100ベクレル/kgは安全か?国際放射線防護委員会(ICRP)の誤り
内部被ばくを考える市民研究会 川根 眞也
2012年4月1日から、日本の食品中の放射性物質に関する基準値は、乳幼児は50ベクレル/kgに、それ以外は100ベクレル/kgとなりました。これは放射性セシウムに関する基準値です。
政府は内部被ばくを年間1ミリシーベルト以下にするために決めた、安全な基準であるとしています。果たしてそうでしょうか?
2011年7月8日東京都で検査した南相馬市産牛肉から2300ベクレル/kgの放射性セシウムを検出。その農家の水田にあった稲わらは75000ベクレル/kgであったことが発覚しました。放射性セシウム汚染牛肉は全国46都道府県に流通しました。(流通しなかったのは沖縄県だけ)
大阪、兵庫で流通したセシウム汚染牛肉の最高値は4350ベクレル/kg。ところが、兵庫県はこの牛肉を150g食べても、0.01ミリシーベルトにしかならない。1回くらいなら食べても安全、と言っています。
なぜ、こんな事が言えるのでしょうか。
厚生労働省が今回の100ベクレル/kgの基準を決めていますが、その際の説明の文章が以下です。
厚生労働省も内部被ばくで年間1ミリシーベルト以下を達成するために、この基準値を算定したと説明しています。ガンマ線を出して測定しやすい放射性セシウムを基準としていますが、ストロンチウム90やプルトニウム、ルテニウム106も含まれているとして、その被ばく影響に考慮して、放射性セシウムの限度量を決めたとも説明しています。
また、内部被ばくを年間1ミリシーベルト以下にするべく、水による内部被ばくを年間0.1ミリシーベルト(放射性セシウム10ベクレル/kgを仮定)、食品による内部被ばくを残り年間0.9ミリシーベルト以下にするため、男女別各年齢層別に算定をしたのが上記の表です。
しかし、胎児や乳児が放射性物質の影響を受けやすいのは当然なことなのに、一番影響を受けやすいのが13~18歳までの男子となっています。この13~18歳までの男子が食品から年間0.9ミリシーベルト内部被ばくを受ける濃度が120ベクレル/kgだと厚生労働省は説明しています。だから、更に安全側をとって、100ベクレル/kgを基準値としたのだ、と。
何と1歳未満の胎児、乳児は460ベクレル/kgのものを食べると年間0.9ミリシーベルトになるという計算。
一体、どこをどう間違えるとこういう事になるのでしょうか?
実は、この食品中の放射性物質の濃度 ベクレル/kgから、被ばく線量 ミリシーベルトを換算する計算式にからくりがあったのです。
この計算式は、先の兵庫県のホームページ「暫定基準値を超えた稲わらを与えられた牛の肉について」にも紹介されているものです。
線量(ミリシーベルト)=放射性物質の濃度(ベクレル/kg)×摂取量(kg)×実効線量係数
この実効線量係数がカギです。この実効線量係数を決めているのが、国際放射線防護協会(ICRP)という民間団体です。国際放射線防護協会(ICRP)は、原子力推進派の科学者だけで占められており、自分たちに都合がいい科学論文だけを使って放射線防護理論を組み立てています。国際放射線防護協会(ICRP)は、人体に対する放射線の影響は、外部被ばくと内部被ばくの影響が1:1であるとして、外部被ばくの延長線上に内部被ばくを考えています。また、体内に放射性物質が入ると、筋肉だったら筋肉全体に、甲状腺ならば甲状腺全体に平均的に広がるとして、放射線の影響を考えています。
人間は細胞からできています。人間の生理的なさまざまな活動は、免疫やホルモンとの相互作用で成り立っています。国際放射線防護協会(ICRP)はこうした生物学の知見を一切無視して、人間をあくまで肉のかたまりとして、放射線の影響を考えているのです。
ですから、先のように13~18歳の男の子は放射性セシウム120ベクレル/kg
が限度だけれど、1歳未満の胎児・乳児は460ベクレル/kgまで大丈夫という議論が出てくるのは、成長期の男の子がたくさん食べるからです。1歳未満は臓器も小さいし、あまり食べないから。ここで無視されているのは、赤ちゃんにとって8歳までが小腸、大腸などが完成する重要な時期である、ということです。免疫機構を作るために胸腺が活躍する時期でもあります。それを破壊し、狂わせる放射線の影響を国際放射線防護協会(ICRP)はまったく無視しています。
ですから、「1歳未満の胎児・乳児は460ベクレル/kgまで大丈夫」という結論が出てくるのです。
また、放射性物質は各臓器に平均的に広がることはありません。心臓であれば、1%の細胞が死ねば25%の心筋が動かなくなります。
外部被ばくの延長に内部被ばくの影響を考える、国際放射線防護協会(ICRP)の放射線防護理論は非科学的です。
この国際放射線防護協会(ICRP)の放射線防護理論に基づく、ベクレルからミリシーベルトへの換算式は、本当の人間への影響を説明するものではありません。
政府の基準値100ベクレル/kgは即時に撤回し、ウクライナ、ベラルーシ、ロシアなどチェルノブイリ原発事故の被害の実態に学んだ、放射線防護理論を作るべきです。