[解説]

 復興庁、環境省、文部科学省など政府機関が依拠している放射線防護理論は、国際放射線防護委員会(ICRP)や国連科学委員会(UNSCEAR)の放射線防護理論です。「国際的な学術団体」や「科学者」の集まりかのような装いの団体ですが、発足当初からアメリカの核兵器開発の責任者らが主導で作った団体です。

一方、独立した科学者で構成される欧州放射線リスク委員会(ECRR)は、この国際放射線防護委員会(ICRP)の放射性物質の内部被ばくについて、以下の批判をしています。

(1) 国際放射線防護委員会(ICRP)は、外部被ばくと部被ばくの健康被害を、同じベクレル数であるならば、1:1であるとしている。しかし、同じ種類の放射性物質が同じベクレル数ある場合、体外にあり放射線をからだが受ける場合(外部被ばく)と、体内の各臓器に蓄積する場合(内部被ばく)とでは、内部被ばくの方が決定的に大きくなる。

(2) 国際放射線防護委員会(ICRP)は、チェルノブイリ原発事故やイギリス、フランスの核燃料再処理工場周辺の小児白血病や小児がんの発症を正しく説明できていない。実際に発生している患者数からリスクを評価すると、国際放射線防護委員会(ICRP)のリスク評価は200倍~1000倍誤っている。

(3)国際放射線防護委員会(ICRP)は、トリチウム(3H)が、DNAの水素結合をしている水素と元素転換(トリチウムが分子と結合している水素に近づくと、トリチウムと水素とが入れ替わること)してベータ線を出して崩壊、DNAに壊滅的な影響を当たることを考慮していない。プルトニウム、ストロンチウム90もDNAと結びつきやすい。DNAに対して同様な壊滅的な影響を与える。

(4)国際放射線防護委員会(ICRP)は、1回のベータ崩壊でできた娘核種が2回目またベータ崩壊する、セカンド・イベントと呼ばれる内部被ばくを考慮していない。

 ストロンチウム90  → イットリウム90      →ジルコニウム90

 (半減期28.8年) β (半減期64.1時間) β

 テルル132     → ヨウ素132       →キセノン132

 (半減期78.2時間)β(半減期2.30時間)  β

最初のストロンチウム90やテルル132の出したベータ線でDNAが傷つき、そのDNAが誘導修復過程にあるときに、次のイットリウム90やヨウ素132がベータ線を出して、DNAの修復を更に難しくする。

国際放射線防護委員会(ICRP)はそのセカンド・イベントをリスク評価にまったく入れていない。ストロンチウム90だけ、テルル132だけの単独のリスク評価のみである。

(5)ウランなど原子番号の高い金属が体内にあると、外部からガンマ線が当たるとウランがそのガンマ線を吸収し、体内のウランはまたオージェ電子という電子を放出する。この電子線がDNAを連続的に傷つけることになる。国際放射線防護委員会(ICRP)はこのファントム放射能を考慮していない。

(6)放射線によって、DNAが傷つきがん細胞ができる、というだけではなく、ゲノム不安定性と呼ばれる、突然変異を起こしやすい細胞ができる。放射線を受けた細胞だけではなく、その細胞の周辺の別の細胞もゲノム不安定性を起こす。これは細胞と細胞同士が相互に信号をやり取りしていることによっておこる。国際放射線防護委員会(ICRP)はバイスタンダー効果を考慮していない。

(7)劣化ウラン弾によって作られた、極めて小さい粒子サイズの高放射能微粒子が肺を通して、あるいは鼻から直接中脳に、また、皮膚を通しても体内に取り込まれる。さまざまなガンや中枢神経系の傷害をもたらすにもかかわらず、劣化ウラン弾の影響は、その体内での濃度から健康影響を評価しようとする国際放射線防護委員会(ICRP)の理論は誤っている。国際放射線防護委員会(ICRP)は劣化ウラン弾の健康影響を否定している。

 など他にも多くの問題を国際放射線防護委員会(ICRP)は無視していると欧州放射線リスク委員会(ECRR)は指摘しています。

<参考>放射線被ばくによる健康影響とリスク評価 ECRR2010年勧告 山内知也監訳 明石書店 2011年

 この欧州放射線リスク委員会(ECRR)の放射線防護理論については、2012年原子力規制委員会が設置される時に、付帯決議として以下が議決されていました。

「十四、放射線の健康影響に関する国際基準については、I C R P ( 国際放射線防護委員会) に加え、E C RR ( 欧州放射線リスク委員会) の基準についても十分検証し、これを施策に活かすこと。また、これらの知見を活かして、住民参加のリスクコミュニケーション等の取組を検討すること。」

 この付帯決議を生かし、文部科学省の作った「放射線の副読本」、復興庁の作った「放射線のホント」を根本的に見直すべきです。

原子力規制委員会設置法案に対する附帯決議 2012年6月20日

原子力規制委員会設置法案に対する附帯決議
平成二十四年六月二十日
参議院環境委員会

 東京電力福島第一原子力発電所事故により失墜した原子力安全行政に対する信頼を取り戻すためには、政府一丸となって原子力利用の安全確保に取り組む必要がある。よって、政府は、原子力安全規制組織を独立行政委員会とする本法の趣旨を十分に尊重し、その施行に当たり、次の事項について、万全を期すべきである。

一、政府は、原子力規制委員会を円滑に発足させ、放射線による有害な影響から人と環境を守る原子力規制行政を一日も早く国際的な水準まで向上させるよう、速やかに委員長、委員の人事の人選、国会手続きを進め、その見識を反映した組織構成を整備するとともに、十分な資源を確保するよう、特段の配慮を行うこと。
二、原子力規制委員会の委員長及び委員の任命に当たっては、一の分野に偏ることなく、専門性、経験等を十分踏まえ、原子力の安全規制を担うのにふさわしい者の人選を行うとともに、国会の同意を得るに当たっては、国会に対して、人選の理由を十分に説明すること。この際、国会における審査に資するよう、原子力事業者等からの寄附等に関し、その所属する研究室に対するものも含め、直近三年間の情報を人事案と併せて提出すること。
三、原子力規制委員会の委員長及び委員は、原子力事故に際し、原子力施設の安全の確保のために行うべき判断等の職責を十全に全うできるよう、その専門的知識及び経験を活かし得るための訓練を計画的に実行すること。また、法第七条第三項の適用を可能な限り避けるため、原子力規制委員会の委員長は、法第六条第三項に基づき、その職務を代理する委員四名を順位を付けてあらかじめ指名しておくこと。
四、原子力規制委員会は、その業務の基本方針及び業務計画を策定した上で毎年その評価を実施し、特に職員の専門能力の育成や訓練等の業務におけるP D C A サイクルの採用の試みなどその着実な実行の担保に取り組むとともに、これら及びその業務報告を国会の監視を受けるべく国会に報告をした上で、そのすべてを公表すること。また、これらの国会への報告に際しては、その監視の役割に資するよう、原子力規制委員会が防災対策に係る知見の提供も行うこと等にも鑑み、原子力防災会議の議長たる内閣総理大臣の意見を付すること。
五、原子力規制委員会は、原子力を推進する組織はもとより、独立性、中立性を確保するため、関係事業者等の外部関係者との接触等のルールを作り透明化を図ること。また、原子力規制委員会は、中立性、独立性、公開性、不断の説明責任の全うの確保、利益相反の防止等、その適正な運営並びに国民の信頼を得るために必要な課題について、規約、綱領、規律に関する事項等を速やかに定め、これを公表すること。
六、全職員へのノーリターンルールの適用に当たっては、職員の意欲、適性等が損なわれないよう適切に運用するとともに、人材の確保・育成につなげることができるよう配慮すること。

七、原子力規制委員会が原子力安全規制に関する判断に一義的な責務を有することから、原子力規制委員会に置かれる原子炉安全専門審査会及び核燃料安全専門審査会は、会議や議事録の公開を含む透明性を確保した会議運営の下、原子力規制委員会の判断を代替することなく、その判断に対する客観的な助言を行うに留めるものとすること。
八、原子力規制委員会は、核セキュリティ及び核不拡散の保障措置等の秘密保全と同時に、情報の最大限の公開性を確保するため、文書等情報の保全・管理体制を厳正に確立するとともに、機密にすべき事項及び公開できない事項に関するガイドラインを策定し、公表すること。また、原子力規制委員会は、情報公開法に基づく情報開示請求があった場合には、当該ガイドラインに従い、非開示にする部分を極力最小限にするなど、一般の行政機関以上に特に配慮すること。
九、原子力規制委員会は、安全神話から脱却し、常に安全性の向上を求める安全文化、少数意見や異論を重んじ、活発な議論が奨励される組織文化を確保しつつその業務の適正を確保するため、所掌事務に関する評価機関の設置を始めとする必要な措置を講ずること。
十、緊急時の原子力規制委員会と原子力災害対策本部の役割分担や連携については、縦割りの弊害が新たに生じないよう、国民の生命・健康の保護及び環境の保全を第一に、十分に検討すること。また、平時からの防災対策の強化が重要であることから、原子力規制委員会と原子力防災会議は、それぞれの明確な役割分担の下、平時から緊密な連携関係を構築し、防災体制の一体化を図ること。
十一、政府は、本法第一条及び本法改正に伴う改正原子力基本法第二条において、原子力の安全の確保の目的の一つに我が国の安全保障に資することが規定されている趣旨について、本法改正により原子力規制委員会が原子力安全規制、核セキュリティ及び核不拡散の保障措置の業務を一元的に担うという観点から加えられたものであり、我が国の非核三原則はもとより核不拡散についての原則を覆すものではないということを、国民に対して丁寧に説明するよう努めること。
十二、原子力規制委員会は、原子力の安全をめぐる問題に関する国民の理解の重要性に鑑み、これまでの用語が難解で国民に分かりにくかったことを踏まえ、用語改革を行うこと。
十三、政府は、東京電力福島原子力発電所の事故サイトの管理・運営に関し、国民及び環境を守る立場から、作業員の厳正な被ばくの一元的な管理を含め、十分な規制、監督を行うこと。
十四、放射線の健康影響に関する国際基準については、I C R P ( 国際放射線防護委員会) に加え、E C RR ( 欧州放射線リスク委員会) の基準についても十分検証し、これを施策に活かすこと。また、これらの知見を活かして、住民参加のリスクコミュニケーション等の取組を検討すること。
十五、核不拡散の保障措置、放射線防護に関する事務、モニタリングの実施機能を文部科学省から原子力規制委員会に移管し、一元化することに伴い、原子力規制委員会は、これらを担当する在外公館等への職員派遣等を行い、業務の効果的な実施を担保すること。
十六、原子力規制委員会は、原子力安全規制の課題に対する調査研究体制を立ち上げ、過去の地震・津波等の検証を含めた常に最新の知見を集約できるようその運用体制を構築し、その結果を安全規制に反映すること。また、原子力規制委員会は、原子力の安全の確保のうちその実施に関するものに責務を有する組織とされたことに鑑み、核燃料再処理の問題も含めた原子力利用全体の安全性についても担うこと。
十七、原子力規制委員会が原子力事故調査を行う場合には、過去の原子力行政において事故やトラブルが隠蔽されてきたことへの反省に立ち、全ての情報を速やかに公開することを旨とすること。また、原子炉等規制法に基づく従業者申告制度の見直しを行い、より実効的なものとすること。
十八、原子力発電所の再起動については、「事故の発生を常に想定し、その防止に最善かつ最大の努力をしなければならない」との目的に照らし、万が一の重大事故発生時への対応策も含め、ストレステストや四大臣会合による安全性の判断基準などの妥当性に関して、原子力規制委員会において十分に検証した上で、その手続を進めること。
十九、防災対策を確実に実施するため、実施機関及び支援機関の役割、責任について、法令、防災基本計画、地域防災計画、各種マニュアル等において明確にするとともに、これに必要な人員を十分確保すること。
また、これらについて、その妥当性、実効可能性を確認する仕組みを検討すること。併せて、地域防災計画策定において安定ヨウ素剤の配付等を含めた住民等のニーズに対応した仕組みを検討すること。
二十、原子力発電所事故による周辺環境への影響の度合いや影響を与える時間は、異常事態の態様、施設の特性、気象条件等により異なることから、原子力発電所ごとに防災対策重点地域を詳細に検討し、地方公共団体と連携をして地域防災計画等の策定に活かすこと。
二十一、原子力事業者が行う防災訓練は、原子力事故の際に柔軟な危機対応能力を発揮して対処することの重要性に鑑み、抜き打ち訓練、想定外も盛り込んだブラインド訓練を含め、重大事故の発生を含めた厳しい条件を設定して行い、その実効性を確保すること。
二十二、シビアアクシデント対策やバックフィット制度の導入に当たっては、推進側の意向に左右されず、政府が明言する世界最高水準の規制の導入を図ること。また、発電用原子炉の運転期間四十年の制限制度については、既設炉の半数近くが運転年数三十年を経過していることから、既存の高経年化対策等との整合性を図るとともに、今後増加が見込まれる廃炉について、その原子炉施設や核燃料物質などの処分の在り方に関し、国としての対策を早急に取りまとめること。
二十三、本法附則に基づく改正原子炉等規制法の見直しにおいては、速やかに検討を行い、原子力安全規制の実効性を高めるため、最新の科学的・技術的知見を基本に、国際的な基準・動向との整合性を図った規制体系とすること。特に、審査・検査制度については、諸外国の例を参考に、これが形骸化することがないよう、原子力規制委員会が厳格かつ実効的な確認を行うとともに、事業者が常に施設の改善を行わなければならないような規制体系を構築すること。
二十四、政府は、東日本大震災により甚大な被害が生じたことを踏まえ、原子力災害を含む大規模災害へのより機動的かつ効果的な対処が可能となるよう、大規模災害への対処に当たる政府の組織の在り方について、米国のF E M A ( 連邦緊急事態管理庁) なども参考に抜本的な見直しを行い、その結果に基づき必要な措置を講ずるものとすること。
二十五、原子力規制委員会の予算については、独立性確保の観点から、諸外国の例などを参考に、独自の財源の確保の在り方を検討すること。
二十六、従来からの地方公共団体と事業者との間の原子力安全協定を踏まえ、また、原子力の安全規制及び災害対策における地方公共団体の役割の重要性に鑑み、本法施行後一年以内に地方公共団体と国、事業者との緊密な連携協力体制を整備するとともに、本法施行後三年以内に諸外国の例を参考に望ましい法体系の在り方を含め検討し、必要な措置を講ずること。
二十七、国会に置かれた東京電力福島原子力発電所事故調査委員会の報告書については、原子力安全規制組織にとどまらず、原子力の安全規制及び災害対策に関しても十分に検討し、本法施行後三年にかかわらず、速やかに必要な措置を講ずること。
二十八、政府は、東京電力福島第一原子力発電所の事故の反省を深く心に刻み、毎年三月十一日に、全国の原子力発電所の安全性の総点検、原子力防災体制の確認、政府の原子力規制に関する取組の公表等を行い、二度と重大事故を起こすことのないよう、自らの取組を見直す機会とすること。

右決議する。