠距離対照地域に比べて1.8倍の高い甲状腺癌の発症率を見せており、原告パクが居住してきた地域が、この事件の発電所の放射線流出の影響を受けない地域だと見るのは難しい
⑥他のがんとは異なり、甲状腺がんの場合、原子力発電所からの距離と発症率との間の相関関係を示すことが調査された
⑦原告パクが侵害された利益は、身体の健康に関連するものであり、財産上の利益その他の利益よりも重要であるだけでなく、公共の必要性により、容易に犠牲となってはならない法益である
・裁判の評価(脱原発法律家の会キム・ヨンヒ弁護士の評価)
一般的な民事訴訟では因果関係立証責任分配について、被害者である原告側が証明をしなければならないというのが原則であるが、環境訴訟では因果関係の立証についての判例は、確固として蓋然性理論に従うものである。
すなわち、公害による不法行為における因果関係について、当該行為がなかったならば、結果が発生していなかったであろうという程度の蓋然性、つまり侵害行為と損害との間に因果関係が存在する相当程度の可能性があるという証明をすれば足りるのであり、加害企業がどのような有害な原因物質を排出し、それが被害者・物に到達して損害が発生した場合、加害者側からそれが無害であることを証明できない限り、責任を免れることはできないと見ることが社会の衡平の概念に適しているということが判例の確固たる態度である。
最 高裁は韓国の過去の枯れ葉剤訴訟や大気汚染訴訟で、特異性疾患の場合、疫学調査の相関関係だけで因果関係が認められることができるという前提で、非特異性 疾患の場合には、蓋然性を証明しなければならないと判示したが、甲状腺がんの場合、事実上特異性疾患と見ていると考えられる。
この事件の判決は、枯れ葉剤訴訟、大気汚染訴訟の判決で、非特異性疾患の場合、証明するよう要求した蓋然性のすべての要素が証明されたと判断し、疫学調査の 結果だけで因果関係を認めたものではなく、個人が危険因子にさらされた時期と露出程度、発症時期、その危険因子にさらされる前の健康状態、生活習慣、疾病 状態の状態の変化、家族歴など枯れ葉剤訴訟や大気汚染訴訟で最高裁判決が指摘した「蓋然性」のすべての構成要素をもれなく判断したものである。したがって、この事件の判決は、今後二審、三審でも、原告勝訴の判決が維持されると展望できる。
[原発地域の甲状腺がん被害者共同訴訟申請記者会見文]
韓国水力原子力を相手にかつてない大規模環境訴訟を進行!
韓国水力原子力は原発地域住民の甲状腺がん被害実態調査と健康影響調査を実施せよ!
去る2014年10月17日、裁判所は、コリ原発近隣に住んでいた住民の甲状腺がん発症被害について、韓国水力原子力の責任を認定する判決(以下「イ・ジンソプ訴訟」。本文ではイ・ジンソプ氏の息子キュンド訴訟となっているが、訳者の判断でイ・ジンソプ訴訟とした)を下した。判決直後、反核プサン市民対策委員会(反核対策委)と全国の原発地域対策委員会は、公式的に原発周辺地域甲状腺がんの被害者を受付け、共同訴訟を進行すると発表した。昨年11月末までに原発周辺地域に住んでいるか勤務し、甲状腺がん発症被害に遭った住民を対象に原告の申請を受け、今日までに必要書類を受理した住民を原告とする損害賠償訴訟の訴状をプサン地方裁判所東部法廷に提出する。
今回の原発地域の甲状腺がん被害者一次集団訴訟の原告受付は10月23日から11月30日までの39日間にわたり進行された。原告資格は全国の原発周辺地域、すなわち原発から10㎞以内に5年以上居住したり、勤務しながら、甲状腺がんの診断を受けた住民に限り申請を受けた。さらに甲状腺がんの診断を受けた当事者の家族の中で、配偶者と直系家族(親、子)も被害者家族として精神的、経済的な被害を慰謝料として請求、賠償を受けるべき原告として受け付けた。このように、1次集団訴訟原告として参加する団員は、甲状腺がん被害者が古里原発191人、月城原発46人、霊光原発34人、蔚珍原発30人の計301人であり、家族を含めた原告の総人数は1,336人と集計された。 300人以上の甲状腺がん被害者が直接原告に参加して、家族まで含めると1千3百人を超える原告が参加した大規模な訴訟に拡大したものである。
まず、今回の共同訴訟は、韓国初の稼動中の原発から排出された放射性物質が周辺住民の甲状腺がん被害に直接影響を及ぼしたというイ・ジンソプ訴訟の判決によるものである。特に古里原発では、イ・ジンソプ訴訟の1審判決後、プサン地域に集中したマスコミ報道と市民の関心の増大により原告に参加した住民が他の地域に比べて相対的に多かった。特に原告中には家族の中で2人以上が甲状腺がんの診断を受けた被害事例もあり、世帯数が少ない村で甲状腺がんの被害が集中していることも確認された。
このように39日間で300人を超える甲状腺がん被害者が自主的に訴訟に参加したのは、予想をはるかに超える衝撃的な事実であり、史上稀に見る出来事である。原告募集事実を知らないか、がん発症事実の公開を控えた隠れた被害者を勘案すれば、全国の原発地域の甲状腺がん発症者ははるかに多いと判断される。それほど原発周辺住民の甲状腺がん被害が深刻であることを反証するものである。さらに、今回の大規模な集団訴訟の進行は、原発の放射性物質と甲状腺がんの相関関係を実体的に実証する事例として、訴訟自体がまたイ・ジンソプ訴訟の控訴審の証拠となる重大な意味も持つ。
今回の1次共同訴訟に参加する原告らは、主に最近10年以内に甲状腺がんの判定を受けた人々で訴訟原告全体の95.5%を占めている。原告は、男性に比べて女性の割合が83.8%ではるかに高く、年齢も40-50代が65.3%で多数を占めている。これらの原告は、発電所の近くで最低3年から最大72年間居住した人々であり(近距離基準)、特定の村の原告は「一軒先にまた一軒甲状腺がん患者がいる」と言えるくらいに特定の地域では、密集(キジャン郡サムソン里/イドン/ハクリ/ファジョン/ウォルネ/ジャチョン、ウルジュ郡シン里/シンアム/ジンハ)した形態を見せていた。これらの原告が密集して居住している町は、主に海岸沿いの海抜が低い村であった。また、被害者が居住している地域の人口あたりの割合も、特定の地域(キジャン郡ミョンリェ/モジョン/ハクリ/ウォンリ、蔚ウルジュ郡ハクリ)で高かった。今回の訴訟に参加した人々が、発電所周辺10km内のすべての甲状腺がんの被害者たちが参加したものではないことを勘案すれば、このような事実は、重要視しなければならない。
今回の大規模集団訴訟は、イ・ジンソプ訴訟の判決に続いて、これまで韓国水力原子力(株)が主張してきた原発の放射性物質と住民の健康被害は無関係であることが事実と異なることを改めて証明している。したがって韓国水力原子力は、訴訟対応に熱を上げるのではなく、今からでも実態把握と根本的な対策樹立に乗り出さなければならない。すでにイ・ジンソプ訴訟判決とそれに伴う大規模共同訴訟で確認されたように早期に原発地域住民の甲状腺がん発症の全数調査を実施すべきである。これにより、原発地域住民の甲状腺がん発症の正確な被害規模と範囲を把握しなければならない。さらに、全国の原発から排出される気体と液体の放射性物質が甲状腺がんなどの発症原因なのだから、原発地域の付加的な甲状腺がん被害者が発生しないよう、放射性物質安全管理対策を講じなければならない。
手遅れになる前に、韓国水力原子力が全国の原発から住民の安全を確保し、健康を守ることに乗り出すことを重ねて促す。
2014年12月16日
反核プサン市民対策委員会、キョンジュ環境運動連合、ヨングァン原子力発電所の安全性確保のための共同行動、核から安全に住みたいと願うウルチン住民、核のない世界のための医師会、ソウル大学保健大学院職業環境健康研究室、環境保健市民センター、環境運動連合
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
韓国の高野です。(2015年1 月6日)
裁判関連の記事2つを追加で送ります。
これで裁判関連の資料は私が送るのは最後になります。
1、2014年10月30日の「シサイン」という雑誌の記事です。
疫学データがどのようなきっかけで作成され、それがどのように裁判に用いられたのかに
関して割とよくわかる記事です。ちなみにソウル大医学部の疫学調査は政府が委託しているので、
調査費はすべて政府です。研究費は当時で5億3400万ウォン。当時の科学技術部が
委託しました。
今の未来創造科学部、日本の文科省のような組織です。
2、2012年7月7日メディアオヌルの記事。
以前にも送った気がしますがもう一度送ります。
裁判の挑むイ・ジンソプさんの心境がわかるインタビュー記事です。
前回送ったものもあわせて、講演で配布する資料などにご活用ください。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
これからは医療費は原発に請求しなければならないね
父は直腸癌、母は甲状腺がん、息子は自閉症障害判定を受けた。ひょっとして家の近くにある原発のせいではないだろうか。訴訟を提起してから2年後の10月17日、裁判所は一部勝訴で家族に軍配を上げた。
2014年10月30日シサイン
訴訟を提起したきっかけは単純だった。疑問からだった。プサン市キジャン郡ギジャン邑に住むイ・ジンソプ氏は家族を襲った病魔が原子力発電所からではないかと疑った。イ氏は、コリ1号機、2号機から7.7㎞以内(近距離地域)に居住する。コリ1号機は1978年に稼働を開始した国内第一号の原子力発電所である(2007年に設計寿命が終了したが、政府は2017年6月までに寿命延長を決定した。コリ1、2号機のほか、コリ3、4号機、新コリ1、2、3号機などが近くで稼動中)。
イ氏は、1990年にキジャン郡が故郷の奥さんパク・クムソン氏と出会い、2年後に息子のキュンド氏を生んだ。息子は1級自閉症障害の判定を受けた。イ氏は、2011年直腸癌の診断を受け、夫人パク氏は、2012年に甲状腺がんを発症した。手術で甲状腺を切除したパクさんは、放射性同位元素の治療を受けながら、生涯甲状腺ホルモン剤を服用しなければならない。近くに住むパク氏の母も2009年に胃がんの手術を受けた。
イ氏は、2012年7月、韓国水力原子力(韓水原)を相手に家族の病気に対する損害賠償請求訴訟を起こした。原発近隣に住んでいる住民が起こした第1号の訴訟だった。 2年間の訴訟の末、10月17日にイ氏は、奇跡のような勝利を収めた。イ氏は「勝訴の可能性を推測すらできなかった」と述べた。
プサン東部地裁民事2部(判事長チェ・ホシク)は「韓水原はイ氏の夫人パク・クムソン氏に1500万 ウォンの慰謝料を支給せよ」と判決した。原子力発電所と近隣住民の甲状腺がん発症に関係があるという裁判所の初判決が出たのだ。裁判所は「公害訴訟で被害 者に因果関係を科学的に証明するよう要求することは、公害による司法救済を事実上拒否する結果になりうる」と述べた。それとともに裁判所は「加害企業が無 害であることを立証できない限り、責任を免れることはできない」という最高裁の判例を引用して立証責任を韓水原に課した。
このような判決が出たのには韓水 原の安易さが少なからず影響を及ぼした。公判は4回開かれた。イ氏の弁護人は、「民主社会のための弁護士会」(民弁)所属ソ・ウンギョン弁護士が引き受け た。公益訴訟というわけだ。韓水原の代理人は、政府の法律公団所属弁護士二人が務めた。公判の過程で、韓水原側が安易に対応したのは、信用していたものが あったからである。裁判所も引用した「原発従事者および周辺地域住民の疫学調査研究」がそれである。 1991年12月〜2011年2月に3万6000人余りを対象にコホート調査(特定の要因にさらされている集団とさらされていない集団の追跡調査)をしたものだが、政府が発注し、ソウル大医学院の原子力影響疫学研究所(ソウル大医学研究所)が行った。
原発周辺住民を対象にした疫学調査は、国内では1990年に初めて開始された。 1989年 にあるメディアにヨングァン原発の警備員の妻が無脳症の赤ちゃんを2度も死産または流産したという報道がなされた。原発の安全性を巡り論争が拡大すると、 当時、原発の運営を担当していた韓国電力がソウル大病院に住民の健康実態調査を依頼した。韓国電力は調査の結果、住民の発病と原発からの放射線の間には関 連がないと発表した。しかしその後も安全性に対する住民の不安は収まらなかった。それにより政府が発注したコホート調査が本格的に始まったのだ。
ソウル大学医学研究所は、原発の周辺地域(5㎞以内)、近距離対照地域(5〜30㎞)、遠距離対照地域(30㎞以上)を設定し、満20歳 以上の住民を調査対象とした。研究チームは「原発周辺地域のすべての部位のがんだけでなく放射線関連がん(胃、肝臓、肺、骨、乳房、甲状腺、多発性骨髄 腫、白血病)の発症リスクが対照地域に比べて、男女ともに統計的に有意な差はなかった」と結論した。また「原発からの放射線と周辺地域住民のがん発症のリ スクの間に、因果関係があることを示唆する証拠もない」と発表した。
しかしこの報告書には、結論とは異なり、解釈の余地があるいくつかの手がかりが隠れされていた。 2011年 に報告書が初めて公開されたときから学者たちの間で論争が起こった。現在、原子力安全委員会の非常任委員を務めているキム・イクチュン教授(東国大医学 部)などは、政府の原資料の公開を要求した。当時の教科部などが公開を拒否すると、国会を通じて原資料を入手した。ペク・ドミョンソウル大教授(保健大学 院)とジュ·ヨンスハンリム大教授(医学部)などが再検討した。その結果をジュ教授が2012年に大韓職業環境医学会の春季定期学会で発表した。世界人口の年齢標準化発生率で計算してみたところ、遠距離甲状腺がんの発生率を1とすると、近距離に住む女性(パク・クムソン氏が居住する地域)は1.8倍、5㎞以内近くに住んでいる女性は2.5倍高い発生率が表れた。
原発関連の訴訟、堰を切ったようにあふれ出る可能性も
ソウル大学医学研究所も遠距離対 照地域→近距離対照地域→周辺地域と移動しながら甲状腺がん発症リスクが増加する傾向を見せ、統計的に意味があることは報告書で示していた。しかしソウル 大学医学研究所は、男性のケースでは、このような発症リスクに差はなく、原発近隣地域住民の間で起こっている甲状腺癌の過剰診療が原因の可能性があるとし て、放射線被ばくと甲状腺がんとの因果関係は低いと結論付けた。一方、ジュ·ヨンス教授は、発症リスクの増加は、放射線以外に考えられる根拠がないと論文 で反駁した。ジュ教授は、甲状腺がんのほか、原発の労働者は、一般の人々に比べて染色体異常が二倍以上多いなど、ソウル大学医学研究所とは違う結論を下し た。
この論争を知ったソ・ウンギョン 弁護士は、裁判所に大韓職業環境医学会の鑑定を要請した。裁判所の要請を受けた大韓職業環境医学会は、臨床委員会から意見を出すことにした。臨床委員会委 員長を務めているイム・ジョンハンインハ教授(医学部)は「所属医師と議論を経て、裁判所に鑑定書を提出した。ソウル大報告書を見ても、原発周辺住民にも 遠距離住民にも同水準の医療検診とコホート調査が行われた。調査方法が同じなので、甲状腺がん発症リスクが高いのは、放射線被ばくの可能性と見るのが科学 的に合理的である」と説明した。大韓職業環境医学会は、イ氏の直腸がん発症やキュンド氏の自閉症発症は、原発との因果関係があるとは見るのは難しいが、パ ク氏の甲状腺がんは関連があると回答した。結果的に、裁判所はソウル大学医学研究所の報告書の結論ではなく、大韓職業環境医学会の鑑定結論を採択したわけ である。
韓水原はすぐに控訴した。チェ・イェヨン環境保健市民センター所長は「11月30日までに原発周辺の住民のうち、甲状腺がんを患っている人を集め、訴訟を起こす」と発表した。原発関連の訴訟が本格的に始まった。
「原発周辺のがん患者が多い理由、調査したのか」
2012年7月7日 メディアオヌル
[インタビュー]全国を巡って原発問題を知らせる「キュンドパパ」イ・ジンソプさん「ガン検診の調査結果だけでも見せてほしい」
「息子のキュンドに発達障害があ り、義母がガンにかかった時は、そんなこともあるのだと思いました。私ががんにかかった時もそうでした。その後、妻が甲状腺癌がかかった時は、私たち家族 は本当に不幸だと思いました。しかし最近の研究結果では、原発近くに住んでいる女性は、他の所に住む人よりも甲状腺がんにかかる確率が2.5倍高いという結果が出たんですよ」
「キュンドと一緒に世界ウォーキ ング」で発達障害の問題を社会化させた「キュンドパパ」イ・ジンソプ(プサン障害者の親の会、キジャン・ヘウンデ支会長)さんが3日、政府を相手に訴訟を 提起した。イ・ジンソプさんの自宅の近くにあるコリ(古里)原発のために一家3人がガンにかかり、キュンドさんが自閉症などの発達障害を患っているのだ。
イ・ジンソプさんの今回の訴訟は、原発周辺地域の住民が、原発からの放射能により、どのような形で、どれだけの被害を受けているのかが決まるという点で非常に重要な意味を持つ。イ・ギュンドさんはコリ原発の半径3km以内に生まれ、イ・ジンソプさん家族は、過去20年の間、コリ原発から半径5km内で暮らしてきた。今住んでいるところもコリ原発から6Kmと近い。
イジンソプさんは6日、「メディ アオヌル」とのインタビューで、今回の訴訟について「私の不幸が問題なのではなく、(原発地域の)私たち地域住民が本当に安全に暮らせるのか調べてみたい と思った」とし「私は代表として重荷を背負ったわけで、今回の訴訟を通じて原発近くの住民の健康権が果たして原発により侵害されているかどうか確認してみ ようと訴訟にかけた」と話した。
イさんは「私たちは、原発には安 全性がないという認識だが、国家は、安定性があるという」とし「責任を負おうという人は1人もいない」と批判した。また「総選挙当時、緑の党に環境活動家 が多いので、色々話をしたところ、ちょうど緑の党も私のような人を探していたんですよ」とし「そうして訴訟に至った」と説明した。
したがって、今回の訴訟に対するイ氏の目標は「真実」だ。原発の近くに住むことは本当に問題がないかという疑問であり、老朽原発で注目され、停電事故で全国民を騒然とさせたものの、IAEAの調査結果をもとに再稼動したコリ1号機、新たに建設される予定の新コリ5~8号機が安全かどうかの疑問である。
特にイさんは「(コリ原発)周辺 のがん患者が最近ぐっと多くなった」と述べた。原発の初期には大きな問題はなかったが、放射能が蓄積され、その影響が最近になって現れているという主張 だ。彼は「私と妻が病院に行った時も、私たちの地域の住民がたくさんいた」とし「コリ原発の近くに住民がたくさん住んでいるわけでもないのに変だ」と話し た。
イさんは「新コリ7~8号が建設される運びとなって、東南圏原子力医学院が、地域住民にがん検診を行ったことがある」とし「それは何万ウォンではなく、100万ウォン以上の詳細な検診だったが、そのデータをみせれくれればよい」と述べた。また「しかし原発では、このようなデータを示さないだろう」と話した。
イ・ジンソプさんは「韓国が福島のようにならないという保証をすることができるのか」とし「福島のケースでは半径50Km以内にはそれほどたくさん人は住んでいなかったが、コリ里原発は50km以内にプサンとウルサンの中心部も含まれる」と述べた。また「しかし自治体は、原発収入の1%が入ってくるので、何の動きも示さない」とし「健康の論理をお金に変えてもいいのか」と糾弾した。
イさんは、コリ原発1号機の再稼働と新コリ原発建設について「(コリ原発再稼働の検査のための)IAEA(査察団)が数時間滞在した後、異常なしという結論が出た」とし「果たしてIAEAが原子力事故の責任を取れる機関なのか分からない」と述べた。続いて「さらに、私たちにとっては1号機が問題なのではない」とし「韓国型原子炉と呼ばれる新コリ原発の安全性を保証することができないということが大きな問題で、私は地元の人間として恐ろしい」と話した。
「キュンドと世界ウォーキング」で関心を集めたイ・ジンソプさんは、今後もまたキュンドとともに旅立つ予定だ。そして今回は、全国の原発を探索する計画である。イさんは「10月に再び釜山から始まり、原発がある地域はすべて行くだろう」とし「コリ、ウォルソン(月城)、ヨンドク(盈徳)、三陟(サムチョク)、カンヌン(江陵)を通り、ソウルに行けば、キュンドと私は韓国全域をすべて歩いたことになる」と述べた。
「キュンドパパ」の投げた小石がパンドラの箱を開け、原発と人間の健康権に関わる関係が今回の訴訟を通じて明らかとなるか帰趨が注目される。
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