学校給食の食材の放射性物質検査の取り組みについて

~長野県松本市のサーベイメータ検査機とゲルマニウム半導体検査機、NaIシンチレーション式検査機の平行活用~

                       2014年10月12日
                        内部被ばくを考える市民研究会 

                                 川根 眞也

 以下、報告書(本文 15ページ)pdfと資料pdfです。資料は118ページあります。ご自由にダウンロードしてお使い下さい。

学校給食の食材の放射性物質検査の取り組みについて 川根眞也 20141012

資料 学校給食の食材の放射性物質検査の取り組みについて 内部被ばくを考える市民研究会 川根眞也.pdf

https://drive.google.com/file/d/0B4wzLqxsc4FKcXZ0Um5XUnZUZ2s/view?usp=sharing

2014年11月4日に参議院会館で開催された、「うるとらサポーターズ給食委員会11.4学習会」の資料スライドをUPしました。ダウンロードしてご自由にお使い下さい。

パワーポイント 学校給食の食材の放射性物質の検査について 20141104

1.はじめに
(1)東北・関東産さつまいもの放射能汚染

 東北・関東地方の農作物・水産物の放射能汚染は数値が2011年3月~5月に比べてかなり低くなりました。しかし東北・関東地方の農作物・水産物からは放射性物質が継続して検出されています。資料に2013年9月~2014年8月まで厚生労働省に集約された、全国の都道府県各自治体の食品中の放射性物質の検査結果から、一例としてさつまいもを抜き出して整理したものを紹介します。
(資料1)さつまいも 厚生労働省 食品中の放射性物質 月間検査結果 2013年9月~2014年8月まとめ
福島県産さつまいもで、放射性セシウム合計3.3~40ベクレル/kg(最高値40ベクレル/kgは南相馬市産)、宮城県大和町産さつまいも同4.9ベクレル/kg、茨城県産さつまいも同0.79~8.3ベクレル/kg、神奈川県横浜市産さつまいも同1.4ベクレル/kg、千葉県産さつまいも同0.97~2.9ベクレル/kg、静岡県御前崎市産さつまいも同0.24ベクレル/kg、栃木県産さつまいも同4.7~27ベクレル/kg(最高値27ベクレル/kgは日光市産)です。
 これらのさつまいもの放射能汚染の状況は、2011年5月19日朝日新聞が報道した「汚染牧草、早期に刈り取り保管 農水省が指導方針」の8県ー岩手県、宮城県、福島県、茨城県、千葉県、栃木県、群馬県、埼玉県ーに一致します。

(資料2)汚染牧草早期に刈り取り保管農水省が指導方針 20110519
埼玉県産さつまいもなどは、厚生労働省の検査結果にはありませんでしたが、同時期(2013年9月~2014年8月)の市内産農作物の検査では埼玉県さいたま市産さつまいも2.4ベクレル/kg(2014年4月25日採取)検出されています。
(資料3)さいたま市(埼玉県) 食品中の放射性物質の検査 
2011年3月24日~2014年9月10日
 岩手県産のさつまいもの検査結果はありませんでした。群馬県産さつまいもについては2013年10月の月別検査結果がありました。検出限界がセシウム134で<4.8 セシウム137で<5.7(採取日 2013年10月20日群馬県調べ 群馬県産)や検出限界がセシウム134で<4.6 セシウム137で<4.9(採取日 2013年10月7日群馬県調べ 群馬県川場村産)などでした。検出限界が高すぎます。決して群馬県産のさつまいもに放射性物質がないことを示すものではありません。

 すでに日本原子力研究開発機構が、2011年3月12日から5月1日までの、日本全国に降下したセシウム137の積算沈着予想を発表しています(2011年9月6日)。この茶色く汚染された地域の農作物、水産物は多かれ少なかれ放射性物質に汚染されていると考えるべきであり、学校給食の食材には使うべきではない、と考えます。
(資料4)セシウム137の積算沈着予測 日本原子力研究開発機構 20110906

  これまで、学校給食は「食育」の観点から、地産地消を基本としてきました。しかし、この茶色く色塗られた地域では、予防原則の観点から、地元産を避けることを基本とすべきです。学校給食の基本的な考え方も、郷土料理、季節にあったメニューよりも、安全第一を旨とする食材選びに転換すべきです。きのこご飯、栗ごはん、たけのこご飯、サンマ、山菜料理など、これまで大切されてきた食文化ではありますが、きのこ、栗、たけのこ、サンマ、山菜の放射能汚染が極めて顕著である現状を考えると、避けるべきであると考えます。

 (2)1.1ベクレル/kgで健康被害

 食品と暮らしの安全基金 小若順一氏らは6回に渡るウクライナ調査で、土壌のセシウム137が7ベクレル/kg、ストロンチウム90が3ベクレル/kgの非汚染地帯で、住民の7割に頭痛が出ていることを調べ、その村の子どもたち1日分の食事を調べたところ、セシウム137が1.1ベクレル/kgであったことを報告しています。
(資料5)非汚染地帯にあるノヴィ・マルチノヴィッチ村 1.1Bq/kgで7割頭痛 小若順一氏

 セシウム134、137合計で100ベクレル/kgを超えないことが、現在の政府の食品の基準ですが、これはがん死が増えないレベルでの基準です。セシウム137をたった1ベクレル/kg含む食品を食べ続けただけで、ウクライナでは「足が痛い」「頭痛がする」「自律神経失調症」「鼻血が出る」「風邪をひきやすい」「めまいがする」という症状が出ていると小若順一氏は報告しています。

(3)食品の放射性物質はストロンチム90、セシウム137について0.001ベクレル/kgまで測定すべき

 北海道札幌市は、市内流通農作物、水産物の放射性物質濃度について、検出限界セシウム134、137で0.8ベクレル/kgのレベルまで検査を行っています。2013年7月の検査で山形県の桜桃(さくらんぼ)で放射性セシウム合計0.84ベクレル/kg検出されています。2013年9月~2014年8月までの時期の検査では、福島県のモモ同2.9~8.5ベクレル/kg、福島県産ぶどう同2.8ベクレル/kg、福島県産ナシ同1.6、1.7ベクレル/kg、茨城県産レンコン同0.94~4.4ベクレル/kg、茨城県産栗同5.6、5.7ベクレル/kg、千葉県産真アジの開き干し同2.4ベクレル/kg、千葉県産アジ同1.8ベクレル/kgなどが検出されています。

(資料6)札幌市 食品中における放射性物質の検査結果 20120327~20140925

 こうした検査結果が出るのは、先に紹介したように、北海道札幌市が検出限界セシウム134、137で0.8ベクレル/kgのレベルまで検査を行っているからです。このレベルまで検査を行い、放射能汚染された食材を使わないことで、子どもたちの健康被害が起きることを未然に防止できるのではないか、と考えられます。
 過去には、大気圏内核実験やチェルノブイリ原発事故による、ストロンチウム90、セシウム137の降下によって、日本の農産物も汚染されていました。その健康影響を測定するため、科学技術庁や文部科学省は、食品中に含まれているストロンチウム90、セシウム137を調べてきました。全国47都道府県には衛生研究所や原子力センターなどがあり、食品や水道水、河川の水、海水、土壌(耕作地、未耕作地)中のストロンチウム90、セシウム137を調べてきました。そのレベルはベクレル/kg(ベクレル/L)ではなく、ミリベクレル/kg(ミリベクレル/L)の単位です。
 ※ミリベクレルとはベクレルの1000分の1の大きさの単位。
文部科学省 環境放射能調査研究成果発表会のサイトに都道府県における、降下物、陸水、土壌、精米、野菜類、牛乳、淡水産生物、海水、海底土、海産生物のその年度の計測結果が公表されています。

『文部科学省 環境放射能調査研究成果発表会』
http://www.kankyo-hoshano.go.jp/08/08_0.html

 次ページの表はチェルノブイリ原発事故から2年後の全国各地の牛乳のストロンチウム90、セシウム137の放射能汚染のデータです。1989年1月の北海道の牛乳はストロンチウム90で0.1737ベクレル/L、セシウム137で0.6905ベクレル/L汚染されていたことを示しています。
 これに比較すると、現在の牛乳がセシウム137に2ベクレル/L汚染されていたとすると、チェルノブイリの際の北海道の牛乳の最高値の、約3倍の汚染度であることになります。チェルノブイリの際の福岡の牛乳ではセシウム137では最低が0.0120ベクレル/Lの汚染の程度ですから、現在の牛乳がセシウム137に2ベクレル/L汚染されていたとすると、実にその167倍の汚染度であることになります。
 (資料7)チェルノブイリ事故2年後の日本の牛乳中のストロンチウム90、セシウム137の濃度 1988年

 

  ほとんどの自治体が行っている放射性物質の検査はセシウム134、セシウム137のみであり、これまで継続的に調査されてきたストロンチウム90を測っていません。チェルノブイリ事故ほどではないにしろ、今回の東京第一原発事故でもストロンチウム90は放出されています。また、汚染水となって海にはストロンチウム90が大量に流出しています。全国47都道府県衛生研究所や原子力センターは、ストロンチウム90を測定する能力があるのですから、設置自治体の農作物、水産物の放射能汚染の実態を自ら測定し、ミリベクレル/kg(ミリベクレル/L)の単位まで公表すべきです。

 東京第一原発事故後、環境省が調査した堆積物(海底土、湖底土)のストロンチウム90の汚染データでは、以下の通りです。
福島県 ストロンチウム90は最大93.0ベクレル/kg(双葉町 沢入第1農業用ため池 2012年10月18日採取)
茨城県 ストロンチウム90は最大 7.0ベクレル/kg(龍ヶ崎市 牛久沼 牛久沼湖心 2012年12月6日採取)
千葉県 ストロンチウム90は最大 4.4ベクレル/kg(柏市手賀沼根戸下 2012年9月11日採取)
群馬県 ストロンチウム90は最大 2.2ベクレル/kg(みなかみ町藤原湖(藤原ダム)湖心 2012年11月6日採取)
宮城県 ストロンチウム90は最大 2.1ベクレル/kg(仙台市天沼 沼出口 2012年11月28日氏採取)
栃木県 ストロンチウム90は最大 1.6ベクレル/kg(日光市五十里ダム貯水池湖心 2012年12月5日採取)
(資料8) 環境省 公共用水域における放射性物質モニタリングの追加測定結果について(2012年10月-12月採取分) 
2013年5月31日公表
(資料9) 環境省 公共用水域における放射性物質モニタリングの追加測定結果について(2012年4月-9月採取分) 
2013年2月7日公表

 東京第一原発事故以前の農地のストロンチウム90を独立行政法人 農業環境技術研究所が調べています。「土壌および米麦子実中の放射能調査」(2009年度)では、白米の水田土壌中のストロンチウム90は北海道札幌市1.2±0.1ベクレル/kgが最大でした。同 調査では、玄麦の畑土壌中のストロンチウム90は北海道札幌市1.4±0.1ベクレル/kg、および茨城県水戸市1.4±0.1ベクレル/kgが最大でした。
 この原発事故前のデータと比べれば、福島県、茨城県、千葉県、群馬県、宮城県、栃木県すべてで原発事故後ストロンチウム90の土壌蓄積が増加している可能性があります。
(資料10)2009年度 白米および水田作土のストロンチウム90、セシウム137濃度 【単位】ベクレル/kg

(資料11)2009年度 玄麦および畑作土のストロンチウム90、セシウム137濃度  【単位】ベクレル/kg

<全国47都道府県の衛生研究所または原子力センター 食品や土壌の放射性物質の濃度を検査している>
北海道立衛生研究所
青森県原子力センター
岩手県環境保健研究センター
宮城県原子力センター
秋田県健康環境センター
山形県衛生研究所
福島県原子力センター
茨城県環境放射線監視センター
栃木県保健環境センター
群馬県衛生環境研究所
埼玉県衛生研究所
千葉県環境研究センター
東京都健康安全研究センター
神奈川県衛生研究所
新潟県放射線監視センター
富山県環境科学センター
石川県保健環境センター
福井県原子力環境監視センター
山梨県衛生環境研究所
長野県環境保全研究所
岐阜県保健環境研究所
静岡県環境放射線監視センター
愛知県環境調査センター
三重県保健環境研究所 滋賀県衛生科学センター
京都府保健環境研究所
大阪府立公衆衛生研究所
兵庫県立健康生活科学研究所
奈良県保健環境研究センター
和歌山県環境衛生研究センター
鳥取県生活環境部衛生環境研究所・島根県保健環境科学研究所
岡山県環境保健センター
広島県立総合技術研究所
山口県環境保健センター
徳島県保健環境センター
香川県環境保健研究センター
愛媛県立衛生環境研究所・愛媛県八幡浜保健所
高知県衛生研究所
福岡県保健環境研究所
佐賀県環境センター
長崎県環境保健研究センター
熊本県保健環境科学研究所
大分県衛生環境研究センター
宮崎県衛生環境研究所
鹿児島県環境放射線監視センター
沖縄県衛生環境研究所

2.長野県松本市の放射性物質の検査

(1)食品中の放射性物質の検査を行う検査機器 農林水産省資料より

食品の検査は、放射性物質の種類ごとに濃度を調べる必要があります。そのため、ガンマ線スペクトロメータという機器を使用します。ガンマ線スペクトロメータには、①ゲルマニウム半導体検出器 ②NaI(ヨウ化ナトリウム)シンチレーション式検出器、があります。単位は放射性物質ごとにベクレル/kgで示されます。(<例>セシウム137 ○○±▲▲ベクレル/kg。▲▲は相対誤差。)
また、放射性物質の種類ごとの検査はできませんが、表面汚染を測定するものに、③サーベイメータがあります。放射線ごとに、アルファ線、ベータ線、ガンマ線、中性子線に反応するサーベーメータがあり、単位はマイクロシーベルト/時またはcpm(1分間あたりの放射線のカウント数、面積1cm2あたり)です。以下、農林水産省『放射性物質の分析について』(2011年12月)に基づいて紹介します。
(資料12) 放射性物質の分析について 農林水産省 201112 
 ① ゲルマニウム半導体検出器 

・厚生労働省の定める公定法に記載。重量1.5~2トン。価格1500~2000万円。液体窒素または電気装置による冷却が必要。

② NaI(ヨウ化ナトリウム)シンチレーション式検出器

・ヨウ化ナトリウム(NaI)結晶を検出器に使用。簡易検査(スクリーニング)に利用可能。重量100kg程度~。価格250~600万円程度。常温で測定可。ただし常温の範囲で一定である必要があります。鉛の遮蔽体、データ解析装置とのセットで販売されています。

③ サーベイメータ
 サーベイメータとは、持ち運びできる簡易な測定器の総称と言います。検査対象以外の、環境中の放射線(バックグラウンド)の影響を受けます。通常、マイクロシーベルト/時(μSv/h)やカウント数(cpm)、表面汚染(ベクレル/㎡ Bq/㎡)を測定します。放射性物質の種類(セシウム134、セシウム137、カリウム40など)ごとの濃度(ベクレル/kg Bq/kg)はわかりません。最近の機器では、附属プログラムにより放射性物質の種類ごとの濃度を測定できるものがあります。ただし、食品を測る場合には遮蔽体が必要です。(長野県松本市が購入したGM管サーベイメータ 日立アロカメディカル社TGS-146Bは1台26万4000円であった。4台購入。現在価格はもっと上昇しています。)

(2)長野県松本市の学校給食の食材の検査体制

~サーベイメータとゲルマニウム半導体検査機、NaIシンチレーション式検査機の平行活用~
長野県松本市は2011年10月より、学校給食食材の放射性物質の検査を開始しました。これは市長 菅谷昭氏が、単身、無給の身分でベラルーシでの甲状腺がんの治療に赴き、現地の子どもたちの手術とベラルーシの医師の養成にあたった際の、菅谷氏自身の現地の放射性物質検査の経験にもとづくものです。2011年10月4日中日新聞長野版では、以下のように報じています。

「東京電力福島第1原発事故の影響で農作物が放射性物質に汚染された可能性があるとして、長野県松本市教育委員会は3日、市内4カ所の学校給食センターで、給食用食材の放射性物質の測定を始めた。給食用食材の検査は県内の自治体で初めて。当面の間、汚染が懸念される地域の農作物を対象に毎日測定する。(出来田敬司)納品時に食材の一部を対象に実施する。『サーベイメータ』と呼ばれる放射線測定機を食材に当てて計測。東北や北関東などの農作物が対象で、西日本産や食材の8割を占める県内産は検査しない。食品を対象にした国の暫定基準値は1キロ当たり500ベクレルだが、松本市教委はチェルノブイリ原発事故の汚染地となったウクライナの基準である1キロ当たり40ベクレルを採用した。
この日は午前7時すぎから、西部(野溝西)、東部(原)、梓川(梓川梓)、波田(波田)の4カ所の学校給食センターで一斉に検査。市内の小、中学校38校、約1万9900人分の食材をチェックした。このうち、東部学校給食センターでは、センターの担当者が測定機で群馬産のキュウリ1箱を調べた。異常な数値は確認できなかったため、給食用として使うことを決めた。学校給食課の担当者は『給食で使用される食材の産地を市のホームページで公表しているが、保護者から放射能汚染を懸念する声があった。子どもの安全安心のために検査を続けていきたい』と話している。」
(資料13)学校給食で放射線測定、長野松本市 20111004 中日新聞

現在では、長野県産や長野県松本市産食材についても、サーベイメータでの検査を行っています。

① サーベイメータを使用した学校給食の食材の検査

このサーベイメータでの検査は、日立アロカ社製TGS-146Bを使用しています。松本市は1台26万4000円、計4台購入し、市内4つの学校給食センターに1台ずつ配置しています。
 通常サーベイメータのバックグラウンド値は60~80cpmを示します。これは、松本市の空間放射線量0.06~0.08マイクロシーベルトを検知しているものと考えています。
(資料14)松本市の学校給食について 2013年4月1日


 その日に使用する学校給食の食材すべてについて、このサーベイメータで放射能汚染を調べ、60
~80cpmの約1.5倍、100cpmを超えたものには40ベクレル/kg以上のセシウム134、137があると考え、その学校給食の食材は使わない方針です。
また、この100cpmを超えた食材については、ゲルマニウム半導体検出器による核種分析を行い、正確なベクレル数を測定します。
 松本市の学校給食の放射性物質の検査体制は
  ① サーベイメータによるによる簡易検査(核種・ベクレル値が判らない) 
    (ウクライナの基準値(野菜:40Bq/㎏)を目安とした松本市独自の基準)
  ② 自然放射線量を超えた場合、ゲルマニウム半導体検出器による精密検査を行う。
  ③ 放射性物質が検出された場合、その食材は使用しない。
  ④ 県(中信教育事務所)・信州大学院研究チームによるシンチレーション測定器の検査
  ⑤ 給食1食丸ごと検査(県のモニタリング事業、西部センターで実施)
    (給食の1食分を丸ごと冷凍保存しておいて、1週間分をゲルマニウム半導体検出器で放射性物質検査を行うもの)

(資料14)同上 
 また、これまでの長野県のサーベイメータによる簡易検査で、環境中の放射線(バックグラウンド)の1.5倍、100cpmを超えたものは、長野県産パセリ、一度だけでした。そして、この長野県産パセリをゲルマニウム半導体検出器で精密検査を行った結果、カリウム40だけが検出されたと報告されました。しかし、この検査は30分測定ですので、微量なセシウム134、137が含まれていたとしても測定できなかったと思われます。
 また、福島県や山形県が主な産地の桃の缶詰を、疑わしいとして、ゲルマニウム半導体検出器で測定したところ、セシウム134、137合計で2ベクレル/検出されたため松本市は使用しませんでした。(2012年7月11日)しかし、この桃の缶詰はゲルマニウム半導体検出器でのみの検査で、サーベイメータで測定していないため、ベクレル/kgとサーベイメータのcpmとの相関関係を示すデータがありません。

② サーベイメータの測定できる範囲

 本来、食品や土壌の放射性物質の濃度、ベクレル/kg(Bq/kg)を測定するには、先に紹介したゲルマニウム半導体検出器または、NaI(ヨウ化ナトリウム)シンチレーション式検出器を使い、サーベイメータを用いることはしません。食品の放射性物質の濃度を測る単位はベクレル/kgであり、四方八方に飛びだす放射線を測ることができるのは、ゲルマニウム半導体検出器または、NaI(ヨウ化ナトリウム)シンチレーション式検出器であり、サーベイメータは表面を通過する放射線の数を測るものだからです。また、サーベイメータでは、核種(ヨウ素131、セシウム134、セシウム137などの放射性物質の種類のこと)ごとに、それぞれ何ベクレル/kgあるか、わからないからです。
 筆者は2014年5月21日、松本市西部学校給食センター(〒399-0006 長野県松本市野溝西3丁目6番1号)を訪問し、学校給食を作る前の食品の放射性物質の検査を見学させていただきました。そこで、2014年5月三重県産干ししいたけ(水に戻して食材として使用できる状態のもの)から、セシウム137が1.09±0.486ベクレル/kg検出されたと教えていただきました(JCF-teamめとばがNaIシンチレーション式検出器で最初に測定)。松本市としては基準値以下ですが、「1ベクレルでも検出されたものは、子どもたちの学校給食には使わない」と、この干ししいたけは使わないことを決めました。しいたけはどこの産地でも放射性物質を含んでいる可能性があるので当面使わないと決めています。
 その三重県産干ししいたけ(乾燥した状態)はセシウム137だけで20ベクレル/kg前後あったそうです(セシウム134は不検出)。その干ししいたけ(乾燥した状態)をGM管サーベイ―メータTGS-146Bで検査したところ、バックグラウンドが65cpmのところ、干ししいたけにサーベイメータの検知管を当てると85~95cpmになりました。つまり、20ベクレル/kgのセシウム137に汚染された食材に、サーベイメータを当てると20~30cpmほど数値が上昇する、ということだと思います。
 今後も、GM管サーベイ―メータTGS-146Bのバックグラウンドを超える測定結果(cpm)と、その食材のセシウム134、セシウム137による放射能汚染の濃度(ベクレル/kg)との相関関係を調べて、データとして蓄積していくことで、GM管サーベイ―メータTGS-146Bの検査結果(cpm)から食品の放射能汚染の状況(ベクレル/kg)を推定することが可能になると思います。
 少なくとも、20ベクレル/kg前後のセシウム134、セシウム137で汚染された学校給食の食材は、GM管サーベイ―メータで検出することが可能ではないか、と思われます。
 1や2ベクレル/kgのレベルのセシウム134、セシウム137で汚染された食材をこのGM管サーベイメータで検出することは不可能です。そのため、ゲルマニウム半導体検出器との平行活用が必要となります。

③ サーベイメータとゲルマニウム半導体検査機、NaIシンチレーション式検査機の平行活用

 GM管サーベーメータを使った検査の利点は、1品目について1分30秒で測定ができるところです。そのため、給食で使う食材すべてのスクリーニング検査を行うことができます。
全国の自治体の学校給食の食材の検査でも、① 給食を食べ終わった後に1週間分のまるごと検査をする、または ② 学校給食の食材を、いくつか選び、検出限界セシウム134 10ベクレル/kg、セシウム137 10ベクレル/kgで検査する(多くの場合、NaIシンチレーション式検出器を使用)ところがほとんどです。学校給食を作る前に、全食材の検査を行っているのは全国の自治体の中で、松本市だけではないでしょうか。
 またこの日立アロカメディカル社のGM管サーベイメータ TGS-146Bは、ベータ線への感度が高く、ベータ線核種、ストロンチウム90に強く汚染された食品があった場合、反応する可能性があります。現時点ではストロンチウム90に強く汚染された農作物、水産物は検出されていませんが、今後、木材の灰などを畑にまいた場合にはストロンチウム90に高濃度に汚染された農作物が出てくる可能性があります。
 食品と暮らしの安全基金の小若順一氏はウクライナの子どもの健康被害を調べている中で、畑の土壌中のセシウム137やストロンチウム90の濃度が日本と比較してもさほど高くないのに、身体的障害を持った子どもたちが産まれていることを不思議に思い、ストーブの灰を調べたところ、ビグニ村のストーブの灰からは4200ベクレル/kgのストロンチウム90が検出されました。薪ストーブの灰は、薪の放射能汚染を200倍、高性能のストーブの場合は400倍にもすると言われます。ウクライナではこの薪ストーブの灰を肥料として畑にまいていました。日本でも同様なことが起きる可能性を否定できません。
 また、海のホット・スポットで生活した底魚などからストロンチウム90に高濃度に汚染されたものが獲れる可能性があります。ストロンチウム90はセシウム137の300倍危険だと指摘する科学者もいます。セシウム137が1ベクレル/kgのレベルで健康に影響するのであれば、ストロンチウム90では0.003ベクレル/kgのレベルでも健康に影響するかもしれない、ということです。
多くの自治体の学校給食の食材の検査では、ゲルマニウム半導体検出器やNaIシンチレーション式検出器を使用しており、これらは放射性物質の出すガンマ線を測定することで放射性物質のありなしと濃度を検査しています。ストロンチウム90はガンマ線を出さず、ベータ線だけしか出さないため、ベータ線に反応する検査器が必要です。日立アロカメディカル社のGM管サーベイメータ TGS-146Bでは、10cpm程度のベータ線しか検出できないかもしれませんが、ストロンチウム90に強く汚染されたものを発見することが可能ではないか、と思われます。
 また、松本市は年間20品目分のゲルマニウム半導体検出器を使った精密検査を行う予算 年間20万円を確保し、精密測定を行える体制を取っています。これは、サーベイメータでバックグラウンドの1.5倍を超えた食材について、精密検査を行うものです。現在までのところ、長野県産パセリしか、バックグラウンドの1.5倍を超えた食材はない、とのことです。東北・関東地方(一部東海地方)の食材を検出限界0.6~0.8ベクレル/kgのレベルまで検査し、実態を把握することが必要とされています。
札幌市の学校給食の食材の検査の取り組みも参考になります。札幌市は、使用前日、納品業者に保管されているものの中から2品目程度抽出し、専門の検査機関でゲルマニウム半導体検出器を用いて測定し、検出限界4ベクレル/kgを超えて検出された産地の食材は使わない方針も取っています。
(資料15)札幌市 学校給食食材の放射性物質検査について
 また、信州大学理学部の大学生、大学院生たちによるグループ(JCF-teamめとば)によるNaIシンチレーション測定器による検査も併せて実施しています。これは、JCF-teamめとばが学校給食で使う食材のうち3品目を指定し、NaIシンチレーション式検出器で独自検査を行うものです。ただし、現時点では、北は北海道から、南は鹿児島までの食材を地域を網羅するように測定しているのが現状です。これを改め、先に紹介した、日本原子力研究開発機構のセシウム137の積算シュミレーションの地域の農産物、水産物を長時間測定することで、実態を把握するべきです。そうすることで、子どもたちに放射性物質入りの給食を食べさせないことにつながります。
(資料16)測定時間別 検査結果 JCF-Teamめとば 笑顔の給食プロジェクト 松本市給食測定 
2012年7月17日~2014年10月7日

3.蕨市の放射性物質の検査

 筆者は、2012年3月8日、埼玉県蕨市の学校給食センターの食材の放射性物質の検査を視察しました。蕨市の学校給食センターは小学生3250名、中学生1650名、計4900名分の給食を毎日作っています。学校給食センター長の澤崎智恵子氏は、「この子どもたちの命を作る学校給食の安全性をなによりも大切にしたい」と述べました。蕨市は、学校給食の食材15種類のうち、6品目を事前に検査しています。NaIシンチレーション式検出器、ベラルーシ製のAT1320A(購入費用143万円)、ベクレルミニターLB200(購入費用78万円)を使用し、1Lのマリネリ容器で15分測定、セシウム134、セシウム137検出限界20ベクレル/kgを±20~30%以内の不確かさで計測しています。6品目でも検査にかかる所要時間は1時間30分です。センター長 澤崎氏は、「たとえ20ベクレル/kgでも検出下限を超える食材が見つかった場合は、基準値以下ではありますが、学校給食に使うつもりはありません」と述べました。

 過去に試験的に行った検査では3時間測定で検出限界が3ベクレル/kgでした。すべての食材を調理前に検出限界が3ベクレル/kgのレベルで検査することは物理的に不可能であるということでした。ただし、澤崎氏は、5分も検査すれば、まったく放射能汚染されていない食材か、放射能汚染のある食材か、スペクトルデータを見ることでだいたいの予想がつく、とも語ってくれました。
 各学校給食センターまたは、自校式給食の場合はいくつかの学校共同で、このNaIシンチレーション式検出器を購入し、学校の食材を事前に検査することは有効であると思います。

 

 

 

 

4.結語

 学校給食の安全性を高めるために、一番大事なことは、放射性物質で汚染されている危険性のある食材を避けることです。そのために、先の日本原子力研究開発機構が作成したセシウム137の積算沈着予想のマップを活用し、この茶色く色塗られた産地の食材を避けるべきです。
 特に、その茶色く色塗られた地域の自治体では、学校給食に使う地元産農作物、水産物を厳しく制限すべきです。積極的に、各都道府県の衛生研究所や原子力センターと連携を取り、その地の農作物、水産物のストロンチウム90、セシウム137の汚染の実態を把握するべきです。
 放射性物質入りの食べ物を子どもに食べさせてはならないことが大前提です。地元食材の活用や地産地消、郷土料理、季節感のあるメニューなどの食育の方針が、放射性物質入りの食べ物を子どもたちに食べさせることにつながってはなりません。
 また、各市町村のレベルでゲルマニウム半導体検出器を配備し、自治体内で流通している食材を0.001ベクレル/kg(ミリベクレル/kgの単位)のレベルまで測るべきです。セシウム134やセシウム137についてだけではなく、これまで衛生研究所や原子力センターが計測してきた実績に学び、ストロンチウム90についても測るべきです。
 学校給食を作る現場では、NaIシンチレーション式検出器またはGM管サーベイメータ(ガンマ線およびベータ線を感知できるもの)を用意して、学校給食の食材すべてを調理の前の段階で検査するべきです。こうすることで、産地偽装、食材偽装による健康影響を避けることでき、また、少なくともセシウム134、セシウム137合計で20ベクレル/kgを超える汚染のある食材を排除することができます。

<資料> 学校給食の食材の放射性物質検査の取り組みについて 別冊

(資料1)さつまいも厚生労働省食品中の放射性物質月間検査結果               pp.2
2013年9月~2014年8月まとめ
(資料2)汚染牧草早期に刈り取り保管農水省が指導方針20110519             pp.3
(資料3)さいたま市(埼玉県)食品中の放射性物質の検査              pp.4
2011 年3 月24 日~2014 年9 月10 日
(資料4)セシウム137 の積算沈着予測日本原子力研究開発機構20110906           pp.7
(資料5)非汚染地帯にあるノヴィ・マルチノヴィッチ村1.1Bq/kgで            pp.8
7割頭痛 小若順一氏
(資料6)札幌市食品中における放射性物質の検査結果20120327~20140925          pp.9
(資料7)チェルノブイリ事故2 年後の日本の牛乳中の             pp.11
ストロンチウム90、セシウム137 の濃度1988年 【単位】ミリベクレル/L
(資料8)環境省公共用水域における放射性物質モニタリングの追加測定           pp.12
結果について(2012年10月-12月採取分)2013年5月31日公表
河川、湖沼・水源地、沿岸における底質の放射性ストロンチウム測定結果
【単位】ベクレル/kg
(資料9)環境省公共用水域における放射性物質モニタリングの追加測定           pp.17
結果について(2012年4月-9月採取分)2013年2月7日公表
河川、湖沼・水源地、沿岸における底質の放射性ストロンチウム測定結果
【単位】ベクレル/kg
(資料10)2009 年度白米および水田作土のストロンチウム90、            pp.19
セシウム137濃度【単位】ミリベクレル/kg
(資料11)2009 年度玄麦および畑作土のストロンチウム90、            pp.20
セシウム137濃度【単位】ミリベクレル/kg
(資料12)放射性物質の分析について農林水産省201112            pp.21
(資料13)学校給食で放射線測定、長野松本市20111004 中日新聞             pp.101
(資料14)松本市の学校給食について2013 年4 月1 日            pp.102
(資料15)札幌市学校給食食材の放射性物質検査について             pp.104
(資料16)測定時間別検査結果JCF-Team めとば笑顔の給食            pp.107
プロジェクト松本市給食測定2012年7月17日~2014年10月7日

    2014年10月12日
内部被ばくを考える市民研究会 川根眞也
ホームページ http://www.radiationexposuresociety.com/