厚生労働省 第三回水道水における放射性物質対策検討会(2011年6月13日開催)で、古米弘明教授(東京大学大学院工学系研究科)が、2011年3月のヨウ素131の大量放出には2回のピークがあったことを報告しています。対象となった流域は、久慈川流域です。
この久慈川流域にあたる市町村は以下です。
福島県―棚倉町、浅川町、鮫川村、塙町、矢祭町、
栃木県―大田原市
茨城県―大子町、常陸大宮市、常陸太田市、日立市、東海村、那珂市
古米弘明教授は、国立環境研究所の大原利眞氏の研究に基づき、この久慈川流域にヨウ素131が、溶存態で699,950 GBq(ギガベクレル)、懸濁態で77,725 GBq(ギガベクレル)、総計 777,675 GBq(ギガベクレル)降り注いだことを2011年6月13日の会議で報告しています。
明らかに、2011年3年15日0時から同年3月16日11時頃まで、と3月21日12時から3月23日6時頃までの、2回の大きなピークがあります。この2つの時間帯に屋外で呼吸をしていた子どもたち、大人たちに甲状腺がんのリスクがあるのではないでしょうか。
一方、セシウム134+セシウム137については、この久慈川流域に、溶存態で1,980 GBq(ギガベクレル)、懸濁態で17,800 GBq(ギガベクレル)、総計 19,780 GBq(ギガベクレル)降り注いだことを報告しています。
そして、報告のスライドには「大きく2回の降下量ピークがあり、セシウムに比較してヨウ素の降下量が多いと計算されている」と書かれています。
2013年に首都圏大学東京が、2014年に日本分析センターが、大気汚染の測定をしていたテープの放射性物質濃度の分析を行っています。本来はPM2.5の粒子濃度を測定するためのものですが、原発事故の放射性セシウムが付着しているのではないか、と分析されたものです。残念ながら、原発事故から2年、3年も経ってから、測定されたので、ヨウ素131の濃度は分かりません。
東京都水元公園の2011年3月15日と3月21日のデータをグラフ化しました。また、埼玉県加須市環境科学国際センターのの2011年3月15日データをグラフ化しました。残念ながら、埼玉県加須市環境科学国際センターのの2011年3月20日および21日のデータは存在しないことになっているので、グラフ化できませんでした。
しかし、上記の国立環境研究所のヨウ素131の降下量は、セシウム134+セシウム137の約400倍です。この何倍のヨウ素131があったのでしょうか?
東京都立産業技術研究センターが測定した、2011年3月15日午前10時から11時までの空気では、ヨウ素131の濃度は、セシウム134、セシウム137の合計の約2倍でした。ヨウ素131が240ベクレル/m3、セシウム134が64ベクレル/m3、セシウム137が60ベクレル/m3。
少なくとも、セシウム134+セシウム137の2倍以上のヨウ素131が空気中にあった、と考えるべきです。
ただし、この東京都のデータで重要なのは、ヨウ素131だけが空気中にあったのではない、ということです。ヨウ素132(半減期2.3時間)のほうが多く、280ベクレル/m3もありました。また、ヨウ素133(半減期20.8時間)も30ベクレル/m3ありました。セシウムもセシウム136(半減期13.1日)が11ベクレル/m3ありました。こうした空気を吸った子どもや大人に甲状腺がんのリスクはないのでしょうか?ストロンチウム90も0.011ベクレル/m3、ストロンチウム89(半減期50.5日)も0.12ベクレル/m3ありました。
ちなみに、東京電力が福島第一原子力発電所で、作業員が全面マスクを着用しなければいけない基準としているのは、200ベクレル/m3です。東京都世田谷区でも、2011年3月15日午前10時から11時までは、全面マスクを着用しなければいけない環境だったのです。
久慈川流域の市町村では、少なくとも、2011年3年15日0時から同年3月16日11時頃まで、と3月21日12時から3月23日6時頃までの、2回の大きなピークがあったときに、屋外にいて空気を吸っていた子どもや大人に甲状腺がんのリスクがある、と考えるべきです。
同様に、東京都水元公園に2011年3月15日午前9時から10時屋外にいた子どもと大人、2011年3月21日午前8時から11時に屋外にいた子どもと大人、埼玉県加須市環境科学国際センター附近に、2011年3月15日午前10時から11時屋外にいた子どもと大人、東京都世田谷区に2011年3月15日午前10時から11時屋外にいた子どもと大人、には甲状腺がんのリスクがある、と考えるべきだと思います。
福島県ではすでに183名の小児甲状腺がんの子どもが出ています。宮城県丸森町では2人、茨城県北茨城市では3人です。「3.11甲状腺がん子ども基金」に、甲状腺がんに罹ったまたは手術したと、療養費を請求した35名の内訳は、福島県26人、神奈川県3人、宮城県1人、群馬県1人、千葉県1人、埼玉県1人、長野県1人、新潟県1人です。(2016年12月26日記者会見)
甲状腺超音波検査は東日本全体のすべての自治体で早急に行うべきです。ぐずぐずしていると死者がでる可能性もあります。ベラルーシでも、チェルノブイリ原発事故直後は、小児甲状腺がんを部分摘出したときがありました。リンパ節転移、肺転移によって、15人の子どもたちが命を失っています。それ以降、ベラルーシでは国家の法律によって、小児甲状腺がんの場合は、甲状腺の全摘出が術式として義務づけられています。「3.11甲状腺がん子ども基金」に療養費の支給を申し出た35名のうち、3名は肺に転移し、アイソトープ治療が必要だった、と発表されています。それはすべで福島県外の患者だった、とも。
繰り返します。甲状腺超音波検査は東日本全体のすべての自治体で早急に行うべきです。対象は子どもだけでなく、大人も無償で行うべきです。