声明
原発なき社会の実現のために
日本に「放射線防護省」を作れ
世界からすべての原発の廃炉を
原発なき社会のためにすべての人と手をつなごう
2012年5月19日
内部被ばくを考える市民研究会
2012年5月6日未明、北海道電力泊原発3号機が定期点検のために停止しました。東京電力福島第一原発(以下、東京第一原発)の1号機~4号機がすでに廃炉が決定しているため、日本全国50基となった原発すべてが、定期点検または東京第一原発事故のストレステスト後の再稼働をすることができず、停止することとなりました。これは実に1970年以来42年ぶりのことです。
政府や関西電力は、電力不足や計画停電で脅しながら、関西電力大飯原発の再稼働を狙っていました。しかし、再稼働反対の世論や、大阪市、京都府、滋賀県などが再稼働に異議をとなえこともあり未だ大飯原発の再稼働をすることができていません。電力は足りています。需給検討委員会が5月12日に発表した今年8月の電力需給見通しでは、関西電力の不足見込み445万キロワットに対して、中部、北陸、中国、四国の節電目標合計459万キロワットを融通すればこの夏は乗り切れます。
この夏を1基の原発を動かさないで乗り切ることが、原発なき社会への第一歩になります。
北電泊原発が定期点検に入ったということは、数千人の原発労働者が格納容器に入り、放射性物質のふき取り掃除、配管や温度計、モーターの点検という被ばく労働をする、ということです。原発はこの被ばく労働抜きには動かない装置だと言うことを改めて考える必要があります。
そして、関西電力大飯原発など、原発が再稼働できないために、地元の産業は斜陽となっています。原発事故のたびに経済的に振り回されるだけでなく、原発のある自治体は原発3法による国からのお金や使途不明金に近い電力会社からの寄付で、自立した運営ができない状態になっています。第1原発を作ったら、第2原発を誘致するしか財政がもたない自治体運営は腐敗しています。原発はこの差別と人倫にもとる構造の上に成り立っています。お金による箱ものの自治体運営と決別し、地元に根差した産業育成と若者が未来を描くことのできる産業への転換するチャンスととらえ、原発なき自治体の再生を考えるべきです。
50基の原発が止まったということは原発を動かすためのサイクルが止まったことを意味しません。原発を動かすために、核燃料ウランを採掘すること、ウランから核燃料棒を製造すること、それを輸送すること、使用済み核燃料を再処理すること、使用済み核燃料の最終処分をすることのそれぞれの段階が動いていて初めて、原発は動いています。このうち、ウラン採掘から使用済み核燃料の再処理までの、すべての企業をストップされることが原発と日本が決別することにつながります。すべての自治体でウランの輸入をやめよ、核燃料を作るな、再処理工場を閉鎖せよ、と運動を進めましょう。
原発と原発につながるすべての産業を止めるために、重要なことは「原発立地県はどこか」ということです。関西電力大飯原発の再稼働に際して、大阪市、京都府、滋賀県は大飯原発の立地県であることを主張しました。いったん、東京第一原発と同じ事故が大飯で起きれば、EPZ(緊急時計画避難区域)の30km内にそれぞれの自治体は入ります。琵琶湖が汚染されれば、関西圏の住民の飲み水がすべて汚染されてしまいます。そして、核燃料の輸送ルートはすべて「立地県」になります。埼玉県、東京都、神奈川県も核燃料の輸送ルートであり、立地県です。
東京第一原発はいまだに収束していません。日本政府は昨年12月16日東京第一原発が「冷温停止状態」になったといい、事故収束宣言を出しました。しかし、12月時点で1号機~3号機から大気中に放出された放射性物質の量は1時間あたり6000万ベクレルでした。それが今年1月には1時間あたり7000万ベクレルにも増え、2月も1時間あたり1000万ベクレル、3月も1時間あたり1000万ベクレル放出されています。5月12日東電は、5月でも1時間あたり750万ベクレルの放射性物質が放出されていて、その大半が2号機からである、と発表しました。2号機はブローアウトパネルと呼ばれる「排気口」が1号機の水素爆発の際に開いたまま、「高い放射線のために開けたままにされている」とも言っています。2号機に内視鏡カメラが入った際に、核燃料の冷却のために注入されている水が深さ3~4mあると思われていたのが、格納容器のコンクリート上60cmしかなかったことから、格納容器にも圧力抑制室にも大きな穴が空いていると考えられます。内部の空間線量も毎時73シーベルトと、数分いただけで即死する値であり、格納容器内に人間が入って作業することはできません。ロボットですら、高すぎる放射線によって電気系統が壊れてしまうため、この格納容器の中に入れることができないほどです。つまり、これからも「高い放射線のために開けたままにされている」ということであり、新たなパネルで閉じるのは来年3月と東電は言っています。
3号機の使用済み核燃料プールには、燃料交換機と呼ばれる大型クレーンが落下していることを4月13日東電は発表しました。3号機の使用済み核燃料プールの中心部にはMOX燃料というプルトニウムを強化した核燃料が貯蔵されていたことがわかっており、昨年3月14日の3号機の爆発はこの使用済み核燃料プールの真上で起きたこと、つまり、使用済み核燃料プールの冷却水が失われ、MOX燃料中のプルトニウムが溶融、部分的に臨界に達したことによる小規模核爆発であった可能性が濃厚になりました。南相馬市で発見されている、アルファ線を強く出す「黒い物質」は3号機から爆発の際に飛び散った核燃料そのものである可能性もあります。
これで「冷温停止状態」と言えるのでしょうか。核燃料がいったいどこにあるのかもわからず、つまり冷却水がちゃんと核燃料を冷やしているのかもわからず、大気中に放射性物質を放出させ続けている1号機~3号機。そして、大きな余震でいつ倒壊するかもわからない4号機の使用済み核燃料プールにある1535本の使用済み核燃料。約40年間稼働してきたために、貯蔵されている共用プール(4号機の敷地近くにある)の6375本の使用済み核燃料。
東京第一原発の事故処理の状況は非常に見えにくく、本当に大事なことが行われていないと思います。放射性物質の大気中への放出、海水への流出を止めること。原発労働者の被ばく管理とその後一生に渡る健康被害の補償を行うこと。農林水産業、工業、商業関係者へのすべての補償を行うこと。自主避難者も含めた、移住の権利を保障すること。18歳未満にかぎらず、すべての高放射能汚染地帯(年間被ばく1ミリシーベルトを超える地帯)の被害を補償するために「被爆者手帳」を配布し、被ばくによる可能性のある健康被害(心臓疾患、脳の発達障害、白血病、白内障、甲状腺がん、悪性腫瘍、等々)を認定し、無料で治療を受けられるようにすることが重要です。
東日本大震災で発生した「震災がれき」は放射性物質が付着したままに全国に移動・拡散され、焼却処分されています。放射性物質は煮ても焼いても消えません。焼却場についているバグフィルターで除去できる放射性セシウムは53%~62%前後(放射能防御プロジェクト 島田市焼却実験結果を考える)です。生活廃棄物と一緒に混ぜて燃やそうが、震災がれきだけを混ぜて燃やそうが、38%~47%の放射性セシウムは大気中に放出されていく、ということです。「震災がれき」の移動、焼却処分をただちにやめるべきです。そして、原発事故で環境中に出てしまった放射性物質を管理、閉じ込める政策を政府は取るべきです。
現政権では放射線から国民を守る能力も人材も不足しています。国際放射線防護委員会(ICRP)の放射線防護モデルはワトソン=クリックのDNA発見以前に作られたものです。現在の遺伝子の科学(ゲノム科学)の成果をまったく反映していない、時代遅れのものです。ですから、イギリスのセラフィールド核燃料工場の周りで発生した白血病について「これくらいの低線量で白血病になるわけがない」とICRPは言っています。核による健康被害の現実をなんら説明できない、ICRPのモデルに依存していては日本の被ばく者の健康を守ることはできません。
新たに、国民を放射線から守る「放射線防護省」を設置し、独立した権限と予算を与え、日本の再生を推進することを提案します。
そして、世界からすべての原発の廃炉を訴えます。
原発なき社会のために、すべての人と手をつなぎましょう。