【解説】福島の子どたちの小児甲状腺がん                            

2015年12月6日 川根眞也(内部被ばくを考える市民研究会)

pdf版 解説つき 福島県 子どもたちの甲状腺超音波検査結果と穿刺細胞診 20151130 改訂版20151219

  福島県、日本政府は、原発事故3年の「短い期間」では小児甲状腺がんは発症しないとし、2011年度浜通り、2012年度中通り、2013年度会津いわきなどの甲状腺超音波検査を「先行検査」として、切り離して報告しています。この「本格検査」は2014年4月1日以降の検査です。「先行検査」に次ぐ、二巡目の検査になります。                                 

 2015年11月30日、第21回福島県 県民健康管理調査検討委員会が開かれましたが、この152人に及ぶ小児甲状腺がんの記事を載せたのは、朝日(12/1朝刊)、毎日(12/1朝刊)、東京(12/1朝刊)、福島民報(12/1)、福島民友(12/1)です。読売は記事にすらしませんでした。(pp.8参照)  

福島県 子どもたちの小児甲状腺がん 新聞記事 ページ8     

 「先行検査」で見つかった小児甲状腺がんは113人、2015年9月30日までの「本格検査」で見つかった小児甲状腺がんは39人、合計152人です。第21回福島県県民健康調査検討委員会の席上で、福島県立医大 大津留晶教授が、口頭で発表したことに基づきます。「前回(2015年8月31日開催、第20回県民健康調査検討委員会)の確定版が出た後も、一部、先行検査の結果が出るかたがいらっしゃいました。(新たに)悪性ないし悪性疑いの二次検査結果が出た方が1人、また手術の実施件数も2人増えました。増えた2人に関し術後の病理診断では乳頭がんということでした。」(pp.2参照)

福島県 子どもたちの甲状腺超音波検査結果と穿刺細胞診 先行検査(2015年6月30日現在)と本格検査(2015年9月30日現在) ページ2

 しかし、この先行検査で、どこの市町村の子どもが新たに小児甲状腺がんと診断されたのかは明らかにされていません。また、【確定版】とされた2015年8月31日発表の先行検査の結果については、来年4月以降の県民健康調査検討委員会の発表まで公表しない、とも発表されています。                                                                                                               

 こちらの動画でご確認ください。23分24秒から24分48秒を是非、ご覧ください。
Our Planet TV  『甲状腺がん悪性・悪性疑い152人〜福島県民健康調査』2015年11月30日 動画 23’24~24’48 

 果たして、2015年8月31日の段階で、先行検査の【確定版】を出すべきだったのでしょうか。第20回県民健康調査検討委員会(2015年8月31日実施)における、先行検査【確定版】の資料で、なんと2次検査結果が確定していない子どもたちが238名もいました。(2015年6月30日現在)2次検査対象者(甲状腺音波検査でB判定やC判定だった子どもたち)が2294人ですから、まだ結果が確定しなかったのは対象者の10%にも及びます。本格検査が2014年4月2日開始されたものの、同時並行で先行検査における2次検査を実施しています。そして、2015年11月30日第21回県民健康調査検討委員会の席上で、大津留晶教授が口頭で発表したように、先行検査で新たに甲状腺がん疑いの子どもが1名見つかっています。2015年6月30日の段階では未手術だった2名の子どもが手術を受け、甲状腺がん(乳頭がん)であると確定しています。もはや、先行検査、本格検査で分けて発表することは意味をなしていません。(pp.2およびpp.6参照)

福島県 子どもたちの甲状腺超音波検査結果と穿刺細胞診 先行検査(2015年6月30日現在)と本格検査(2015年9月30日現在) ページ2

福島県 子どもたちの甲状腺超音波検査結果と穿刺細胞診 先行検査 2015年6月30日現在で2次検査が未確定のもの ページ6

第20回福島県県民健康調査検討委員会「甲状腺検査(先行検査)」結果概要【確定版】 20150831                                                                                                               

 先行検査、本格検査を合わせた人数を発表すべきです。また、来年4月以降に先行検査の2次検査の結果を発表するなど論外です。毎回の県民健康調査検討委員会の席上で発表すべきです。

 本格検査(2巡目)は2014年4月2日開始されましたが、その対象者は原発事故当時0~18歳だった子ども(1992年4月2日生まれ~2011年4月1日生まれ)に加えて、原発事故後に生まれた子ども(2011年4月2日生まれ~2012年4月1日生まれ)を加えて実施されています。しかし、第20回(2015年6月30日現在)の対象者と第21回(2015年9月30日現在)の対象者と比べて、交通事故等で減少することはあっても、増えることはないはずです。ところが、2番浪江町の対象者が3,771名から3,772名に1名増えているのに始まり、喜多方市にいたっては8,911名から9,235名へと324名も対象者が増えています。第20回と第21回とを比べると、なんと1,174名も対象者が増えています。もはや統計の名に値しません。(pp.7参照)

福島県 子どもたちの小児甲状腺がん 対象人数 第20回(2015年6月30日現在)と第21回(2015年9月30日現在) ページ7

 甲状腺がんの症例についても、第4回「甲状腺検査評価部会」(2014年6月30日現在)から第20回県民健康調査検討委員会(2015年6月30日現在)で、症例が54例から96例に増えています。甲状腺外湿潤(pEX1)が7例(13%)から38例(39%)に、リンパ節転移が17例(31%)から72例  (74%)に増えています。この2つを合わせて100%を超えるということは、甲状腺外湿潤とリンパ節転移の両方を症状を持つ子どもが多数いるということであり、この小児がんが治癒率9割を超すおだやかながんではなく、極めて転移の速い悪性のがんであることを示しています。また、肺転移も1人から3人に増えています。(pp.5参照)

福島県の小児甲状腺がんの子どもたちの症例 ページ5

 ベラルーシでは小児甲状腺がんの多発が始まった1987年当初、がんのみを摘出する術式を実施していました。ところが、この放射線誘発がんである、小児甲状腺がんは転移が速く、肺に転移してしまった子どもが血を吐いて亡くなったといいます。その教訓からベラルーシでは、小児甲状腺がんの子どもたちが見つかると、右葉、左葉の一部を切除することはせず、全摘出することが国家の法律として定められています。

 ベラルーシでは、自殺も含め15名の子どもたちが小児甲状腺がんで亡くなっています。

 このベラルーシの教訓に学ばず、福島県では小児甲状腺がんのがんのみを摘出する術式が行われています。その結果、再発し、再びがんを摘出する子どもも出ています。   

 福島県立医大が小児甲状腺がんのまとめを行っていますが、手術を終えた子どもだけを「甲状腺がん確定」として、穿刺細胞診で悪性を診断されまだ手術を終えていない子どもを「甲状腺がん疑い」と発表しています。しかし、この手術を終えた116名中、穿刺細胞診で悪性とされた子どものうち、手術で良性結節とされた子どもは1人です。穿刺細胞診で悪性とされた子どものうち99%は甲状腺がんと考えることができます。「悪性および悪性疑い」として発表されているのは、152名(先行検査113名ー良性結節1名を除く、本格検査39名、計152名)です。川根は今後、この152名を甲状腺がんの子どもとして報道するべきであると考えます。                               

 本格検査の推移(pp.4)の14福島市をご覧ください。2015年9月30日で「悪性および悪性うたがい」、つまり甲状腺がんにかかった子どもは8人。3月31日現在では6人でした。つまり、2014年4月からの1年で6人、2015年4~9月の半年で2人の小児甲状腺がんの子どもが見つかった、ということです。年間では6人または4人が発症したということです。平均では年5人になります。福島市の対象者(原発事故当時0~18歳の子ども)は約5万5000人です。つまり、10万人当たりに直せば、5人の2倍、年間10人(10万人あたり)の発症率。これはチェルノブイリの高い放射能汚染地帯である、ベラルーシのゴメリ州の発症率に匹敵します。高放射能汚染地帯から、子どもたち、妊婦を始めとする住民の避難を行うべきです。(pp.4参照)

福島県 子どもたちの甲状腺超音波検査結果と穿刺細胞診 本格検査の推移 2015年3月31日現在 6月30日現在 9月30日現在 ページ4                                                  

                                                                                                                     

 『ベラルーシ・プロジェクト報告』700円 ベラルーシの小児甲状腺がんの診断と治療の実際を記録。高い放射能汚染地帯ゴメリ州、廃村になった村、立ち入り禁止の森の空間線量の測定の写真を掲載。ベラルーシと日本のヨウ素131の汚染状況を比較。右のグラフも掲載。