見解:川内原発再稼働を無期凍結すべきである

                             2014年 7月 9日
                             原子力市民委員会
                       座長 舩橋晴俊 座長代理 吉岡 斉
                       委員 荒木田岳 井野博満 大島堅一 大沼淳一
                       海渡雄一 後藤政志 島薗 進 筒井哲郎
                       満田夏花 武藤類子

 原子力市民委員会は、2013年4月の発足時から、福島原発事故の被害の深刻さを直視し、原発ゼロ社会への転換を目指すべきであるとの基本的な見解を示してきた。2013年6月には、新規制基準の策定に際し、緊急提言「原発再稼働を3年間凍結し、原子力災害を二度と起こさせない体系的政策を構築せよ」を発表し、新規制基準が原発の安全を保証しないことを示した上で、それに基づく原発再稼働はすべきでないことを主張した。

 2014年4月に発表した『原発ゼロ社会への道――市民がつくる脱原子力政策大綱』では、原発ゼロ社会を目指す具体的な行財政改革の道筋までを含む政策提言を行ってきた。現在、電力各社と政府が、原発再稼働を急ぎ、九州電力川内原発の再稼働許可が切迫していることに対して、原子力市民委員会として、以下の通り、川内原発の再稼働は無期限で凍結するべきであるとの見解をまとめた。

 以下の1.から6.において、原子力市民委員会としての現状認識および、再稼働を凍結すべきと考える理由を示すとともに、7.において、原子力規制委員会、政府、電力会社、自治体がとるべき選択を示し、原発ゼロ社会を希求する市民に対して行動を呼びかける。

1.原発再稼働をめぐる昨今の状況

 原子力規制委員会は2014年3月13日、全国16原発48基のうち、再稼働に向け新規制規準に係る適合性審査を受けている10原発18基(当時)の中から、九州電力川内(せんだい)原子力発電所(鹿児島県薩摩川内市)1、2号機の適合性審査を優先的に進めることを決めた。九州電力の申請書類の不備により当初予定よりも審査が遅れているが、近々「適合」の判断を下した審査書案が発表され、パブリックコメント等の手続きをへて審査書が正式決定されると報じられている。それを受けて電力会社が再稼働への同意を地元自治体に要請し、地元自治体が受諾すれば再稼働が実現する。それは9月以降となる可能性が高い。

 政府は再稼働の是非に関する政治判断を行わないとしているが、このことは原子力規制委員会による適合性評価以外のハードルを、再稼働に対して一切設けないことを意味する。電力会社から地元自治体(鹿児島県、薩摩川内市)への働きかけの最終段階で、自治体側が経済産業大臣や総理大臣に対して安全の確約を要請し、政府側が最大限努力する旨回答する、という法令上根拠のないセレモニーをへて、ごく短期間で自治体側が同意することが懸念される。川内原発に続く2番手としては、関西電力高浜原発3、4号機が有力である。それに続き四国電力伊方原発3号機、九州電力玄海原発3、4号機、関西電力大飯原発3、4号機などが控えている。文末の[付録1]に示したように現時点で全国12原発19基が再稼働を目指しており、今後もその基数が次々と増えていくことは確実である。福島原発事故前への原状復帰に近づいていくための、陣取り合戦のような執拗な原発関係者の工作に、今後ますます拍車がかかることが予想される。

2.なぜ原発ゼロ社会を目指さないのか

 だが福島原発事故の経験を踏まえるならば、原発ゼロ社会の実現へ向けて邁進すること以外に、私たちの進むべき道はない。福島原発事故によって、放射能大量放出をともなう原発の過酷事故が、他の技術に関わる事故とは異次元の、計り知れない大きな被害をもたらすことが、事実によって再確認された。1986年に旧ソ連ウクライナで起きたチェルノブイリ原発事故によって生じた汚染地帯では、今もなお数十万人の住民が故郷に戻ることができない。

 現在考えられているいかなる安全対策も、原発の本質的危険性を封じ込めることができない彌縫策にしか過ぎない以上、原発ゼロ社会を目指すしかない。それが最善の安全対策である。

 『脱原子力政策大綱』(第5章)で述べたように、今ある原発を再稼働させずとも、一定基数の新鋭ガス火力を迅速に導入すれば、電力需給逼迫はすぐに解消され、しかも巨額にのぼる現在の火力発電焚増しコストも大幅削減できる。中長期的にはエネルギー消費の自然減や、再生可能エネルギーおよび省エネルギーの促進によって、原発が供給していた電力量は相殺できる。もちろん原発廃止による地域経済や電力経営への影響は大きいので、利害関係者(立地自治体、電力会社など)に対する経済的配慮は必要であるが、さほど法外な金額とはならないはずである。原発ゼロは十分現実的な選択肢である。

3.福井地裁の大飯原発3・4号機運転差し止め判決の意味

 2014年5月21日、福井地裁が関西電力に対し大飯原発3、4号機(福井県おおい町)の運転差し止めを命じる判決を言い渡した。福島のような深刻な原発事故が再び起これば、周辺住民の人格権(個人の生命、身体、精神及び生活に関する利益)が極めて広く侵害されるので、その具体的危険性が万が一にも存在する場合、原発の運転を差し止めるべきだというのが判決の論理構造である。その上で3、4号機に係る安全技術及び設備が地震等に対して「確たる根拠のない楽観的な見通しのもとで初めて成り立ちうる脆弱なものであると認めざるを得ない」という専門技術的判断を下した。

 福井地裁が用いたこの論理構造は骨太であり、今後の原発訴訟において標準的なものとなることが期待される。その一方で、専門技術的判断については、日本原子力学会などから異論や批判が出されている。従来の原発訴訟判決の大半は、原子力専門家たちのお墨付きを得た政府の規制当局の判断を尊重してきた。しかし福島原発事故により政府の規制当局の専門技術的判断の信頼性が低いことが露見した。そこで裁判官が、原告・被告の主張に対し互いに対等のものとして耳を傾け、どちらが説得力をもつかを真摯に検討した結果、原告側に軍配を上げたのである。それは適切な手法であると私たちは考える。

 福島原発事故により、原発過酷事故の具体的危険性を否定することはもはや不可能となった。それなのになぜ原発ゼロ社会を目指さないのか。

4.現行の安全対策の不十分さ(日本の原発全般について)

 原発に対する現行の安全対策の不十分さについては、主要なものだけで次の5点が指摘できる。うち第1・2・3点は全ての原発に一様に当てはまるものである。第4・5点は個々の原発によって妥当性の度合いが変わりうるものである。したがって川内原発など個々の原発の安全対策の不十分さの度合いを評価する上で、この第4・5点の吟味が重要な意味をもってくる。

 第1に、福島原発事故の進行過程(原因)についての調査・検証がなされていない。政府又は国会に、技術的な分析・評価能力をそなえた調査・検証委員会を常設機関として設置し、実地調査を含む総合的な調査・検証を進めるべきである。原因究明がなされないままでは、信頼性ある規制基準・防災対策・危機管理対策等を定めることはできない。

 第2に、福島原発事故の被害者への政府・電力会社の補償・支援がきわめて不十分である。その財源を確保するための法令も万全ではない。これを改めない限り、同様のことが起きたときの住民の人格権は保障されない。

 第3に、新規制基準自体が、日本の全ての既設原発について、原子炉施設の周辺部分の安全対策を追加すれば再稼働の許可を得られるように策定された不十分なものである。

 たとえば、住民の被ばくを防ぐ絶対的な条件である「立地審査指針」を廃止したこと、原子炉の構造的弱点の評価を行わず付属設備の強化のみでよしとしたことなどが問題となる。

 第4に、個々の原発の安全性を正しく評価するには、規制基準に照らして具体的審査を行う必要があるが、その具体的審査において、必ずしも周到な判断が下されるとは限らない。たとえば直下の活断層の有無、基準地震動の妥当性、津波の最大波高の妥当性、火山噴火に対する評価の妥当性などが、個々の原発ごとに問題となる。規制基準自体が包括性を欠いているため、個々の原発の抱える無視できないリスクを見逃してしまうおそれもある。

 第5に、新規制基準が原子炉施設のハードウェアとしの安全性を定めているにとどまり、過酷事故が発生した場合において、防災対策が十分な効果を発揮する見込みがきわめて乏しく、被害者の人格権が保障されない可能性が高いことである。とりわけ致命的なのは、過酷事故の際に周辺住民の安全を守るための実効性ある地域防災計画が、原発の建設・運転を許可する際の法律上の要件となっていないことである。地域防災計画の策定・実施については自治体(都道府県、市町村)が直接的な責任を負う。しかし今まで提出された地域防災計画はほとんどが絵に描いた餅であり、とりわけ災害弱者に対する配慮を著しく欠いている。しかもその妥当性をチェックして合否の判定を行う法令上の仕組みがない。本来は事業者が立案し自治体と協議したうえで合意したものを原子力規制委員会に申請し審査を受けるべきだが、現状では規制委員会は地域防災計画作成のための簡単な指針を公表し自治体に具体的計画の作成を丸投げしているだけである。そして自治体もまた専門業者に計画作成の土台となるシミュレーション作業を委託している。

 もちろん原発過酷事故に対する十分な防災対策を立てることは本質的に不可能である。それでもこの無理難題に形だけでも答えざるを得ない原発周辺自治体の苦悩は察するにあまりある。そのような性格の施設が近隣の都道府県や市町村で運転されること自体が、無用の脅威を当該地域に及ぼすものである。またもし過酷事故が起きれば当該地域が半永久的に居住不能となるおそれもある。そうした破滅的事態を考慮した防災計画はもはや防災計画の名に値しない。なお原発過酷事故については多くの都道府県にまたがる地域横断的な防災計画が必要であるが、その整備も進んでいない。

5.現行の安全対策の不十分さ(川内原発について)

 川内原発1、2号機もまた、今述べたような安全対策上の難点を、5点全てにおいて抱えている。加えて、1号機は1984年7月、2号機は1985年11月に運転開始した比較的古い原発であり、1号機は今年、2号機は来年、運転年月が30年を超える。1号機については、「高経年化技術評価書」が提出されたが、その審議は事業者と規制庁だけで進められている。耐震Sクラスの主蒸気系統配管で疲労の蓄積が進んでいるなど、老朽化の兆候が見られる。規制基準適合性審査に加えて、高経年化についても慎重な審査が必要であると考える。

 有効な地域防災計画が立てられていないことも深刻な問題である。川内原発の30キロ圏人口は約23万人であり、他の原発立地地域と比べて特別に多いとは言えないが、50キロ圏に拡大すると一挙に83万人(全国4番目)となる人口密集地域である。鹿児島県は民間調査機関に委託して、緊急時防護措置を準備する区域(UPZ)として指定された原発30キロ圏からの避難に要する時間の推計結果を発表した。しかし現実的な諸条件を考慮した詳細なシミュレーションを行い、避難のボトルネックを明らかにし、その解消のために必要な措置を講ずるという、地域防災計画を効果的にするために不可欠の手続きを踏んでいない。

 特に重大な欠陥は、要援護者(高齢者、入院患者、介護施設入所者等)の受入先と、避難の具体的手順が決まっていないことである。福島原発事故で最も厳しい境遇に置かれたのが要援護者であることを肝に銘ずるべきである。福島原発事故は多くの犠牲者をもたらした。とりわけ大熊町双葉病院だけで50名、避難区域にあった病院と養護施設から全部で60名の犠牲者が出た。川内原発の防災計画上の問題点については「付録2」に整理したので、ご覧頂きたい。また過酷事故が起きれば避難区域が30キロ圏をこえて大きく拡がる可能性があることは、福島原発事故で経験した通りである。30キロ圏よりもはるかに広域にわたる九州全域の避難計画を構築する必要がある。そして数万人以上の長期避難が必要な場合には、避難先は九州のみに限らず全国に確保しなければならない。

 有効な防災計画の不在以外にも、次のような問題がある。

 第1に、新規制基準にもとづく具体的審査において、火山噴火にともなう火砕流が原発敷地に進入するリスクを、十分慎重に評価しているとは言えない。もし大規模火砕流が川内原発に到達すれば、原発過酷事故を防止するあらゆる防災活動は不可能となり、2基の原子炉において同時並行的に過酷事故が発生・拡大する恐れがあり、慎重の上にも慎重な審査が必要とされるにもかかわらず、形式的な審査を行うにとどめている。

 第2に、川内原発の敷地には豊富な地下水が流れている。川内原発での地下水流入量は300m3/日で、福島第一原発と同レベルである。過酷事故によって、福島第一原発と同じような汚染水流出が止まらないという事態が起こりうる。だが新規制基準で規制対象となっていないため、対策は示されていない。

 なお、これは全国共通の問題であるが、川内原発に係わる新規制基準の適合性審査の過程で、過酷事故対策の不備も明らかになった。想定事故事例として「配管破断(冷却水喪失)と全交流電源喪失が同時に起こった場合」の対策が要求されているが、九州電力の回答は、「炉心溶融と原子炉容器の破損は防げない」というものであり、その後の落下溶融炉心とコンクリートとの反応、水蒸気爆発、水素爆発などの防止策も不確実な応急措置でしかないことが分かった。「格納容器内で起こるこうした様々な爆発を含む急激な現象が格納容器の健全性を脅かす」ことは自明であり、「主要な過酷事故シナリオの中で格納容器の健全性が保証できない」ということは、原発事故で放射性物質を大量に放出する蓋然性が高いことを意味する。これは審査中のすべての加圧水型原子炉(PWR)に共通する欠陥である。

6.民主主義的な権利を尊重しなければならない

 国民世論の多数意見が将来の原発ゼロを支持している状況は、多くの世論調査結果が示す通り2011年から変わっていない。しかし政府は国民世論を無視して原発を重要なベースロード電源として活用する方針を決め、その具体的な方策の検討に入っている。そのこと自体が民主主義からの逸脱である。国民世論を踏まえ脱原発ロードマップを定める脱原発基本法の制定を政府は目指すべきである。

 また周辺広域住民の世論状況にかかわらず、立地道府県と立地当該市町村の自治体首長のみの同意で再稼働を進めることは許されることではない。原発過酷事故の影響がきわめて広域に及ぶことが、福島原発事故によって再確認されたからである。周辺広域住民の同意に関する新たなルールを定めぬまま再稼働を強行することは、これまた民主主義からの逸脱である。実際に、周辺広域住民の多数者が、原発再稼働に反対しているだけでなく、自分たちが再稼働の是非に関する決定に関与できない状況にも不満を抱いているからである。

 『南日本新聞』が2013年4月に実施した電話世論調査(5月5日朝刊に掲載)の結果によれば、鹿児島県民の多数者(59%)は川内原発再稼働に反対している。また再稼働に際して同意を得るべき自治体の範囲について、原発立地市町村とその属する都道府県だけでよいとする回答は全体のわずか7.4%に過ぎず、圧倒的大多数の者がより広域的な範囲の同意を求めている。政府は脱原発基本法を制定し、周辺広域住民による原発建設・運転への同意の新たなルールを整備すると同時に、現行の安全対策の不十分さを抜本的に解消する作業に着手すべきである。現在の日本の法体系では、原子力規制委員会の新規制基準をクリアした原発の再稼働を差し止める権限を政府はもたない。しかし上記のような要件が整うまで再稼働を無期凍結する要請を、政府は電力会社に対して行うことはできる。それを電力会社が一定の合意条件のもとで受諾すればよい。その前例となるのは菅直人首相が2011年5月、運転差し止めの根拠法を探したが見つからない状況のなかで、中部電力浜岡原発の運転停止を要請し、中部電力がそれを受諾したケースである。

7.主要な関係者の取るべき選択

 今まで見てきたような、川内原発の安全対策の不十分を踏まえれば、その再稼働は賢明ではない。またそれは国民および周辺広域住民の意思を無視して進められている点でも、民主主義に反するものである。そこで再稼働における主要な関係者に対して、原子力市民委員会は以下のように勧告する。

 原子力規制委員会は、新規制基準について抜本的な再検討を行うとともに、原子力利用の安全確保のための施策を一元的につかさどる、という設置法第1条に掲げられた任務を果すために、地域防災計画の審査をみずからの責任とするよう政府・国会に働きかけるべきである。みずからの役割を、原子力施設の保安検査機関のそれに限定しようとするのは臆病すぎる。政府は国民の人格権を守る責任がある。したがって原子力規制委員会が新規制基準に係る適合の判断を下したとしても、今まで述べてきたような諸条件を満たすまで再稼働を無期凍結するよう電力会社に要請すべきである。その上で、まず、周辺広域住民による原発建設・運転への同意のルールを整備することが急務である。本来的には、原発ゼロ社会の実現を求める世論に答え、脱原発法の制定を進めるのが、政府の役割である。

 電力会社は、上記の諸条件を満たさぬ形で原発再稼働を行うことが、企業の社会的責任と抵触するものであり、また原発過酷事故の再発という計り知れない経営リスクを伴うことを認識して再稼働を無期凍結し、安全確保の法令上の仕組みの抜本的強化を政府および原子力規制委員会に働きかけるべきである。

 立地自治体(県、立地市町村)は、住民の人格権を守ることに責任を負う立場に立って、原発再稼働に同意しない姿勢を貫くべきである。また原発過酷事故によって大きな影響を被る可能性をもつ周辺自治体(都道府県、市町村)は、再稼働を思い止まるよう電力会社に働きかけるとともに、政府に対して住民世論表明の仕組みについて整備を求めることが望まれる。原発ゼロ社会の実現を希求する市民に対して、原子力市民委員会は、今の政権が国民世論を無視して原子力発電の原状復帰路線を掲げ、そのもとで経済産業省や電力業界が再稼働への道を突き進んでいることに対し、さまざまの形で異議を申し立てることを呼びかける。また原発立地都道府県・市町村をはじめとする周辺広域住民に対しても、人々の安全が保証されていない状態のまま原発再稼働へのレールが敷かれている状況に対し、さまざまの形で抵抗することを呼びかける。もちろんそうした市民的イニシアチブを進めるに際して、原子力市民委員会はサポートを惜しまない。

 原子力市民委員会は、脱原発を求める組織だけでなく、地方自治体など必ずしも脱原発の立場をとらない組織とも対話を進め、さらに双方の必要に応じて協力・連携を行う。政府や電力会社の見解に対する「セカンド・オピニオン」を求められれば、誰にでも喜んで提供する。再稼働問題は現下における原子力利用の最重要問題のひとつであり、あらゆる機会をとらえて多様な人々との情報交換・対話・協力・連携に尽力したい。

                                    以 上

[付録1]適合性審査を申請中の原発(12カ所、19基、2014年 7月 9日現在)
九州電力 玄海原発3、4号機、川内原発1、2号機
四国電力 伊方原発3号機
中国電力 島根原発2号機
関西電力 高浜原発3、4号機、大飯原発3、4号機
中部電力 浜岡原発4号機
東京電力 柏崎刈羽原発6、7号機
日本原電 東海第二原発
東北電力 女川原発2号機、東通原発1号機
北海道電力 泊原発1、2、3号機

[付録2]川内原発の避難計画の問題点について

 鹿児島県は今年5月27日、原子力防災計画(平成25年度)を発表した。本計画は、原子力規制委員会の原子力災害対策指針に基づき、川内原発の事故時に、県 市町村 地方行政機関等がとるべき対策を定め、避難計画についても盛り込んでいる。また、川内原発から30km圏のUPZ内にある薩摩川内市、いちき串木野市、阿久根市、鹿児島市など9市町は、それぞれ防災計画を策定している。

 現実に重大な原発事故が発生した場合、風向きと天候によって被害は県境を越えて隣県にも及ぶ。現在の鹿児島県による避難計画のみならず、南九州全域にわたる広域の避難計画が必要となってくる。避難者の受け入れ先としては少なくとも九州全域を考える必要がある。現在の原子力防災計画には少なくとも以下のような問題が考えられる。

1.風下への避難

 計画は放射性物質の拡散シミュレーションを踏まえたものではない。薩摩川内市の住民の避難先は、鹿児島市、姶良市、南さつま市などであり、いちき串木野市の避難先は、鹿児島市、指宿市、南九州市、枕崎市などであり、いずれも南東の方向である。川内原発の周辺は北西の風が吹くことが多く、風下の避難となる可能性が高い。

2.受け入れ先の想定

 環境総合研究所の放射性物質拡散シミュレーションによれば、避難先となっている鹿児島市、南さつま市などでも一時移転の基準であるOIL2(20マイクロシーベルト/時)に達するという結果がでている。この場合、受け入れ自治体にも、一次移転の指示がでることになり、避難住民および受け入れ自治体の住民の避難を行わなければならない。現在の計画ではこのようなことは想定されておらず、混乱が予測される。

3.避難時間シミュレーション

 避難時間に係るシミュレーションについては、各市町とも、県が行うとしている(注1)。一方、鹿児島県は、5月29日、避難時間のシミュレーションを発表し、13のシナリオを想定して原発から30km圏内の住民の9割が圏外にでるまでの時間を、取り上げたシナリオ中の最長で28時間45分としている(注2)。しかし、30km圏内から圏外への避難時間が示されているだけであり、避難先までの時間が示されていない、市町別の時間が示されていないなどの問題があり、自治体や住民からの疑問には答えていない状況である。

4.二段階避難

 現在の計画は、PAZ(5km圏内)の住民が避難してから、OILに照らして、UPZ(30km圏内)の住民が避難する計画になっている。しかし、これが現実可能かどうかについては住民から疑問の声も多くあがっており、自治体も検討が必要としている(注3)。また、PAZに隣接するいちき串木野市の羽島地区では避難に使う道路が海沿いの一本道であり、事故時の避難の現実可能性を懸念する住民も少なくない。

5.避難経路

 住民は自家用車または自治体が用意したバスにより避難することになっている。しかし、避難経路が限られており、地震による道路破壊の危険性、悪天候や高波の場合に海沿いの避難経路などが通行不能になる可能性がある。また、国道3号線などに避難車両が集中し、渋滞が引き起こされる可能性も指摘されている。

6.要援護者の避難

 病院・福祉施設など支援が必要な患者や寝たきりの高齢者などが入所している施設の避難計画が策定されておらず、適切な受け入れ先も決まっていない。避難先の自治体も、こうした要援護者を受け入れる準備が整っていない。

 なお、伊藤祐一郎鹿児島県知事は要援護者の避難の問題について、「原発から10キロ圏までの要援護者の避難計画はつくるが、それ以外の計画は作らない」旨の発言を行った。これについては、社会的に最も配慮が必要な要援護者を見捨てることにもなり、人権上も大きな問題である。

7.長期にわたる避難

 避難計画は、原子力災害の特徴である長期にわたる避難を想定したものではない。受け入れ自治体が準備した避難所も、そのような想定にはなっていない(注4)。

8.スクリーニングおよび除染

 避難者の被ばくを防止するため、また放射性物質の拡散を防ぐため、避難する住民や車両のスクリーニングおよび除染は重要であり、原子力規制委員会の原子力災害対策指針において位置付けられている。しかしスクリーニングおよび除染の場所や器材については、現在、ほとんど決まっていない状況である(注5)。

9.住民の意見の反映

 現在、鹿児島県および各自治体が、住民説明会を行っており、少なからぬ住民が上記の点を指摘、質問をしている。UPZ内のいちき串木野市の市民団体が、全人口の過半数の署名を集め、市および市議会に「住民のいのちを守る避難計画がない状態での再稼働に反対」という趣旨の陳情を行った。これを受けた形で、市議会は「市民の生命を守る実効性のある避難計画の確立を求める意見書」を全会一致で可決した。しかし、県・市はこのような疑問に十分に答えておらず、どのように計画に反映させるのかも示していない状況である。

(注1) 2014年6月11日反原発・かごしまネット「原子力災害対策に関する質問」

(注2) 2014年5月29日鹿児島県「避難時間シミュレーションの結果」

(注3) 2014年6月11日反原発・かごしまネット「原子力災害対策に関する質問」によれば、9つの避難元自治体のうち7つの自治体は、協議や検討が必要としている。

(注4) 枕崎市、南さつま市への聴き取りによれば、一人あたりの床面積は2平方メートルと非常に狭い。

(注5) 唯一、具体的な回答があった日置市では市総合体育館および市中央公民館を確保しているとしているが、避難経路から入りこんだところにあるため、渋滞や混乱なども予想される。

参考資料:『原発ゼロ社会への道――市民がつくる脱原子力政策大綱』 原子力市民委員会、

                             2014年4月12日発行

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