福島県の第20回県民健康調査検討委員会は2015年8月31日、原発事故当時0~18歳の子どもを対象にした甲状腺超音波検査で、先行検査(2011年度、2012年度、2013年)で112名の甲状腺がんおよび疑いを、本格検査で25名の甲状腺がんおよび疑いを、計137名の子どもが小児甲状腺がんにかかっていることを発表しました。

 しかし、大手新聞各紙はこの事実を極めてわかりにくく報道しています。

 2紙の記事からは、137名もの子どもたちが小児甲状腺がんにかかっていることは分かりません。ちなみに、読売新聞、東京新聞はこの第20回県民健康調査検討委員会の発表を記事にしませんでした。

 問題なのは、福島県立医大が「原発事故からたった3年で小児甲状腺がんには罹らない」と2011~2013年度の検査を「先行検査」として、それ以降2014年度からの検査を「本格検査」として切り離したことです。そのため、記事を読んでも一体どれくらいの子どもが罹っているのかわかりにくいのです。この「原発事故で小児甲状腺がんの子どもはでない」の考え方を支えているのが、放射線医学総合研究所です。

 さらに、福島県立医大 鈴木眞一氏は穿刺細胞診で悪性とわかっても、「手術して良性とわかる偽陽性が10%ほど(未満)あるから」がん確定を手術後とした、としています。このため、小児甲状腺がんの手術が終わったものだけを小児甲状腺がんの人数として報道し、まだ、手術を受けていない子どもが「疑い」と一般の人には五分五分の印象を受ける表現として切り離されています。

 実際には105名の子どもが手術を受け、そのうち「偽陽性」で良性結節だったのは1人です。穿刺細胞診の精度は99%以上と言えます。

 津田敏秀氏が福島の子どもの甲状腺がんは異常な発症率だと指摘しているように、36万7685人を対象とする検査で、4年半で137名もの小児甲状腺がんが発症するのは異常な事態です。一巡目の検査での受診率ですら81.7%、二巡目では44.7%と半分の子どもが受診していない段階で25名(一次検査受診者 16万9455人)も小児甲状腺がんが見つかっているのです。

 二巡目の検査(2014年4月2日から 発表されたのは2015年6月30日現在)では、福島市は8名の子どもの小児甲状腺がんが見つかっています。実は2015年3月31日現在(第19回県民健康調査検討委員会2015年5月18日公表)では6名でした。つまり、今年2015年4月5月6月の3カ月で2名の子どもの小児甲状腺がんが新たに見つかったことになります。年間に推計するならば年8名になります。福島市の子どもの対象人数は5万5732人。つまり、10万人あたりにすると年16人の発症率になります。

 この10万人あたり16人はチェルノブイリ原発事故で被災したベラルーシの汚染地帯ゴメリ州の原発事故5年目の小児甲状腺がんの罹患率、10万人あたり11名を超えます。福島市はゴメリを超えたのです。

 川根は少なくとも本格検査で小児甲状腺がんの子どもが出た市町村ではただちにその子どもたちの住む地域の土壌検査を行い、放射線管理区域に相当する場所(4万ベクレル/m2)はただちに学校閉鎖、子ども、妊婦を避難されるべきであると考えます。

本格検査で小児甲状腺がんの子どもが見つかった市町村 (2015年3月31日現在→同年6月30日現在、対象人数)

2 浪江町 2人(1人→2人、3771人)

4 南相馬市 2人(1人→2人、1万2982人)

5 伊達市 6人(3人→6人、1万1742人)

6 田村市 2人(2人→2人、7321人)

11 大熊町 1人(1人→1人、2499人) 

14 福島市 8人(6人→8人、5万5732人)

15 二本松市 1人(1人→1人、1万596人)

16 本宮市 1人(0人→1人、6342人)

18 郡山市 1人(0人→1人、6万6747人)

19 桑折町 1人(0人→1人、2136人)

合計 25人(15人→25人、21万6779人)

※ 26 いわき市以降はまだ二次検査が終わっていない。

解説つき 福島県 子どもたちの甲状腺超音波検査結果と穿刺細胞診 20150831 改訂版20151105

 上記は第20回県民健康調査検討委員会が発表した、先行検査および本格検査を市町村ごとに川根が整理したものです。2015年3月31日現在と2015年6月30日現在との比較もあります。ご自由にダウンロードしてお使い下さい。

 北茨城市ではすでに3名の小児甲状腺がんの子どもが見つかっています。

北茨城市甲状腺超音波検査事業の実施結果について 20150825

http://www.city.kitaibaraki.lg.jp/docs/2015082500032/files/koujousenn.pdf

 2011年3月11日朝7時の時点でのヨウ素131のプルームのシュミレーションです。日本原子力研究開発機構が計算したものです。つくばの日本原子力研究開発機構ではこの時刻、空気から2800ベクレル/m3のヨウ素131を観測していました。この時間、登校時間だった子どもたち、通勤時間だった大人たちがいるのではないでしょうか。日本政府からは何も知らされず、プルームを吸ってしまった人がいるのではないでしょうか?

 このプルームは何もヨウ素131だけではありません。テルル132、セシウム134、セシウム136、テルル129m、ヨウ素133、テクネチウム99m、ストロンチウム89、ストロンチウム90などが含まれていたのです。

 このプルームが通った地域では、子どもも大人も甲状腺超音波検査を実施するべきであると考えます。

 つくばの日本原子力研究開発機構では、2011年3月15日7:00amに空気から2800ベクレル/m3のヨウ素131を観測していました。

【出典】2011 Preliminary estimation of release amount of 131I and 137Cs accidentally discharged from the Fukushima Daiichi nuclear power plant into the atmosphere茅野政道ほか

  つくばの高エネルギー加速器研究開発機構(KEK)では、2011年3月15日14:39-17:34の空気を捕集し、1m3あたりにどんな放射性物質が何ベクレルあるのか、分析していました。

 また、東京都立産業技術研究センターは、2011年3月15日10:00-11:00の空気を捕集し、その中の放射性物質の濃度を分析していました。特にストロンチウム89やストロンチウム90が含まれていたことも分かっています。

  ヨウ素131は半減期が8.0日ですが、他にも、テルル132は半減期が3.2日。これはベータ線を出して崩壊して、ヨウ素132になりますが、このヨウ素132の半減期は2.3時間。やはり甲状腺にたまり、ベータ線、ガンマ線を出して甲状腺細胞を傷つけます。ヨウ素133は半減期が20日。ヨウ素131よりも長期間、甲状腺を傷つけます。テルル129mは半減期33.6日。これらのデータには記載されていませんが、ヨウ素135も出ていました。ヨウ素135の半減期は6.6時間。ストロンチウム89は半減期が50.5日です。テクネチウム99mは6.0時間です。こうした短寿命核種を吸いこむことによる健康被害を究明する必要があります。

 原発労働者はだからD領域と呼ばれる区域では、頭、手足、胴体がすっぽり覆われる、完全防護服を着用して作業にあたるのです。私たち東北関東エリアの人間は少なくとも、2011年3月15日の朝、および夕方、完全防護服を着用して、外出しなくてはいけなかったのではないでしょうか。