2011年3月11日午後14時46分18.1秒、東北沖で東西200km、南北500kmに渡る範囲で岩盤が崩壊し、Mw9.0の東北地方太平洋沖地震が発生しました。この地震によって、東京電力福島第一原子力発電所は、冷却水を運ぶ配管が強烈で長時間にわたる地震動で破損し、冷却水を失った可能性があります。そのために、メルトダウンが起きたのではないか。この場合、仮に非常用電源があり、水が送れても、配管にひびが入ってしまい、冷却水が漏れてしまったのなら、メルトダウンは避けられなかった可能性があります。

 川内原発や高浜原発の再稼働「合格証」(案)が原子力規制委員会によって出されましたが、果たして地震に耐えうる設計なのでしょうか?

 川内原発の基準地震動は引き上げられても620ガル。高浜原発3、4号機の基準地震動も引き上げられても700ガルです。新潟中越地震の際、東京電力柏崎刈羽原発の1号機の岩盤では1699ガルを記録しました。この新潟中越地震のマグにチュードはM6.8。しかし、1909年宮崎県西部の深さ約150キロで推定M7.6のスラブ内地震が起こり、宮崎、鹿児島、大分、佐賀で震度5を記録して各地に被害が生じました。スラブは鹿児島県の地下にも存在しますから、もっと川内に近いところのスラブ内大地震を想定すべき、と地震学者 石橋克彦氏は指摘しています。

 国会事故調の報告書では、少なくとも1号機は地震によって配管に亀裂が入った可能性を指摘しています。原発の再稼働、原発の安全性を言うなら、少なくとも基準地震動1699ガル(新潟中越地震 東電柏崎刈羽1号機岩盤での計測値)以上の耐震設計を示すべきです。

 もう「想定外だった」の言い訳は聞きたくありません。

 国会事故調の報告書では

① 東京電力福島第一原子力発電所1~4号機では基準地震動は600ガルであったのに対し、東北地方太平洋地震による福島第一原子力発電所の敷地南部の東西方向の地震波の観測のうち、「はぎとり波」での最大加速度は675ガルであった。つまり、1~4号機の敷地の基盤の地震動は想定していた基準地震動を超えた。

ー国会事故調 報告書 pp.200

② 同じ敷地内でも、1~4号機が存在する南部と、5、6号機が存在する北部とでは南側の地震動の方が強い。5、6号機の地震記録や解析を1~4号機にあてはめることはできない。

ー同 pp.201

③ 原子炉圧力容器につながっている大小さまざまな配管ー主蒸気管、給水管、再循環系出口配管、再循環系入口配管、非常用炉心冷却(ECCS)系配管、非常用復水器(IC)系配管などーが破損すると、冷却材の水が噴出する、「冷却水喪失事故」(Loss Of  Coolant Accident:LOCA)に発展する。

ー同 pp.205

④ 大口径の配管が完全破断(ギロチン破断)すれば、大破口冷却水喪失事故(LB-LOCA)になるし、同じ大口径の配管でも微小貫通亀裂ならば小破口冷却水喪失事故(SB-LOCA)になる。また、中間的な中破口冷却水喪失事故(MB-LOCA)もある。東電が公表している、地震発生後から全交流電源喪失(SBO)までの原発のデータを見る限り、1~3号機で、大破口冷却水喪失事故(LB-LOCA)は起きていないと考えられる。しかし、公表されているデータだけから、小破口冷却水喪失事故(SB-LOCA)が起きたか起きなかったか、断定的に言う事はできない。

ー同 pp.205

⑤ 1号機は、非常用復水器(IC)が2011年3月11日14時52分に自動停止してからわずか11分で原子炉圧力が約6.8メガパスカル(MPa)から約4.5メガパスカル(MPa)まで急激に降下した。これはなぜか、「故障の木 解析」(FTA)という手法を使って解析すると、冷却水が漏れる面積が3cm2ならば、原子炉水位は急激に降下するはずなので、ありえない。しかし、冷却水が漏れる面積が0.3cm2以下の小破口冷却水喪失事故(SB-LOCA)が起きたとすると、原発のデータ(原子炉圧力や水位の変化)からそれを推測することはできない。しかし、0.3cm2以下の冷却水の漏えいでも1秒間あたりの水の漏えいは約2L、1時間で7.2t。10時間では72tにもなり、メルトダウンが10時間以内に起きても不思議ではない。

ー同 pp.205~211

⑥ 1号機で小破口冷却水喪失事故(SB-LOCA)が起きた可能性は否定できない。1号機のある運転員は、尋常ではない“ある音”を聞いていた。その運転員は、原子炉停止(スクラム)直後だったと述べたが、その時、非常用復水器(IC)は稼働していたとも述べている。原子炉停止(スクラム)は2011年3月11日14時47分、非常用復水器(IC)の自動起動は同日14時52分、5分間のずれがある。したがって、運転員が言う“尋常ではない音”が聞こえたのは同日15時少し前だろう。別の運転員が聞こえているこのゴーっという音は何だろう。」と聞いたので、その運転員は「IC(非常用復水器)の排気管から出てくる蒸気の音ではないか」と答えたという。

 しかし、これは非常用復水器(IC)から出てくる蒸気ではありえない。非常用復水器(IC)が手動停止されたのが、同日15時03分。実質11分しか作動していない。停止時でもタンクの水の温度はせいぜい70℃。これでは蒸気どころか湯気もでてこない。中央制御室の1号機用ホワイトボードにも「廊下側からシューシュー音 有」と書かれている。

ー同 pp.212~213

国会事故調 報告書 東京電力福島第一原子力発電所事故調査委員会 2012年9月30日

 

地震学者が「川内原発の審査は『耐震偽装』ともいえる大問題」と警告

2014/9/29 07:00 dot.

http://dot.asahi.com/wa/2014092600031.html

川内原発の再稼働に向けた政府方針の書面を伊藤祐一郎鹿児島県知事(右)に手渡す上田隆之資源エネルギー庁長官 (c)朝日新聞社 
 九州電力の川内原発(鹿児島県)が再稼働に向けて急ピッチで動き始めた。審査書を原子力規制委員会が正式決定し、政府は再稼働を進めるという文書を交付した。だが、「原発震災」を早くから警告してきた地震学者の石橋克彦・神戸大学名誉教授は、審査書は無効だと訴える。

*  *  *

 これまで川内原発の審査書に対する批判は、火山噴火が軽視されているとか、避難計画が不十分であるとかが大半でした。しかし、地震に関して重大なことが見過ごされています。

 福島原発事故の反省に立って原子力規制行政が抜本的に改められ、国民の不安と不信を払拭(ふっしょく)すべく新規制基準が作られたはずです。全国初となる川内原発の審査書は、その試金石です。

 ところが、新基準自体の欠陥は脇に置くとしても、新基準のもとで規制委員会がきちんと審査したかというと、実はそれが驚くほどいい加減なのです。

――九州電力の申請書は9月10日、規制委員会によって「新規制基準に適合する」と認められた。12日には政府が再稼働を進めることを明記した文書を、上田隆之・資源エネルギー庁長官が鹿児島県の伊藤祐一郎知事と同県薩摩川内市の岩切秀雄市長に手渡した。政府のお墨付きを得たことで、九電は再稼働に向けた準備を着々と進めていくことになる。だが、石橋氏は月刊誌「科学」9月号に、そもそもの審査がおかしいと批判する論文を発表した。どういうことなのか。

 一言でいうならば、耐震設計の基準とする揺れ=「基準地震動」を策定する手続きが規則で決められているのに、それを飛ばしているのです。これは基準地震動の過小評価につながり、法令違反とさえ言えます。

 原発の安全上重要な施設は、基準地震動に対して無事であることが求められています。そのため、「内陸地殻内地震」「プレート間地震」「海洋プレート内地震」について、敷地に大きな影響を与えると予想される地震を複数選び、それらによる地震動を検討することになっています。

 しかし九電は、活断層による内陸地殻内地震しか検討しませんでした。プレート間地震と海洋プレート内地震については、揺れは震度5弱に達せず、原発に大きな影響を与えないとして無視したのです。

 実は、けっしてそうは言い切れません。地震学的に、具体的な懸念があるのです。ところが審査では、九電の言いなりにしてしまった。

 プレート間地震については、社会問題にもなっているように、内閣府の中央防災会議が駿河湾~日向灘にマグニチュード(M)9級の南海トラフ巨大地震を想定しています。そこでは、川内付近の予想最大震度は5弱に達しています。

 しかも、これは全体の傾向をみるための目安にすぎないので、特定地点の揺れは別途検討するように言われています。震源のモデルを安全側に想定すれば、川内では震度6になるかもしれません。

 海洋プレート内地震については、九州内陸のやや深いところで発生する「スラブ内地震」が重要です。「スラブ」というのは、地下深部に沈み込んだ海洋プレートのことです。

 1909年に宮崎県西部の深さ約150キロで推定M7.6のスラブ内地震が起こり、宮崎、鹿児島、大分、佐賀で震度5を記録して各地に被害が生じました。

 スラブは鹿児島県の地下にも存在しますから、もっと川内に近いところのスラブ内大地震を想定すべきです。そうすれば川内原発は震度6程度の揺れを受ける恐れもあります。

 基準地震動は1万~10万年に1度くらいしか起きない地震を想定すべきものです。だからプレート間巨大地震とスラブ内大地震も検討する必要があるのに、九電も審査側も、規則を無視して「手抜き」をした。

 九電は、内陸地殻内地震による基準地震動については、原発から少し離れた活断層で起こるM7.2~7.5の地震を想定して、最大加速度540ガル(加速度の単位)としました。

 南海トラフ巨大地震とスラブ内地震では、この値を超えるかもしれません。前者については、九電は免震重要棟のために長周期地震動をいちおう検討しましたが、内閣府の震源モデルの一部をつまみ食いしただけの不十分なものです。

 仮に最大加速度が540ガルより小さかったとしても、プレート間地震とスラブ内地震は活断層地震とは非常に違った揺れ方をするので、基準地震動を策定して重要施設の耐震安全性をチェックすべきです。

 川内原発の基準地震動は620ガルとよく言われますが、これは直下で震源不詳のM6.1の地震が起きた場合の想定最大加速度です。しかし、活断層がなくてもM7程度までの大地震は起こりうるので、これは明らかに過小評価です。

 2007年新潟県中越沖地震(M6.8)では東京電力柏崎刈羽原発の1号機

の岩盤で1699ガルを記録しました。地震の想定と地震動の計算の不確かさを考えれば、最低その程度の基準地震動にすべきです。