2017年10月27日に日本政府が提案した、決議案はもはや「核廃絶決議」ですらなく、「核軍縮決議案」に過ぎません。核抑止論によって立つ決議案であり、軍縮への国際的圧力とはなり得ない内容です。外務省は、現時点(2017年10月29日21:00pm)で骨子しか公表してません。

 この問題で、もっとも本質的な報道をしているのは、東京新聞です。そして、毎日新聞の図版です。

***   ***

国連委採択 核廃絶決議、賛成国は減少 抑止力前提 日本に反発
   
2017年10月29日 東京新聞 朝刊

 【ニューヨーク=赤川肇】国連総会第一委員会(軍縮)で二十七日採択された日本主導の核兵器廃絶決議は、米国や昨年棄権の英仏の核保有国を含む百四十四カ国の賛成を得たが、七月に採択された核兵器禁止条約に触れず、核兵器の非人道性についての表現が後退しており、条約推進国を中心に昨年より十カ国多い二十七カ国が棄権に回った。昨年より賛成が二十三カ国減り、百五十カ国を下回ったのは二〇〇三年以来十四年ぶり。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

図版:核廃絶決議  つまずく日本 賛成国急減 国連委員会採択
毎日新聞 2017年10月29日 東京朝刊  2面  より

 昨年と同じ中国、ロシア、北朝鮮、シリアの四カ国が反対。条約推進国のブラジル、ニュージーランドなど二十七カ国が棄権した。
 決議は核拡散防止条約(NPT)の重要性や強化を従来通り主張。北朝鮮の核・ミサイル開発を踏まえ、昨年より安全保障や核抑止力を重視する姿勢を明確にした。
 「核兵器の全面廃絶に向けた共同行動への決意」をうたった本文第一項では、昨年の「核兵器なき平和で安全な世界を目指して」との文言を削除。「国際的な緊張関係を緩和し、NPTで想定された国家間の信頼を強化し」と挿入した。
 百二十二カ国の賛成で採択された核兵器禁止条約を巡っては、日本や核保有国は不参加の立場。今回の決議でも核保有国の支持を優先して一切言及せず、新たに「核兵器のない世界の実現に向けたさまざまなアプローチに留意する」との一節を設けた。
 核兵器を非合法化する核兵器禁止条約が制定された中、核抑止力を前提にした決議に批判も相次いだ。昨年は共同提案国だったオーストリアのトーマス・ハイノツィ軍縮大使は「国際的な緊張関係を緩和」「国家間の信頼を強化」との文言が加わった決議を「核軍縮を後回しにする書きぶりだ」と日本の変節を疑問視した。
 日本の決議は今回で二十四年連続の採択。年内にも国連総会本会議で採決され正式な決議となる。
◆「唯一の被爆国」存在埋没
 日本主導で国連総会第一委員会(軍縮)で採択された核兵器廃絶決議案は、賛同国を昨年から二十三カ国減らした。核兵器を非合法化する核兵器禁止条約の採択や、同条約を推進した「核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)」のノーベル平和賞受賞で核廃絶の機運が高まる中、唯一の戦争被爆国の存在が埋没する皮肉な結果となった。 (大杉はるか)
 賛同国が減った背景には、核軍縮に対する日本の姿勢がある。外務省幹部は「『核兵器禁止条約は、核保有国と非保有国の溝を深めるから正しくない』という日本の主張に、イエスと言わない国が相当いる」と認める。

図版:核廃絶決議案  賛成23カ国減 禁止条約対応で日本に反発

毎日新聞 2017年10月28日 夕刊 1面 より

 同条約は、七月に百二十二カ国の賛成で採択された。核拡散防止条約(NPT)が、核兵器国に核軍縮交渉の努力を求めているにすぎず、削減が進まないとの不満が採択を後押しした。核保有国は「国際的な安全保障の現実を無視している。核抑止政策と相いれない」(米英仏の共同声明)などと不参加。米国の核抑止力に依存する日本も「核兵器国を巻き込まなければ意味がない」と参加を見送った。今回の決議案でも条約に直接触れていない。
 外務省幹部は「北朝鮮の核放棄が見込めない中(米国と)逆のことをやるのは、核なき世界の実現に資さない」と話す。北朝鮮の脅威を前に、安保と核軍縮を切り離せないとの説明だ。
 二十八日に出された河野太郎外相の談話では「全ての国が核軍縮の取り組みにコミット(関与)できる共通の基盤の提供を追求した」と決議案の意義を強調した。だが、賛同国が減ったことを考えると、日本の立場や主張が十分に理解されたとはいえない。核軍縮に向けて政府が目指す「核保有国と非保有国の橋渡し」の実現は、より困難になった。

 ***   ***

日本政府、2016年  核廃絶決議

外務省

2016年第71回国連総会我が国核兵器廃絶決議案(骨子)
タイトル 「核兵器の全面的廃絶に向けた新たな決意の下での共同行動」
前文
●国際的な核不拡散体制の基礎としての核兵器不拡散条約(NPT),及び同条約の3本柱(核軍
縮,核不拡散,原子力の平和的利用)を追求するための不可欠な基礎としてのNPTの決定的
な重要性を再確認。(パラ3)
●NPT体制の普遍性を更に強化する決意の再確認,並びに核軍縮,不拡散及び原子力の平和
的利用が相互補強関係にあり,NPT体制の強化に不可欠であることを想起。(パラ4)
●NPT条約発効50周年に当たる2020年のNPT再検討会議及び同会議に向けた一連の準備
委員会等の重要性を強調。(パラ5)
●地域の安全保障状況をめぐる現下の動きについての懸念を表明。(パラ7)
●核軍縮検証のための国際パートナーシップ(IPNDV)を含め,核軍縮の検証能力の開発に向け
た取組を歓迎,この点に係る核兵器国と非核兵器国の協力の重要性を強調。(パラ11)
●包括的核実験禁止条約(CTBT)の署名開放20周年を記念しての閣僚級会議(ウィーン及びニ
ューヨーク)の成功裏の開催を歓迎,20年に及ぶCTBT機関準備委員会の成果を称賛。(パラ
14)
●核兵器使用の壊滅的で非人道的な結末に深い懸念を表明,国際人道法を含む関連国際法の
遵守の必要性を再確認。(パラ15)
●核兵器使用による壊滅的で非人道的な結末が皆に十分に理解されるべきことを認識し,その関
連で,こうした理解を促進するための努力がなされるべきことに留意。(パラ16)
●政治指導者による近年の広島・長崎訪問,特に米国大統領の広島訪問を歓迎。(パラ17)
●国際社会が北朝鮮による度重なる核実験及び弾道ミサイル技術を使用した発射等,NPTを中
心とする核軍縮・不拡散体制に対する重大な挑戦に直面していることを想起。(パラ19)
●核及び放射性物質のテロが引き続き国際社会にとり緊急かつ発展的な挑戦であることを想起し,
IAEAの中心的役割が再確認された第4回核セキュリティ・サミットを含め,核セキュリティ・サミ
ットのプロセスの成功を歓迎。(パラ20)
本文
核兵器の全面的な廃絶に向けた共同行動をとる全ての国の決意を新たにする。(パラ1)
●2017年に開かれたNPT準備委員会を踏まえ,2020年のNPT運用検討会議に向け最大限
努力することを奨励。(パラ4)
●核兵器国及び非核兵器国が,核軍縮・不拡散の実践的かつ具体的な措置を実施する上で意義
のある対話に一層関与することを奨励。(パラ7)
●核兵器の使用による非人道的な結末についての深い懸念が,核兵器のない世界に向けた全て
の国の努力を下支えする旨強調。(パラ8)
●核兵器国に対し,一方的な措置,二国間の措置,地域的な措置及び多数国間の措置によるも
のを含め,全ての種類の核兵器の削減及び究極的には廃絶に向けた一層の取組を行うよう要
請。(パラ10)
●核兵器国に対し,2020年のNPT運用検討会議に向けたプロセス全体を通じ,核軍縮のため
の取組の一環として,解体・削減された核兵器及び運搬手段に関するより頻繁で詳細な報告を
行うことを含め,透明性の向上及び相互信頼の拡大のための取組を発展させていくことを奨励
(パラ12)
●核兵器国から明白で法的拘束力を伴う安全保証を受けることについての非核兵器国の正当な
関心を認識し,核兵器国に対し既存のコミットメントを十分に尊重するように求めるとともに,更なる非核兵器地帯の設置を奨励する。(パラ14,15,16)

●核兵器用核分裂性物質生産禁止条約(FMCT)の即時の交渉開始及び早期の交渉妥結を促
すとともに,全ての国に対し,かかる条約が効力を生ずるまでの間,核分裂性物質生産モラトリ
アムを宣言し,及び維持するよう促す。(パラ20)
●世界の指導者や若者等が被爆者を始め将来世代に自らの体験を引き継ぐコミュニティや人々
を訪問し,こうしたコミュニティや人々と交流すること等を通じ,被爆の実相に関する認識を向上
させるためのあらゆる取組を奨励。(パラ22)
●NPT上の核兵器国としての地位を持つことができない北朝鮮による,最近の核実験及び弾道ミ
サイル技術を使用した発射を最も強い表現で非難する。北朝鮮に対し,更なる核実験の実施を
自制するとともに,実施中の全ての核活動を完全な,検証可能な,かつ不可逆的な方法で直ち
に放棄することを強く要求する。北朝鮮に対し,全ての関連する国連安保理決議の完全に遵守
するとともに,2005年9月19日の六者会合共同声明を履行し,IAEAの保障措置を含め,速
やかにNPTの全面的な遵守に復帰することを要求。(パラ23)
●全ての国に対して北朝鮮の核・ミサイル計画がもたらす脅威に対処するため,全ての関連する
国連安保理決議の完全な履行を通じたものを含む取組の強化を呼びかけ。(パラ24)
●全ての国に対し核不拡散に係る効果的な国内管理体制の確立及び実施を呼びかけるとともに,
不拡散のための取組における国際的な連携と能力構築の促進に向けた国家間の協力及び技術支援を奨励。(パラ26)

 ***   ***

日本政府、2017年核軍縮決議案

 外務省 

2017年第72回国連総会我が国核兵器廃絶決議案(骨子)
タイトル 「核兵器の全面的廃絶に向けた新たな決意の下での共同行動」
前文
●国際的な核不拡散体制の礎石としての核兵器不拡散条約(NPT),及び核軍縮,核不拡散,原
子力の平和的利用を追求するための不可欠な基礎としてのNPTの決定的な重要性を再確認。
●NPT体制の普遍性を更に強化する決意の再確認,並びに核軍縮,不拡散及び原子力の平和
的利用が相互補強関係にあり,NPT体制の強化に不可欠であることを想起。
●1995年NPT運用検討・延長会議並びに2000年及び2010年NPT運用検討会議の最終文
書を想起。
●NPT条約発効50周年に当たる2020年のNPT再検討会議及び同会議に向けた一連の準備
委員会等の重要性を強調。
●核兵器のない世界の実現に向けた様々なアプローチに留意しつつ,全ての国の間の信頼関係
の再構築と協力関係の強化が核軍縮・不拡散の実質的な進展のために極めて重要であること
を強調。
●国際的な平和と安全保障の強化及び核軍縮の促進は相互に補強関係にあることを再確認。
●地域の安全保障状況をめぐる現下の動きについての重大な懸念を表明。
●北朝鮮による累次の核実験・弾道ミサイル技術を用いた発射は,地域及び世界の平和及び安
全保障に対する,これまでにない,重大かつ差し迫った脅威であること,NPT を中心とする体制
に対する重大な挑戦であること等を想起。
●核軍縮の検証能力の発展に向けた取組を歓迎,この点に係る核兵器国と非核兵器国の協力
の重要性を強調。
●包括的核実験禁止条約(CTBT)の署名開放以降のCTBT機関準備委員会の成果を称賛。
●核兵器使用の壊滅的で非人道的な結末に深い懸念を表明,国際人道法を含む関連国際法の
遵守の必要性を再確認。
●核兵器使用による壊滅的で非人道的な結末が皆に十分に理解されるべきことを認識し,その関
連で,こうした理解を促進するための努力がなされるべきことに留意。
●政治指導者による近年の広島・長崎訪問を歓迎。
●核及び放射性物質のテロが引き続き国際社会にとり緊急かつ発展的な挑戦であることを想起し,
核セキュリティにおけるIAEAの中心的役割を再確認。
本文
国際的な緊張関係を緩和し,NPT前文で想定されているように国家間の信頼の強化等により核
兵器の全面的廃絶に向けた共同行動をとることを全ての国により改めて決意。
●全ての者にとって安全で,核兵器のない平和で安全な世界の実現に向け,NPT を完全に実施
するという核兵器国の明確な約束を再確認。
●2017年のNPT第1回準備委員会の成功を歓迎し,2020年のNPT運用検討会議に向け最大
限努力することを奨励。
●全ての国が,核軍縮・不拡散の実践的,具体的かつ効果的な措置を促す意義のある対話に層関与することを奨励。

●核兵器の使用による非人道的な結末についての深い懸念が,核兵器のない世界に向けた全て
の国の努力を下支えする主要な要素であり続ける旨強調。
●全ての国に対して,国際的な緊張を緩和し,国家間の信頼を強化し,更なる核兵器の削減につ
ながる環境を醸成するよう奨励し,核兵器国に対し,一方的な措置,二国間の措置,地域的な
措置及び多数国間の措置によるものを含め,全ての種類の核兵器を削減し究極的に廃絶する
ため一層努力するよう要請。
●核兵器国に対し,2020年のNPT運用検討会議に向けたプロセス全体を通じ,核軍縮のため
の取組の一環として,特に,解体・削減された核兵器及び運搬手段に関するより頻繁で詳細な
報告を行うことによるものを含め,透明性の向上及び相互信頼の拡大のための取組を発展させ
ていくことを奨励。
●核兵器国から明白で法的拘束力を伴う安全の保証を受けることについての非核兵器国の正当
な利益を認識し,核兵器国に対し安全の保証に関するコミットメントを十分に尊重するように求
めるとともに,更なる非核兵器地帯の設置を奨励。
●北朝鮮による核実験を踏まえ,核実験モラトリアムの普遍的な遵守の死活的重要性及び緊急
性を強調。CTBTの発効要件国である北朝鮮による核実験が続く中,同条約の発効は可能で
はない。北朝鮮に対し遅滞なく署名・批准することを要求。
●核兵器用核分裂性物質生産禁止条約(FMCT)交渉が開始され,早期妥結するまでの間,核
兵器用核分裂性物質の生産モラトリアムを宣言し維持することの死活的な重要性及び緊急性
を強調。
●特に発効要件国である 8 か国が CTBT の署名・批准に向けて取組むことが要請されていること
を想起しつつ,CTBTの早期発効,FMCTの早期交渉開始に対する広く浸透した要請を認識。
●とりわけ,指導者や若者等がコミュニティや被爆者を始めとする人々を訪問し,交流し,これらの
人々から将来世代に自らの体験を引き継ぐこと等を通じ,被爆の実相に関する認識を向上させ
るためのあらゆる取組を奨励。
●北朝鮮による,全ての核実験及び弾道ミサイル技術を使用した発射を最も強い表現で非難。北
朝鮮に対し,更なる核実験の実施を控えるとともに,全ての進行中の核活動を完全で,検証可
能で,かつ不可逆的な方法で直ちに放棄することを強く要求する。北朝鮮に対し,全ての関連
する国連安保理決議を完全に遵守するとともに,2005年9月19日の六者会合共同声明を履
行し,IAEAの保障措置を含め,速やかにNPTの全面的な遵守に復帰することを要求。
●全ての国に対し,北朝鮮の核・ミサイル計画がもたらすこれまでにない,重大かつ差し迫った脅
威に対処するため,全ての関連する国連安保理決議の完全な履行を通じることを含め最大限
の努力を行うよう要請。
●全ての国に対し核兵器の拡散を防ぐ効果的な国内管理を確立し執行するよう要請するとともに,
不拡散の取組における国際的な連携と能力構築の強化のための国家間の協力及び技術支援
を奨励。
(了)