原子力規制委員会、火山の破局的噴火の監視体制を2020年度から始めるという。原発を再稼働させてから、破局的火山噴火予知?これこそ、「泥縄」式、原子力「規制」体制。市民の命とふるさとが危険にさらされています。
読売新聞 2019年1月7日 朝刊3面の記事より、全文を紹介します。
破局的噴火 備え重視 規制委、海底火山観測へ
2019年1月7日 読売新聞 朝刊 3面
◆原発審査にデータ活用
原子力規制委員会が「姶良(あいら)カルデラ」(鹿児島県)の海底での常時観測に乗り出すのは、破局的噴火の発生頻度が極端に低く、十分な知見が得られていないためだ。原発の火山対策は、東日本大震災後の新規制基準でようやく本格化した。火山についての研究を重ね、原発の安全対策を進める必要がある。(科学部 出水翔太朗、本文記事1面)
■高裁決定に衝撃
「立地不適」。広島高裁が2017年12月、四国電力伊方原子力発電所3号機(愛媛県)の運転差し止めを命じた決定は、規制委を含む原子力関係者にとって衝撃的だった。阿蘇カルデラ(熊本県)の過去の破局的噴火で、「(伊方3号機の)敷地に火砕流が到達していないと判断することはできない」と指摘された。
同高裁は18年9月、国が一般的にこうした噴火を想定した対策を取っていないことなどから、「原発が客観的にみて安全性に欠けるところはない、とするのが現時点における社会通念」とし、四電の異議を認めて決定を取り消した。ただ、17年10月に定期検査で停止していた伊方3号機は、決定取り消し後の18年10月まで稼働できなかった。
規制委の安全審査の手引「火山影響評価ガイド」は、火砕流が到達する可能性が十分小さい場合に限り、原発の立地を認めている。新規制基準に合格した伊方3号機を含む8原発15基は、この基準を満たしていると規制委が判断した。
■10回確認
しかし、破局的噴火の詳しいプロセスは、ほとんど知られていないのが実情だ。規制委の担当者は「原発の安全性を担保するために、どのようなデータが必要なのか、基礎的な研究を進める必要がある」と話す。
火山灰や火砕流の痕跡の調査で、国内の破局的噴火は約13万年前の阿蘇カルデラの噴火以降、10回確認されている。いずれも北海道と九州で、7300年前に鹿児島県の鬼界(きかい)カルデラで起きたのが最後だ。
姶良カルデラでは、約2万9000年前に破局的噴火が起きた。火砕流が宮崎、熊本両県に到達したほか、火山灰が京都府や東京都まで飛来した。
姶良カルデラ内には、現在も活発に活動している火山「桜島」があり、他のカルデラよりも海底の地殻変動が活発なことが予想される。このため、規制委が常時観測の対象に選んだ。
■海底に地震計
イタリアでは、国立火山学研究所がナポリ近郊のカルデラの海底で常時観測を行っている。3万9000年前と1万5000年前に破局的噴火を起こした火山で、海底に地震計や水圧計などを設置し、データを地上施設に転送している。
姶良カルデラでも同様の観測を検討中で、規制委はイタリアに職員を派遣して情報収集している。鬼界、屈斜路(くっしゃろ)(北海道)、洞爺(とうや)(同)などの他のカルデラでも、地質調査や岩石の組成分析を行う。
破局的噴火のプロセスの解明が進めば、規制委はその成果を「火山影響評価ガイド」に盛り込み、原発などの安全審査に活用する。
北海道大の村上亮特任教授(火山物理学・測地学)は、「破局的噴火は非常にまれな現象なので、国としてどう対処するかは考えられてこなかった。今回のような研究は、火山研究や防災上の観点からも重要だ」と指摘する。
◆新知見あれば対応要求
2011年3月の東京電力福島第一原子力発電所の事故を受け、13年7月に施行された新規制基準は、地震や津波に加えて火山の影響についても安全審査で確認するよう求めた。
外部電源を喪失した際に使う非常用ディーゼル発電機は、運転時に外気を取り込む。この吸気口から火山灰が侵入しないよう、着脱可能なフィルターの設置が各原発で進められている。
福島第一原発事故以前は、規制当局は破局的噴火だけでなく、比較的規模の小さい火山噴火による原子力施設への影響もほとんどチェックしておらず、火山の研究もしていなかった。
規制委は14年度から火山に関する安全研究を開始し、18年度までに計約20億円の予算を計上してきた。規制委の担当者は「火山学の分野の研究費としてはかなり大きな金額。規制委が火山対策を重視していることの表れだ」と話す。
この研究により、実際に電力会社が対応を迫られるケースも出てきている。鳥取県の大山(だいせん)で約8万年前に起きた噴火が、従来の想定よりも規模が大きかったことが、規制委の委託を受けた産業技術総合研究所の研究でわかった。
関西電力は、福井県にある美浜、大飯、高浜の3原発に降る火山灰の量を10センチと見積もり、審査に合格している。ところが、大山からの距離がこれらの原発とほぼ同じ約190キロ・メートル離れた京都市に、火山灰が30センチ程度積もっていた。
規制委は18年12月、関西電力に対し、3原発の火山灰の影響を見直すよう指示した。自然現象の新たな知見に基づき、規制委が影響評価の見直しを求めた初の事例となった。場合によっては、追加の対策が必要になる。
破局的噴火についても、今後の姶良カルデラの直接観測などで新知見が得られた場合は、規制委が各電力会社に対応を求めることになる。
〈破局的噴火〉
火砕流が周辺数十〜100キロ・メートル以上の範囲に到達して壊滅状態となり、日本の国土の大半が火山灰で覆われる超巨大噴火。死者・行方不明者63人を出した2014年の御嶽山(岐阜・長野県境)噴火では、火砕流が火口から2〜3キロ・メートル流れ出たことが確認されているが、この時の噴火よりはるかに規模が大きい。
図=国内の原発(○)と過去13万年間に破局的噴火を起こしたカルデラ(▲)
図=海底カルデラの観測イメージ
写真=四国電力伊方原発3号機(後方。手前左は1号機、同右は2号機)(昨年9月、愛媛県伊方町で、本社ヘリから)
原子力規制委員会が「姶良(あいら)カルデラ」(鹿児島県)の海底での常時観測に乗り出すのは、破局的噴火の発生頻度が極端に低く、十分な知見が得られていないためだ。原発の火山対策は、東日本大震災後の新規制基準でようやく本格化した。火山についての研究を重ね、原発の安全対策を進める必要がある。(科学部 出水翔太朗、本文記事1面)
■高裁決定に衝撃
「立地不適」。広島高裁が2017年12月、四国電力伊方原子力発電所3号機(愛媛県)の運転差し止めを命じた決定は、規制委を含む原子力関係者にとって衝撃的だった。阿蘇カルデラ(熊本県)の過去の破局的噴火で、「(伊方3号機の)敷地に火砕流が到達していないと判断することはできない」と指摘された。
同高裁は18年9月、国が一般的にこうした噴火を想定した対策を取っていないことなどから、「原発が客観的にみて安全性に欠けるところはない、とするのが現時点における社会通念」とし、四電の異議を認めて決定を取り消した。ただ、17年10月に定期検査で停止していた伊方3号機は、決定取り消し後の18年10月まで稼働できなかった。
規制委の安全審査の手引「火山影響評価ガイド」は、火砕流が到達する可能性が十分小さい場合に限り、原発の立地を認めている。新規制基準に合格した伊方3号機を含む8原発15基は、この基準を満たしていると規制委が判断した。
■10回確認
しかし、破局的噴火の詳しいプロセスは、ほとんど知られていないのが実情だ。規制委の担当者は「原発の安全性を担保するために、どのようなデータが必要なのか、基礎的な研究を進める必要がある」と話す。
火山灰や火砕流の痕跡の調査で、国内の破局的噴火は約13万年前の阿蘇カルデラの噴火以降、10回確認されている。いずれも北海道と九州で、7300年前に鹿児島県の鬼界(きかい)カルデラで起きたのが最後だ。
姶良カルデラでは、約2万9000年前に破局的噴火が起きた。火砕流が宮崎、熊本両県に到達したほか、火山灰が京都府や東京都まで飛来した。
姶良カルデラ内には、現在も活発に活動している火山「桜島」があり、他のカルデラよりも海底の地殻変動が活発なことが予想される。このため、規制委が常時観測の対象に選んだ。
■海底に地震計
イタリアでは、国立火山学研究所がナポリ近郊のカルデラの海底で常時観測を行っている。3万9000年前と1万5000年前に破局的噴火を起こした火山で、海底に地震計や水圧計などを設置し、データを地上施設に転送している。
姶良カルデラでも同様の観測を検討中で、規制委はイタリアに職員を派遣して情報収集している。鬼界、屈斜路(くっしゃろ)(北海道)、洞爺(とうや)(同)などの他のカルデラでも、地質調査や岩石の組成分析を行う。
破局的噴火のプロセスの解明が進めば、規制委はその成果を「火山影響評価ガイド」に盛り込み、原発などの安全審査に活用する。
北海道大の村上亮特任教授(火山物理学・測地学)は、「破局的噴火は非常にまれな現象なので、国としてどう対処するかは考えられてこなかった。今回のような研究は、火山研究や防災上の観点からも重要だ」と指摘する。
◆新知見あれば対応要求
2011年3月の東京電力福島第一原子力発電所の事故を受け、13年7月に施行された新規制基準は、地震や津波に加えて火山の影響についても安全審査で確認するよう求めた。
外部電源を喪失した際に使う非常用ディーゼル発電機は、運転時に外気を取り込む。この吸気口から火山灰が侵入しないよう、着脱可能なフィルターの設置が各原発で進められている。
福島第一原発事故以前は、規制当局は破局的噴火だけでなく、比較的規模の小さい火山噴火による原子力施設への影響もほとんどチェックしておらず、火山の研究もしていなかった。
規制委は14年度から火山に関する安全研究を開始し、18年度までに計約20億円の予算を計上してきた。規制委の担当者は「火山学の分野の研究費としてはかなり大きな金額。規制委が火山対策を重視していることの表れだ」と話す。
この研究により、実際に電力会社が対応を迫られるケースも出てきている。鳥取県の大山(だいせん)で約8万年前に起きた噴火が、従来の想定よりも規模が大きかったことが、規制委の委託を受けた産業技術総合研究所の研究でわかった。
関西電力は、福井県にある美浜、大飯、高浜の3原発に降る火山灰の量を10センチと見積もり、審査に合格している。ところが、大山からの距離がこれらの原発とほぼ同じ約190キロ・メートル離れた京都市に、火山灰が30センチ程度積もっていた。
規制委は18年12月、関西電力に対し、3原発の火山灰の影響を見直すよう指示した。自然現象の新たな知見に基づき、規制委が影響評価の見直しを求めた初の事例となった。場合によっては、追加の対策が必要になる。
破局的噴火についても、今後の姶良カルデラの直接観測などで新知見が得られた場合は、規制委が各電力会社に対応を求めることになる。
〈破局的噴火〉
火砕流が周辺数十〜100キロ・メートル以上の範囲に到達して壊滅状態となり、日本の国土の大半が火山灰で覆われる超巨大噴火。死者・行方不明者63人を出した2014年の御嶽山(岐阜・長野県境)噴火では、火砕流が火口から2〜3キロ・メートル流れ出たことが確認されているが、この時の噴火よりはるかに規模が大きい。
図=国内の原発(○)と過去13万年間に破局的噴火を起こしたカルデラ(▲)
図=海底カルデラの観測イメージ
写真=四国電力伊方原発3号機(後方。手前左は1号機、同右は2号機)(昨年9月、愛媛県伊方町で、本社ヘリから)